日本は世界的にも少子高齢化が進んだ国として知られています。
人口や働き口が首都圏をはじめとした都会に集中した結果、各地方では過疎化が進み、自治体の維持などが深刻な問題となっています。
こうした状況が続いてしまえば、日本社会全体のバランスが崩れてしまい、経済活動などの維持が困難になってしまうでしょう。
そこで、少子高齢化や人口減少への対策を進め、日本社会の継続を目指す活動として「地方創生」という言葉に注目が集まっています。
地方創生の内容としてはテレワークの推進や地方への人材支援、移住推進といった様々な取り組みがあげられます。
こうした状況において「メタバース」が大きく活躍できることをご存知でしょうか。
本記事ではメタバースを利用した地方創生について、その内容から実際の事例などを解説します。
日本の将来を支える技術としても注目されるメタバース。
大きなビジネスチャンスも眠っているはずですので、ぜひ最後までご覧いただき今後の施策検討に活かしてみてください。
|日本各地で発生している多くの課題
現在、少子高齢化などに起因する様々な問題が日本各地で発生しています。
メタバースによる解決を進める前に、実際どういった課題が発生しており、今後どうなると考えられているのかを把握しておきましょう。
人口減少に伴う過疎化
第一に、人口減少に伴う過疎化があげられます。
人口の変動は「転入や転出」と「出生や死亡」の2種類に分けられます。
前者は社会的に発生するものであり、後者は自然に発生するものでその要因は異なります。
2023年8月に確定した総務省による人口推計によれば、前年同月比で約65万人が日本人口として減少。
中でも15歳未満の人口は約33万人も減少している一方で、75歳以上の人口は約74万人も増加しました。
この数値からも急激に少子高齢化が進んでいることが分かるでしょう。
そして、各都道府県別の人口増減率については、東京都のみが人口増加。
その他46都道府県においては人口が減り続けているのです。
若者が都心へ移動する一方、地方には高齢者が残る。
地方の労働力不足が深刻になれば未整備のインフラが増加し、地方の経済活動に大きな影響を与えてしまいます。
結果として地方の人口は急激に減少し、過疎化が進むという悪循環が発生しているといえるでしょう。
地方行政の維持が困難に
前述したように、現在の日本では東京都のみが人口増加、その他の地方は人口が減少し続けているという現実があります。
このような状況が続けば、地方の企業は労働力不足から事業の維持が困難となり、いずれは撤退に至ってしまうでしょう。
そして地方での働き口がなくなった若者は仕事を求め、より一層都市部へと流出し続けるという負のスパイラルが生まれてしまうのです。
若者がいなくなった街では単純に活気がなくなるだけではなく、地方自治体の行政維持が困難となります。
インフラ整備、治安、災害による被害など様々な福祉活動に影響が発生するでしょう。
また、日本各地域に点在する貴重な歴史遺産の保護も困難となります。
管理者不足による老朽化、消滅といったことも起こり得るなど過疎化の被害は多岐に渡るのです。
|メタバースを活用してどんな地方創生ができる?
「メタバースと地方創生ってあまりイメージできない…」
上記のように感じられる方は少なくないかもしれません。
近年急激に発達した新技術であるメタバースと、「地方」という牧歌的な雰囲気は確かに相反するように感じられるでしょう。
しかし、実際はメタバースと地方の相性は非常に良いのです。
こちらでは、以下の項目にそってメタバースを活用した地方創生の事例を解説します。
- 地方の街を再現して観光や文化体験をしてもらう
- メタバース上で上がった利益を地方に還元する
- メタバースを通じた特産品やNFTの販売
- リモート勤務を通じた地方定住の実現
地方の街を再現して観光や文化体験をしてもらう
メタバースを活用すると、地方の街を再現して観光や文化をバーチャル体験してもらうことができます。
コロナ禍で旅行に来てもらうことが難しい状況でも、メタバースなら気軽に訪れてもらうことが可能です。
施策としては、まずメタバース上で地元の建物や風景などを構築します。
バーチャル都市が完成したら、祭りやイベント、伝統工芸などその街でしか体験できないものを再現します。
訪問者は自分のアバターで自由に街を歩き回りイベントに参加できるため、ただ街を眺めるだけではありません。
よりリアルに街が体感できるため、写真や動画、文章だけでは気づかなかった街の魅力も理解しやすくなります。
メタバースを活用すると、国内外の人に街の魅力や文化体験を楽しんでもらうことができます。
メタバース上で上がった利益を地方に還元する
メタバースのバーチャル地方都市とイベントで得た収益は地方に還元することができます。
交通の便が良くないなどの理由で資金が不足しがちな地方でも利益を得やすくなります。
現実の民俗博物館などに入館する際は、入館料がかかることも多いものです。メタバース上の民俗博物館でも入館料を設定すれば、収益につなげることが可能です。
ほかにも、有料のライブや展示会などを開催する方法もあります。
メタバース上での入館料や参加料の支払いは、仮想通貨などと相性がいいようです。
銀行振込は、手間がかかるうえ海外からの来場者の利便性が悪いのでおすすめできません。
誰もが気軽に訪れて利用できるシステムを構築することで、来場者が増えて地方に還元できる利益も増えます。
メタバースを通じた特産品やNFTの販売
地方の街を再現したメタバース空間では、単純にその雰囲気を味わってもらうだけではなく商品の売買も可能です。
これまではECサイトを通じた二次元的な販売しかできず、うまく売上に繋げられなかった商品であっても、アバター姿を通じて直接対面での販売が実現します。
商品の背景、ストーリーを声で伝えることで、画像や文章だけでは感じられないリアリティを提供できるでしょう。
メタバースを訪れた方は、実際にその地方に足を踏み入れた感覚で買い物が楽しめます。
また、地域限定のNFTを販売するなどメタバースならではのマーケティングも気軽に実施できます。
これまでにない新たな収益源として、メタバース上での特産品販売は大きな役割を担うでしょう。
リモート勤務を通じた地方定住の実現
地方創生の取り組みとして、すでに推進されているテレワークですが、実際にはまだまだ全ての作業をネット上で完結させることは困難です。
しかし、メタバースを活用すればパソコン業務よりも幅広い内容がリモートで進められます。
例えば、対面での会話が重要となるカウンセリングや医師との対話なども、メタバースであれば目の前にいるかのような臨場感で進められます。
結果的に、これまで都市部でしか行えなかった業務が地方に住みながら可能となります。
また、地方に住む高齢者は都市部と同じ品質のサービスをいつでもどこでも受けられるのです。
日本のどこにいても都市部と同じ働き方が実現することは、現在の人口一極集中を緩和させると期待されています。
生活費の比較的安い地方への分散、移住者の増加によって地方創生に繋がると考えられるのです。
|メタバースを活用した地方創生の事例
2024年1月現在、すでにメタバースを活用した地方創生が各地域に複数事例存在しています。
こちらでは以下それぞれの取り組みを紹介します。
地方が率先して進めているものや、企業によるプロジェクトなどその内容は様々。
ぜひ参考にしていただければ幸いです。
- 吉本興業
- 志摩スペイン村
- パソナ
- 静岡県焼津市
- 千葉県
- 大阪泉佐野市
- 山口県萩市
- 秋田県
- 新潟県山古志
吉本興業
2022年6月末に、吉本興業は兵庫県養父市の観光名所を再現したメタバースを開始します。
義父市のメタバースに吉本興業のタレントのアバターが登場し、同市の自然や魅力を国内外にアピールします。
メタバース上に構築された観光スポットは「日本の滝100選」にも選ばれた天滝やウインタースポーツで知られるハチ高原などです。
明延鉱山の中に入る仮想体験ツアーも計画されています。
また、吉本興業のタレントのアバターはイベントに出演予定のため、メタバース上で新しい娯楽コンテンツを展開する予定です。
NFTとよばれるデータの売買ができる技術を使って、タレントの衣装やギャグなどの動きを販売することも検討しています。
吉本興業は、メタバースを活用して地方都市の地域おこしを行い、新コンテンツ開発や衣装販売なども手掛ける予定です。
志摩スペイン村
三重県志摩市に位置するリゾート施設「志摩スペイン村」は、メタバース上に施設を再現するエリアをオープンさせました。
メタバース空間を訪れたユーザーは志摩スペイン村の広場や街並みを散策するなど、実際に三重県を訪れることなくその雰囲気を楽しめます。
また、スペインの奇祭といわれる「牛追い祭り」や「トマト祭り」をベースにしたゲームが行えるなど、色々な楽しみ方が可能となっています。
三重県志摩市には志摩スペイン村を筆頭に、様々なリゾートやアクティビティが楽しめる施設が存在しています。
しかし立地条件の悪さから、気軽に訪れることが出来ないというデメリットを抱えていました。
メタバースを通じた訴求を行うことで、志摩スペイン村の魅力を知ってもらい、実際に足を運んでもらうことを目的にしているのです。
パソナグループ
人材派遣会社のパソナグループは、2020年に東京から兵庫県淡路島へ本社機能を移したことで大きな話題になりました。
そして、リモートワークの活用としてメタバースを取り入れ、地方でも都心部と同じような働き方を実現させようとしているのです。
また、パソナはメタバースと淡路島を掛け合わせた体験を提供しています。
「ZENメタバース体験ツアー」と名付けられたこのプログラムは、メタバース上に再現された「禅坊靖寧(ぜんぼうせいねい)」と呼ばれる施設で行われます。
インストラクターの指導に沿った座禅リトリート体験や、懇親会を実施。
メタバース空間を通じた体験型観光サービスによって、新しい地方創生を推進しようとしているのです。
静岡県焼津市
静岡県焼津市は、メタバース上で開催される「バーチャルマーケット2022 Winter」に特設ブースを出展しました。
そして、アバター姿を通じてイベントに参加した方に対して焼津市の魅力を紹介し、ふるさと納税品のPRを行ったのです。
ブースでは「バーチャルマグロ解体ショー」や「バーチャルマグロ一本釣り」などが提供され、メタバースならではの臨場感ある体験が楽しめました。
また、ブースからふるさと納税が行えるサイトへ移動し、その場での寄付実施を可能にする工夫もあり、多くの参加者で賑わいました。
メタバースイベントへの出展は多くの若年層へ、直接地方の魅力をPRすることに繋がります。
こうした事例は今後も増加することが考えられるでしょう。
大阪泉佐野市
大阪府泉佐野市も「バーチャルマーケット2022 Winter」へ特設ブースを出展しました。
こちらでも市内の魅力やふるさと納税品のPRが行われ、多くの来場者で賑わいました。
泉佐野市を代表する牛のモニュメントを利用したロデオ体験を提供するなど、メタバースならではの取り組みも。
泉佐野市のふるさと納税額は累計1,000億円にものぼり、業界のトップを走り続けています。
お肉、お米、タオル、ビールといった返礼品が3Dモデルで展示され、実際のふるさと納税に繋げる取り組みが行われました。
前述した静岡県焼津市同様、地方創生にメタバースイベントをうまく活用した事例であり、今後の取り組みを検討する際の大きな参考になるずです。
千葉県
千葉県木更津市では市が主催するメタバース上での「婚活イベント」が開催されています。
木更津市に住んでいる、もしくは勤め先がある、移住の意思がある方が対象です。
参加者は全員の前で自己PRを行い、その後は異性同士で各5分間ずつ会話を行います。
その後、マッチングシートの内容に沿って現実世界でのデートに繋げるのです。
メタバースでの婚活イベントはアバター姿を通じて行われることから、比較的緊張感なくリラックスした状態で進められるメリットがあります。
まだまだ発展途上の取り組みではありますが、地方に新しい世帯を呼び込める機会として注目されています。
山口県萩市
山口県萩市では、メタバース空間上に独自の展示ブースを出展し、市内の魅力を伝えると同時にふるさと納税のPRを実施。
訪れたユーザーは展示スペースを自由に歩き回れるだけではなく、萩市の名産である「萩焼」や「日本酒」といった様々な商品が確認できました。
静岡県焼津市や大阪府泉佐野市と同様、メタバース空間からふるさと納税サイトへの導線も設計されており、スムーズな紹介が実現しています。
地方にいながら全国各地の人へ直接魅力を訴求する機会は多くありません。
メタバース空間であれば対面と同じような感覚で、臨場感を持った案内が実現します。
今後も同様の事例は増加していくことが考えられるでしょう。
秋田県
地方創生に対する取り組みを進める株式会社ゼロニウムは「あきた移住・交流メタバース万博」を開催。
秋田県全体への移住促進を目的にしたメタバース空間を構築しました。
訪れたユーザーは秋田県内の市町村に関する情報や、移住に関する資料を自由に収集できます。
また、地域の仕事情報なども紹介しており、具体的な移住のイメージをメタバース上で抱くことが可能となりました。
2023年3月にはメタバース上で「交流・相談day」が開催され、県職員や市町村の移住担当者が直接ユーザーへ案内することもありました。
メタバース空間へはWebブラウザを通じてアクセスできるため、スマホからでも気軽な参加が可能です。
より多くの人を集める仕組みは今後もその他イベントにて利用されることが考えられます。
新潟県山古志
新潟県山古志は人口わずか800人程度という小さな地域ですが、メタバースを活用した地方創生について多くの取り組みを進めています。
地域住民が企画した、メタバースとNFTを組み合わせた「仮想新山古志」には国からの補助金が活用されており、大きな注目を集めています。
古くから錦鯉の産地として有名であることから、錦鯉をベースにした「Nishikigoi NFT」を発行。
なんとこのNFTは「電子住民票」としての役割も担っており、保有することでデジタル上の山古志住民になれるのです。
現実世界の山古志へ足を運ぶことなく多くの住民との交流が実現する点はメタバースならではのメリットです。
人口が少ない地域でも、新潟県山古志のように魅力をアピールし、地方創生に繋げられる好事例といえるでしょう。
九州地方整備局
九州地方整備局は土木研究所と連携して、全国初でメタバースを活用した川づくりを行いました。
この取り組みにより、低コストでよりリアルな川の3Dモデルの作成を実現しています。
川づくりの地元説明会は、これまでパースや模型を使って行うことが一般的でした。
現地の測量や踏査データがデジタルでも、アナログ作業で行わなくてはいけないため非効率的なことが課題でした。
ゲームエンジンを活用したメタバース上の川を作ることで、より高品質な川の3Dモデルができ、作業も効率化したといえます。
また、VR技術によって、地域住民の方に完成後のインフラをバーチャル体験してもらえるようにもなりました。
九州地方整備局は、川づくりの完成イメージにメタバースを活用することで、効率化とコストダウン、地域住民の方へのインフラ疑似体験の機会を創出しました。
|メタバースにおける地方創生のまとめ
メタバースを活用した地方創生の事例を解説しました。
現在の日本は深刻な少子高齢化、地方の過疎化が進んでおり、非常に大きな課題として取り上げられています。
こうした課題を解決するためには、最新の技術を活用した取り組みが必須となります。
メタバースを利用し物理的な場所を問わない交流を実現させることで、多くの人が全国各地の地方へ興味を持つはずです。
2024年以降、メタバースを活用した地方創生はより一層活発になることが考えられます。
今後の動向に注目しながら、日本が抱える課題の解決に期待しましょう。