拡張現実を意味する「Augmented Reality」の略称であるAR技術は、現在様々な場面において活用されています。
スマホなどの画面を通じて現実世界を映すと、実際にそこに存在しないオブジェクトが現れるといったゲームをプレイしたことがある方もいらっしゃるでしょう。
通常、こういったARのような技術の開発には高い専門知識が必要だと思われがちです。
しかし、近年は開発環境も向上しており、誰でも簡単に思い通りのARを開発できるようになっています。
本記事では、そんなAR技術に関連する「ARKit」について、概要から機能面での特徴、注意点などを網羅してお伝えします。
ARに興味をお持ちという方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
|iPhoneのAR機能「ARKit」とは?
「ARKit」は、iPhoneやiPadといったApple製品に搭載されているiOS向けのAR機能です。
単にARを体験できるだけではなく、開発者向けのARフレームワークでもあるため、実際にARアプリを作成できます。
iPhoneやiPadが手元にあれば、他に特別な機材を必要とすることなくARアプリ構築環境が手に入るのです。
iPhone、iPadに搭載されているカメラを使って動作する「ARKit」は、現実空間を認識し、画面を通じた映像に対して架空のオブジェクトを配置できます。
AR技術が最も広く知られることになったきっかけのアプリとして、「ポケモンGO」があげられるでしょう。
「ポケモンGO」は現実世界をスマホで映すことで、実際にその場所に架空のポケモンが存在しているかのような体験をユーザーに提供しています。
「ARKit」では「ポケモンGO」に利用されていた技術からさらに進んだ、「現実空間の構造認識」が可能となっていることが大きな特徴といえるでしょう。
対応している端末
「ARKit」はiPhone、iPadに対応していると前述しましたが、歴代の端末全てにおいて対応しているわけではありません。
「ARKit」はiOS11に搭載されており、基本的にはiPhone 6S Plus以降の機種であれば利用可能となっています。
また、iOSに対応しているiPhoneであってもiPhone6以前のものは「ARKit」の利用ができません。
同様に、iPadにおいても以下の端末が非対応となっていますので確認しておきましょう。
- iPad Air
- iPad Air2
- iPad mini4
- iPad mini3
- iPad mini2
|ARKitでできること
それでは、「ARKit」でできる機能として、代表的な以下の機能をそれぞれ解説していきます。
- ポジショントラッキング
- ポイントクラウド(3次元の点座標情報)取得
- 画像とビデオのキャプチャ機能強化
ポジショントラッキング
ポジショントラッキングとは、現実空間における自身と「ARKit」対応端末の位置と向きを取得する機能を指します。
位置や向きといった情報は、カメラやセンサからの情報を基に構成されます。
AR技術にとって位置情報は最も重要な要素です。
AR空間として投影される映像において、現実世界と連動した形でオブジェクトを正しく配置しなければいけません。
自身がどこにいて端末がどの方向を向いているのかといった情報を検知し、正確な箇所にオブジェクトを配置できるのです。
ポジショントラッキングはカメラからの情報を基に位置と方向といった情報を取得するため、カメラを完全に覆ってしまうと上手く機能しません。
そのため、端末を完全に覆ってしまうVRゴーグルといった機器との併用はできない点は理解しておきましょう。
ポイントクラウド(3次元の点座標情報)取得
ポイントクラウドとは、端末のカメラから取得する映像に対して、点単位で座標情報を取得できる機能です。
端末から現実空間の各方向に対して超音波を飛ばし、物体にぶつかった位置関係を取得するといったイメージが分かりやすいかもしれません。
多い時で一秒間に百点以上の座標情報を取得可能であり、非常に高精度に空間情報を把握できます。
しかし、真っ白い壁といった特徴の少ない物体に対しては、座標情報を上手く取り込めないという課題も抱えています。
こちらの機能については、GoogleTangoといった深度センサ計測などのほうが精度が高いため、理解しておく必要があるでしょう。
また、全く何もない空間に座標を検出するといったノイズも多少発生します。
画像とビデオのキャプチャ機能強化
4Kビデオに対応した「ARKit6」においては、セッション中にバックグラウンドでの画像キャプチャが可能になりました。
そのため、仮想空間上でのオブジェクトの画像品質を高められます。
本当に現実世界に存在しているかのような写真撮影も可能となりますので、様々なクリエイティブな現場において活用できるでしょう。
さらに、HDRビデオにも対応しており、露出設定やホワイトバランスといった各種タグを「ARKit6」フレームに追加します。
「ARKit6」から直接制御できることで、イメージどおりの画像、ビデオの作成が実現するはずです。
|ARKitができないこと
「ARKit」でできない機能について、以下の項目をそれぞれ解説します。
- 現実空間の位置との関連付け
- リアルタイムなポイントクラウド取得
現実空間の位置との関連付け
「ARKit」によって取得される空間情報は、点や平面と比較した相対的な情報でしかありません。
そのため、特定のオブジェクトと位置を関連付けることはできないのです。
一例として、ARを活用したゲームを作成する場合、全プレイヤーが空間を共有した上でそれぞれの位置関係を決定づける必要があるでしょう。
このような場合、「ARKit」では位置合わせに必要となる基準情報が無いため対応できません。
「ARKit」以外のマーカー認識をするなど、別の手段を併用して対策を講じる必要があるでしょう。
リアルタイムなポイントクラウド取得
ポイントクラウドの項目でも前述したように、何もない空間において座標情報を取得するといったノイズが発生することがあります。
また、真っ白い壁といった見た目の特徴が薄いものによっては、認識の精度が低くなるという課題を抱えています。
そのため、リアルタイムでの確実なポイントクラウドを取得するには少し不安が残るといえるかもしれません。
こちらにおいても、位置基準の関連付け同様に「OpenCV」といった別途処理を併用しながら対策を講じる必要があるでしょう。
|Unityと組み合わせると高品質なAR作成が可能に
「ARKit」は非常に高い機能を持っていますが、「Unity」と組み合わせることでより高性能なAR制作環境が実現します。
「Unity」はゲーム開発に広く使用されるプラットフォームであり、3Dコンテンツの制作を得意としています。
3Dの取り扱いにおいて利便性の高い物理エンジンが搭載されていることから、ゲームだけではなくARコンテンツの開発にも利用されているのです。
「Unity」は有料版も存在していますが、取り掛かりとしては無料版でも十分な機能を利用できます。
「ARKit」を「Unity」で利用することで、より高品質なARコンテンツが作成できます。
より踏み込んだ内容のARを構築したいと考える場合は、「Unity」の無料版をお試しすることをおすすめします。
|ARKitは今後もアップデートされていく
Appleが提供する「ARKit」はまだまだ発展途上のサービスであり、今後もさらなるアップデートが予想されています。
2022年6月に実施された「WWDC(World Wide Developer Conference)」においては、様々なApple製品が新たに発表されました。
その中で、「ARKit」も1年ぶりのアップデートが発表されたのです。
前述した4K画像での撮影対応、画像キャプチャの機能強化といった内容はこの時のアップデート内容によるものです。
またロケーションアンカーと呼ばれる、実際の有名スポットにARアブジェクトを配置できる機能に東京が追加されてました。
これまでは世界の一部都市にとどまっていた本機能ですが、2022年6月の発表以降はバンクーバー、シドニー、シンガポールといった都市に加えて東京も加わったのです。
このように、「ARKit」は今後もApple新製品の発表と同時に、その機能をアップデートさせていくことが考えられます。
|まとめ
Apple製品において気軽にARコンテンツの利用、開発が可能となる「ARKit」について解説してきました。
iPhoneでは物体の長さを測れる「計測」アプリが標準搭載されていますが、このアプリも「ARKit」によって構築されています。
AppleはAR開発に注力しており、今後も様々なアプリや開発ツールの提供が予想されます。
今後より身近になるAR技術ですので、今から触れて理解を深めておきましょう。
本記事を読んで少しでも「ARKit」が気になると思った方は、対応する端末を利用してぜひ一度体験してみることをおすすめします。