Unityと言えば最もよく使われているゲームエンジンの一つですが、先日UnityのリリースプランであるTechストリームの最新版が公開されました。

最新版となるUnity2023.1 Techストリームでは機能拡張、髪や肌表現の精度向上、様々な機能強化などが行われており、より没入感の高い体験を簡単に生み出すことを目指しています。

当記事では、現時点で最新版のリリースである2023.1 Techストリームの概略と、具体的な新機能について解説します。

|Tech ストリームとは

出典:https://unity.com/ja/releases/lts-vs-tech-stream

Techストリームは、Unityの新機能をリリース前の段階でクリエイター向けに公開している早期アクセスプランです。

公開されている新機能にはプレビュー版も含まれますが、主に開発段階でのプリプロダクションや発見フェーズ、プロトタイピングなどでの使用を想定しています。

Techストリームは2020年の最初のリリース以来、毎年2回のリリース更新を行っており、これらは第1四半期と第4四半期に公開されています。

これらの新機能は後々のUnityの正式な機能としての実装を視野に入れてフィードバックが共有されており、Unityの機能強化の足掛かりとしての意味もあります。

|2023.1 Tech ストリームの概要

出典:https://unity.com/ja/releases/editor/whats-new/2023.1.0

最新版のTechストリームは2023年7月3日に公開され、Unity Hubからダウンロードできます。

追加された新機能の中にはプレビューも含まれていますが、前回のリリースまでプレビュー版だったアダプティブプローブボリュームが正式化されています。

具体的な新機能の解説は以下で行いますが、XR技術も含めたより没入感の高い体験をより簡単な操作で生み出せるための各種機能が実装されています。

|2023.1 Tech ストリームの新機能

2023.1 Techストリームでは上記に挙げたアップデートに加えて、Volumetric Fog表現の精度向上やC#サポートの強化、またエディター機能の強化など複数の改善や機能の追加などを行っています。

以下では、2023.1リリースでアップデートされた機能や改善点について解説していきます。

レンダリング機能の拡張

新たに追加されたレンダリング機能では、品質と機能の両方の強化を図るための改善が実施されています。

HDRP(HDレンダーパイプライン)とURP(ユニバーサルレンダーパイプライン)の両方の他、レンダリング品質の改善も図られています。

どのような機能が拡張されているのか、項目ごとにご紹介します。

スクリーンスペースレンズフレア

全てのレンズフレアを1つのポストプロセスボリュームを通してわずか数クリックで追加できる機能です。

このレンズフレアを生成する画面上のすべてのハイライトは、それが間接、直接、放射サーフェス、スペキュラハイライトであろうと問わず、従来のプロセスの簡略化が行われています。

このアップデートによりURPとHDRPとに互換性が生まれ、同時に使うことが可能であり、ライトレンズフレアをより高度なレベルでコントロール可能にするSRPレンズフレアの補完に役立ちます。

ウォーターシステムの機能およびビジュアル改善

前バージョンではネイティブウォーターシステムを実装しましたが、新バージョンでは水のオーサリングが更に細かくなっています。

例えば、機能の一つであるWater Deformerは、波や渦、また移動中の船の周りの水の形を変えるために局所的な部分に絞って水のグラフィックを変形します。

こうした機能によって、ゲーム世界との一体感をより高め、それによるゲームプレイの質の向上を狙っています。

透明度、サブサーフェススキャタリングの改善

透過・透明なオブジェクトの忠実度を視覚的に上げるために、透明オブジェクトの厚みを算出するオプションパスを追加することができるようになりました。

これは、不透明ではなく、かつ光が浸透する物体の厚みを考慮し、オブジェクトが不均一な場合や、複数のオブジェクトを別のオブジェクトの背後に重ね合わせてレンダリングする際などに役立ちます。

キャラクターの髪・肌表現の改善

最近では生身の人間のように見えるデジタルヒューマンやリアルなクリーチャーの生成が可能になり、それをレンダリングする技術も進化しています。

2023.1リリースでは、キャラクターの髪や毛皮をレンダリングする際に、HDRPの高画質ラインレンダラーによって、ハイレベルなボクセル化によって線をレンダリングすることが可能になりました。

これによって、毛状のグラフィックをレンダリングする際にありがちな、透明度を順序付けするプロセス、またエイリアシングに関する問題の修正に役立ちます。

また、肌をシミュレートする際に、通常は表皮の薄い油層の表現のために2つのスペキュラーローブを用いますが、2023.1リリースではマテリアルの拡散プロファイルにディフューズパワーとデュアルローブパワーを加えています。

これによって、スキンレンダリングの忠実性を高めることで、ゲーム内の生物的な描写解像度を向上します。

レイトレーシングAPI・HDRP機能のプレビュー版終了

レイトレーシングAPI、HDRPレイトレーシングによる影、グローバルイルミネーション、再帰的レンダリング、反射、AOなどのレイトレーシング効果は前リリースまで

プレビュー実装されていましたが、2023.1ではプレビュー段階が正式終了となりました。

というのは、レイトレーシングとDirectX 12のパフォーマンスと安定性が改善されたことにより、コンソールサポートの互換性が向上し、エンジンの既存の機能セットとの互換性が向上したためです。

アダプティブプローブボリューム

今回のリリースではユーザーエクスペリエンスとアダプティブプローブボリュームのコアとなる部分が改良され、プレビューを終了しました。

また、URPにアダプティブ・プローブ・ボリュームのサポートが一部分に搭載されましたが、このイテレーションの過程では反射プロープに対するライティングノーマライゼーションやライティングシナリオブレンディングはサポートしていないので留意が必要です。

ローエンドのプラットフォームでこれらのタスクを実行すると、パフォーマンスが最適化されていない可能性があります。

新しいライトベイキングアーキテクチャ

より予測性が高く、安定したライトベイク体験を実現するために、Baked GIはオンデマンドベイクにLightBaker v1.0アーキテクチャを新たに採用しています。

GPUバックエンドを使用してオンデマンドモードでベイクする際、ライティングウィンドウのベイクプロファイルを用いて、GPUメモリ使用量とパフォーマンスとのトレードオフを選べるようになります。

Volumetric Fog 出力

VFX Graphの新たな出力によって、HDRPのVolumetric Fogにパーティクルを生成して、炎や霧、煙や雲などのエフェクトを表現したり、Volumetric Fogをより動的かつエフェクト表現を介入可能なものにします。

乗算、加算、最大ー最小などの様々なブレンドモードによって、パーティクルを用いて既存のフォグを追加、結合、削除することができます。

スモークを用いてVolumetric Fogに密度を生み出したり、ミストを生成したり、水中の流れを生み出すことも可能です。

プラットフォームの機能強化

Techストリームは最初のリリース以来、プラットフォームサポートを重視した技術統合を進化させていますが、2023.1リリースでもそれは同様です。

WindowsやiOS、Androidを始めとする主要なプラットフォームを対象にパフォーマンスと機能の改善を継続しており、その対象にはMagic LeapやMeta QuestなどのXR技術も含まれています。

この他、Lenovo ThinkPad X13sやSurface Pro 9などのARM64プロセッサを用いる機器でネイティブパフォーマンスを実現すると同時に、ARMベースのWindows機器向けのプロジェクトのビルドもサポートしています。

このアップデートにより、より多様なデバイスで没入感のあるハイクオリティな体験を生み出すことが可能になります。

マルチプレイヤーソリューションの機能強化

Netcode for GameObjectsなど、マルチプレイに関するUnityのソリューションをUnity Gaming Servicesと統合して、一つのマルチプレヤーソリューションとして提供できるように取り組みが進んでいます。

新たなリリースのUnity Transport Protocol(UTP)は未完成のリリースですが、デバイスや接続されたプラットフォームやネットワーク間でのゲームデータの転送処理を行うネットワーキングインフラストラクチャです。

また、今回のリリースでは、UTPはTCP接続とWeb接続の二つをサポートした、UTPに関連する技術の機能を改善します。

C# サポートの強化

覆面コンパイルプロセスも含めてC#のサポートを多様な方法でアップデートしています。

前回のリリースでは、IL2CPPのメソッド名のみを提供する形での実装だったため、マネージド・スタック・トレースが参照するコードは一定の部分を特定することが難しいケースがありました。

今回のリリースではデバッグ・シンボル処理を可能にすることでC#ソースコードの行番号に関する情報が表示可能になり、コードを基にした一定の部位を特定することが容易になりました。

エディター機能強化

最後に、2023.1リリースではエディター機能がいくつかの面で改善されています。

ワークフローやアイテムを右クリックした際に表示されるコンテキストメニューが標準化し改善され、よりインタラクションが一貫したものになり、他にもオプションの検索フィールドやソートの最適化が含まれます。

また、地形ツールオーバーレイでは、Unityシーンオーサリングワークフローによってより体験を予測可能かつ一貫性のあるものにするため、新しいオーバーレイツールバーフレームワークを採用しています。

|まとめ

TechストリームではUnityの新機能やツールの早期アクセスが利用可能で、そこで生まれたユーザーからのフィードバックが、Unityの開発に影響を与えます。
年に2回発表されるTechストリームは基本的に次回のリリースまでサポートされているので、例えばプロトタイピング段階のプロジェクトを進めている段階で、Unityの新機能の正式採用に備えることが可能です。

XR等の新規性の高い技術に応じた機能がプレビューとして先行的に実装されたりもするので、同技術に関わる開発者の方などは要注目のリリースプランです。