本記事は、アパレルブランドのメタバースへどのように取り組んでいるのか知りたい、メタバースによってアパレル業界がどのように変化していくのか気になっている、という方に向けたものです。
この記事をお読みになれば、なぜアパレル業界とメタバースの親和性が高いのか、今後メタバース上でのアパレル業界がどのように変化していくのかがイメージできるようになりますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
|メタバースとは?
メタバース(metaverse)とは「超越(meta)」と「宇宙(universe)」を合わせた造語です。
基本的にはインターネット上の仮想空間のことを指しますが、仮想空間を利用したサービスを意味する場合もあります。
この仮想空間では、ユーザーがパソコンやスマートフォン、VRゴーグルなどのデバイスを通じて、自分の体の代わりにアバターを操作することで様々な活動をします。
具体的にどのような活動ができるかは、それぞれのサービスによって異なりますが、多くの場合、ユーザー同士の遠隔でのコミュニケーション、ゲームやイベントなどが行われます。
|近年のアパレル業界の動き
アパレル業界のメタバースへの参入事例として、近年、仮想空間でファッションショーなどのイベントが多く開催されています。
まず初めに、そうしたイベントをご紹介していきたいと思います。
メタバースファッションウィーク
出典:https://events.decentraland.org/event/?id=2ca78571-191c-4f16-bc12-87e7ffd0d2b6
2022年3月、史上初、仮想空間を会場とするファッションウィーク(メタバースファッションウィーク)が開催されました。
このイベントはVRプラットフォームのディセントラランドで開催され、エトロ(ETRO)、トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)、ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE & GABANNA)、エリー サーブ(ELIE SAAB)、ボス(BOSS)など、計50のブランドが参加しました。
バーチャルランウェイでのファッションショーや、商品の展示・販売に加え、ライブパフォーマンスやユーザー同士が交流できるパーティーなど、メタバースの特性を生かした様々なイベントが行われました。
東京ガールズコレクション
出典:https://virtualtgc.girlswalker.com/
日本最大級のファッションフェスタ「東京ガールズコレクション」が「バーチャルTGC」としてメタバースで開催されました。
既存のVRプラットフォームを利用するのではなく、東京ガールズコレクションのリアル会場を再現した独自のバーチャル空間を備えたアプリを製作して、様々なコンテンツを配信しています。
リアル開催されている東京ガールズコレクションのパブリックビューイングに加え、バーチャル空間ならではのアトラクションやトークイベントが開催されました。
トレンドファッションアイテムを着用できるオリジナルアバターを配信するなど、ファッションに関心の高いユーザーに向けた工夫もこらされています。
|なぜアパレル業界がこれほどメタバースに注目しているのか
まず世界全体として、ブロックチェーン技術を基盤とした「Web3.0」時代へ移行しつつあるため、様々な業界でメタバースへの注目度が上がっています。
アパレル業界もこの流れに乗っているという側面は確かにありますが、そんな中でもアパレルは特にメタバースに注力するメリットが大きい業界です。
ここからは、そうしたメリットをご紹介していきます。
顧客のエンゲージメントを高めることができる
メタバース空間上で買い物ができるアパレルショップが現れ始めています。単にECサイトを利用するインターネットショッピングと比べて、リアル店舗に近い感覚で商品を見て回ったり、試着したり出来るので、ユーザーのエンゲージメントが高いと言われています。
また、オンラインショッピングでありながら、アバター同士で複数人でのコミュニケーションを楽しむことが出来るのも特徴です。
例えば、店舗スタッフがバーチャル空間上でリアルタイムで接客することが可能になります。
コストを抑えることができる
共通のゲームを遊ぶユーザー同士で形成されたコミュニティ内で、NFTとしてアパレル製品が取引される事例が増えています。
そうしたゲームでは、もともとアバターのファッションアイテムが購入でき、着せ替えを楽しむ機能が存在しています。
商品の生産、取引、流通などが全てメタバース上で完結できるため、原材料コストや、商品を世界各地に配送するためのコストなども不要のため、コスト削減が期待できます。
新たな顧客の獲得
次世代の顧客はデジタルネイティブであり、ネット上で長い時間を過ごすことに慣れているユーザーです。
そうしたユーザーは、インターネットショッピングやゲーム上のアイテムの取引等も日常的に行っています。
そうしたZ世代の消費者をひきつける方法として、メタバース上で、ゲーム内で使用できるバーチャルなアパレル製品を現実の商品よりも安い値段で売ることが有効だと考えられています。
|メタバースに参入するアパレルブランド
ここからは、実際にメタバースに参入しているアパレルブランドと、その具体的な事業内容をご紹介します。
一口にメタバースといってもサービスごとに出来ることは違いますので、そうした特徴に合わせた多様な取り組みがなされています。
ジバンシイ
出典:https://www.givenchy.com/jp/ja/homepage
任天堂のゲーム『あつまれ どうぶつの森』内で、キャラクターが着用できる「マイデザイン」にアイテムを提供しています。
『あつまれ どうぶつの森』は、複数のユーザー同士でのアイテムのやり取りやコミュニケーションが可能で、メタバースの要素を備えている典型的なゲームだと言われていますが、これはそうした特徴を活用した事例だと言えます。
加えて、メタバース「ロブロックス(Roblox)」にて、「ジバンシイ ビューティ ハウス(Givenchy Beauty House)」という自社ブランドをイメージしたエリアを製作しました。
このエリアでは、プレイヤーはダンスフロアで踊りを楽しんだり、アバターを着せ替えて写真を撮影したり、探索をしたり出来ます。
そのほか、2021年にはNFTアートを初めて制作するなど、革新的な技術に挑戦しています。
メゾン マルジェラ
出典:https://www.maisonmargiela.com/ja-jp/
メゾンマルジェラの親会社OTBグループは、新規部門ブレイブ・バーチャル・エクスペリエンスを設立しました。
これは、メタバース向けの製品の製作や、メタバース上での体験のデザインなどを行うものです。
AMBUSH
出典:https://www.ambushdesign.com/ja-jp
AMBUSHは、2022年3月に”AMBUSH® SILVER FCTRY” と名付けられたメタバース空間を公開しました。
既存のVRプラットフォームではなく、ブランドをイメージしたプラットフォームを独自開発しています。
ユーザーは仮想空間内で、ショップでのアイテムの購入や巨大スクリーンでの動画視聴などを行うことができます。
また、ゲームに参加することでNFTの購入ができるようになり、今年2月に発売されたブランド初となるNFTアイテム「POW!® “Reboot”」は、2分で完売したとのことです。
ラルフローレン
出典:https://www.ralphlauren.co.jp/
ファッションブランドのラルフローレンは、2020年夏に、写真を共有するSNSであるスナップチャット内のアバター機能「Bitmoji」に使用できるバーチャルなファッションアイテムを発売しました。
また21年夏には、バーチャル空間内でアバターを用いて他ユーザーと交流ができるアプリである「ZEPETO」内で、バーチャルウエアを発売しました。
NIKE
出典:https://www.nike.com/jp/
NIKEは、2021年11月に「Roblox」内で「NIKELAND」を開設しました。
Roboloxは、数千万種類の様々なゲームが遊べるプラットフォームで、企業が自社ブランドをイメージしたゲーム空間を設置している事例が多くあります。
「NIKELAND」もそうした空間の一つで、鬼ごっこやドッジボールといったゲームを楽しめます。
また、ユーザーは実在するナイキブランドのウェアやシューズを再現したアイテムをゲーム内で購入し、アバターを着せ替えることができます。
adidas
出典:https://adidas-group.jp/company/
有名スポーツブランド「adidas(アディダス)」のアパレルラインであるadidas Originalsは2021年12月、NFTコレクションとなる「Into The Metaverse」をリリースしました。
このNFTの所有者となったユーザーは、ブロックチェーンゲームであるThe sandboxなどのメタバースプラットフォームで使用できる、バーチャルなファッションアイテムを入手することができます。
また、同様のデザインである実物の製品を入手することもできます。
そのほか、The sandbox上に仮想の土地を入手し、そのエリアで限定コンテンツを配信する計画を進めています。
|今後のメタバース内でのファッションの可能性
ご覧いただいたように、ファッションは他業界と比べてもメタバースと親和性が高いことがお分かりいただけたかと思います。
もともと、プレイアブルキャラクターの着せ替えを楽しむことはゲームプレイヤーにとって当然のことでした。
そして、メタバースで長い時間を過ごすユーザーにとって、アバターが着用するファッションアイテムを購入することはそれほど不自然なことではありません。
そうしたユーザーに向けてメタバース上で自社製品をアピールすることで、より効果的に、低コストでブランドイメージや知名度の向上をはかることができます。
これは、単にメタバース上でのファッションアイテムをアパレル会社が販売するようになる、というだけにとどまりません。
実際に、バーチャルなアイテムと、それと同様のデザインの実物のアイテムを組み合わせて販売している事例も既に現れています。
メタバース上でのファッションアイテムを購入することがさらに一般的になれば、アパレルブランド各社は今後、商品をまずデジタルの世界で試験的に発売し、流通させ、ユーザーからのフィードバックを反映させた形で、現実世界の商品として販売することができるようになるでしょう。
加えて、CGなどでアイテムをデザインするだけで、実際にユーザーに使用してもらえるようなサービスやプラットフォームも存在します。
そのため、今まで主流だったアパレルデザイナーとしてのキャリアを積んでいないような、より幅広いバックグラウンドを持つデザイナーたちが活躍できるようになるとも考えられます。
|まとめ
ここまでご覧いただきありがとうございました。
本記事では、アパレル業界がなぜメタバースに参入しているのかといったことや、実際に各アパレルブランドがメタバース分野でどのような取り組みをしているのかをご紹介しました。
この記事をお読みになった皆様が、今後のアパレル業界のメタバース上での動きを考える一助になりましたら幸いです。