近年注目を集めている「転移学習」という言葉をご存知ですか?

これは、機械学習の手法の一つです。

この技術を活用することで、少ないデータ量でも良質なモデルを構築し、機械学習の研究開発や実用化を大幅に加速させました。

本記事では、その概要やメリット・デメリットについて解説します。

その基礎を理解することで、データ分析技術におけるスキル向上に役立ちますので、ぜひご一読くださいね。

|転移学習とは

これは、異なる課題と課題の間で習得した知識や特徴を再度使用する方法を指します。

従来は、異なる課題に対して別々のモデルを訓練する必要がありました。

たとえば、画像モデルで馬と羊を判別しようとした場合、それぞれに対して大規模なデータセットが必要でした。

しかし、馬の情報が豊富である一方、羊の情報が不足している場合、後者の判別性能は低くなります。

そこで、この技術を活用すれば、馬モデルで得た知識を、羊のモデルにも転用できます。

つまり、情報不足の羊の判別も高精度に行えるようになります。

これにより、時間とコストを節約しながら、人工知能を実現するためのデータ分析の効率性と実用性を大幅に向上させることが可能となりました。

|転移学習のメリット

この技術を活用する上での良い点を、以下で3つ説明します。

学習時間の短縮

この技術により、他の課題で学習が済んでいるモデルを取得することで、新しい課題の学習をゼロから始めるよりも、習得する時間が短縮できます。

従来は、新しい課題を学習する際には、大量の情報を用意し、その情報を使ってモデルを学習する必要がありました。

しかし、情報収集や準備には時間とコストがかかるため、習得するのに膨大な時間を要していました。

それを事前にトレーニングされたモデルから始めることにより、巨大なデータセットで訓練されているため、既にさまざまな特徴や知識を獲得しています。

このアプローチにより、新しい課題のためにゼロからモデルを訓練する必要がなくなり、学習時間が大幅に削減されます。

応用範囲の広さ

一つの主要な利点として挙げられるのは、適用範囲が非常に広いことです。

この技術では、既存の知識やモデルをさまざまな課題や領域に適用できる柔軟性を提供しています。

具体的には、ある課題で訓練されたモデルの中間層や特徴抽出部分を他の課題に転用できることを指しています。

これにより、プリトレーニングモデルが異なる課題やドメインで得た知識を新しい課題に転送できるため、データ不足の問題を克服できます。

さらに、迅速なプロトタイプを開発したり、幅広い分野への適用が実現できます。

これにより、新しいアプリケーションや研究領域において、機械学習の可能性を探求する際に大きな利点がもたらされます。

限られたデータで高精度なモデルを作成

機械学習プロジェクトでは、通常、多くの情報を必要とし、それに基づいてモデルを訓練します。

しかし、現実には情報収集には多くの制約が存在します。

新しい課題やプロジェクトを遂行するために十分な情報を収集することは難しいうえ、情報をラベル付けするためには専門知識が必要です。

また、運転するテストや危険な状況で情報を収集する必要があるため、安全性の問題が発生することもあります。

それらの課題に対して、この技術では、既存の大規模なデータセットから得られた知識を転移させることにより、限られている情報を使用しても、精度の高い良質なモデルを構築できます。

よって、情報収集やラベル付けのコストと労力を節約し、効率的なプロジェクトの実施が可能となります。

|転移学習のデメリット

この技術の良い点について理解したうえで、反対にデメリットがあることも理解しておく必要があります。

学習効果がデータ間の関連性に依存

この技術には、データ同士の相関性が低い場合、学習の効果が制限されるという注意点が存在します。

学習させたい異なるドメインの新しいデータを転移学習に活用する際、情報の関連性が低いと、転移学習の効果が制限される可能性が高まります。

ドメイン間の差異や特性を考慮し、適切な前処理や調整を行うことや、必要に応じてモデルの微調整を行います。

よって、データとデータの間に相関する情報に依存してしまう特徴があるため、ドメインの理解とモデルの選択に注意を払い、効果的に適用することが求められます。

データ同士の関連性を最大限に活用すれば、この技術は高い精度をもったモデルの構築に貢献しますが、その前提としてドメイン間の適切な調整が必要になります。

未学習領域には使えない

これは、この技術が元々の課題に関連する新しい課題には適用できない可能性があることを指します。

元の課題から学習した知識を新しい課題に応用するため、元の課題と新しい課題が関連性を持つ場合に最も効果的な技術ですが、その課題同士の相関性が低い場合、そのメリットは薄れます。

たとえば、羊の写真を分類するモデルを馬の写真の分類に移行するのは効果的ですが、馬の写真の分類から宇宙の星座の分類に移行するのは難しいでしょう。

このため、新しいタスクに適した情報を収集し、モデルを再学習する必要が生じることがあります。

要するに、関連性の高い課題の間では有用な技術ですが、完全に異なる未学習領域に適用するのは難しく、十分な情報と調整が必要です。

負の転移

これは、この技術を実施する際に、元の課題から新しい課題に知識を移行させることが逆に性能を悪化させる現象を指します。

たとえば、馬の写真を分類する課題で学習しているモデルを、自動車の写真を分類する新しい課題に適用する場合、元の課題と新しい課題の特徴や異なったドメインが背後にあるため、負の転移が発生する可能性があります。

これを避けるためには、新しい課題において適切な調整やモデルの再学習が必要となります。

また、ドメイン適応と呼ばれるテクニックを使用して、元の課題と新しい課題の間のドメインの違いを軽減し、この技術の効力を最大化する試みも行われています。

これらの注意点も十分留意し、確実性をもって利用していくことが大切です。

|ファインチューニング、蒸留などとの違い

この2つの手法もまた、「人工知能」を実現するための情報分析技術に深く関連しています。

これらは共通点として別タスクの学習モデルを再利用することが挙げられますが、異なるポイントがあります。

それぞれについて、以下で説明しましょう。

ファインチューニング

これは転移学習の一形態であり、ソースモデル全体を新しい情報に合わせて再学習することを目的とします。

ソースモデルは新しい課題の情報に合わせてドメイン適応され、ソースモデルの重みが微調整されます。

これにより、新しい課題に適した特徴抽出が行われ、高い性能が得られます。

要するに、転移学習はソースモデルの一部を新しい課題に適用し、一般的な知識を転送することを目的とし、ファインチューニングはソースモデル全体を新しい課題に合わせて再調整し、タスク固有の情報を取り入れることを目的とします。

どちらも既存の知識を新しい課題に活用する強力な方法ですが、その課題に適したアプローチを選択することが重要です。

蒸留

ある知識を、大規模なモデルから小さなモデルに収縮させる方法で、主にモデルのサイズを縮小し、軽くすることでリソース効率を向上させます。

転移学習は新しい課題の中で性能を向上させるために知識を転送し、少ない情報で学習できる一方、蒸留はモデルのサイズを縮小して計算リソースを節約します。

これにより、モデルのサイズや計算コストの削減に焦点を当てていると言えるでしょう。

それでいて精度は高く、良質なコストパフォーマンスを実現します。

要するに、大きなモデルから小さなモデルに知識を伝える方法であり、それぞれの目的に応じて、適切なアプローチを選択します。

マルチタスク学習

転移学習が、情報やリソースの再利用に焦点を当て、学習済みのモデルを新しい課題に適応させることが目的である一方、マルチタスク学習は、複数の課題を同時に学習し、それらの課題間の共通性を活用します。

異なる課題を同時に学習することで、共通の特徴を捉え、一つのモデルで複数の課題を実行できるようになります。

よって、この学習方法は、複数の関連した課題を同時に効率的に解決することを目指します。

簡単に言えば、前者が既存のモデルを新しい課題に適用することを重視しているのに対し、後者は複数の課題を同時に学習し、共通性を捉えることを強調します。

選択肢は、特定の問題に対する最適なアプローチに依存します。

|転移学習の活用事例

この技術を活用することによって、多くのメリットが得られること、反対に注意しなければならない点について、よく理解できたと思います。

こちらでは、実際に活用されている事例を紹介しましょう。

画像認識

近年、多くの企業がこの技術を用いて画像認識を進化させています。

その中で注目すべき事例の一つが、株式会社コーセーの「感性評価AI」です。

これは、美容の専門知識を持つプロのカウンセラーのスキルを再現し、顔の「活き活き感」を高めることを目指しています。

この開発では、日本の女性377人の顔画像を利用し、「活き活き感」を7段階で評価。

その結果と顔画像を組み合わせ、AIが評価値を顔画像から予測する方法が採用されました。

ただし、顔画像の評価基準を統一するのは難しいため、深層学習と転移学習を活用して、顔画像から評価基準を自動的に抽出するプロセスが導入され、高い精度の「感性評価AI」が実現されました。

音声認識

人間の声をコンピューターに認識する分野でも積極的に利用されています。

近年、バーチャルキャラクターやスマートスピーカーなどの音声アプリケーションが幅広いシーンで注目を集めており、これらのアプリケーションには自分好みの声で喋らせたり、男性の声を女性らしい声に変換する機能が実現されています。

DeNAなどの企業は、エンターテインメントやライブ配信など、音声認識と高い親和性を持つ領域で、音声生成技術の研究と導入に注力しています。

具体的には、VTuberの生放送で音声合成技術を活用するなど、さまざまなプロジェクトが進行中です。

今後、この分野においての更なる進化が注目されており、その動向に目が離せません。

自然言語処理

この分野でも、革新的な進展がもたらされています。

たとえば、英語から日本語への文章翻訳を考える場合、通常の方法では英和翻訳とドイツ和翻訳のデータセットを別々に用意する必要があります。

しかし、転移学習を利用すると、英和翻訳をすでに学習したモデルの知識を、ドイツ語からの翻訳にも活用できます。その結果、新たなドイツ語データセットを追加するだけで、効率的に翻訳モデルを学習できます。

さらに、LINE株式会社とNAVERが共同で開発した「日本語特化型の超巨大言語モデル」は、多岐にわたる言語データを学習し、コンテキスト設定を行うFew-Shot learningを実行することで、自然な言語処理・表現を実現しています。

|まとめ

転移学習は、機械学習の研究開発や実用化において欠かせない技術です。

少ない情報量でも高精度なモデルを構築できるため、さまざまな場面で活躍しています。

これからこの技術を学習したい方は、本記事を参考にして、その特徴や活用方法について理解しましょう。

また、転移元の課題と転移先の課題の関連性を高めることや、負の転移を防ぐための対策を講じることも重要です。

この技術を習得すれば、機械学習のスキルを向上させ、さまざまな分野で活躍できるようになります。

興味のある方は、ぜひ、学習に取り組んでみてくださいね。