近年、自動車業界においてVR(仮想現実)の活用が進んでいます。
これは、実際の車両や部品をバーチャル空間に再現することで、製品開発や販売、アフターサービスなどさまざまな場面で活用されていることを指しています。
今回の記事では、自動車業界におけるVRの活用メリットや活用シーン、導入事例を詳しくご紹介します。
VRが自動車業界にどのように革新をもたらすのか、自動車に興味のある方やビジネスに活用したい方は、ぜひご参考になさってください。
目次
|VRとは
仮想現実を指す言葉であり、現実世界とは異なる仮想空間を体験できる技術のことを言います。
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)やデータグラスなどの機器を装着することで、視覚、聴覚、触覚などの感覚を刺激し、あたかもその仮想空間にいるかのような感覚を味わうことができます。
特に、ゲームやエンターテインメントの分野でよく知られていますが、近年では、教育、医療、製造、ビジネスなど、さまざまな分野で活用が進んでいます。
まだ発展途上の技術ですが、今後もさまざまな分野で活用が広がっていくでしょう。
詳しくは、下記の記事も参考にしてくださいね。
|自動車業界でVRを活用するメリット
では、自動車業界において、仮想現実体験ができることで得られる利点には、どのようなものがあるのでしょうか。
以下で3つ、ご紹介しましょう。
運転体験ができる
従来は車の魅力を伝えるために動画や実際の試乗が主流でしたが、この技術の導入により、顧客にリアルな運転経験を提供する新たな手段が可能になりました。
顧客は仮想空間で車を操縦し、その臨場感を味わうことができ、体の向きや手足の動きに連動した映像体験は、まるで実際に車を操作しているかのような感覚を生み出します。
これにより、自宅からでも車の性能や機能を実際に試すことなく、リアルなイメージを形成できるため、購買意欲が高まります。
さらに、ショールームや試乗に行くことが難しい顧客にもアクセスする機会が広がり、これまでより多くの顧客に対してアプローチすることが可能になりました。
購入後のイメージができる
自動車メーカーは購入を検討している顧客に、実際の操縦体験を提供するだけでなく、購入後のイメージも提供できます。
実際の道路での運転にはリスクが伴い、事故や衝突の心配がつきものですが、VR上での疑似体験ではそのようなリスクがなく、安全な環境で操縦体験ができます。
顧客は安全な環境で車を操作し、車の性能や快適さを体感することができます。
この現実に近い感覚は、購入後の運転や所有体験に対する期待を高め、顧客が自動車を選ぶ際に役立ちます。
さらに、この安全な環境での操縦経験は、危機管理意識を高めるのにも貢献します。
顧客は仮想現実の中で異常な状況に対処する経験を積むことができ、より安全な運転スキルの向上につながります。
時間・コストの削減
自動車の設計や開発プロセスにおいて、この技術を導入することで情報共有が効率的に行えるため、時間とコストの削減に繋がります。
VRを通じて、自動車のデザインや仕様、内部構造を直感的に理解できるため、関係者間での共通の理解が容易になり、目標やプロジェクトの進行状況についてのイメージ共有が向上します。
この効果により、確認や合意形成にかかる時間が短縮され、作業チーム間での認識の一致が迅速に進行します。
結果として、業務の効率化が実現され、コスト削減が実現できます。
開発プロジェクトの期間が短縮され、無駄なリソースや時間の浪費が削減されるため、開発にかかる総合的なコストも抑えられます。
|自動車業界でのVR活用シーン
自動車業界では、VR導入を積極的に採用することによって、様々な利点があることが分かりました。
次では、具体的な活用シーンについて説明していきます。
製造での活用
製造プロセスでは、部品の使用可否の判断や組み立て構造の確認にVRが活用され、これにより工程の効率化、ロスの削減、製品開発の合理化が実現されます。
また、開発とデザイン段階では、VR技術によって外観や車内デザインだけでなく、運転のしやすさや乗り心地などの要素を統合的に検討できます。
デザイナーとエンジニア間の情報共有が円滑になり、モデル車を作成する必要がないため、製造コストと時間が大幅に削減され、効率向上が実現されます。
営業での活用
対面やオンラインの商談において、顧客に車の魅力を直感的に伝える手段として利用できます。
実車を目の前で見ているかのような臨場感を提供し、具体的なイメージを共有できるため、自動車の展示イベントや展示会において、顧客が運転席に座って実際の走行イメージを体験できます。
周囲の景色やシチュエーションをカスタマイズする機能を活用して、理想的なドライブを提案することができ、効果的なプロモーションにつながります。
研修や安全教育での活用
交通安全に関しても、VR技術は効果的なツールとして活用されています。
事故体験のVR動画は、車同士の衝突や歩行者との接触など、さまざまな事故シーンをリアルに再現し、教育の一環として利用されています。
CG再現ではなく、奥行きや距離感を感じられるため、危険運転のリスクを強調し、安全運転の意識向上に寄与しています。
また、ドライバーの適切な対応や危険回避能力を向上させるトレーニングに使用され、運転スキル向上に貢献します。
|【自動車業界×VR】活用事例
以下で、国内外における有名な自動車メーカーを中心とした活用事例をまとめました。
日産自動車
日産自動車は、ソーシャルVRプラットフォーム「VRChat」に「NISSAN CROSSING」というバーチャルギャラリーを公開しました。
これは、新車発表会や講演などのイベントの開催に留まらず、実際の自動車データをもとにした高品質な3Dモデルの自動車も提供し、新たなコミュニケーションの場として活用しています。
実際にギャラリーに足を運ぶ前に下見を行い、またショールームへ行くことが難しい顧客にもアクセス可能な方法を提供しています。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、積木製作という企業がサポートする、ゲームエンジン(Unity)を活用した教育コンテンツ開発を内製化する方針です。
このコンテンツでは、アーク溶接作業時の危険な服装、工具の使用方法、職場環境などをリアルな3D映像で学び、リアルタイムで正誤を指摘するテストが行われます。
ユーザーは採点結果を確認し、注意事項をテキストで読むことができるなど、工場内の労働災害を減少させる取り組みを行うことができます。
SUBARU
SUBARUは、新世代の安全技術であるアイサイトとアイサイト・ツーリングアシストを広く紹介するため、VRを試乗体験に活用しています。
これにより、誰もが安心して試乗し、実際の運転が苦手な人でもクルマの選択を気軽に行えます。
360度見渡すことができることで、実物とは異なる新しい魅力を発見することもできます。
安全性にも焦点を当て、交差点や衝突回避のシミュレーションを通じて、アイサイトの性能をリアルに体感できます。
パナソニック
パナソニック オートモーティブ社は、自動車向け製品の開発にVRシミュレーターを活用しています。
これにはゴーグル型VRとオープン型VRの2つのタイプがあり、運転者や同乗者の視点から車内のHMI(ヒューマンマシンインターフェース)を検証できます。
従来のシミュレーションに比べ、より立体的なイメージ共有が可能となり、開発工程における仕様変更が約30%削減されました。
フォード
フォード社はデザイン設計にVRモデリングツール「Gravity Sketch」を導入し、3Dデザインモデルを空間に描き出す新たなデザインプロセスを採用しました。
これにより、デザインにかかる時間が大幅に短縮され、全世界の5か所にあるVRデザインスタジオで多くのデザイナーが活用しています。
また、フォードはVRを使用して遠隔ミーティングを実施し、デザイナーたちが仮想スタジオで自動車の設計に取り組むことが可能です。
アウディ
アウディはVR技術をいち早く取り入れ、全世界で顧客向けVRラウンジを導入。
購入予定の車両を臨場感たっぷりの仮想環境で体験できる斬新なサービスを提供しています。
顧客は各車種やオプション装備をセールスコンサルタントのアドバイスを受けながら仮想空間でカスタマイズし、どのように見えるかを確認できます。
このラウンジは世界中の400以上の店舗で導入され、今後も増加が予想されます。
ポルシェ
ポルシェは、ドライバー以外の同乗者が楽しめるVRコンテンツを導入。
協力するスタートアップHolorideのVR技術は2Dと3Dの切り替えが可能で、走行中の車両の動きをセンサーが検知し、リアルタイムにVR内に反映されます。
これは、同乗者が車の動きと連動して楽しめるもので、例えば宇宙船の飛行を体験すると、車のコーナリングに合わせて船も動くなど、没入感豊かなエンターテイメントが期待されています。
この取り組みは車酔いを軽減する一方、将来的にはVRゲームとナビゲーションを組み合わせて、移動時間を楽しむサービスに発展する可能性もあります。
AutoVR
AutoVRは、自動車販売業界における変化に対応し、新しいディーラー運営を支援する革新的なサービスです。
最新のVR技術とデータ活用を結集し、顧客がVR空間内で自動車の内装、外装、ボディーカラー、オプションの装着などを、まるで実車がそこにあるかのようにリアルに体験できます。
また、顧客の嗜好や行動履歴をデータ分析に活かすことも可能です。
AutoVRは自動車業界において、未来に向けた画期的な解決策を提供しています。
VR教習所
これは、初心者や技術に自信のないドライバーに対して、VRゲームのような感覚で練習の機会を提供するサービスです。
車体を透明にしたり、運転のリプレイを行ったり、他の運転のモデルを同時に再生したりといった機能を活用し、運転スキルを向上させます。
詳しくは、こちらの記事も参考にしてください。
|まとめ
自動車業界におけるVRの活用は、今後ますます拡大していくことが予想されます。
自動車の設計・開発、製造、販売、アフターサービスなど、さまざまな場面で効率化や品質向上、顧客体験の向上が期待できます。
本記事では、自動車業界におけるVRの活用メリットや活用シーン、導入事例をご紹介しました。
VRが自動車業界にどのように革新をもたらすのか、ぜひご参考になさってください。