日本の伝統的な第一次産業のひとつである漁業。

お寿司や焼き魚など、おいしい魚たちがわたしたちの味覚を楽しませてくれていますね。

しかし、漁業業界は、近年人員不足や高齢化、水産資源の枯渇などさまざまな課題に直面しており、どう課題を乗り越えていくかの検討が繰り返されています。

そんな漁業に革新的な変化をもたらすとされているのが、AIやデジタル技術を活用した「スマート漁業」です。

スマート漁業とは、どのようなものなのでしょうか?

また、どのようなメリットや事例があるのでしょうか?

この記事では、スマート漁業の基礎知識から具体的な活用方法までを紹介します。

ぜひ最後までお読みください。

|AIとは

スマート漁業の解説をする前に、AIについて紹介します。

AI(人工知能)は、情報化が進んだ現代社会において、もっとも注目されている分野といえるでしょう。

コンピュータが人間のような知能を持つことを目指した技術で、日々進化し続けています。

最近では、文章生成AIのChatGTPや、画像生成AIのStable Diffusionといった生成AIが注目されています。

ビジネスシーンだけでなく、すでに日常生活のなかにも取り込まれているため知らないうちに活用しているかもしれませんね。

AIの進歩が進めば、わたしたちの生活も大きく変わってくるでしょう。

AIについてさらに深く知りたい方は下記リンクの記事も読んでみてくださいね。

知見がさらに広がりますよ。

AI(人工知能)とは?簡単な仕組み・種類とメタバースと相性が良い理由を徹底解説!
AI(人工知能)とは?簡単な仕組み・種類とメタバースと相性が良い理由を徹底解説!

|漁業が抱える課題

漁業は日本の食文化や地域経済に欠かせない産業ですが、さまざまな課題に直面しているのが現状です。

果たしてどのような課題を抱えているのでしょうか。

漁業を取り巻く現状について考えるきっかけにしていただければ幸いです。

人員不足・高齢化

まず、大きな課題として挙げられるのが、人員不足・高齢化についてです。

さまざまな分野で課題となっていることですが、漁業業界においても喫緊の課題といえるでしょう。

第一次産業である漁業は過酷な肉体労働であり、漁獲量に左右され収入が安定しないといった側面もあります。

そのため、若者が漁業に就くことが少なく、後継者不足が深刻化しています。

また、漁業者の平均年齢は60歳以上と高く、高齢化も進んでいます。

人手不足や高齢化は、漁業の生産性や安全性に大きな影響を与えています。

技術の継承

ご存じのとおり、漁業は経験や勘が重要な職業です。

そのため、一朝一夕で身につくものではなく、若手漁師に伝えることは簡単ではありません。

高齢化や後継者不足の影響もあり、技術の継承が困難になっているのが現状です。

特に、漁場の選定や漁獲量の予測などは、気象や海流、魚の動向などを複雑に分析する必要がありますよね。

しかし、これらの情報は十分に記録されていないことが多く、ベテラン漁師のノウハウが失われてしまう恐れがあります。

漁場や水産資源の変動に対応するためには、新しい技術や知識も必要です。

しかし、漁業者としてIT技術を活用する機会は少なく、最新の情報やデータを活用することがなかなか浸透しづらい環境ということ課題といえるでしょう。

水産資源の枯渇

水産資源の枯渇も大きな課題となっています。

世界的に水産資源は減少傾向にあり、過剰な漁獲や乱獲、海洋汚染や気候変動などが原因とされています。

最近では、地球温暖化の影響によりサンマの漁場が日本から離れてしまっているというニュースも話題になりましたね。

日本ではほかにも、クロマグロやスルメイカなどの資源量が減少していると報告されています。

水産資源の枯渇は、漁業者の所得や消費者の食生活に影響を与えるのは言うまでもありません。

水産資源の枯渇は漁業の収益性や安定性を低下させるだけでなく、食料安全保障や生物多様性の維持にも悪影響を及ぼすため、大きな問題点となっているのです。

|漁業にAIを導入するメリット

漁業が抱える課題について紹介しましたが、それらを解決に導くことが期待されているのが「スマート漁業」です。

漁業にAIを導入するとどのようなメリットがあるのでしょうか。

ひとつずつ紹介していくので、ぜひお読みくださいね。

作業効率化

まずメリットとして挙げられるのが、作業効率化についてです。

現状ではデータが不足しており、作業や管理が効率的に行われているとは言えない状況です。

しかし、スマート漁業を導入すれば、膨大なデータを管理し活用することが可能になります。

収集したデータをAIで評価することで、さまざまな効率化につながるでしょう。

魚群探知機やドローン、GPSなどを使って、魚の分布や移動を把握し、最適な漁場や漁獲量を予測することができます。

また、水中カメラやセンサーなどを使って、養殖場の環境や魚の成長をモニタリングし、養殖管理や収穫時期を最適化することもできるでしょう。

さらに、自動化や省人化によって、人手不足や高齢化の問題も解決にもつなげることができます。

幼魚の漁獲を避けられれば、資源の保護にもつながりますね。

スマート漁業の導入は、作業効率化だけでなくさまざまなメリットを享受できることになります。

漁獲量や漁場の管理

漁獲量や漁場の管理が改善できることもメリットとして挙げられます。

従来の漁業であれば、漁獲量や漁場の情報は手作業で行われることがほとんどでした。

これには時間も必要なうえ、正確性を欠くこともあったかもしれません。

ここにスマート漁業の技術を導入できればどうなるでしょうか。

漁業にまつわる様々なデータ管理がスピーディかつ正確に蓄積されていきますね。

また、AIによる画像認識などを使えば、魚種判別や計量・計測などの作業を自動化し、人的ミスや時間ロスを減らすことができるでしょう。

さらに、データ分析によって、水産資源の評価や管理を行えば、乱獲や資源枯渇の防止にも貢献できます。

データが蓄積されていけば、今までは長い経験がなければできなかった判断も、できるようになるのではないでしょうか。

データ活用によってうまく管理が進めば、養殖魚の死亡率や餌代を削減し、品質や収益性を向上させることにもつながりますね。

ブランド保証

スマート漁業の導入は、漁獲物のブランド保証にもメリットを与えるでしょう。

例えば、ブロックチェーン技術と連携すれば、漁獲物の履歴や流通状況を追跡し、品質や安全性を保証することができますね。

改ざんできない情報として誰でも確認できるため、消費者からの安心を得ることもできるでしょう。

ほかにも、QRコードやアプリなどを使って、消費者が漁獲物の情報や生産者の声をスマートフォンで確認できるようにすることも可能です。

安心して購入できることは、漁師や産地のブランド力を高めることにもつながりますし、漁師と消費者の両方にメリットがあります。

さらに、AIによるマーケティング分析や消費者ニーズができれば、それに応える商品開発や販売戦略を展開することもできますね。

|スマート漁業の活用事例

スマート漁業はまだ始まって日も浅いですが、すでにいくつかの活用事例があります。

ここでは、活用事例をいくつか紹介していきます。

養殖場の管理

はじめに活用事例として挙げられるのが、養殖場の管理です。

国内では福井県小浜市などで導入されています。

養殖の効率化を目的に導入されており、餌代の削減や魚の健康状態の把握などに役立てられています。

AIを活用すれば、餌やりの量やタイミング、回数などを自動判断してくれるため、無駄な餌やりが無くなり、労働の効率化につながることが期待されています。

水温のデータも蓄積してくれるため、その時の環境に合った回答を出してくれるでしょう。

魚を養殖するには最適な管理をしていく必要がありますよね。

養殖場の管理にスマート漁業を活用することで、養殖している魚の成長や健康状態を最適化し、品質や収量を向上させることができます。

また、効率的かつ省力的に管理できるようになるため、人手不足や高齢化の問題の解決にもつながりますね。

魚種判別の自動化

魚種判別の自動化にも活用されています。

AIの画像認識の仕組みを利用したもので、漁獲物の形状や特徴などから瞬時に魚種を判別してくれます。

魚種だけでなく、得られた情報から品質まで分類してくれるアプリも開発されています。

「TUNA SCOPE」というアプリでは、マグロの尾の断面を識別されることで、品質判定を行ってくれます。

熟練の目利き職人の品質評価をデータベース化したもので、こちらも後継者不足の解決にと活用されています。

漁業領域の絞り込み

漁業領域の絞り込みという観点でもスマート農業が活用されています。

過去から蓄積されたデータを分析し、いつ・どこへ行けば・どれぐらいの漁獲量があるかまで予測してくれるようになります。

宮城県の東松山市では、KDDIが開発した「スマートセンサーブイ」を活用し、塩分濃度と漁獲量がどう関連しているかを調査しました。

これにより、どれぐらいの塩分濃度のときに多く漁獲できるかがわかるようになりました。

海中の環境は一定ではないため、スマートセンサーブイを導入する前は、ベテラン漁師の勘に頼るものでした。

漁獲実績をデータとして蓄積できるようになったため、効率的な漁業が可能となり、コツをつかみきれていない後継者でも安心して海に出られるようになりますね。

水揚げデータの予測

漁業の生産性を上げるためには、無駄を省いていくことが必要です。

漁に出たものの魚が獲れなかったとなると、漁船の燃料代が無駄になってしまいますし、労力だけがかかってしまいもったいないですよね。

これを解消するために活用されているのが、AI分析による水揚げデータの予測です。

過去の水揚げデータや気象データなどから、いつ・どこで・どれぐらい漁獲できるかの予想を立ててくれます。

予測できるということは、漁師だけでなく仲買業者としても効率的な仕入れにつながるでしょう。

また、小売店としても、在庫管理や販売戦略に役立てることができそうですね。

乱獲防止

水産資源枯渇の要因のひとつとして挙げられる乱獲。

乱獲防止にもスマート漁業が活用されています。

例えば、青森県では漁場に監視カメラで撮影された映像をAIに機械学習させ、不審な船や人物などを即座に判断できるようにしています。

また、はこだて未来大学では、なまこの乱獲防止のために、捕獲した場所や量をデータ化し生態系を守ることに尽力しています。

さまざまなデータを蓄積し、AIに分析させ「今年はどの魚がどれぐらい漁獲できる」という予測を立ててもらえば、生態系を守りながら漁獲することができるようになるかもしれませんね。

|まとめ

今回の記事では、AIやデジタル技術を取り入れた「スマート漁業」とは何か、どのようなメリットや事例があるかを紹介しました。

スマート漁業は、漁業の課題を解決し、生産性や品質、価値を向上させるだけでなく、水産資源の保全や消費者の満足度も高めることができます。

日本の漁業の未来を切り開く可能性を秘めているスマート漁業。

第一次産業と最先端技術を融合させ、抱える課題をクリアしていってほしいですね。