今、国内の多くの鉄道会社が次々とメタバースに参入し、その動きが注目されています。
なぜ今、鉄道業界はメタバースに目を向けているのでしょうか?
この記事では、そういった疑問に答えるため、具体的な鉄道会社のメタバース活用事例とともに、その背景を解説していこうと思います。
・鉄道会社がメタバースを活用する背景を知りたい人
・鉄道会社のメタバース事例を知りたい人
はぜひ最後までお読みください!
目次
|メタバースとは
メタバースは、インターネット上に構築された仮想世界のことを指します。
この世界では、ユーザーはアバターを通じて活動し、他の人と交流したり、様々な活動を楽しんだりすることができます。
具体的には、ゲーム、ショッピング、イベント参加、教育といった幅広い体験が可能です。
メタバースは、「メタ(超越)」と「ユニバース(宇宙)」の合成語です。
この言葉は、1992年に発表されたニール・スティーブンソンのSF小説『スノウ・クラッシュ』で登場しました。
メタバースの市場規模は、総務省の「情報通信白書令和4年版」によると、2021年の4兆円から2030年には80兆円になることが予想されています。
メタバースについて詳しく知りたいかたはこちらの記事もあわせてお読みください。
|鉄道会社がメタバースに参入する理由
新型コロナウイルスの流行により、人々の移動が減少し、多くの鉄道会社の収入が大きく落ち込みました。
このような状況の中で、鉄道会社は移動に依存しない新しいビジネスモデルを構築しようとしています。
その答えの一つがメタバースです。
鉄道会社は単に鉄道をメタバース空間に再現するだけでなく、これまでの駅周辺の街づくりの経験を活かして、新たなエコシステムの構築を進めています。
例えば、メタバース空間内で商業施設やイベントスペースを開設し、ユーザーが集う場所を提供することが挙げられます。
これにより、リアルな移動が少なくても、メタバース空間内での交流や消費活動が期待されます。
このように、鉄道会社はポストコロナの時代に向けて、メタバースを活用した新しいビジネスモデルの構築を図っているのです。
|国内の鉄道会社の事例
ここからは、日本国内の鉄道会社がメタバースでどのようなことに取り組んでいるのか、具体的な事例を通じて見ていきたいと思います。
それぞれの取り組みが、どのように顧客体験やビジネスモデルに革新をもたらしているのかをご紹介します。
JR東日本|Virtual AKIBA World
JR東日本は、2022年3月に「Virtual AKIBA World」(VAW)を開設しました。
これは、秋葉原駅周辺をデジタル上で再現した世界初の「メタバース・ステーション」です。
VAWは、スマートフォンを通じて簡単にアクセスすることが可能で、ユーザーは実際の駅のように改札を通過する、電車に乗る、秋葉原の街を散策するなどをバーチャル空間で体験することが可能です。
また、「オフ会ルーム」などのコミュニケーションスペースを設けることで、ユーザー同士の交流も促進しています。
JR東日本はこのプラットフォームを利用して、リアルとバーチャルの融合を図り、新しい顧客体験を生み出そうとしています。
JR西日本|バーチャル大阪駅
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000796.000095753.html
JR西日本グループは、初のメタバース施策として2022年にリアルの大阪駅をメタバース空間上に再現した「バーチャル大阪駅」を開設しました。
この取り組みは、リアルな駅の機能性と「人々が集まる場所」としての社会性をバーチャル空間で再現し、新たなビジネスとコミュニケーションの場を創出することを目指しています。
ユーザーは記念撮影や配信活動を通した自由な表現を楽しむことができ、イベント開催や情報発信の場としても活用されています。
スマートフォン向けメタバース「REALITY」をインストールして「ワールド」タブに表示されている「バーチャル大阪駅 3.0」を選択すると参加することができます。
阪急電鉄(阪急阪神HD)|JM梅田
出典:https://www.atpress.ne.jp/news/315469
阪急阪神ホールディングスが展開するメタバースプロジェクト「JM(Japan Multiverse)梅田」は、大阪・梅田駅周辺をメタバース空間に再現するという取り組みです。
ユーザーは、バーチャルで再現された「阪急梅田本店」やその周辺を自由に散策したり、ミュージックフェスなどのイベントに参加したりすることが可能です。
また、ボイスチャットやメッセージ機能で周囲の人と楽しくコミュニケーションができたり、アバターの服装を自分好みにカスタマイズすることもできます。
この空間はmonoAI technology株式会社が開発・運営する、10万人同時参加が可能なメタバース・プラットフォーム「XR CLOUD」を用いて構築されています。
名古屋鉄道|バーチャル名鉄名古屋ステーション
出典:https://www.meitetsu.co.jp/moilab/vmns/
名古屋鉄道株式会社は、2023年8月25日から9月3日まで、メタバース空間上に名鉄名古屋駅を高精細に再現した「バーチャル名鉄名古屋ステーション」をオープンしました。
ユーザーはアバターの姿になってホームに降り立ち、電車がホームに入ってくるのを目の前で見たり、複雑な列車案内に挑戦できる「DJブース」や秘蔵写真や資料を展示する「名鉄ライブラリ」などの様々なコンテンツを体験することができます。
高度な測量技術を駆使して、ホームや設置物などの寸法を正確に測ることで、まさに実物そっくりの高精細なバーチャル空間となっています。
2024年には既に公開終了しているため、ご興味がある方は以下の動画をご覧ください。
南海電鉄|eスポーツキャンプ
出典:https://www.nankai.co.jp/news/230802.html
現存する日本最古の私鉄として知られる南海電気鉄道株式会社は、2022年8月22〜25日、高校生が参加するeスポーツ合宿「eスポーツキャンプ」を開催しました。
南海電鉄は、人口減少や高齢化による鉄道事業の先細りを背景に、2022年から新たな事業としてeスポーツに注力を始めました。このeスポーツキャンプはその一環です。
eスポーツという新たな文化の発信拠点として、若者が集まる難波を選び、地域の歴史と若者文化を活かした場所づくりを目指しています。
また、eスポーツ体験型ショールーム「eスポーツなんば」を解説し、地域の学生や親子連れにも受け入れられる公園のような空間も提供しています。
西日本鉄道にしてつバース
西日本鉄道株式会社は、メタバース上に鉄道とバスのミュージアムを再現した「にしてつバース」を2023年2月から運営しています。
鉄道とバスのミュージアムをメタバース上に再現するのは日本初の試みです。
ユーザーはミュージアムを回遊しながら、3Dモデルの車両や各種展示を鑑賞できるほか、運転席でのスイッチ操作を体験することができます。
また、西鉄車両の写真がデザインされた同社オリジナルカードをLINE NFT上で購入できる「にしてつNFTギャラリー」もあわせて利用できます。
にしてつバースは日々進化しており、今後はアバター同士の交流や、西鉄のさまざまな事業と連携したイベントなどが実施される予定です。
にしてつバースを体験したい方はこちらから
https://nishitetsu-museum.com/
近畿日本鉄道|バーチャル近鉄電車
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000245.000017626.html
近畿日本鉄道は2024年3月から、同社の宇治山田駅や名阪特急「ひのとり」をメタバース上に再現しています。
宇治山田駅は国の有形文化財に指定されており、それを再現した「バーチャル宇治山田」では、名阪特急「ひのとり」や10000系「初代ビスタカー」を鑑賞することができます。
また、ひのとりの車内を再現したワールド「バーチャルひのとり」では、ひのとりのプレミアム座席のパーツを組み立てて遊ぶことができます。
そのほか、グループ会社の近鉄不動産がオープンしている「バーチャルあべのハルカス」とも空間がつながっているため、両空間を行き来して互いのコンテンツを楽しむことができます。
|海外の鉄道会社の事例
ここまでは国内の鉄道会社の事例を紹介しましたが、世界各国の鉄道会社もメタバースを導入しています。
ここでは、海外の鉄道会社のメタバース導入事例を紹介し、海外ではどのようにメタバースを活用しているのかを見ていきたいと思います。
MTR(香港)|MTR Metaverse
出典:https://web3.mtr.com.hk/en/mtr-metaverse-on-the-sandbox/
香港の鉄道会社MTRは、2022年4月にThe Sandboxと提携し、メタバースに進出することを発表しました。
The Sandboxは、ユーザーが自由にクリエイティブな活動を行えるメタバースプラットフォームです。
The Sandbox上に構築されたバーチャルな駅で、ユーザーは列車を運転したり駅を管理したりするユニークな体験ができるようになるかもしれません。
また、STEM教育の推進や、香港の文化を紹介する鉄道博物館の設置も検討されています。
MTRのこの取り組みは、メタバース活用による新たな顧客体験を生み出し、地元コミュニティや文化振興に貢献することが期待されます。
|まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、鉄道会社がメタバースに参入する理由と、国内外の具体的な取り組みを紹介しました。
各社はリアルな鉄道サービスの延長として、バーチャル空間での新しい街づくりやコミュニティ形成に力を入れています。
鉄道会社×メタバースの可能性はまだ未知数です。
今後も複数の業界を巻き込みながらメタバースならではの顧客体験を目指していくことが予想されます。