皆さんは経済産業省が、メタバースの現状と今後の可能性に関して詳細な調査を実施したことはご存じでしょうか。
経済産業省は「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業」という研究調査を実施し、調査分析を担当したKPWGコンサルティングとともに、7月にその報告書を公開しました。
本記事では、この報告書を参考にして、メタバースの現状と今後の活用で想定される法的な課題などについて解説していきます。
目次
|そもそもメタバースとはなにか
メタバースは、要するに「仮想世界」です。
これは、インターネット上に存在する3D空間で、私たちは自身のデジタルアバターを通じてその中に入り込みます。
メタバースの魅力の一つは、現実世界とほぼ同じように行動できることです。
私たちはアバターを操作してゲームを楽しんだり、仮想ミーティングで集まったりすることができます。
実質的に、我々はウェブ上で社会的な生活を営むことができるのです。
この言葉「メタバース」は、「Meta(超越)」と「Universe(世界)」の造語で、1992年にニール・スティーブンソンのSF小説「スノウ・クラッシュ」の中から名前が取られました。
メタバースは新しい概念のように思われることがありますが、その前提となる3D仮想空間「Second Life」は実は2003年に登場し、日本でも2006年ごろに一世を風靡しました。
仮想空間内でのユーザー同士の交流やデジタルアイテムの取引は、実は2000年代にも既に存在していたのです。
詳しくは下記記事をご覧ください。
|経済産業省の資料に記述されているメタバースの今後の可能性
経済産業省の資料に記述されている仮想空間の今後の可能性として、「仮想空間のビジネス」の発展が示されています。
では経済産業省のレポートに示される今後の仮想空間のビジネスはどのような形で展開されていくのでしょうか。
ここからはメタバースでのビジネスを「仮想空間でのコンテンツ提供」「プラットフォーマーとして仮想空間を提供する」「メタバース」の3つの形式にわけて詳細にご紹介いたします。
仮想空間でのコンテンツ提供
まず一つ目の仮想空間でのビジネスは「仮想空間でのコンテンツ供与」です。
この形式は仮想空間を開発/運営する企業が、自社サービスやコンテンツを消費者へ提供するという形式です。
身近に用いられている例として、「あつ森」こと「集まれどうぶつの森」のようなゲームが挙げられます。
仮想空間(ゲーム)を提供するプラットフォーマーが仮想空間内で自社サービスやコンテンツ(あつ森の場合、アイテム収集や他住民との交流)を行うといったような形のビジネスモデルが仮想空間内でのコンテンツ提供です。
プラットフォーマーとして仮想空間を提供する
二つ目の仮想空間でのビジネスは「プラットフォーマーとして仮想空間を提供する」です。
プラットフォーマーが開発/運営する仮想空間内において、サービス提供者がサービスやコンテンツを消費者へ提供するという形式で、主な例としては、オンライン旅行、バーチャルイベントなどが挙げられます。
いずれにしても既存としてあるプラットフォーム上でイベントや旅行といったコンテンツを顧客や参加者に提供し、ビジネス化するというもので、現在多くのバーチャル空間を提供している企業はこの形式をとっています。
メタバース
最後の仮想空間でのビジネスは「メタバース」です。
メタバースは、上記の活用例をさらに発展させたもので、今後の仮想空間ビジネスの主軸になりうると注目を集めています。
一つの仮想空間の中で、多様なコンテンツが提供され、人々はバーチャルでショッピングやゲームを楽しむことも、教育や医療を受けることもできるもう一つの世界といえるでしょう。
そのためメタバース上でのビジネスの広がりは現実世界と同じように無限大に広がっていると言えそうです。
仮想空間の12の問題
NO・ | 問題類型 | 事業者の直面しうる法的リスク |
1 | 仮想オブジェクトに対する権利の保護 | ✓ 現行法では想定されていない権利に関する訴訟が発生し得る |
2 | 仮想空間内における権利の侵害 | ✓ 不正競争防止法違反の可能性がある ✓ 不法行為責任に基づく損害賠償請求の可能性がある |
3 | 違法情報・有害情報の流通 | ✓ 不法行為責任に基づく損害賠償請求の可能性がある ✓ プロバイダ責任制限法に基づき事業者が免責されないケースがある |
4 | チート行為 | ✓ 適切な利用規約が締結されていない場合、チートに対応できない恐れがある |
5 | リアルマネートレード(RMT) | ✓ 適切な利用規約が締結されていない場合、RMTに対応できない恐れがある |
6 | 青少年の利用トラブル | ✓ 出会い系サイト規制法に抵触する可能性がある |
7 | ARゲーム利用による交通事故やトラブル | ✓ 現行法上対応できないトラブルに対する訴訟が発生する可能性がある |
8 | マネーロンダリングや詐欺 | ✓ 犯罪収益移転防止法の強化への対応が求められる ✓ プラットフォーマーの善管注意義務が発生する場合がある |
9 | 情報セキュリティ問題 | ✓ 個人情報保護法に抵触する恐れがある ✓ 不法行為責任に基づく損害賠償請求の可能性がある |
10 | 個人間取引プラットフォームにおけるトラブル | ✓ プラットフォーマーの債務が拡大する可能性がある |
11 | 越境ビジネスにおける法の適用に関わる問題 | ✓ 紛争解決時に適用される法律等へ影響がある |
12 | 独占禁止法に関わる問題 | ✓ 独占禁止法に抵触する恐れがある |
|問題に対するアプローチ
上記は仮想空間でビジネスをするにあたって発生しうる12の問題を一覧にしたものです。
この12の問題に対して、米国法学者のlawrence lessing氏が提示する「アーキテクチャー」「市場」「規範」「法」の4つの観点で整理しながらアプローチすべきだと結論付けました。
ではここからはこの4つの観点からのアプローチについて具体的にご説明いたします。
アーキテクチャー
まずご説明するのが「アーキテクチャー」」からの観点のアプローチです。
「アーキテクチャー」を日本語に直すと「構造」になることからわかるようにシステムそのものの物理的な環境、あるいは技術に制約を加えて規制する方法です。
例としてブロックチェーン技術を活用した仮想空間コンテンツの保護、デジタル資産の不正防止などのシステムが挙げられます。
強制力があり、直接的な規制が行える点と、イノベーションの促進が期待できる強みがありますが、開発に対するコストや、現状の技術で実現が難しいものは対応できないという難点もあります。
市場
次にご説明するのが「市場」の観点からのアプローチです。
一例として挙げられるのは市場原理を活用した規制方法があります。
実際にあった例として動画プラットフォームでの著作権利用料のマネタイズモデルの構築をしたケースがありました。
これは著作権違反が認められたコンテンツに対する対応方法として海外のあるプラットフォームでは著作者に対して「当該コンテンツから広告収入を獲得」や「動画の削除」などの選択肢を与えました。
結果としてインセンティブなどの金銭的なメリットが生まれ、市場原理が働きスムーズな規制が働いたというケースも実際にありました。
規範
次にご説明するのが、「規範」の観点からのアプローチです。自主的なガイドライン、ルールの策定により規制を行う方法です。
仮想空間上のコミュニティにおける誹謗中傷や差別的発言の禁止、不適切行為の禁止などを明文化し、ユーザーはこれらを遵守して利用することで様々な規制に対応する方法です。
事業者側の負担が多いのは長所ですが、ユーザーにゆだねる部分も多いので浸透するまでに非常に長い時間がかかる恐れがあります。
法
次にご説明するのが「法」の観点からのアプローチです。
法律や条例なを適用し、規制する方法です。最大のメリットは法的な強制力を持つ、強い規制であるという点です。
ほかの規制と違い絶対的な力を持ちますが、問題が提起されてから法律の制定までには長い時間がかかってしまう問題点や過剰な規制はイノベーションを阻害することに繋がりかねないという問題点があります。
そのため「法」の観点からのアプローチには適切なレベルでの規制が求められます。
|メタバースビジネス拡大に向けた課題
ここまでは仮想空間そのものが持つ問題を述べてきました。
仮想空間がただ持つ仮想空間をビジネス化した際にもいくつかの問題点があります。
この問題点は大きく分けて4つあり、「政治的要因」「経済的要因」「社会的要因」「技術的要因」の4つに分けられます。
ここからは以上の4点の課題に分類し、お伝えします。
政治的要因
まず第一に挙げられる問題として「政治的要因」があります。
仮想空間ビジネスに関する法整備についての問題で、仮想空間ビジネスに関する法整備は現行の法律では想定されておらず、様々な問題が発生しうる可能性があります。
特に仮想資産保護の観点で法解釈及び法律の制定等の法律整備が必要な点があります。
また現状の問題として仮想空間ビジネスを検討実施する際のガイドラインが整備されていない点が問題点として挙げられます。
特に現実のものをバーチャル上に移行する際の権利井関係におけるガイドラインがあると有益と言えます。
経済的要因
次にあげられる問題点として「経済的要因」があります。
仮想空間ビジネス拡大のためにはVRヘッドマウントディスプレイの低価格化が重要です。
近年VRヘッドマウントディスプレイ(VRHMD)の価格は低下してきているものの未だ一般消費者が購入する価格帯には至っていないのが現状です。
また仮想空間ビジネスのネックとしてビジネスそのものの「マネタイズ」も大きな問題点です。
仮想空間内のコンテンツ制作費用が大きく、ユーザー獲得のため無償でサービス提供している業者も多いためマネタイズをどう成立させるかが今後の仮想空間ビジネス成立のカギを握るといえるでしょう。
社会的要因
次にあげられる問題点として「社会的要因」があります。
社会的要因として最大のものがXR領域においての人材確保の問題点です。XR業界に必須の3Dモデリングや、インタラクション設計等の技術者が不足しており、技術者だけでなく業界知見を持ちビジネス企画をできる上流の人材も不足している点は仮想空間をビジネス化していく途上において最大の問題といえるでしょう。
またXR領域におけるコンテンツの普及も仮想空間ビジネスの障壁の社会的要因の一つです。仮想空間内で提供されるコンテンツが従来からの表現にとどまり、VRHMDをわざわざ購入するほどの大きなコンテンツが登場していない。
また、最も普及しているVRHMD専用のアプリストアの審査基準が厳格であり、一般公開されているコンテンツ量が制限されていることも要因の一つです。
技術的要因
最後にあげられる要因として「技術的要因」があります。
VR・仮想空間がビジネスとして成立するためにはVRデバイスの性能及びユーザビリティの向上が必須です。
現在一般消費者が持つスマートフォンではVRを体験するにはスペックが不足している。一方VRHMDは疲労やVR良い対策などの安全性が高く、小型かつ軽量のものが求められる。
そしてさらに大きな技術的要因としてXRの仕様の標準化が遅れていることがあります。
アバターに関してはVRMというプラットフォームに依存しない規格が制定されつつありますが、仮想空間そのもののデータやデジタルコンテンツにも標準化が望まれています。
|まとめ
本記事では経済産業省のレポートに述べられている仮想空間事業の現状と問題について、詳しくご紹介いたしました。
仮想空間の業界で現在様々な形でビジネスが展開されていることが本記事をご覧になっていただければお分かりになると思います。
また現在急拡大する仮想空間、そして仮想空間のビジネスには現状様々な解決すべき問題点があります。
しかしビジネスにおいて問題点は大きなビジネスチャンスとも言えます。これからどんな解決がはかられていくか筆者は楽しみです。
ご覧いただきありがとうございました。