私達が日常生活を送る上で欠かせないツールとして、「地図」があげられます。

知らない場所へ車を運転して向かえることも、知らない駅で降りても目的地へとたどり着けることも、全て地図があるからです。

現在はスマホ1台あれば世界中の地図が確認でき、平面図形だけではなく現地の詳細な写真を元に状況を確認できます。

現在はコンピューター技術の発達によって、ピンポイントで正確な位置関係を把握し、目的地への到着時刻もほとんど誤差なく割り出すことも可能。

このように、現代社会を過ごす上で地図の存在は切っても切り離せないものといえるでしょう。

数十年前までの地図は紙ベースでしたが、ここまで利便性の高いものになっている要因の1つにAI技術の存在があげられます。

本記事では、身近な存在である地図に対するAI技術の活用について解説します。

また、地図とAIが連携することによる可能性、今後の展望についても紹介します。

ぜひ最後までご覧いただき、地図とAIの関係性への理解を深めてください。

|現在の地図には「GIS」が活用されている

わたしたちは初めて降りた駅でも、スマホ1台あれば目的地に迷うこと無くたどり着けます。

その理由はスマホに搭載されている地図アプリのおかげ。

家を出る前から、「駅から目的地までは歩いて何分かかる」といった情報はもちろん、「どういったパターンのルートが有る」や、「一番近いルート」を割り出すことも簡単です。

さらに、道中に存在するあらゆる店舗の口コミからメニューといった情報までも、瞬時に手に入れられます。

紙の地図が基本だった時代を考えれば、まるで魔法のような技術が手のひらに収まっているといえるでしょう。

また、頻繁に使う地図としてはスマホアプリだけではなく、車に搭載されている「カーナビ」も忘れてはいけません。

車に乗った瞬間から目的地までの到着予測時間を割り出し、場合によってはルート上の混雑情報を教えてくれます。

さらに、事故多発地点のアナウンスなど、あらゆる角度から搭乗者の安全を確保してくれるようサポートしてくれます。

このように、現在の地図は単なる道案内だけにとどまらず、日常に必要不可欠な情報源としても活躍しています。

こういった地図に存在する情報を関連付け、ユーザーに伝える仕組みを「GIS(Geographic Information Systems)」と呼びます。

日本語では「地理情報システム」と訳される技術から、個別の情報を重ね合わせた複合的な情報源へと変換することが可能になったのです。

AIが膨大なデータを自動解析

「GIS」を活用することによって、前述したような道案内から地図上に表示されたあらゆる情報の取得といった利便性の高いサービスが実現しています。

当然ですが、このようなサービスを運用するためにはあらゆる情報を正確に整理し、分析する能力が必要になります。

現在、Google Earthに利用されている地球観測衛星が撮影した画像は、誰でもインターネットを通じて取得できます。

しかし、その撮影データは1日数テラバイトという膨大な容量になりますので、的確な情報を瞬時に取得するには人間の手では不可能といえます。

このような大量のデータを分析し、傾向とパターンを掴むためにAIが活躍しているのです。

現在では地上の画像を元に、「ソーラー発電に最も適した土地はどこか」や「各国の都市の発展特徴」といった情報も地図情報だけで把握できるようになってきました。

加えて、地上のデータを同時に照らし合わせることで、より詳しいデータを導くことも可能です。

現在、物流業界は「GIS」とAI技術を掛け合わせた新しいサービスを取り入れています。

このように、膨大な地図情報を処理するために、AI技術は欠かせない存在になっているのです。

ルート解析もAIが実施する

現在では活躍する機会が減ってきた紙の地図。

もし、隣町のAスーパーまで到達するためにかかる時間、ルートを紙の地図から割り出せと言われた場合、途方に暮れてしまう人は少なくないでしょう。

しかし、スマホやカーナビの地図を利用すれば、それらの作業を瞬時にAIが処理してくれます。

現在、わたしたちの生活を支えている物流業界には、日々「〇〇日までにこの商品を届けて欲しい」といった依頼が山のように届けられます。

そういった注文は季節や時間によって異なり、届ける順番はその時々によって常に変化します。

さらに、道路状況も平日や週末といったタイミングで異なり、いつも想定通りの時間で進められるとは限りません。

これまではベテランドライバーの経験に頼るしか無かったルート選びですが、AIが処理することにより大幅な配送時間の短縮が実現しているのです。

地図とAIの活用は物流業界だけではなく、建築現場にも応用されつつあります。

例えば、「ショベルカーが処理した土砂を自動運搬する」といった作業も、現場の設計図を元にセンサー計測によって可能になっているのです。

|地図とAIが連携することの可能性

現代社会ではすでに地図とAIが高いレベルで連携しています。

その可能性はまだまだ広がっており、各分野においてその活用法が期待されているのです。

こちらでは一例として、以下の項目に沿ってAIと地図が連携することによる可能性を紹介していきます。

  • マーケティング分野
  • 農業
  • 考古学

マーケティング分野

AIが得意とする、膨大な情報処理はマーケティング分野においても日々活用されています。

中でも「GIS」のように地理データと様々な情報を結びつけ、人間の手では気が付かない傾向を導き出すことはAIの最も得意とする分野。

こちらでは、店舗情報をベースにしたクーポンを例に確認してみましょう。

通常、各店舗は近隣の顧客に対してクーポンが付いたチラシをポスティングしたり、アプリを通じてセールをアナウンスしたりします。

そうして集客した顧客が訪れることで収益に繋がるのですが、店舗側としては「複数の広告の中で、最も効果が高い広告は何だったのか」という点が不透明になってしまいがちです。

顧客側としても、どの広告を見て来店したかを明確に覚えていることは少なく、広告の費用対効果がはっきりと算出できない状況が生まれるのです。

しかし、「GIS」とAIを組み合わせたマーケティングを実施すれば、「広告効果」だけではなく、「顧客の居住地」といった細かい属性も明らかにできます。

そうした情報を元に広告を打つことで、見込み客に対し的確な訴求が実現するのです。

すでに地図情報を基にした広告は多数打ち出されており、エリアマーケティングにおいて高い効果を発揮しています。

農業にも活用される

「GIS」はAIとの組み合わせによって、観測気球からの撮影データだけではなく、人工衛星、スマホGPS、Wi-Fi通信、さらにはドローンからの情報までありとあらゆるデータを瞬時に収集しています。

そうした豊富なデータを分析することで、農業分野に対しても「GIS」とAIが活用され始めているのです。

これまで、地図情報に対して手作業で農作業の進捗管理を行っていましたが、必要な情報を「GIS」へ加えることで、それぞれの畑の状況が一目瞭然となります。

農作物は日当たりや土壌の状況によって、畑それぞれで作物の育成具合が変化します。

しかし、「GIS」を活用した地図によって、一つひとつの畑に対して適切な手入れを行う「精密農業」が実現しているのです。

また、農作物の収穫タイミングは「手でちぎった時の感覚」などで判断することが一般的です。

こうしたアナログ的な手段に対しても、人工衛星からの情報を元にすることで、それぞれの畑情報を明確に管理することが可能となっているのです。

考古学分野でも活躍

考古学とは、地中に眠る遺物から歴史を考察する学問です。

そのため、地図から分析できる情報には限界があり、実際の現場に足を運んだ作業が必須だと考えてしまうかもしれません。

しかし、2023年10月兵庫県にて、古墳の形状を学習させたAIを活用し、地形データを元に解析したところ、新たな古墳の候補地をAIは1,342箇所も算出。

この情報を元に現地調査を実施したところ、実際の古墳と考えられる遺構が新たに34ヶ所も発見されたのです。

AIと地形情報を組み合わせたこの手法を、奈良文化財研究所は「デジタル探査」と命名しており、既に研究成果の報告書を公開しています。

今後はこのデジタル探査によって、効率的な遺構発見が期待されているため、AIによる歴史的発見が起きる可能性も十分に考えられます。

AIという最新技術が地図と掛け合わさることで、歴史的発見に繋がるという非常に興味深い事例といえるでしょう。

|AIが地図作りに及ぼす影響について

地図は本来、人間が現地に赴き測量を重ねながら作成していくものでした。

現在は衛星写真など、上空からの情報を元に正確な地図がいつでも手に入りますが、本来は大変な重労働だったのです。

現在、地形図や写真、標高から災害情報といった様々な地図情報を提供する国土地理院では、イノベーション的な取り組みとして深層学習を利用した地物分類を開発しています。

この手法では、学習データの多い道路や建築物、水域といった分野においては良好な結果が得られますが、2019年時点では雪で覆われた地域など学習データの少ない箇所の認識は難しい状況となっていました。

国土地理院は現在に至るまでAIを導入した地図作成を進めており、「AIを活用した地物自動抽出に関する研究」などを実施。

2023年現在は「地図作成のための機械学習用データセット」も作成されており、高いレベルでの地物を認識するレベルに達しています。

素早く地図情報の変化を検出し、情報を更新するためにはAI技術が欠かせません。

AIによってこれまで以上にないスピードで、正確な地図が手に入る時代に我々は生きているのです。

|まとめ

AIと地図の関係性について「地理情報システム」と呼ばれる、「GIS(Geographic Information Systems)」を中心に解説してきました。

地図上に表示される膨大な情報を処理するためにAIは活用されており、すでに我々の生活に欠かせない存在となっているのです。

地図は単なる情報確認といった手段だけではなく、人流を基にしたマーケティングから農産物の育成管理、さらには考古学的発見といった様々な分野に活用されています。

AIの発達によってより一層地図の正確性、活用方法が広がっていくことが考えられます。

今後も生活を豊かにしてくれるAIと地図との関係に期待しましょう。