建設DX(デジタルトランスフォーメーション)は、建設業界におけるデジタル技術の活用と革新を通じて、効率性の向上や付加価値の創造を実現する取り組みです。
これにより、従来の建設プロセスやビジネスモデルを変革し、より迅速かつ効果的な建設プロジェクトの実現が可能となります。
本記事では、建設DXの概要から推進メリット、成功ポイント、企業の成功例などわかりやすく解説しますので、是非最後までご覧ください。
目次
|DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation、DX)とは、組織や企業がデジタルテクノロジーを活用してビジネスモデルや業務プロセスを改革し、競争力を高めるための取り組みを指します。
DXは単なるITの導入や自動化にとどまらず、より広範な視点で組織全体の変革を促進することを目指しています。
|建設業におけるDXとは?
建設業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、建設プロセスの効率化や建設機械の多機能化を進めてきた中で、AI、ICT、IoTなどのデジタル技術を総合的に活用し、業務プロセス自体を変革する取り組みです。
建設DXの目的は、建設生産プロセス全体を最適化することで、これにより、人手不足や業務の非効率性など、建設業界が直面する様々な問題を解決し、新たな競争力を築くことを目指しています。
|建設DXが注目されている理由
建設業界においてDXが注目される理由はいくつかあります。
まず、新型コロナウイルスの影響によるビジネスのオンライン化が急速に進んだことが一つの要因です。
建設業界では、従来現物を見ながらの打合せや現場作業が主流でしたが、オンライン化によって顧客対応や社内コミュニケーションに課題が生じました。
このような状況下で、建設DXはオンライン環境に適した業務プロセスの変革を迫られるため、DX化が注目されています。
さらに、「2025年の崖」と呼ばれる課題も建設業界におけるDXの背景となっています。
多くの企業が老朽化したシステムやブラックボックス化したシステムを抱えており、既存システムの維持管理費が増大する一方で新たな投資が進まない状況です。
また、IT要員不足やサイバーセキュリティリスクも懸念されています。
これらの課題を解決するためには、DXの実現と業務プロセスの変革が求められており、建設業界においてもDXが注目される理由となっています。
さらに、建設業界では人手不足やノウハウの継承の問題が顕在化しています。
建設業の就業者数は減少傾向にあり、働き手の増加は見込めません。
また、建設業界の職場環境の改善も求められています。
DXによって、労働負担の軽減や現場作業者の経験やノウハウの共有が可能となり、業界の持続的な発展に貢献すると期待されています。
|建設業が抱えている課題
建設業が抱える代表的な課題は以下の通りです。
人材不足:建設業界の就業者数は減少し、特に若年層の建設技能者が不足しています。高齢化が進んでおり、技術の継承や新たな人材の確保が課題となっています。
生産性の低さ:建設業の生産性は他の産業に比べて低く、効率の改善が求められています。人手不足や非効率な業務が生産性の低下につながっており、リソースの効率的な活用が必要です。
働き方改革:建設業界では年間実労働時間が長く、休日が少ない傾向があります。働き方改革の実施や労働負担の軽減が求められています。建設DXを取り入れることで、業務の効率化や労働負担の軽減が期待されています。
|建設DXがもたらすメリット
ここからは、建設DXがもたらすメリットについて、3つの観点から解説します。
業務の効率化
建設DXによる業務効率化には以下のようなメリットがあります。
- リモートでの視覚的な仕様打合せが可能となり、関係者が現場に行かずに確認できるため、打合せプロセスが迅速化します。
- 各工程での情報を一元管理できるため、情報共有が容易になり、効率的な建設生産システムの構築が可能です。
- 部品や部材の情報を組み込むことで、仕様変更時に関連する部品や部材の変更が自動化され、手間やミスが削減されます。
- 設計品質が向上し、確認作業が早くなるため、手戻りが減少し、現場作業が効率的に進められます。
- CRMやSFAなどの支援システムの導入により、業務効率化が実現します。CRMでは顧客関係性を維持し満足度を向上させ、受注につなげます。SFAでは商談進捗管理や数値管理を行い、営業業務の効率化が図れます。情報の一元管理により引継ぎや支援が容易になり、効果的な顧客アプローチも可能になります。
建設DXによる業務効率化は、建設業界全体の生産性向上や労働負担の軽減につながります。
作業の省人化
建設DXによる作業の省人化は、以下のようなメリットをもたらします。
- 重機の遠隔操作により、破砕、掘削、運搬、設置などの作業を遠方から行い、複数の機械を同時に操作できるため、省人化が可能です。これにより危険作業のリスクが低減し、残業時間や作業員のストレスも軽減され、職場環境が改善されます。
- 従来の施工状況の確認や指定材料の確認、監督業務などを事務所や自宅から行うことで、移動時間を大幅に削減できます。これにより、少ない人員で多くの作業や業務をこなすことができます。
- デジタル技術によって機械が自己判断し施工を進める可能性もあります。AIを搭載した建設機械による自動施工の導入が進んでおり、AIが掘削位置を判断して作業することで、さらなる省人化が実現されます。
建設DXによる作業の自動化は、労務難への対策となり、効率化や労働環境の改善につながります。
省人化によって、人手不足の解消や作業の効率化が実現され、建設業界全体の競争力向上に寄与します。
若い世代への技術継承
建設DXによる技術継承のメリットは以下の通りです。
建設業界では若い人材不足により技術継承が停滞しています。
熟練技術者の高齢化と減少により技術力の低下が懸念されますが、待っているだけでは解決できません。
DXによって熟練技術者の判断過程がデータとして残り、社内で共有することができるようになります。
直接指導を受けずともデータを参照し、技術ノウハウを学ぶことができます。
一対一の指導ではなく、多くの技術者が同時に学べるだけでなく、後から確認することも容易です。
また、技術継承を人に頼るだけでなく、AIに判断思考を学習させることも可能です。
AIが熟練技術者と同等の作業を判断・実行するため、高品質で安定した作業が期待できます。
建設DXによる技術継承の手法は、人材不足を補い、若い世代への知識・スキルの伝承を促進します。
これにより業界全体の技術力向上と持続的な成長が実現できるでしょう。
|建設DXに必要な技術
ここでは、建設DXに必要な技術について、簡単にご紹介します。
AI
AI(人工知能)は建設DXにおいて欠かせない技術です。
AIは大量のデータを高速かつ効率的に処理し、膨大な情報から傾向やパターンを抽出する能力を持ちます。
建設業界では、建設プロセスの最適化、品質管理、リスク予測、デザイン最適化など、さまざまな領域で活用されています。
また、設計や施工の自動化にも大きく貢献しています。
例えば、AIを搭載した建設機械が自動的に作業を行ったり、建築物のデザインを最適化したりすることが可能です。
これにより、作業の効率化や品質向上、安全性の確保が実現されます。
さらに、建設現場でのデータ収集と分析にも活用されます。
センサーやカメラを利用して現場の状況をリアルタイムにモニタリングし、異常を検知したり、作業の進捗状況を把握したりすることができます。
これにより、効率的な作業計画の立案やリアルタイムな問題解決が可能になります。
ICT(情報通信技術)
続いては、ICT(情報通信技術)です。
ICTは情報の収集、処理、伝達を通じて業務プロセスを効率化し、情報の共有と連携を促進します。
例えば、クラウドコンピューティングやビッグデータ解析などのICT技術は、膨大なデータの管理と分析を可能にし、建設プロジェクトの計画や設計、施工、保守管理の各段階での意思決定をサポートします。
また、センサー技術やIoT(モノのインターネット)デバイスを活用することで、建設現場の監視や設備のモニタリングをリアルタイムに行うことができます。
さらに、ICTはコラボレーションを促進し、関係者間の情報共有とコミュニケーションを円滑化します。
ビデオ会議やチームコラボレーションツールを利用することで、遠隔地にいる関係者とのコミュニケーションを容易にし、意思決定や問題解決のスピードを向上させます。
また、安全性の向上にも寄与します。
セキュリティシステムの導入やデータのバックアップ・保護、リスク予測・管理などにより、建設現場や施設のセキュリティを強化します。
SaaS
続いては、SaaS(Software as a Service)です。
SaaSはクラウドコンピューティングの一形態であり、ソフトウェアをインターネット経由で提供するサービスモデルです。
SaaSは、ソフトウェアのライセンス購入や専用のハードウェアの設置が不要であり、初期投資を抑えることができるため、コスト削減に役立ちます。
また、ソフトウェアのアップデートやメンテナンスもサービスプロバイダが行うため、管理コストも削減できます。
柔軟性と拡張性という側面でもSaaSが活用されます。
必要な機能や利用ユーザー数に合わせて柔軟に利用できることや、建設プロジェクトの規模やニーズに応じてサービスを拡張することも容易です。
ドローン
次に、ドローンです。
ドローンは無人航空機の一種であり、建設現場において以下のような役割を果たします。
視覚情報の収集:ドローンは空中から高解像度の写真や映像を撮影することができます。これにより、建設現場全体の視覚的な把握が可能となり、施工状況や進捗状況をリアルタイムで把握できます。
測量・マッピング: ドローンは搭載されたセンサーやGPSを利用して、正確な測量データや地図を作成することができます。これにより、建設現場の地形や地盤の把握、設計図面の作成に役立ちます。
安全点検: ドローンは高所や危険な場所へのアクセスが容易であり、建築物や構造物の安全点検に活用されます。外観や損傷の確認、耐震性や安全性の評価などを効率的に行うことができます。
施工監理: ドローンによる映像やデータを解析することで、施工の品質や進捗状況の監理が可能です。
施工ミスの早期発見や問題点の把握に役立ち、品質管理やスケジュール管理を向上させます。
ドローンを建設DXに活用することで、建設現場の可視化や効率化など多くのメリットがあります。
RTK
建設DXにおいて欠かせない技術の一つがRTK(Real Time Kinematic)です。
RTKは高精度な位置測定技術であり、建設現場において以下のような役割を果たします。
測量の高精度化: RTKは基準局と移動局からなるシステムで、基準局が正確な測地系や座標系の情報を提供し、移動局が現場での位置情報を受信します。これにより、建設現場の測量や土木工事における位置測定を高精度かつリアルタイムに行うことができます。
工事の正確性向上: RTKを使用することで、建設現場の設計図面上の位置情報と実際の位置を的確に合わせることができます。これにより、建築物や構造物の正確な配置や土木工事の正確な施工を実現し、品質の向上を図ることができます。
施工の効率化: RTKによる高精度な測量データは、建設現場の作業計画や材料の配置などの効率化に活用されます。正確な位置情報を基にした作業指示や効率的な資材の配置により、作業時間の短縮やリソースの最適化を実現します。
現場管理の改善: RTKは現場の位置情報をリアルタイムに把握することができます。これにより、施工状況の把握や進捗管理が容易になります。建設プロジェクトの監理やスケジュール管理を効果的に行い、現場管理の品質向上に寄与します。
RTKの導入により、建設DXにおける測量・施工の精度向上、作業の効率化、現場管理の改善などが実現されます。
|建設DXの成功事例
ここからは、建設DXの成功事例をご紹介します。
東急建設株式会社
東急建設株式会社では、土木工事において進捗管理や状況管理のために、360°カメラ「THETA」を活用した「THETA360.Biz」を導入しています。
従来の写真撮影では必要な箇所が撮影できなかったり、再撮影が必要なケースが多発するなど、手間が掛かってしまうことが課題でした。
そこでTHETA360.Bizを活用することで、一度に360°の撮影が可能となり、撮影漏れの心配もなく、再撮影の手間も低減しました。
さらに、東急建設株式会社は、BIM/CIMなどのICTを導入し、業務の効率化を図っています。
BIM/CIMは設計図上の情報であるため、現物を確認することができませんが、バーチャルツアーは実際の現場の質感や状況を直感的に理解できるため、両方の活用によりより深い理解が可能となっています。
清水建設株式会社
清水建設株式会社は、建設現場の状況把握と共有を目的としたクラウドサービス「RICOH360 Project」を活用し、コロナ禍で大いに制約があるにもかかわらず、効果的な工事進行を実現しています。
従来、現場の状況確認には動画配信を利用していましたが、指示や確認ポイントの準備に時間が掛かることや、通信環境の問題などの課題がありました。
そこで、360°カメラを活用することで、死角のない詳細な現場画像を提供することに成功しています。
さらに、比較機能を利用することで進捗状況の追跡や施工後の変更点の確認も容易になりました。
この新たなアプローチにより、品質向上と現場での資料整理時間の大幅な削減が実現し、効率性が向上しました。
また、クラウド上にデータをアップロードすることで、本社との円滑なコミュニケーションや発注者との確認もスムーズに行えるようになりました。
|建設DXにおける注意点と成功のポイント
最後に建設DXの注意点と成功に導くポイントについて解説します。
まず1つめは、現場の声に耳を傾けることが重要です。
建設DXを進める際には、現場の声によく耳を傾け、意見を反映した取り組みを行うことが必要です。
現場が働きやすい環境を実現するために、現場の意見や要望を重視しましょう。
また、突然のデジタル化導入は現場からの反発を引き起こす可能性があるため、事前に建設DXの重要性やメリットを説明し、理解を得ることが重要です。
2つめは、現状の課題を明確にすることです。
建設DXを進める目的を明確にし、現状の課題を把握することが必要です。
目的が不明確な場合、社員は方向性を見失い、意欲を削がれる可能性があります。
建設DXに取り組む理由と目指す方向性を明確にし、社員の意欲を高めましょう。
3つめは、自社に最適な方法を選択することです。
建設DXで活用できるデジタル技術は多岐にわたりますが、導入しても使い勝手が悪かったり、自社に合わなかったりすると進めることが困難になります。
自社の課題を解決するために必要なデジタル技術を検討し、社員の使いやすさを考慮しながら最適な方法を選択しましょう。
柔軟性を持って最適なデジタル技術を採用することが成功の鍵です。
|まとめ
いかがでしたか?
本記事では、建設DXの概要から推進メリット、成功ポイント、企業の成功例などわかりやすく解説しました。
建設DXの成功には、現場との緊密なコミュニケーション、明確な目的設定、そして適切なソリューション選択が不可欠です。
これらの要素をバランスよく取り入れることで、建設業界の効率化とイノベーションを実現しましょう。
では、今回も最後までお読みいただきありがとうございました!