デジタルトランスフォーメーション(DX)の波はテレビ業界にも押し寄せ、テレビ業界は変革を迫られています。
その理由は、視聴者離れや収益モデルの変化、業界内の問題から生じているものです。
しかし、この危機をチャンスに変える鍵として「メタバース」が注目されています。
メタバースとは、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を駆使した、新たなデジタル体験空間のこと。
本記事では、民放4社とNHKがこの新領域でどのような取り組みをしているのか、その実例とともに探ります。
この記事を読めば、テレビ業界がどう進化し、視聴者との新たな関係を築き上げているのかがわかります。
スキマ時間で読み切れる内容になっており、実際にどのようなメリットがあるのかが明確に理解できるでしょう。
<この記事を読むとわかること>
- メタバースがテレビ業界の新たな収益源となる理由
- メタバースが提供する新しい視聴体験とその具体例
- 視聴者データの分析がテレビコンテンツの未来をどう変えるか
- 民放4社とNHKのメタバース活用事例とその成果
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目次
|メタバースとは?
メタバースとは、現実世界を模倣した仮想空間のことで、ユーザーがアバターを通じてコミュニケーションし、ゲーム、社交、ビジネス、教育など多岐にわたる活動を行えるデジタル環境です。
インターネットの次世代形態とも言われ、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)などの技術を活用して、没入感のある体験をもたらします。
日本のテレビ業界は、視聴者の嗜好の多様化とデジタル化の進展に伴い、メタバース空間への積極的な参入が見られます。
伝統的な放送メディアとしての限界を超え、新たな収益源や視聴者との接点を開拓するため、メタバースを用いた番組やイベントの開催が進んでいます。
また、メタバースの利用はデータ分析を通じて視聴者の嗜好を詳細に把握し、よりパーソナライズされたコンテンツ提供へと繋がる可能性を秘めています。
そのため、今後のテレビ業界において、メタバースは注目の技術といえるでしょう。
|テレビ業界が抱えている課題4つ
「テレビの時代はもう終わり」
こんな声も最近では多く聞くようになりました。
昭和の時代では、日本国民全員が家に帰って家族でテレビを見ながら食卓を囲む、というような光景は当たり前の日常でした。
しかし、令和の現在において、このような光景はもはやノスタルジーすら覚える光景といえるかもしれません。
ではなぜ、日本人のテレビに対する考え方はここまで変わってしまったのでしょうか。
ここでは、日本のテレビ業界が抱えている問題について、4つ詳しく見ていきましょう。
①コンテンツの多様化による視聴者離れ
日本のテレビ業界が直面している一つ目の問題は「コンテンツの多様化による視聴者離れ」です。
かつては家庭の娯楽の中心であったテレビですが、今では動画配信サービス、ソーシャルメディア、ゲーム、ウェブコンテンツなど、多種多様なエンターテインメントが手軽に利用できるようになりました。
これらのプラットフォームは個々人の趣味や興味に合わせたコンテンツを提供し、視聴者に無限に近い選択肢を与えています。
このような環境下で、特定の時間に特定のチャンネルを視聴するという従来のテレビの視聴スタイルが薄れ、視聴者は自分の好きな時間に好きなコンテンツを選んで視聴するという新しいスタイルへと移行しつつあるのです。
特に若年層では、この傾向が強く、彼らの多くはテレビよりもインターネットを通じたコンテンツ消費を選ぶことが増えています。
視聴者が分散する中で、テレビ局はその魅力を保ち続けるためには、コンテンツの質の向上、視聴者との新たな接点の創出、そしてデジタル化への適応が求められているのです。
②収益モデルの変化に対応できていない
テレビ業界が抱えるもう一つの問題は「収益モデルの変化に対応できていない」という点です。
従来、日本のテレビ局は主に広告収入に依存していましたが、視聴者のインターネットへの移行に伴い、広告市場もデジタル化しています。
その結果、広告主はテレビCMよりもウェブ広告やインフルエンサーを使ったマーケティングに予算を割り振る傾向にあり、テレビ業界の収益は減少しています。
野村総研が2022年12月に提出したレポートによると、テレビ業界は今後5年間で約3000億円の減収が見込まれるとのことです。
さらに、サブスクリプションモデルやトランザクションベースの収益モデルが成功している一方で、多くのテレビ局はこれらの新しい収益源を取り入れることに遅れをとっています。
例えば、NetflixやAmazon Prime Videoなどのオンデマンド配信サービスは、月額固定料金で多様なコンテンツを提供しており、視聴者からの支持を集めています。
これに対してテレビ局は、放送コンテンツに新たな価値を付加し、それに見合った収益を上げる方法を模索している状況です。
③業界全体に根付く「ハラスメント」問題
次に、テレビ業界が直面している問題の一つに「業界全体に根付く『ハラスメント』問題」があります。
テレビ業界は長時間労働が常態化し、上下関係が厳格な職場文化がいまだに根強いことが指摘されており、ハラスメントが発生しやすいとされています。
また、ジャニーズ事務所の性加害問題で明るみに出ましたが、タレントやスタッフへの過度な要求や不当な扱いも少なくありません。
これらの問題は業界のイメージを損ねるだけでなく、優秀な人材の流出をもたらす原因となっています。
特に若い世代の労働者は、ワークライフバランスや職場の人権状況を重視する傾向にあり、ハラスメント問題は人材獲得と保持において重要な障壁となっているのです。
④表現への規制が厳しくなりコンテンツが平準化している
最後に取り上げる問題は、「表現への規制が厳しくなりコンテンツが平準化している」という点です。
具体的な規制としては、性的表現や暴力表現、政治的な偏見を避けるためのガイドラインが厳しくなっています。
たとえば、放送倫理・番組向上機構(BPO)のような第三者機関が設けた基準に基づき、放送される番組の内容がチェックされています。
さらに、スポンサーからの圧力や視聴者からのクレームへの対応として、放送局自身が過度に慎重になる傾向が高いようです。
これにより、クリエイティブな試みや斬新なアイデアが封じられ、似たり寄ったりのコンテンツが増加しているという批判が後をたちません。
結果として、テレビコンテンツの魅力が低下し、さらなる視聴者離れを招いているという悪循環が生じているのです。
|テレビ業界がメタバースを活用するメリット3つ
上記のように、日本のテレビ業界はさまざまな問題を抱えていますが、解決に向けて何も取り組んでいないわけではありません。
特に最近では、メタバースに関する取り組みも顕著になってきました。
なぜ、テレビ業界はメタバースに注目しているのでしょうか。
ここでは、テレビ業界がメタバースを活用するメリットについて、詳しく説明します。
①新たな収益モデルを確立できる
メタバースの登場は、日本のテレビ業界にとって新しい収益の機会を意味しています。
従来の広告モデルや視聴率に依存する収益構造から一歩踏み出し、メタバース内での新しいビジネスモデルを探求することが可能です。
例えば、バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)を活用したイベントやコンサート、番組のキャラクターグッズの販売など、様々な方法で直接収益を生み出せます。
加えて、デジタルアセットの販売やブロックチェーン技術を利用したNFT(非代替性トークン)市場への参入も、新しい収益源として期待されています。
これらのテクノロジーを活用することで、番組独自のバーチャル商品を創出し、ファンとの新しい結びつきを商業的価値に変換することができるのです。
このように、メタバース内での経済活動は、現実世界とは異なる価値交換の形を可能にし、テレビ業界にとって新たなマーケットプレイスを開くことに繋がります。
②参加型コンテンツによる新しい体験を提供できる
メタバースがテレビ業界にもたらす二つ目のメリットは、「参加型コンテンツによる新しい体験を提供できる」という点です。
メタバース内では視聴者が受動的ではなく能動的なアクションが可能なため、アバターを通じて番組やイベントに直接参加し、没入感のある体験を楽しむことができます。
例えば、バーチャルリアリティ技術を用いて、視聴者がバラエティ番組やクイズショーに仮想的に参加することなどが考えられるでしょう。
また、ドラマやアニメの世界を再現したメタバース空間で視聴者が探索を楽しんだり、番組に関連したゲームやクエストに挑戦したりすることも期待できます。
このような参加型コンテンツは、視聴者にとって新たな魅力となり、テレビ番組とのより強い結びつきを生み出す可能性を秘めています。
③データを分析して新しい視聴者の獲得に繋げられる
メタバースを活用することで得られる三つ目のメリットは、「データを分析して新しい視聴者の獲得に繋げられる」という点です。
メタバース内の活動はデジタル上で行われるため、視聴者の行動や嗜好に関する豊富なデータを収集することが可能です。
これにより、テレビ局は視聴者がどのようなコンテンツに興味を持ち、どのように反応するかを詳細に分析できるようになります。
具体的には、視聴者の滞在時間、好みのコンテンツの種類、参加型イベントでの行動パターンなど、様々な指標を追跡可能です。
これらのデータは、よりパーソナライズされた視聴体験を提供するための貴重な洞察となり、放送内容や広告の最適化に活用することができます。
また、データ分析を通じて新たな視聴者層の特徴を把握し、ターゲットに合わせたコンテンツを開発することで、未だテレビ番組に接触していない潜在的な視聴者を引き込むことも可能です。
このような戦略は、特に若年層やテレビ離れが進む層へのアプローチに効果的であり、メタバースを通じてテレビ局が新しい視聴者を獲得し、市場を拡大していく鍵となるでしょう。
|民放4社とNHKのメタバース活用事例
では、日本のテレビ業界の代表ともいえる民放4社(フジテレビ、テレビ朝日、TBS、日本テレビ)とNHKは、メタバースをどのように活用しているのでしょうか。
各社ともに傾向が違うので、以下にその詳細についてご紹介します。
①人気番組「逃走中」を業界初のNFTゲーム化|フジテレビ
フジテレビは、国民的ゲームバラエティ番組「逃走中」をメタバース上でNFTゲーム化することを発表し、この業界初の試みが大きな話題を呼んでいます。
「逃走中 – Run for money -」は2004年から放送され、街中やテーマパークで行われる大規模な鬼ごっこが特徴の番組で、日本国内外で高い人気を誇る人気番組です。
プロジェクトを手掛けるのは、Web3型メタバース「XANA(ザナ)」を開発する「NOBORDER.z FZE」。
XANAは世界的に注目されており、日本のプロジェクトとしては史上最大規模のNFTセールを記録するなど、その動向が注視されています。
同社は、「ULTRAMAN」や「鉄腕アトム」など、日本が誇る世界的IPを活用したNFTゲーム化にも成功しており、その実績は「逃走中」のゲーム化においても大いに期待されるところです。
2023年内のローンチを目指し、番組との連動や最先端のテクノロジーを用いた革新的な企画を行う予定で、これがテレビ業界における新たな視聴者体験の創出と、視聴者との新しい形の結びつきを生み出すことに寄与することは間違いありません。
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②Clusterを採用した「メタバース六本木」|テレビ朝日
テレビ朝日は、メタバースを活用した最先端の取り組みとして「メタバース六本木」を展開しています。
これはClusterという専用アプリを用いて、誰でも簡単にアクセスできるメタバース空間です。
「メタバース六本木」では、番組と連動したイベントやアトラクションが多数開催され、特に注目を集めるのは、ドラマ「六本木クラス」とのスペシャルコラボレーションです。
このコラボレーションでは、ドラマのキャストからの限定スペシャルメッセージ動画を視聴するために、ユーザーがアバターとなって巨大なクライミングウォールを登るという、新鮮な体験が可能になっています。
さらに、バーチャルジェットコースターや「バーチャルドミノ・ピザショップ」のような新感覚のデリバリー体験、人気ユニット「学芸大青春」がバーチャル店員として登場するなど、メタバースならではの体験が盛りだくさんです。
加えて、「まんが未知カフェ」では、漫画談義を楽しめる空間や、漫画家による描き下ろしイラストの展示など、漫画ファンにとって夢のような環境が用意されています。
テレビ朝日による「メタバース六本木」の開発は、メディアとデジタル技術の融合を促進し、新しい視聴者エンゲージメントを創出するテレビ業界の革新的な動きの一例と言えるでしょう。
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③e-sports向けコンテンツに注力|TBS
TBSテレビは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として、esportsをターゲットにしたメタバースコンテンツの開発に乗り出しています。
この動きは、コンテンツのデジタル化を推進する「EDGE」戦略の一環として位置づけられており、メタバース領域でのビジネス拡大を目指すTBSテレビの意欲的な一歩といえるでしょう。
これは、メタバース向けコンテンツ企画・開発を手がける「オッドナンバー社」との合意により、プロジェクトが進むこととなりました。
TBSテレビは既存のコンテンツ価値を最大限に活かすと同時に、オッドナンバー社のメタバースに関する専門知識とTBSテレビの豊富なコンテンツ企画力を組み合わせることで、e-sportsという急成長している分野でのコンテンツ拡張を見据えています。
具体的なコンテンツの内容は現在も開発中で、詳細は後日発表される予定ですが、この動きはテレビ業界におけるメタバース活用の可能性を広げ、視聴者にとって新しい視聴体験の場を提供することが期待されます。
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④XR向けコンテンツ支援サービス「日テレXR」|日本テレビ
日本テレビは、視聴者体験の向上のため、「日テレXR」という名のサービスを開始しました。
同サービスは、XR(拡張現実・仮想現実・複合現実)コンテンツの企画から制作、開発支援までをワンストップで提供するもので、2022年4月からサービスを開始しています。
「日テレXR」は、B2BおよびB2Cの双方のニーズに応じて、日テレグループが誇る放送品質の高い企画演出とコンテンツ制作によって支援を行います。
たとえば、スマートフォンを用いたARプロモーションから、ヘッドマウントディスプレイを使用したメタバース向けのコンテンツ制作などが代表例です。
また、「XRオリジナルプロダクト」サービスでは、ARアプリや体験型のAR撮影ブースなど、日テレ独自のプロダクトも提供しています。
これにより、企業がXRを用いた企画を立てたいが進め方がわからないという問題を解決する手助けをすることができるのです。
日本テレビはこの取り組みを通じて、コンテンツホルダーや外部のXR開発会社と連携し、将来的には「視聴」から「体験」へとコンテンツの形態がシフトすることを狙っています。
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⑤メタバースを活用したサービス「NHK VR/AR」「Virtual NHK」|NHK
NHKのメタバース関連事業は、主に「NHK VR/AR」と「Virtual NHK」の2つのプラットフォームで展開されています。
「NHK VR/AR」とは、VRコンテンツを提供するポータルサイトで、2017年の設立以来、ニュースや番組をただ「見る・聞く」だけでなく、「体感」することへシフトさせるのが狙いの一つです。
同サイトでは、ユーザーはPCやスマートフォンを通じて360°動画を視聴でき、例えばAPEC会議や長崎ランタンフェスティバルのようなイベントを、その場にいるかのように体験できます。
一方で「Virtual NHK」は、バーチャル空間上で番組やイベントを制作するためのプラットフォームです。
2020年から運用を開始し、出演者はCGで制作されたバーチャル空間にアバターとして参加します。
番組の撮影は、ゲームパッドを使ってバーチャル空間内を操作するカメラマンによって行われるという、ゲームのような撮影手法を取り入れています。
これらの取り組みにより、NHKは視聴者に新しい形の視聴体験を提供し、放送コンテンツの未来の形を模索しています。
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|「テレビ業界はオワコン」は本当なのか?
テレビ業界がオワコン(終わったコンテンツ)との声もある中で、現実はそのような単純な結論に至らない複雑な状況です。
たしかに、デジタルメディアの台頭と若年層のテレビ離れはテレビ業界に変革を迫っていますが、終焉を意味するものではありません。
まず、超高齢化社会の進展に伴い、高齢者層を中心に安定したテレビ需要が見込まれています。
インターネットやスマートフォンの普及が進む一方で、テレビは今なお多くの高齢者にとって重要な情報源や娯楽の手段として機能しています。
加えて、放送免許という独占的なアドバンテージを持つテレビ局は、他のメディアにはない固有の強みを持っています。
市場の乱立する動画配信サービスとは異なり、テレビ業界は独自のコンテンツと独占的な配信チャネルを保有しており、これが安定した収益源となり得ます。
さらに、映像コンテンツ自体の需要は増加傾向にあり、番組制作だけでなく、ネットフリックスやYouTube、さらにはスマートフォンで流れる広告など、様々なプラットフォームでの映像制作の需要が存在しています。
テレビ業界はこれらの需要を捉え、テレビ以外の媒体を通じてコンテンツを提供することも可能です。
テレビ業界は将来性に対する心配がないわけではありませんが、動画サイトやサブスクリプションサービスなど新たな配信手段を取り入れることで、変化する視聴者のニーズに適応し、新たな視聴者を獲得する機会を持っています。
高齢化社会の進展とともに、テレビは一定の需要を保ち続けるでしょう。
|まとめ:テレビ業界が時代の転換期を乗り越えるにはメタバースが鍵に
本記事では、メタバースを取り入れることでテレビ業界が直面する視聴者離れや収益モデルの変化、内部の課題にどのように対応し、それをチャンスに変えていくかを掘り下げました。
テレビ業界は決してオワコンではなく、進行中の超高齢化社会や放送免許という独占的強み、そして映像コンテンツの需要増大という側面から、その将来性を再評価すべきかもしれません。
メタバースという新たなデジタルトレンドを取り入れることで、業界は視聴者との関係を再定義し、新たなエンターテインメントの時代へと進化することが期待されます。
この記事の情報が、メタバースの理解を深め、それをビジネスやマーケティング戦略に役立てば幸いです。
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