スポーツの審判は、公平で正確なジャッジを下すことが求められます。

しかし、人間の判断にはどうしても主観が入り込むため、誤審も少なくありません。

そこで、近年注目を集めているのがAIの審判への活用です。

このアイデアは、技術の進歩に伴って現実味を帯びつつありますが、多くのメリットが考えられる一方、デメリットも存在しています。

本記事では、AIが審判として使用される実際の事例を紹介しつつ、注意するべき点にも言及しています。

スポーツに興味のある方は、ぜひご一読くださいね。

|AIとは

AI(人工知能)は、コンピューターが学習し、知的なタスクを遂行する技術を指します。

定義は一般的に「知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」とされていますが、研究者によって異なることもあります。

これは、人間の知性そのものがまだ完全に理解されていないためです。

この技術の進化には、人間の脳神経回路を模倣する「ディープラーニング」と呼ばれる手法を中心に展開しており、これによって精度が飛躍的に向上しました。

言語翻訳、自動運転、医療画像診断、囲碁など、人間の知的活動に革命的な影響を与えており、私たちの生活や産業に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。

詳しくは下記の記事も参照してくださいね。

AI(人工知能)とは?いまさら聞けない意味や仕組みをわかりやすく解説!
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|AIがスポーツの審判を務めるメリット

まずは、この最新テクノロジーがスポーツの審判を務める利点について、以下で考察しています。

誤審が防げる

近年、ボクシングや野球などでの審判による疑義のある判定がクローズアップされ、スポーツ界を揺るがす事態が続いています。

特に、テレビカメラの性能向上により、誤審が容易に明るみに出るようになりました。

AIを用いた採点システムの開発や導入は、客観的で一貫性のある判定を可能にし、選手やファンに対する公平性を向上させます。

特にボクシングや他の主観的な判定が多い競技では、AIが高度な分析を通じて客観的な評価を行うことで、誤審のリスクを大幅に低減できるでしょう。

AIは感情や疲労を知らず、高速で正確な判断が可能です。

これにより、瞬時に発生するプレーに対しても客観的かつ公正な評価を提供し、審判の主観的な要素を排除します。

スポーツマンシップを守れる

例えば、サッカーなどで見られる「シミュレーション」行為や不正な振る舞いは、従来の審判が判別しにくい問題でした。

そこで登場したHawk-Eye Innovations社の開発した360度ビデオシステムは、数十台のカメラを配置し、スタジアム全体を死角なく監視します。

このシステムにより、サッカーのシミュレーション行為や他のスポーツにおける不正な行為が360度どの角度からも見破られるようになりました。

選手同士の接触やボールの動き、プレーの瞬間を容易に把握でき、公平でスポーツマンシップに基づいた試合を確保できるのです。

これにより、不正行為が減少し、観客や選手は公正な判定に安心できるようになりました。

|AIがスポーツの審判を務めるデメリット

最新テクノロジーを活用する時は、必ずと言っていい程メリットがある反面、デメリットにも十分留意する必要があります。

以下で、スポーツ審判におけるAI活用に関して気を付けなければならない点について説明しています。

審判のレベルの低下

スポーツ審判のAI化が進むと、審判の判断力が制約され、予測可能な範囲内でのみ機能する可能性が懸念されます。

これは、プログラムに基づいて事前に学習したパターンに基づいて判断を下すため、ルールに明確に規定されていない予期せぬ事象に対処するのは難しい側面があることを指します。

審判は予測できない瞬間や複雑なプレーにおいて、ルールに縛られない独自の洞察力や臨機応変なジャッジが求められます。

しかし、AIはあくまでプログラムされた情報に基づいて行動するため、新たな状況への適応性や柔軟性が限定される可能性が高まるのです。

このような制約が進行すれば、審判員が直面する複雑な局面に対処する力が衰え、結果として適切な判断が難しくなるでしょう。

ゲームが中断され、選手のリズムが崩れる

従来の審判が即座に判断を下すのに対し、AIは膨大なデータを分析するために時間がかかり、その過程でゲームが中断される可能性が生じます。

たとえば、サッカーのオフサイド判定の場合、AIはボールの位置や選手の位置、ボールの軌道などを瞬時に計算して、オフサイドかどうかを判断します。

しかし、この計算に時間がかかると、ゲームの流れが中断され、選手のリズムが崩れる可能性があります。

また、AIの判断プロセスがブラックボックス化してしまうため、選手や観客から不信感を抱かれる可能性もあります。

これにより、選手たちのプレーの流れや熱気が途切れ、試合の魅力や興奮が減少する可能性があります。

ゲームの面白味がなくなる

スポーツは選手の情熱や、審判の臨機応変なジャッジが競技の面白さを生み出します。

時折、誤審や選手たちの駆け引きが試合に緊張感やドラマを与え、観客を引き込む要因となっています。

しかし、AIが主導的な役割を果たすことで、人間のジャッジの柔軟性が減少し、競技の予測可能性が高まる可能性があります。

これにより、試合の興奮や意外性が損なわれ、スポーツの魅力が低下する恐れがあります。

また、感情や人間的な洞察を欠き、審判と選手との間で起きる独特のドラマや騙し合いが減少することで、観客が感じる臨場感や興奮が減退する可能性も考えられます。

ゲームにおけるドラマ的な要素が失われることで、結果的に競技の魅力が減衰する懸念が生じます。

|各スポーツの活用事例

以上のようなメリットやデメリットも踏まえつつ、実際のスポーツで行われているAI活用事例をご紹介します。

サッカー

ワールドカップ・カタール大会では、AI審判技術「セミ・オートメーテッド・オフサイド・テクノロジー(SAOT)」が採用され、日本代表のスペイン戦でのゴールライン判定が話題となりました。

この技術では、競技場に設置された12台の専用カメラとボールに埋め込まれたセンサーが協力し、選手の動きを追尾しボール位置を正確に感知。

そのデータが映像担当の審判に送られ、選手がオフサイド位置でボールを受けた場合はAI技術により主審に通知されます。

これにより、オフサイド判定の瞬時の正確性が向上し、試合の公正性が高まりました。

過去のW杯での誤審問題を踏まえ、テクノロジーの進化が試合の透明性を保ち、審判の意志決定をサポートしている事例です。

野球

日本ではNPBが2019年に「AI審判」の検討委員会を設置し、技術的な課題や運用方法について検討しています。

一部の大学野球や社会人野球のチームではAI審判を試用したり、自主開発したりしている動きもあり、将来的に日本でも導入される可能性があります。

アメリカの野球リーグでのAI審判は、主にストライクゾーンの判定に焦点を当てており、センサーやカメラを活用して詳細な判定が行われています。

これにより、特に微妙なストライクゾーンの判定において、精度向上が期待されています。

しかし、人間の感覚や微妙な判断に欠ける一面も指摘され、審判員とのバランスが今後の導入において重要とされています。

テニス・バレー

2021年の全豪オープンテニスでは、線審を廃し、テクノロジーを用いた自動判定システムが導入されました。

このシステムは「ホークアイ」と呼ばれ、ボールのアウト、イン、サービス時のフットフォールなどを判定します。

カメラがボールの軌道や着地点を解析し、自動的に判定を行えるのです。

この変更には、密になるリスクを避けるための対策としての側面もあります。

バレーボールにおいても、この技術が審判業務に導入されています。

ボールがインまたはアウトであるか、ネットタッチがあるかなど、瞬時の判定が求められる要素において高い精度を発揮しています。

これにより、プレーの継続性が向上し、公平な試合運営が期待されています。

体操

富士通が開発した体操の採点支援AIは、選手の動きをレーザーセンサーやビデオカメラで細かく捉え、3D画像に変換するものです。

この技術では、1300を超える技の動きを学び、補助的に採点を支援しています。

よって、審判が難しい技において公平で精緻な採点を可能にし、公正性向上に寄与しています。

このシステムは2016年に開発が始まり、2019年の世界選手権で初採用されました。

技術の進化により、ビデオカメラによる採点も可能になり、将来的には全ての種目での導入が見込まれています。

最新テクノロジーを活用した審判技術は、東京五輪で採用され、2024年のパリ五輪では全種目での導入が期待されています。

|まとめ

今回の記事では、AIがスポーツ審判に参入することは、大きな利点がある反面、デメリットもあることが浮き彫りになりました。

しかし、この最新技術はまだ導入初期段階であり、課題も多く残されてはいるものの、新たな価値を生み出す可能性は非常に大きいと言えるでしょう。

今後もさらに進歩し、課題が解決されれば、AIによるスポーツ審判がスポーツの公平性と競技性を極める唯一無二の審判ツールになるかもしれません。

未来のスポーツのカタチがどのように進化していくのか、期待していきましょう!