サイバーエージェントは藤田晋氏が1998年に創業したメディア、インターネット事業を中心とする企業です。
2004年にスタートした「アメーバブログ」は主力サービスの1つであり、日本国内におけるブログブームを牽引しました。
現在、多くの方がサイバーエージェントに抱くイメージとしてはインターネットを通じて配信されるテレビ局「ABEMA」ではないでしょうか。
オリジナル番組はもちろん、スポーツの独占中継といった地上波にも劣らない品質で様々なコンテンツを提供しています。
そんなサイバーエージェントですが、実はAI開発にも積極的に取り組んでいることをご存知でしょうか。
AIと言えば海外企業の活躍が目立ちますが、実は日本国内にも優れたAI技術が存在しています。
本記事では、サイバーエージェントのAI開発の背景と、提供するAI技術についての概要を解説します。
一読いただければサイバーエージェントに対するイメージが一変するかもしれません。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
|サイバーエージェントのAI開発
サイバーエージェントのAI開発は専門の組織によって進められています。
以下それぞれの組織の詳細について解説していきます。
- AI Lab
- Media Data Tech Studio
研究開発組織「AI Lab」
「AI Lab」はサイバーエージェントが2016年に設立した、AI技術の開発を目的とした研究組織です。
所属する研究者は多岐にわたり、AI技術の最先端である機械学習はもちろん、経済学、自然言語処理、HCIといった各々の専門知識を有しています。
大学や学術機関との連携も積極的に行っており、ビジネス面だけではなく学術的にも貢献できる期間を目指した開発が進められています。
実際、AIを専門とする複数の国際学会においても論文が採択されており、そのレベルの高さは世界的にも評価されています。
サイバーエージェントが得意とするインターネット広告において、AIを活用した制作プロセス、広告クリエイティブを実現しています。
バーチャル撮影やCGといった研究も進められており、これまでにない新しい広告表現の提供が進められているのです。
Media Data Tech Studio
「Media Data Tech Studio」はサイバーエージェントが運営する各種サービスから得られた情報を、的確に分析、処理することを目的にした組織です。
そのため、大規模データ処理や分析、機械学習といった分野を専門にするエンジニアが多数在籍しています。
設立は2011年と前述した「AI Lab」よりも古く、長年に渡って大量のデータを活用したメディアサービスを進めてきました。
顧客から得た情報をもとに、サービスの課題を発見した上で解決するための施策を検討し、アルゴリズムの開発、実装、検証から運用までと幅広い分野に対応します。
顧客情報を直接取り扱うことから、法規の遵守といった倫理的な部分だけではなく、高い技術力も求められる組織です。
|サイバーエージェントが提供するAI技術
「AI Lab」や「Media Data Tech Studio」といった組織によって、サイバーエージェントは様々なAI技術を開発しています。
多数ある中から、本記事では以下の内容についてそれぞれ解説していきます。
- 極予測AI
- 極予測TD
- 極予測AI人間
- CYPAR TANE
- AI Messenger for Voice
- OpenCALM
「極予測AI」
「極予測AI」はすでに配信されている広告と新しい広告の効果予測をAI分析し、期待値が高かった新規広告を配信する技術です。
これまでは広告効果の分析、クリエイティブなアイデアは担当者の能力に任せられていました。
しかし、現在の大量の広告を処理、分析し続けることには限界があります。
そこで、「極予測AI」を活用することで迅速かつ的確な広告分析、予測が可能となったのです。
これまで通りの過程を経て進められた広告と、「極予測AI」が行った分析による広告では後者が2.6倍も高い結果を出しました。
「極予測AI」によって制作された広告は、効果が確認できた場合にのみ費用が発生する「成功報酬型」で提供されます。
「極予測TD」
「極予測TD」はユーザーが検索欄に入力したキーワードに対する広告文を自動生成するAIです。
「極予測TD」によって広告文を作成し、前述した「極予測AI」によって効果を予測することで、より高い効果が期待できるとしています。
ユーザーのキーワードに反応する広告は「検索連動型広告」と呼ばれ、ターゲットに対する直接的な訴求が可能です。
しかし、膨大なキーワード情報を人間の手で分析、対応することは現実的ではありません。
「極予測TD」を利用すれば、数億パターンにものぼるキーワードに対して自動で広告分を生成できます。
効果の高いテキストを瞬時に生成する機能は、まさにAIならではの強みだといえるでしょう。
「極予測AI人間」
「極予測AI人間」は様々な人間モデルの生成が可能になるAIです。
広告商品に適したAIモデルをオリジナルで作成することで、イメージに適した架空の人物が商品を訴求します。
髪型や顔だけではなく、ポージングやファッションといった全体像の生成もできるため、まるで人間のモデルを採用している感覚で広告作成できるでしょう。
コロナ禍によって採用が難しくなった外国籍のモデルも簡単に生成できますので、物理的な条件に縛られることなくあらゆるモデルの採用が実現します。
人間のモデルを採用した撮影の場合、髪型やファッションの変更に時間がかかってしまいます。
また、新たな人物を加えた撮影などには急遽対応できません。
「極予測AI人間」ではありとあらゆるシチュエーションに対応し、非常にリアルなAIモデルを生成できるのです。
「CYPAR TANE」
「CYPAR TANE」は、オンラインを通じたブレインストーミングを目的としたAI技術です。
対面会議だけではなく、Webツールを利用した会議においても気軽なブレストを行うことで、短時間で効率的なアイデアを創造します。
コロナ禍におけるテレワークの普及に応じて提供が開始されたサービスであり、2020年4月より試験運用がスタートしました。
「CYPAR TANE」はサイバーエージェントと広告クリエイティブを得意とする「PARTY」が共同出資で設立した「CYPAR」にて進められています。
「AI Lab」の知見をベースに、様々なノウハウをかけ合わせることで開発に至った技術です。
「AI Messenger for Voice」
「AI Messenger for Voice」は、顧客からの電話対応を自動化することを目的としたAI技術です。
チャットを通じた問い合わせが主流になりつつありますが、Webサービスを活用できない年代は電話での対応が必要です。
しかし、テレワークへの移行などカスタマーサポートの人員不足によって十分な電話対応が出来ていない企業は少なくありません。
そのような場合でも、「AI Messenger for Voice」を利用することで、様々な電話業務を自動化できるのです。
サイバーエージェントが培ってきた対話エンジンによって、人間らしい自然な音声が実現しており、すでに同社のグループ内でのオンライン秘書サービスにも導入されています。
「OpenCALM」
「OpenCALM」は日本語に特化した大規模言語モデルです。
2023年に入り注目を集めた「ChatGPT」も同様のモデルが採用されており、まるで人間を相手にしているかのような自然な会話が実現します。
前述した「極予測AI」や「極予測TD」といったAI技術にも、OpenCALMは活用されています。
一般的に大規模言語モデルはパラメータ数が高いほど高性能であると判断され、OpenCALMは68億、ChatGPTは3,550億とその数値は若干劣ります。
しかし、OpenCALMは完全に日本語対応している点が大きな特長です。
そのため、ChatGPTと比較して日本文化に対応した文章生成は強いといえるでしょう。
OpenCALMは日本で最大規模の言語モデルであるため、今後もその進化に注目が集まるはずです。
|まとめ
サイバーエージェントのAI技術について、その概要から提供しているAIについて解説してきました。
インターネットサービス、メディアといった印象が強い企業ですが、実際は非常に様々なAI技術を開発しています。
サイバーエージェントのAI技術に対する姿勢は広告業界、メディア業界においてAIの活用が避けられないことを意味しているかもしれません。
膨大な情報を処理、分析する能力は人間よりもAIが遥かに勝る分野でしょう。
今後もその需要は拡大することが考えられます。
これからのメディア広告がAIによってどのように進化していくことになるのか、その動向に注目すべきといえるでしょう。