VRやARグラスの映像をよりリアルに、より快適にするために注目されている「網膜投影」技術をご存知ですか?

『もっと仮想空間に浸りたい』

『よりリアルな拡張現実を楽しみたい』

というユーザーに是非とも試していただきたい技術であり、昨今の最新テクノロジー界で驚くべき進化を遂げています。

この記事では、網膜投影の仕組み、導入事例、およびそのメリットについて詳しく解説します。

未来のデジタル体験が、どのように私たちの日常生活や産業にもたらされるのか、興味のある方はぜひご一読くださいね。

|網膜投影とは

映像体験を実現するためには、様々な種類の視覚ディスプレイが存在します。

プロジェクションマッピングは物体に映像を投影し、スマートフォンは手で持つポータブルなデバイス、VRヘッドセットは没入型のディスプレイとして広く知られています。

しかし、ARグラスなどの日常的な利用を実現するには、小型化と広視野角化が課題でした。

ここで注目されるのが、網膜ディスプレイです。

この方式は、映像を直接ユーザーの網膜に投影するため、消費電力が少なく、常にピントが合った映像を提供でき、小型化が可能です。

網膜投影技術は、視覚ディスプレイの未来を切り拓く重要な技術として着実に進化を遂げています。

|網膜投影の仕組み

まず、この最新技術がどのようにして成り立っているのかを理解しておきましょう。

以下で、その仕組みについて説明していきます。

マクスウェル光学式

この方式は、簡単に言えば映像を網膜にプロジェクターのように投影する仕組みを指します。

ピンホールカメラの原理に似ており、光を瞳孔の中心に導き、それが網膜上で結像することで映像を実現します。

利点としては、瞳孔中心を通る光がレンズ(水晶体)の屈折性に影響されないため、ピント調節機能が劣化した個体(近視や遠視、老視の方々)でも鮮明な映像を楽しむことができる点です。

弱点としては、映像のクオリティがプロジェクターの解像度に依存することが挙げられます。

レーザー走査光学式

これは、テレビと同じ原理を応用し、赤・緑・青のレーザー光を使って映像を網膜に投影する仕組みです。

まず3つの色のレーザー光源をパワーを調整して一本のレーザー光にまとめます。

その一本のレーザー光を高速で水平走査させ、網膜上に映像を書き込むのが特徴です。

マクスウェル光学式同様、光を瞳孔の中心に通すため、水晶体のピント調節機能が劣化している人でも鮮明な映像を視覚できます。

「プロジェクターの映像を投影」するのではなく、直接「レーザー光を使って網膜に書き込む」ため、解像度の制約が少なく、限りなく高品質な映像を提供できます。

マクスウェル光学式が解像度に依存するのに対し、この方式は「無限K」といえる高解像度を実現する可能性があります。

|網膜投影のメリット

この技術を採用するうえで得られるメリットは、主に2つあります。

  • 視力に左右されずに楽しめる
  • 消費電力が少なく、将来小型化できる可能性がある

以下で、詳しく解説していきます。

視力に左右されずに楽しめる

網膜投影の大きなメリットの一つは、視力に左右されずに高品質な映像を楽しむことができる点です。

通常、眼の水晶体の状態によって、近視や遠視、老視などの視力調整が必要ですが、網膜投影ではこの必要がありません。

この技術では、映像を直接網膜に投影するため、水晶体のピント調整機能を必要とせず、視力に関係なく鮮明でクリアな画像を提供します。

この特性は、視力が劣化している人々にとって特に革命的であり、眼鏡やコンタクトレンズの依存を軽減し、快適な視覚体験を実現します。

眼鏡やコンタクトレンズを外すことなく、高品質の映像を楽しめることは、日常生活やエンターテイメントなどさまざまな分野で画期的な変化をもたらすでしょう。

消費電力が少なく、将来小型化できる可能性がある

従来のレンズによる投影方式と異なり、網膜に映像を直接投影するため、光源や光学機器の使用が効率的です。

この結果、消費電力が著しく低く抑えられ、バッテリー駆動のデバイスにおいて長時間の利用が可能となります。

さらに、デバイス全体をコンパクトにすることで、装着感を向上させ、日常生活に無理なく統合できる可能性もあります。

眼鏡型やゴーグル型の装置に依存しないため、ユーザーにとって使い勝手のよい技術と言えるでしょう。

|網膜投影の安全性は?

この技術は長期にわたり広く利用されていないことから、眼球に対する健康被害は未知数です。

しかし、安全性に関する国際規格と厳格な規制が存在しています。

具体的には、国際規格IEC60825-1により安全性が担保され、これは外部試験機関によって確認されています。

さらに、米国FDA(食品医薬品局)の厳格な規制にも合致し、危険性が認められていないことが確認されています。

また、実験によって、日常の室内照明よりもはるかに低い光の強度で動作することが確認されています。

よって、安全性確保の見通しと、適切なガイドライン規制が設けられていることから、ユーザーの健康へのリスクは最小限に抑えられると言えるでしょう。

|網膜投影方式を導入した事例

網膜投影が適切な規制のもとで、安全性に留意している技術だということがお分かりいただけたでしょうか。

では、実際にこの方式を導入している例を具体的にご紹介しましょう。

ヘッドマウントディスプレイ『RETISSA Display Ⅱ』

「RETISSA Display Ⅱ」は、日本の技術ベンチャー企業であるQDレーザによって開発され、視覚障害を持つ人々の生活品質を向上させるために生まれました。

臨床試験を経て、2018年に一般消費者向けの第一号製品として市場に投入され、2019年には「RETISSA Display Ⅱ」が登場し、小型化、軽量化、解像度の向上を実現しました。

フォーカスフリーであり、視力やピント位置に依存せず、常にクリアな映像を提供します。

また、PC、タブレット、スマートフォンなどのデジタル機器と組み合わせられる他、国際規格IEC60825-1に適合したクラス1の安全なレーザーを使用しているため、眼に害を及ぼす心配がないという特徴があります。

カメラキット『DSC-HX99 RNV kit』

このキットは、デジタルスチルカメラ「Cyber-shot DSC-HX99」と「RETISSA NEOVIEWER」を組み合わせています。

DSC-HX99はコンパクトでありながら高性能なカメラで、高倍率ズームレンズを備えており、RETISSA NEOVIEWERはカメラが捉える画像を直接網膜に投影するデバイスで、視力に依存しない独自の見え方を提供します。

撮影した画像や動画はUSBケーブルを使用してデータを取り出し、共有することが可能です。

本製品はソニーとの協力により開発、2023年2月に発売され、多くの注目を集めました。

体験や購入はソニーストアで行うことができ、レンタルサービスも提供されています。

TDK・QDレーザ:AR/VRグラスを共同開発

TDKとQDレーザ社によって共同開発されたAR/VRグラスは、微弱なレーザー光を直接網膜に投影し、ピントの合ったフォーカスフリーの視覚体験を提供します。

映像のぼやけを回避し、多くの人が裸眼でコンテンツを楽しむことができたり、小型化されたレーザーモジュールを組み込むことで、製品のコンパクトさを実現しました。

このAR/VRグラスは、2025年までに製品化を目指して改良が進行中で、720p(HD)の解像度と60Hzのリフレッシュレートを備えています。

その他、発熱の問題にも取り組んでおり、安全で快適な使用を実現しようとしています。

本製品は、CEATEC 2023で一般の人々にデモンストレーションを提供し、新しい視覚体験を紹介しました。

|まとめ

今回の記事では、「網膜投影」という新たな視覚技術が、VRやARグラスの分野に革命をもたらしていることについてまとめました。

この技術は、VRやARグラスの映像をよりリアルで没入感のあるものにするために、大きな可能性を秘めています。

しかし、現時点では、技術的な課題も残されています。

例えば、投影する映像のサイズや解像度、視野角がまだ十分ではなかったり、網膜への影響や安全性についても、さらなる研究が必要です。

今後のテクノロジーの進化に注目し、VR/ARの新たな標準装備として普及していくことに期待しましょう。