2023年1月、ChatGPTの登場によって日本中の注目がAI技術に集まりました。
まるで人間が書いたかのような自然な文章を瞬時に生成する能力は文字通り人間離れしており、多くの人がその技術に驚いたでしょう。
中には「AI技術の台頭によって仕事が奪われてしまう」や「暴走することで危険があるのでは」といった、AI技術が生み出す危険を懸念する声も目立ちました。
既にAIは我々の日常生活に溶け込んでおり、知らず知らずのうちにその技術の恩恵を受けています。
そういった状況を踏まえると、すでにAI技術をゼロにした社会に戻ることは不可能だといえるでしょう。
しかし、実際にAIが仕事を奪い、経済的なダメージを与えるかもと不安になる人も少なくありません。
各民間企業が独自の見解を表明する中、日本政府としてはどういった見解を示しているのかご存知でしょうか。
本記事では、国の行政機関の1つである経済産業省(通称:経産省)がAIに対してどういった見解を持っているのか、これまでの動向や発表内容を踏まえて解説します。
一読いただければ、日本政府が考えるAIへの姿勢が理解できるはず。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
|経産省がAIに関するガバナンスを取りまとめる
経産省は日本の行政機関の1つであり、主に産業の発展からエネルギー資源の供給に関する分野を所管しています。
昨今存在感を増していくAI技術に対して、経産省はAIに対するガバナンス(組織行動を制御するための仕組み)を2022年に取りまとめました。
その中では、AIが社会に有効活用されるために必要な原則の実践支援、さらにはAI事業者が実施するべき行動目標が提示されています。
それぞれの実践例なども示されており、本格的なAI時代の到来に対して備えていることがうかがえるでしょう。
本ガイドラインには数多くの有識者が関わっており、各大学教授やデジタル分野において台頭する企業代表、技術者、弁護士などが協力しています。
文中にはAI技術による人材不足解消、生産向上といったプラスの効果があげられる一方、安全性の問題や公平性を損なう可能性など多方面での理解が必要と述べられています。
AIに関わる企業は「自分ごと」としてAI技術に関わる必要性が指摘されており、モデル全体を理解することが重要とされているのです。
AIガバナンス・ガイドラインの狙い
AIガバナンスガイドラインは2019年3月、OECD(経済協力開発機構)のAI勧告案策定に貢献した、統合イノベーション戦略会議による「人間中心のAI社会原則」に基づいています。
このAI社会原則は以下の7つから構成されています。
- 人間中心の原則
- 教育・リテラシーの原則
- プライバシー確保の原則
- セキュリティ確保の原則
- 公正競争確保の原則
- 公平性、説明責任及び透明性の原則
- イノベーションの原則
これらの原則を実現させるためのガイドラインとして、こちらのAIガバナンスが制定されたのです。
しかし、このガイドライン自体に法的拘束力はなく、基本的には各企業、個人が実施するべき行動目標といった内容に留められています。
そのため、ガイドラインに応じて体制を整備した場合においても、関連する法令を遵守するとは限らないため注意が必要とされているのです。
この点はAIという発展途上の分野、日々進化を続ける技術に対する法律整備の難しさを物語っているといえるかもしれません。
生成AI基盤モデルの開発に係る事前調査を開始
経産省では、2023年9月に「生成AI基盤モデルの開発に係る事前調査」を開始しました。
2022年末より注目を集めたChatGPTといった生成AIの存在は、現在急速に進歩を続けており今後もその存在を増していくことが想定されます。
経産省も生成AIに対して「革新的な技術」と評価しており、今後の労働力不足から生産性向上に繋がると述べています。
世界各国で生成AIの開発が進められる状況において、国内における開発能力の向上、確保が重要であると指摘。
そうした状況を背景に、国内の生成AI開発を加速することを目的とした支援スキームを検討するための議論をこれまで重ねてきました。
そして、支援スキームの大枠が完成したことから、基盤モデル開発に係る支援企業を2023年10月末より募集し始めたのです。
経産省は生成AIを「ポスト5G通信」としても位置づけており、様々な創造的作業を人間に代わって行える可能性があると述べています。
今後もより積極的な支援が進められることも考えられるため、経産省を含めた政府の発言には注目すべきでしょう。
|中小企業のAI活用も促進する
AI技術の活用は大手企業だけではなく、慢性的な人手不足に悩む中小企業にも大きな効果を発揮します。
そのため、経産省は「中小企業のAI活用促進」という内容においてパンフレットを作成しており、導入までの道筋をサポートしています。
AI導入4つのメリット
経産省が作成した「AI導入ガイドブック」には、AIを導入することによる4つのメリットが記載されています。
- 利益増加
- 従業員の離職防止
- 技術継承の促進・若手の育成
- 人材の採用・ひきつけ
それぞれAI技術の恩恵として重要な部分であり、AIに関する知識が乏しい事業者であっても、よく理解できる内容になっているといえるでしょう。
利益増加については、中小企業へのAI導入における経済効果は2025年までに11兆円を見込んでおり、その影響力の大きさがうかがえます。
また、単純作業をAIに任せることで、創意工夫が求められる業務に従業員を配置転換できます。
結果として離職防止、育成、そして魅力的な職場構築による求人にまで繋がるとしているのです。
AI導入成功のポイント
本ガイドブックにはAI導入を成功に導くためのポイントも記されています。
まず、AI導入の心構えとして、「小さく・素早く始め」、「継続的・段階的に育てていく」心構えが重要とされています。
そして、社内への浸透のために経営陣から「変革の必要性」を伝え、社内全体に広げることが大切になるのです。
経営者、従業員それぞれの立場における理解度、そして推進体制の構築を詳細に記載しており、このポイントはスムーズなAI導入を成功させる道標となるでしょう。
|生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方について
「AI技術が世間に浸透すると、自分のスキルが必要なくなるのでは」
「これまで培ってきた技術が無駄になるのではないか」
「AIによって働き口がなくなるのではないか」
AIの台頭によって、上記のような悩みを抱える人は少なくありません。
経産省もこういった課題に対して議論を重ねており、AIが中心となりつつある時代における人材、スキルの考え方を表明しています。
当然ですが、AI技術は現在も発展途上の分野であり、常に目まぐるしく変わり続けています。
そのため、今後も議論を重ねながら情報をアップデートする姿勢をみせています。
生成AIが社会に及ぼす影響への認識
まず、経産省は生成AIが社会に与える衝撃について、以下のようにコメントしています。
「ホワイトカラーの業務を中心に、生産性や付加価値の向上等に寄与し、大きなビジネス機会を引き出す可能性」
そして、生成AIの利用によるDX推進を期待すると同時に、経営陣のコミットメント、社内体制の整備といったデザインスキルが必要と指摘しています。
また、人材育成とAI技術の進歩スピードの乖離に注意しつつ、主体的な学びが必要であると認識しているのです。
生成AIを利用するスキルの向上はもちろん、人間しかできない創造的作業についても引き続き重要になります。
つまり、今後は「単純作業」が大幅に減少し、クリエイティブなスキルが重要になると考えられているのです。
生成AIによって業務を通じた経験が失われるリスクも考慮しながら、人間しかできない技術、知識の向上に務める必要があるでしょう。
|内閣府によるムーンショット目標も進む
日本国内における行政権の主体である内閣府は、「ムーンショット目標」と呼ばれる計画を推進しています。
2020年1月に策定された計画の1つであり、名称の由来は人類が月面着陸したような、社会全体に影響力を及ぼす壮大な計画であることを意味しています。
複数の項目からなりたつ本目標ですが、主に以下の内容があげられます。
- 2030年までに、一定のルール化で行動しても違和感を持たないAIロボットを開発
- 2030年までに、科学的原理を特定の問題に対して自動的にできるAIロボットを開発
- 2030年までに、人間の監督下で自律的に動作するAIロボットを開発
- 2050年までに、人と成長し、人と同等以上の身体能力を持つAIロボットを開発
- 2050年までに、自然科学領域において、自発的な発見を目指すAIロボットシステムを開発
- 2050年までに、人が活動できない環境で自律的に判断できるAIロボットを開発
このように、段階的にAI技術の開発を進め、まるで人間のようなロボットを生み出すことを目標にしているのです。
この目標が策定された背景には、少子高齢化や持続可能な社会の実現など、現在抱える様々な社会課題が存在します。
最終的にはアバターを通じ、全ての人が社会活動に参画できる社会を目指しています。
人の能力を拡張し、年齢を問わない活躍ができる社会実現のために、今後も本格的な研究が重ねられていくでしょう。
|まとめ
2023年10月時点において、経産省がAIに対して公表している見解を解説しました。
AI技術は今後も加速していくことが想定され、社会構造全体を一変させる可能性を秘めています。
そのため、各企業はAI技術を想定した運営が求められるといえるでしょう。
そのためにも経産省をはじめとした各行政は導入のサポート、ガイドラインの制定などに奔走しています。
今後、本格的に法整備など進んでいくことが考えられるため、常に最新の情報を注視し、AIに対する知識をアップデートしていきましょう。