2023年も終わりに近づきつつありますが、依然としてメタバースの注目度は上がる一方です。
そんな注目のテクノロジーであるメタバースですが、JA(農業協同組合)もメタバースを活用し、農業の未来を形作る新しい取り組みを開始しています。
この記事では、メタバースが農業にもたらす可能性を徹底的に掘り下げ、JAが直面する課題から、具体的な活用事例、おすすめのメタバースプラットフォームまで、広範囲にわたって解説します。
<この記事を読むとわかること>
- メタバースが農業界にもたらす新しい可能性
- JAが直面する現状の課題とメタバースの活用方法
- JAが実践しているメタバース活用の具体的事例
- 農業分野における代表的なメタバースプラットフォーム
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目次
|メタバースとは?
メタバースは、インターネット上に構築された3次元の仮想空間です。
この仮想空間では、私たちは自分の分身であるアバターを通して活動します。つまり、メタバースはWeb上での社会生活を可能にする技術です。
語源は「メタ(超越)」と「ユニバース(世界)」の合成語で、1992年のニール・スティーブンソンの小説「スノウ・クラッシュ」から派生しました。
新しい概念に捉えられがちですが、2003年にリリースされた3次元仮想空間「Second Life(セカンドライフ)」のように、2000年代初頭から存在しています。
メタバースの定義には様々な要素がありますが、特に注目されているのが投資家マシュー・ボール氏による「メタバースの7つの条件」です。
<メタバースの7つの条件>
- 永続的である
- 同時多発でライブ的である
- 参加ユーザー数に制限が無い
- 経済が完全に機能している
- デジタルと実世界、プライベートとパブリック、オープンとクローズの双方にまたがる体験である
- 前例のない相互運用性を提供する
- 個人、企業など幅広い貢献者によって創造・運営される
ただし、これらの条件の中には、まだ十分に実現されていないものも含まれています。
このように、メタバースは個々の活動や相互作用に無限の可能性を提供し、現実世界とは異なる新たな体験の場を提供する仮想空間のことです。
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|JA(農業協同組合)が現在直面している課題
ではなぜ、JA(農業協同組合)はメタバースに注目しているのでしょうか?
それは、メタバースがJA(農業協同組合)の現在直面している課題を解決しうる可能性を秘めているからです。
ここでは、JA(農業協同組合)が直面している課題について詳しく見ていきましょう。
①高齢化と労働力不足
日本の農業分野は、高齢化と労働力不足という二重の問題に直面しています。
多くの農家では、主な労働力となる人々が高齢に達しており、新たな労働者の確保が困難な状況に直面しているのです。
高齢化によって、農業生産に必要な体力的な仕事を続けることが難しくなっている一方で、若い世代の農業への参入が少ないため、労働力の更新が進んでいません。
この状況は、農産物の生産量の減少や、農業経営の継続性に影響を及ぼす可能性が非常に高いです。
農林水産省の統計によると、日本の農家の平均年齢は65歳以上に上っており、農業従事者のうち高齢者の割合が増加しており、全体の約6割以上が65歳以上とされています。
若い世代の農業従事者の割合は低く、新たな若手農業者の確保が重要な課題となっています。
②小規模な農業経営
日本の農業は、多くが小規模経営によって行われています。
小規模な農家が多いことにより、経済的規模のメリットを得にくく、効率的な生産やコスト削減が非常に難しいのです。
また、小規模な経営では、資源の最適な活用が困難で、新技術の導入や市場への対応も限られてしまう傾向があります。
これにより、国内外の競争市場での競争力が低下する恐れがあります。
農林水産省のデータによると、日本の農家の平均耕作面積はわずか約2ヘクタールに過ぎず、これは米国やオーストラリアなどの農業大国と比べると極めて小規模です。
このような小さな規模での農業は、生産性の向上やコスト競争力の面で不利に働き、日本の農業の持続可能性に影響を与えています。
③国際競争の激化
国際競争の激化は、グローバル化の進展に伴い、日本の農業が直面している重要な課題です。
世界各国からの農産物の輸入が増加する中、日本の農産物は価格競争力や品質面で国際市場との競争に直面しています。
特に、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の締結により、農産物の関税が低減され、外国産農産物の流入が増えることが日本の農業にとって大きな課題となっている状況です。
そのため、日本の農家は、コスト面や品質管理、マーケティング戦略など、多面的な対応が求められています。
また、日本は長年、農産物の自給率が低い国として知られており、多くの食料を輸入に頼っています。
農林水産省のデータによると、日本の食料自給率は約40%程度と低く、特に穀物や飼料作物では輸入依存度が高いです。
このように、国内農業の競争力強化が急務となっています。
④直販・販売戦略の強化
直販・販売戦略の強化は、日本の農業が直面している重要な課題の一つです。
伝統的に、多くの農産物は卸売市場を通じて販売されてきましたが、近年では消費者のニーズの多様化と直接販売への関心の高まりにより、直販の重要性が増しています。
また、インターネットを利用したオンライン販売の普及も、新たな販売チャネルとして注目されている状況です。
しかし、効果的な直販や販売戦略を構築するためには、マーケティングの知識やリソースが必要となります。
日々の農家の仕事に加えて、マーケティング戦略まで構築するのは、非常に難しいと言わざるを得ないでしょう。
そのため、個々の農家に応じた効果的な販売戦略構築のサポートが急務となっています。
|JA(農業協同組合)がメタバースを活用するメリット
このように、JA(農業協同組合)が抱えている課題は一筋縄ではいかないものばかりです。
しかし、メタバースを活用することでこれらの課題を解決できる可能性も生まれたきました。
ここでは、JA(農業協同組合)がメタバースを活用するメリットについて詳しく見ていきましょう。
①若い世代に農業の魅力を伝えられる
メタバースの利用は、デジタルに精通し、新しいテクノロジーに対してオープンな若い世代に直接訴えかけることができます。
メタバースプラットフォームでは、実際の農業活動を模倣したり、農業に関する教育コンテンツやゲームを提供したりすることで、農業への興味や理解を深める体験を提供することが可能です。
特に、双方向的な体験を通じて、農業の日々の作業や農作物の成長過程、持続可能な農業の重要性などを学べるのは大きな利点といえるでしょう。
また、メタバース内で農業に関連する魅力的なコンテンツを提供することで、若者の農業への関心を引き出すことができます。
例えば、バーチャルリアリティを通じた農場体験やインタラクティブな展示は、若者にとって新しい形の学びの場となり得ます。
これにより、彼らが実際の農場を訪れるきっかけにもなり、現実世界での農業体験へとつながる、というシナリオです。
このように、メタバースを活用することで、JAは若い世代に農業の魅力を伝え、彼らの農業への関心や理解を深めると同時に、農業の将来における新たな人材を確保するための布石をうつことができます。
②コミュニティに参加することで知識を共有できる
もう一つの大きなメリットは、「コミュニティに参加することで知識を共有できる」という点です。
メタバース内のコミュニティでは、農業に関する最新のトレンド、技術、持続可能な農業実践などの情報を共有できるため、メンバー間での学びや刺激が生まれます。
この交流により、農業の知識と技術の向上に寄与し、組合全体の生産性と効率を高めることが期待できるでしょう。
例えば、メタバース内でバーチャル農業セミナーやワークショップを開催するとしましょう。
ここでは、農業の専門家が最新の農業技術や持続可能な農業方法について講義を行います。
参加者は、日本全国や世界中からアクセス可能で、リアルタイムで質問や議論が行えます。
また、異なる地域の農家が自らの経験や独自の栽培方法を共有し、他のメンバーがこれらの知見を自分の農業実践に応用することも可能です。
ただし、多くの農家は独自の農業方法を構築している場合がほとんどです。
そのため、今まで自分が培ってきた知識を無料で共有するのは少し難しいかもしれません。
だからこそ、JA(農業協同組合)のような公的機関が積極的に制度を構築する必要があります。
③国際市場での競争力を高められる
日本の農業は、その品質と技術において国際市場から高い評価を受けています。
日本の農産物、特に米や日本酒、茶、イチゴ、和牛などは、豊かな自然環境と緻密な栽培技術によって生産されており、これらの製品は高い品質で知られています。
しかし、過去には輸出額が長期にわたり停滞していた面もあり、1960年から2010年の間にわずか3億ドルの増加に留まっていました。
ただし、近年のデータによると、日本の農産物の輸出は増加傾向にあります。
2022年の前半には日本の農業輸出が過去最高を記録し、2021年には農業、林業、水産品の輸出額が初めて1兆円を超えるなど、国際市場での存在感を高めている最中です。
このような背景の中、メタバースを活用することは、日本の農業の魅力をより効果的に国際市場に発信するための強力な手段となり得ます。
メタバースは、地理的な制約を超えて広範な観客にアプローチできるため、日本の農産物の品質や特性を、インタラクティブで魅力的な方法で紹介することが可能です。
これにより、世界における日本の農産物の位置づけを強化し、新たなビジネス機会を創出することが期待できます。
④消費者に魅力的に農産物をPRできる
日本の農産物の販売方法は、従来、主に地元の市場やスーパーマーケット、卸売市場を通じて行われてきました。
これらのチャネルでは、生産者が直接消費者と対話する機会は限られており、商品の特性や価値を十分に伝えることが難しかったのです。
また、製品が最終消費者に届くまでの時間が長引くことがあり、新鮮さや品質が損なわれる可能性もあります。
メタバースをうまく活用すれば、これらの問題を克服できる可能性があるのです。
メタバースでは、生産者が消費者に直接アプローチし、農産物の特性や価値を視覚的な方法で紹介できます。
これにより、製品の新鮮さや品質に対する信頼を築くと同時に、消費者との強い結びつきを作り出すことが可能です。
このように、メタバースを活用することで、日本の農業は消費者に対して農産物をより魅力的にPRし、従来の販売方法の問題点を克服し、製品の市場価値を高めることができるのです。
ただし、この場合はJA(農業協同組合)を介さずに農家が直接消費者に農産物を販売できる可能性が高まるため、JA(農業協同組合)としては旨みが少ないかもしれません。
しかし、時代は変わりつつあります。
JA(農業協同組合)もこのような時代の変化に対応して、ビジネスモデルを変革する必要があるでしょう。
|JA(農業協同組合)のメタバース活用事例3選
既にJA(農業協同組合)はメタバースを積極的に活用しており、注目すべき事例も多くなってきました。
そこでここでは、JA(農業協同組合)がメタバースを活用した注目の事例についてご紹介します。
①旬の農産物の魅力をメタバースで発信!|JA山口
JA山口県は令和5年3月13日から6月12日にかけて、メタバース上に農業生産者応援ブースを期間限定で開設しました。
この斬新な取り組みは、農業に関心がなかった人々に親しみを持ってもらうきっかけを作ることが目的です。
また、農業生産者に消費者からの生の応援メッセージを届けることで、農家のモチベーションを高め、山口県の農業を活性化させることを目指しています。
メタバース内で設置されたアンケートフォームを通じて発信されたメッセージは、後に同じメタバース空間で公開されます。
インターネット環境があれば、どんな電子デバイスからでもアクセス可能で、メタバース空間へのアクセスにはアバターを設定することで、誰でも参加することができます。
さらに、メタバース内では動画の配信や旬の農産物、直売所の紹介も行われたとのこと。
メタバース技術を活用したJA山口のこの取り組みは、農業の未来にとって重要な一歩となるでしょう。
②フルーツ王国山梨の桃をメタバースで販売!|カンジュクファーム
山梨県のカンジュクファーム(南アルプス市)は、3D仮想空間であるメタバース「GAIA TOWN」に設計された自社専用スペースでフルーツの販売を始めました。
7月初頭から本格稼働する桃シーズンに合わせ、カンジュクファームは専用スペースでコミュニケーションと販売を展開しています。
同社が栽培するフルーツは自社のECサイトで注文できますが、メタバース空間では生産者と消費者がボイスチャットやリアルタイム映像を共有しながら、フルーツにまつわるエピソードやおいしい食べ方を伝えることで、新しいコミュニケーションの形を創出しています。
さらに、専用フロアでは桃ができる過程を閲覧できます。
6月20日にオープンした専用フロアでは、初日からアバターによるコミュニケーションで受注が相次ぎ、今後は桃に続いてキウイフルーツやシャインマスカット、山梨の秋の名産「あんぽ柿」も販売予定です。
カンジュクファームは従来の販売手法と並行してメタバースを活用し、若手の新規就農者が増加するきっかけづくりも目指しています。
今後は果樹栽培の可能性や就農希望者への説明会もメタバースで行う予定とのことです。
③「黄金の國、いわて。」メタバース交流会を実施!|JA岩手
岩手県は2023年12月12日に、メタバースを活用した県産食材の販路開拓と拡大のための取り組みとして、「『黄金の國、いわて。』のフードショーinメタバース」を開催します。
本交流会では、岩手県内外の消費者や新規就農志向者などが集まり、岩手県の食材をふんだんに使った「いわてフードBOX」を楽しみながら、メタバース空間で交流を行うのがメインイベントです。
今年9月に行われた生産者とバイヤーの商談会に続くもので、時間的、距離的な壁を取り払うメタバースの利点を活用しています。
イベント当日は、ムーンエレファントジャパン総料理長の”諸星純一氏”が監修した「いわてフードBOX」についてのトークセッションも行われており、岩手県内の生産者による特設ブースでは参加者間での交流や情報交換が可能です。
|農業でも使える代表的なメタバースプラットフォーム3選
2023年12月5日、GPU生産の世界シェアトップのNVIDIA社のCEOジェンスン・フアン氏が岸田首相と面会しました。
面談後フアン氏は、「GPUを日本へ優先的に供給したい」とも発言し、大きな注目を集めています。
メタバース構築のためには、今までとは比較にならない量の計算タスクをコンピューターに任せなければならないので、最先端のGPUは必須です。
そのため、日本のメタバースは今後更なる発展が期待できるでしょう。
では、現在の主流のメタバースプラットフォームにはどのようなものがあるのでしょうか。
ここでは、農業でも使える代表的なメタバースプラットフォームを3つ厳選してご紹介します。
①VRChat
VRChatは、3次元の仮想空間でユーザー同士がコミュニケーションを楽しめるソーシャルVRプラットフォームです。
2017年にリリースされて以来、世界中の多くのユーザーに利用されています。
VRChatでは、ユーザーは様々な仮想環境を探索し、他のユーザーと対話することが可能です。
アバターは多様で、実際の人間からファンタジーのキャラクターまで幅広い選択肢があります。
ユーザーはVRヘッドセットを使用してVRChatにアクセスすることが多いですが、PCやMacからも参加可能です。
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VRChatとは?魅力や遊び方、必要なツールなど概要を紹介!
②cluster(クラスター)
cluster(クラスター)は、多くのデバイスからアクセスできる日本発のメタバースプラットフォームです。
cluster(クラスター)の特徴は、スマートフォン、PC、VR機器など、さまざまなデバイスを通じてバーチャル空間にアクセスできる点にあります。
これにより、ユーザーは自分の好きな環境でバーチャル体験を楽しむことができます。
cluster(クラスター)では、音楽ライブや発表会などのイベントが開催されるほか、バーチャルワールドでチャットやゲームを楽しむことが可能です。
また、ユーザーは自分の好みに合わせてアバターを選ぶことができ、オンラインゲームを楽しんだり、友達と集まったりすることもできます。
2017年に公開され、当初は大規模バーチャルイベントを開催できるVRプラットフォームとしてスタートしましたが、現在ではより幅広いメタバース体験を提供するプラットフォームとして有名です。
cluster(クラスター)についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事も合わせて確認してみてください。
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メタバースプラットフォームcluster(クラスター)とは?特徴やできることを分かりやすく解説!
③Horizon Worlds (ホライゾンワールド)
Horizon Worldsは、Meta社(旧Facebook)が開発・運営するメタバースプラットフォームです。
Horizon Worldsでは、ユーザーはクリエイターとなり、自分だけのメタバース空間を創造できます。
ビジネス用の会議室から癒し空間、遊園地や街の再現まで、想像力の限りを尽くして空間をデザインすることが可能です。
さらに、ユーザーは家具などのデジタルアイテムやアバターの衣装やアクセサリーなどのファッションアイテムも自作できます。
これにより、仕事やプライベートなどの異なるシーンに合わせてアバターの服装を変えるなど、現実世界のような多様な使い方が可能になります。
また、Horizon Worldsはマネタイズ機能をテストしており、Meta社が選抜した一部のユーザーに限り、自作したデジタルアイテムを販売できる機能が利用可能です。
現在、Horizon Worldsはアメリカ、カナダ、フランス、スペインで利用可能で、サービス地域の拡大も進んでいます。
日本のメタバース市場は急成長中でもあるので、日本での展開にも十分期待が持てるでしょう。
Horizon Worldsについてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご確認ください。
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メタバースプラットフォームcluster(クラスター)とは?特徴やできることを分かりやすく解説!
|まとめ:JA(農業協同組合)のメタバースには要注目!
この記事では、メタバースが農業界にもたらす可能性と、JA(農業協同組合)によるその活用について詳しく解説しました。
メタバースは、農業において単なる新しいテクノロジー以上のものです。
若い世代への農業の魅力の伝達、知識共有のためのコミュニティ形成、国際市場での競争力強化など、多面的な影響をもたらします。
今後も農業分野におけるメタバースの活用は急速に進展し、農業の未来を形作る重要な要素になるでしょう。
この記事を、未来の農業を考える際の参考資料としても役立てていただければ幸いです。
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