近年、地方公共団体におけるAIの導入が、全国的な広がりを見せています。

業務の効率化や住民サービスの向上、そして新たなビジョンの実現につながる可能性が期待されます。

この記事では、都市の中でAIの活用がどのように進化し、私たちの生活に影響を与えているかを探求します。

未来の自治体がより効果的で効率的なサービスを提供し、住民の生活を向上させる手助けになるよう、期待を込めて解説していきます。

|AIとは

AI(人工知能)とは、人間が行う知的活動(例えば「絵を描く」「言葉を認識する」「ゲームをする」など)をコンピュータプログラムとして実現することです。

この研究は1950年代に始まり、2000年代以降に機械学習や深層学習などの技術が進歩したことで大きく進展しました。

機械学習や深層学習は、人間の介入なしにデータから学習して知識を獲得できるようになり、人間の知能を模倣するだけでなく、人間を超える知能を実現することが可能になりました。

現在は医療、交通、金融、エンターテインメント、製造など幅広い分野で応用され、業務の効率化、問題の予測、新しい発見を可能にしています。

この進化は今後も続き、私たちの日常生活や産業に大きな影響を与えることが期待されています。

|自治体でAI導入が促進されている背景

導入促進の背後には、労働人口の減少や業務効率化の重要性、新たなサービスニーズへの対応、高齢者向けサービスの拡充など、自治体が抱える課題が存在します。

一部では、AIを活用することで職員の業務円滑化、住民サービスの向上、地域課題の解決に成功した実績があり、これが他方でも導入の期待を高める要因となっています。

現在、総務省の「自治体AI共同開発推進事業」などの取り組みにより、AIの革新的なビッグデータ処理技術を活用しての実証実験が行われています。

新しいテクノロジーを活用して、効率的な行政サービスの提供と、新たな課題への適応に取り組むことで、未来に向けての準備を進めています。

|自治体のAI導入手順

AIを各市区町村において取り入れるには、下記の流れに沿う必要があります。

課題・実現方法の検討

導入手順の第一歩は、地域課題や業務課題の検討です。

行政職員が、日常業務で直面する課題を洗い出し、それらに対する詳細な分析を行います。

この過程で、課題事項が地域課題(住民サービス向上のための課題)か業務課題(職員の業務負担軽減のための課題)のどちらに該当するかを整理し、問題点をロジックツリーなどの手法を用いて具体的に検討します。

この段階では、課題の本質的な理解が深まり、その後のAI導入計画への土台が築かれます。

地域課題・業務課題の正確な把握により、導入する際の優先順位が明確化され、問題の網羅的な分析を通じて、最適な解決策への道が開かれることでしょう。

計画立案

次のステップは「計画立案」です。

この段階では、方針や戦略を確認し、市民に対する適切な情報提供を考慮します。

また、事業内容を設計する際には、AIが提供する結果を人間が確認できる仕組みを構築し、職員のリテラシー向上にも取り組みます。

データの取り扱いに関しては、採用に必要なデータを整理し、要件を満たすことが重要です。

特に、個人情報を含むデータの取り扱いは慎重に行い、個人情報保護法や各市区町村の個人情報保護条例に適合するよう確認します。

計画立案の成果物は導入計画書であり、これは首長や議員、担当者が共通認識できる内容である必要があります。

図表を活用してわかりやすく、初めて読む人でも理解しやすい内容を提供することが大切です。

事業者選定

続いてのステップは「事業者選定」です。

調達範囲や採用段階(実証のみから本格導入まで)に応じて明確な方針を提示し、適切な調達方法を選択します。

AIの適用業務や技術要件に応じて、実証実験から製品導入まで様々なアプローチが考えられます。

技術力を評価するため、事業者の選定において技術力を評価できる調達方式を採用することも検討されます。

また、契約締結段階では成果物の取り扱いや個人情報保護に関する契約内容が重要です。

「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」や「情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を参考にしつつ、信頼性のある事業者を選定するための評価項目を設定します。

導入

実際に取り入れる際には、2つの主要なパターンが存在します。

1つ目は、学習済みモデルを既に製品化したAIを導入し、追加学習が不要なケースです。

2つ目は、新たな学習データセットを使用してモデルを構築し、追加学習を含む場合です。

どちらを選ぶかは、事前の評価結果に基づいて判断されます。

前者の場合、AI自体の構築や追加学習は不要ですが、既存システムとのデータ統合や取り込みが必要です。

採用前に、それが通常の業務に適しているかどうかを確認します。

後者の場合、別の導入手順が適用され、個人情報の適切な管理とネットワーク運用が重要です。

実証段階の調達が終了した場合、実証結果に基づいて本格導入を検討し、必要な準備を行います。

運用

運用開始後は、定期的な検証と見直しが不可欠です。

検証の頻度は導入されるシステムの特性に依存しますが、通常は年に1回から数回が適切です。

PIA(個人情報リスク評価)の実施も重要で、利用の安全性を保つ手段となります。

検証の際には、業務の効率化、AIの精度、システムのサービス品質、長期的な事業継続可能性の確認が必要です。

特に、短期的な成果だけでなく長期的な視点を持つことが重要です。

運用の効率化と精度向上のため、費用削減や効果的な工夫を検討することが役立ちます。

また、クラウドサービスの共同利用を検討し、利用料の削減や学習データの増加による精度向上を実現するため、自治体間の情報資産やセキュリティ要件に関する考慮が必要です。

|自治体のAI導入事例

自治体が抱えるあらゆる課題を早急に解決するために、一部の団体ではすでに導入が始まっています。

ここでは、具体的な採用事例を以下でご紹介します。

総合案内サービス(愛知県内39市町村)

このプロジェクトは、自治体がAIとロボティクスを共同利用して業務の効率化を図るサービスです。

AIチャットボット(選定は公募・安定的で費用対効果の高いサービス提供業者が採択)が、主として市民の日常生活に関連する問い合わせに応答し、幅広い内容に対応します。

個人情報や非公開データは含まれず、QAデータは県が作成し、各市町村に共有されます。

追加学習により問い合わせへの精度向上を実現している上、セキュリティを担保するためにパブリッククラウドを使用し、ISO27001認証やゴールドマーク認証を取得しています。

結果として、職員の負担が削減され、市民の利便性が向上しましたが、初期のコストと労力がかかった点にも言及されています。

市民の健康管理支援(神戸市)

神戸市は、市民の健康データを管理するPHRシステムを開発し、市民自身の健康データを確認し、活用できる「MY CONDITION KOBE」という健康アプリを提供しています。

このアプリは、市が提供する特定健診の情報と、市民が提供する個人の歩数や食事の情報を基に、健康アドバイスを提供します。

個人情報保護に配慮し、データは匿名化されて学術機関に提供されて解析され、AIが健診データと生活情報から最適なアドバイスを生成します。

アプリの利用に際しては、本人確認が住基情報と突合させる形で行われています。

現在、約5,000人の市民が利用中で、主に40〜60代の利用者が75%を占めており、効果の評価は進行中です。

保育所入所選考システム(さいたま市)

さいたま市では、保育所入所選考業務をAIによって効率化しました。

AIが、申請者の優先順位やきょうだい同時入所希望などの市の割り当てルールを学習し、組合せを点数化して最適な選考パターンを瞬時に導き出します。

これにより、保育所の入所選考にかけられていた延べ約1,500時間の時間を数秒に削減し、決定通知を早期に発信できるようになりました。

システム導入による選考結果と職員の手作業による結果は一致しており、職員の負担を軽減したうえ、業務の効率化を実現しました。

また、入所申請者に対する決定通知の迅速な発信により、円滑な復職などにも貢献しています。

道路管理システム(千葉市)

千葉市の道路管理システム、My City Report(MCR)は、市民協働と道路管理者向けの2つのアプリで構成されています。

市民向け「MCR for Citizens」では、市民がスマートフォンで道路の不具合や損傷を写真と位置情報とともに報告できます。

市は報告内容と対応状況を公開用ウェブサイトに掲載して市民と情報共有を行っています。

一方、「MCR for Road Managers」は、自動車内のスマートフォンを使って道路を写真に収め、AIが道路損傷を自動的に抽出するためのアプリです。

市民からの報告により道路の損傷状況を把握し、道路管理のアプリを利用することにより、道路損傷の自動判定と効率的な道路管理が実現されました。

ケアプラン作成(豊橋市)

豊橋市は高齢者の自立支援とケアマネジャーの業務負担軽減を目指してAIを活用し、ケアプランの作成を支援しています。

AIに認定調査項目や主治医意見書の情報を入力することで、将来予測と共に推奨のケアプランを提案します。

この取り組みは、高齢者の増加に伴い増大する介護保険給付費の抑制と、介護関連職種の人材不足への対策および業務負担軽減の必要性に応えるものです。

2017年度の介護保険給付費が急増し、今後も高齢化が進展する見込みから、給付費の抑制が喫緊の課題となっています。

この取り組みは、利用者の身体状況の改善や介護給付費の削減に寄与するだけでなく、ケアマネジャーに新たなアイデアを提供し、高齢者への適切なサポートを提供しています。

職員の業務実態の可視化(宝塚市)

兵庫県宝塚市では、AI導入により職員のパソコン操作ログを分析する取り組みを実施し、職員の働き方を見直し、業務実態を視覚的に示しています。

3ヶ月間のパソコン操作ログを分析する実証実験が行われ、業務の内容や流れ、必要な時間、繰り返しの作業などが数値化されることにより、業務の偏りや効率化が必要な業務が明らかになりました。

具体的な成果として、漠然とした業務や繰り返しの作業量、業務の偏りが数値化され、可視化されたことが挙げられます。

既存のRPAの導入業務の効果が確認され、新たなRPA導入候補の業務も特定されました。

これにより、マネジメント体制の強化と効果的な働き方改革が実現され、行政サービスの向上が期待されます。

行政文書のデータ化(つくば市)

つくば市では、RPAを用いて、市民窓口課・市民税課業務などの定型的かつ膨大な業務プロセスの自動化を実施しました。

これらの業務は住民に最も近い距離にある基礎自治体の中でも最も多くの業務量を伴う基幹的業務であり、効率化が難しく、劇的な効率化が期待される難しい業務でした。

RPAの導入後は、業務の一部である発送簿作成が自動化され、職員の作業時間は年間約85時間から約14時間に削減され、約83%の効率改善が実現しました。

この自動化により、入力ミスの減少や単純業務の自動化によって職員は住民サービスに集中でき、効率的な業務遂行が可能になりました。

業務の定量化や効率化、市民サービスの向上と職員の作業効率向上に貢献しました。

漏水箇所検知(豊田市)

豊田市では、AIを活用して漏水箇所の検知を効率化するプロジェクトを進行しました。

この取り組みは、漏水調査を調査会社に委託する際にかかる膨大な費用を削減し、効率化を図るために実施されました。

具体的には、衛星画像データを解析し、漏水可能性区域(直径200m)を特定し、約7か月で全管路の60%の漏水調査を完了し、漏水箇所の検出数も増加しました。

これにより、漏水調査におけるコスト削減と調査期間の短縮が実現しましたが、同時に、実証過程で山間地域における漏水検知率が低いことや、高精度な検知を行うことは難しいという課題が明らかになりました。

AIはあくまで職員の判断を補助するツールであることが理解される必要があります。

民間事業者へのデータ提供(市川市)

市川では、市が保有する個人情報ファイル内のデータを非識別加工情報として加工し、民間企業に有償で提供する取り組みが行われています。

具体的な提供例では、市内の介護サービス利用者のデータを解析事業者に提供し、将来の介護費予測結果等を市に報告します。

これは政策の立案に活用され、市民の介護サービスの向上に寄与することが期待されています。

この取り組みでは、市から提供されるデータは個人情報を特定できないように加工され、個人の特定や個人情報の復元を防ぐための措置が取られています。

このプロジェクトにより、行政機関が匿名化したビッグデータを外部に提供できる仕組みが整い、多くの民間企業がAIサービスを提供することが期待されます。

|まとめ

本記事では、全国の各市町村がAIを取り入れる際の手順と実際の採用事例を詳しく紹介しました。

この最新テクノロジー導入による行政の効率化や市民サービス向上への影響は大きく、各自治体が独自の方法で取り組んでいます。

適切な導入と運用中のメンテナンスには十分な配慮が必要ですが、将来的にはさらなる成長と可能性を秘めており、今後もその動向から目が離せません。

本記事が、AI活用により公的なサービス円滑化のためだけではなく、ビジネスに利用しようと検討している方も含めて参考になれば幸いです。