3Dの仮想空間であるメタバース。その世界を案内するガイドとして期待されているのが、「デジタルヒューマン」です。

しかし今、デジタルヒューマンはメタバースを飛び越えて様々な分野で活用され始めています。

そこで今回はそのデジタルヒューマンの基本情報やメリット、実際の活用事例また今後の課題などについて取り上げます。

メタバースで初めてデジタルヒューマンに触れた人はもちろん、デジタルヒューマンを活用してみたいがどうしたら良いか分からない、という人にも必見の内容となっています。

ぜひ最後までご覧ください。

|メタバースにおけるデジタルヒューマンとは?

一般的にはデジタルヒューマンとは、本物の人間と見分けがつかない容姿、表情や動きを持つ、CGで作成した3Dアバターのことを言います。

ですがバーチャルヒューマンが目指しているのは、単なるCGモデルではありません。AIを組み合わせることによって、双方向のコミュニケーションが可能なバーチャルヒューマンの開発が急ピッチで進んでいます。

メタバースではユーザーは自分自身の分身となるアバターを用いますが、そのメタバースの世界でユーザーと企業の仲立ちをする役割りが期待されています。

例えば、メタバース内でユーザーがあるショップに立ち寄る。そのショップ内でユーザーの対応や接客を行うのが、デジタルヒューマンという具合です。

|デジタルヒューマンのメリット

メタバースに限らず、デジタルヒューマンの開発や活用が進んでいるのは、そこに大きなメリットがあるからにほかなりません。

デジタルヒューマンを活用するメリットは、以下のようなものが挙げられます。

  • 人件費などのコスト削減
  • ユーザーとの感情レベルのつながり
  • ワンソース・マルチユース
  • 企業ブランディング

では、一つずつさらに詳しく見ていきましょう。

人件費などのコスト削減になる

デジタルヒューマンによって、大幅なコスト削減が可能。メタバースの世界に常時人材を配置するよりも、デジタルヒューマンにユーザーとの対応を委ねたほうが人件費の削減につながることは明らかでしょう。

このメリットはメタバースだけにとどまりません。例えば企業の受付をデジタルヒューマンに代替することによっても、コストの削減となります。

さらに、デジタルヒューマンは研修の必要もありません。一度教えただけで完璧に学習しますし、人為的なミスを起こすこともありません。

24時間・365日体制で稼働できる上、常に同じレベルの業務を行うことが可能。低コストでありながら、安定した業務を継続的に行えるのがバーチャルヒューマンなのです。

ユーザーとの間に感情レベルのつながりを生み出せる

いくらコストが削減できたとしても、ユーザーエクスペリエンスが低下してしまっては意味がありません。

その点、デジタルヒューマンは人間らしい外見や仕草、表情などを交えてコミュニケーションを取れるため、ユーザーとの間に感情レベルのつながりを生み出すことができるのです。

一例として、チャットボイスと比較してみましょう。

最近のチャットボイスにもAIが用いられていますが、必要な情報を引き出せる以上のことを期待することはできません。

しかしデジタルヒューマンなら、ユーザーの購買心を掻き立てるような人間らしい接客が可能なのです。

人間は理論ではなく感情で動くものですから、ユーザーとの間で感情レベルのつながりを生み出せるバーチャルヒューマンは、企業活動という面でも大きなメリットをもたらすでしょう。

ワンソース・マルチユース

デジタルヒューマンは汎用性の高いデータであるため、APIのようにワンソース・マルチユースで様々なシーンで活用することが可能です。

メタバースはプラットフォームごとにシステムが全て異なります。しかしデジタルヒューマンについては作成したデータを流用することができるため、個別に一から作り直す必要もないのです。

さらには、メタバース用に作成したデジタルヒューマンのデータを他業種に流用したり、逆にSNSやメディアで人気になったデジタルヒューマンをメタバースに『召喚』することも容易。

余計なコストをかけずに、様々なデバイス・プラットフォームでデータを活用できることのメリットは計り知れません。

企業のブランディングに役立つ

人間らしい接客・対応が可能なデジタルヒューマンは、単なるECショッピングでは得られない顧客体験を提供できるでしょう。

例えば女性のデジタルヒューマンであれば、下着のサイズの相談などもしやすくなりますし、女性特有のデリケートな問題や悩みも打ち明けやすくなります。

快適さや楽しさは売り上げアップにとどまらず、企業価値の向上にも直結します。デジタルヒューマンの対応に満足した顧客は、きっとリピーターになってくれるに違いありません。

デジタルヒューマンによる質の良いユーザーエクスペリエンスは売上アップやリピーター獲得につながり、企業のブランディング、企業価値を向上させることにも役立つのです。

|デジタルヒューマンのデメリット

デジタルヒューマンのメリットだけではなく、デメリットについてもしっかり理解しておかなければなりません。それによって、デジタルヒューマンのより良い活用方法が見えてくるからです。

デジタルヒューマンには、以下のようなデメリットが考えられます。

  • 情報漏洩などのリスク
  • 雇用の減少
  • 一時的なコスト増

これらのデメリットについても、詳しく見ていきましょう。

情報漏洩などのリスクが考えられる

デジタルヒューマンのAIは企業の機密情報や顧客情報はもちろん、ネットワークを介して様々な情報を取得・分析して判断を下します。

そのため、万が一ハッキングされた場合にはそうした情報が流出してしまう危険性が考えられます。

また特にクラウド上でシステムを構築している場合には、内部のスタッフによる意図しない情報漏洩にも十分警戒しなければなりません。

ただ、こうした内部機密情報の取り扱いや漏洩への対策が必要なのは、デジタルヒューマンに限った話ではありません。

情報漏洩に対する企業のセキュリティ対策は、AI時代を迎えてさらに強化する必要があるでしょう。

雇用の減少につながる

デジタルヒューマンによって人件費のコスト削減につながるということは、裏返すと雇用の減少にもつながるということになります。

デジタルヒューマン、またAIで代替できる仕事が増え、一部の仕事の機会が無くなる可能性があるのです。

<AIによって仕事がなくなる可能性がある仕事>

  • 受付係・検針員・データ入力・ウェイター・配送業務・財務・経理・税理士・薬剤師・一般事務など

ただし、これまでも産業革命やインターネットの普及によって人間の仕事は大きく変わってきましたが、いつでも新たなテクノロジーと共同してきました。

デジタルヒューマンも人間に敵対するものではなく、あくまでも人間のサポート役にすぎないのです。

一時的にコストがかかる

デジタルヒューマンの活用によって、確かに長い目で見ればコスト削減が期待できます。

しかし導入時にはシステムの基幹や利用サービスの切り替えなどに伴い、相応の初期コストと時間がかかることは覚えておく必要があります。

さらにAIの運営には業務フロー全体の見直しが迫られることが多く、移行期のシステム開発や運用にも気を配らなくてはなりません。

またAIは継続的に学習していくため、通常のメンテナンスに加えてアップデートのための備えも常にしておかなければなりません。

社内に専門家がいない場合は、外部に発注する際のランニングコストなども事前に十分に見込んでおく必要があるでしょう。

|デジタルヒューマンの活用事例

ではデジタルヒューマンは、実際にどのような分野での活用が期待されているのでしょうか?

例えば…

  • 企業の受付
  • バーチャル女子高生
  • モデル
  • 携帯ショップのスタッフ
  • ツアーガイド
  • メタバースアート展の案内人

では実際の活用事例を通して、デジタルヒューマンの可能性を探っていきましょう。

企業の受付

企業の受付は定型作業が多いため、デジタルヒューマンを活用しやすい分野の一つです。

もちろん受付は単なる事務的な対応ではなく、「企業の顔」という側面もありますので、単にAIに置き換えれば良いというものではありません。

その点デジタルヒューマンなら、人間らしい振る舞いで来客を迎えることができるため、もってこいと言えるでしょう。

rinna株式会社と株式会社ギブリー、デジタルヒューマン株式会社は共同で、デジタルヒューマンにAIチャットボット開発ソリューションを統合したAIキャラクターパッケージの販売を開始しました。

これまで様々な社内業務対応を図ってきたAIチャットボットのノウハウを組み合わせることによって、より人間味のある会話が行えるデジタルヒューマンの運用が可能になるとしています。

企業のエントランスでAIが対応するのはSF映画の中の話だと思っていましたが、デジタルヒューマンによってもうすでにそうした時代が到来しているのです。

バーチャル女子高生

メタバースが流行する以前から、日本ではすでにデジタルヒューマンが活躍していました。

その一つの例が、バーチャル女子高生の「Saya(さや)」です。

Sayaは夫婦によるCG制作ユニット「TELYUKA(テルユカ)」が作成した、フルCGのデジタル女子高生。とてもCGには見えないSayaは2015年の発表当時から話題を集め、2018年には現実の女の子が参加する講談社主催のオーディション・プロジェクト、ミスiD2018に参加し、「ぼっちが、世界を変える。」賞を受賞しました。

現在Sayaは株式会社博報堂と株式会社博報堂アイ・スタジオが協力するプロジェクト、「Saya Virtual Human Project」を進めています。これはSayaに「ガイド(GUIDE =Graphic User Interface with Deep Learning)」の役割りを持たせ、デジタルヒューマンが社会に役立つ存在になることを目指した取り組みです。

Sayaの進化には、これからも目が離せません。

モデル

「imma」は、2019年創業のAwwが手掛けるデジタルヒューマン・モデル。国内外の様々な雑誌・メディアで活躍し、Instagramのフォロワーは40万人を超えています。

Awwはimmaで培ったデジタルヒューマンの基礎技術を「MASTER MODEL(マスターモデル)」という形に落とし込み、高品質のデジタルヒューマンを効率的に制作する仕組みを開発しています。今後のデジタルヒューマンは、immaが一つの基準になるかもしれません。

SNS上ではimmaがデジタルヒューマンか本物の人間であるかはほとんど関係なく、多くのフォロワーがimmaの発信に注目しています。

デジタルヒューマンがユーザーとの間に感情レベルのつながりを生み出せるということを、いみじくもimmaが証明して見せているのです。

携帯ショップのスタッフ

デジタルヒューマンは我々の実際の生活の場にその姿を表しつつあります。例えば、携帯ショップのスタッフとして。

イギリスの携帯大手、ボーダフォンでは自社携帯ショップのスタッフにデジタルヒューマンを活用しています。

ボーダフォンのデジタルヒューマンは受付で来店客を笑顔で迎え、彼らが望んでいることを聞き出し、その要望に応えていきます。

デジタルヒューマン単体で簡易なタスクはこなせてしまうため、人間のスタッフはより緊急な案件に集中することができるというわけです。

携帯会社のHPにあるチャット機能では、定形の答えしか引き出すことはできません。しかしデジタルヒューマンを活用することによってより人間味のある応対が可能で、顧客満足度を引き上げることができるのです。

ツアーガイド

コロナ禍で落ち込んだ観光業の回復の切り札の一つと期待されているのが、デジタルヒューマンによるツアーガイドです。

団体旅行を避ける傾向が強くなっている中、デジタルヒューマンを活用することによって、個人旅行でもいわばマンツーマンのツアーガイドをつけることができるのです。

実際、オーストラリア有数の観光都市であるダーウィンでは、デジタルヒューマンをツアーガイドとして活用しています。

対話型AIを導入したデジタルヒューマンは、市内のキオスクに設置されたQRコードをスキャンするだけでスマートフォンに表示させ、ガイドを受けることができます。

地元の人と同じような服、同じような話し方でガイドするデジタルヒューマンとともに旅をすることで、地元の人に地元の魅力的なスポットを紹介されているような感情的なつながりと感動を生み出すことができるのです。

メタバースアート展の案内人

メタバース内でNFTアートを販売する流れが加速しています。

そうしたメタバースアート展の案内人を務めるのは、やはりデジタルヒューマンとなるでしょう。

株式会社palanは山形を中心に画家として活躍する、布施ご夫妻のWebアート展をオープンさせました(この展示会で販売しているのはNFTではなく、リアルアートです)。

同アート展ではVR/ARテクノロジーをふんだんに用いた新感覚の展示となっていますが、そのアート展を案内するコンシェルジュをデジタルヒューマンが担っています。

単なる文字や音声情報と比較して、デジタルヒューマンの案内はやはりスッと入ってくる印象。メタバース内におけるデジタルヒューマンの案内役の相性の良さを実感できます。

今後のAIの進化に伴い、作品について質問するとデジタルヒューマンが詳しく説明してくれる…。そんなメタバースのアート展がこれからのスタンダードになるかもしれません。

|メタバースにおけるデジタルヒューマンの今後の課題

デジタルヒューマンには大きな可能性と期待がかかっていますが、もちろん課題が無いわけではありません。

ここでは特に喫緊の課題である「不気味の谷」問題と、実在する人物の不当な模倣について考えてみましょう。

「不気味の谷」と呼ばれる心理現象

「不気味の谷」とは、人間に似すぎた存在を見ると逆に嫌悪感を感じてしまうという心理現象を指します。デジタルヒューマンがユーザーとの間で感情的なつながりを生み出すには、この不気味の谷を乗り越えなければなりません。

ちょうど谷のように、ある程度のレベルまで人間に似てくると嫌悪感を感じますが、さらに人間に似せていくとその嫌悪感は薄れ、人と見分けがつかないレベルまで近づけると、逆に親近感が湧くとされています。

ですからデジタルヒューマンがこの課題を解決するには、いかに3DCGモデリングの質を上げることができるか。そして実際にその不気味の谷を乗り越えたのが、上で紹介したSayaとimmaと言えるでしょう。

彼女たちはそのクオリティの高さから人間のようにしか見えず、当時から「不気味の谷を超えた」と話題になりました。

今後Sayaやimmaのレベルが当たり前になれば、不気味の谷という言葉自体が忘れられるかもしれません。

実在する人物の不当な模倣

デジタルヒューマンは、実在する(した)人物を再現することも可能です。

有名なのが、2019年の紅白歌合戦に出場した「AI美空ひばり」。これはもちろんオフィシャルなので全く問題ありませんが、もし勝手に模倣されてしまったら?

もちろん不当な模倣だけでも問題ですが、さらに技術が進化してデジタルヒューマンが人間と全く見分けがつかなくなったらどうなるでしょうか?実在の人物を模倣したデジタルヒューマン。それが本物なのか、なりすましなのかをどうやって見分けたら良いのでしょうか。

デジタルヒューマンによって、実在する人物や有名人が不当に模倣されるというトラブルが起こりうることを念頭に置いた対策が必要になってくるでしょう。

|まとめ

様々な課題や問題はありますが、デジタルヒューマンにはそれを凌ぐ大きなメリットがあります。

3Dの架空世界であるメタバースでは、その世界の案内人が欠かせません。デジタルヒューマンがその役目を担うのはもちろんですが、技術の進化に伴い、メタバース以外でもその活用は広まっていくでしょう。

人間とデジタルヒューマンが違和感なく共存し合う社会。そんなSFのような世界の実現が、もうすぐそこまで来ているのです。

「先んずれば人を制す」。時代がどんなに変化しても、この言葉の価値に変わりはありません。

デジタルヒューマン(人)を制するためにも、ぜひ今すぐデジタルヒューマンを利用してみてください!