本記事では、五感に関するテクノロジーであるハプティクス技術に関心のある方、新規事業のヒントを得たい役職者の方に向けて、

・ハプティクスとは

・ハプティクスが注目される理由

・ハプティクスの活用事例

・ハプティクスが実現する未来

などのハプティクス技術に関する疑問を解説します。

本記事を読めば、ハプティクス技術がどのようなものなのか、また、具体的な活用方法も理解できますので、ハプティクスに興味関心がある方、ハプティクスを用いた新規事業を考えたい方はぜひ最後までご覧ください。

|ハプティクスとは?

「ハプティクス(haptics)」とは、触覚技術とも呼ばれており、ユーザーに力や振動、動きなどを与えることで「実際にモノに触れているような感触」をフィードバックする技術のことを指します。

ハプティクスの語源は、ギリシャ語の「触覚について」という言葉が由来となっています。触覚を再現する方法には大きく分けて2つあります。

まず一つ目が、触覚に直接刺激を加える方法です。携帯電話の振動や、iPhoneのホームボタンを押した際に、実際にボタンは無いのにボタンを押した感覚が得られるのもこの方法に該当します。

2つ目の方法が、クロスモーダル現象という、視覚と味覚、視覚と聴覚など、本来別々である感覚が互いに影響を及ぼし合う現象を用いて触覚を再現する方法です。

クロスモーダル現象の例として、ヘッドマウントディスプレイを装着した状態で、ブラックコーヒーをカフェオレの見た目でユーザーに飲ませると、ほんのり甘みを感じるという事例が挙げられます。

|ハプティクスの用途

このように、触覚に直接刺激を与えたり、本来別々である感覚が互いに影響を及ぼし合うクロスモーダル効果を用いて触覚を再現するハプティクス技術が、実際にどこで使われているのかご紹介していきたいと思います。

アウェアネス

最も身近で、昔から使われているハプティクス技術の例として、携帯電話のマナーモードに使うバイブレータのように、電子機器のユーザーに気付きを与えるアウェアネスが挙げられます。

近年では振動パターンを精密に制御できるようになり、実際には存在しないものが動く感触や材料の質感なども再現できるようになっています。

ユーザーインターフェース

ハプティクス技術は、スマートフォンやタブレットの操作に関するユーザーインターフェースとしても使用されています。例えば、電子機器のタッチパネルにハプティクス技術を応用することで、アイコンを押した感覚や、深く押した感覚を再現することもできます。

メディア

ハプティクス技術は、ゲームやVRにも使用されています。

例えば、プレイステーション5(PS5)のコントローラーは、ゲーム内で起こった衝撃をコントローラーを振動させることによって、あたかもゲーム内の衝撃が現実の自分に起こったように感じることができます。

人機一体

ハプティクス技術は、遠隔医療や外科手術ロボット、災害救援用ロボットなどの操縦、遠隔でのインタラクティブ通信といったコミュニケーション、視覚障害者のための視触覚変換といった「感覚変換」、歩行誘導などのナビゲーションに加え、産業用ロボットやパワードスーツにも使用されています。

|ハプティクスが注目される理由

ここまでハプティクス技術が実際に使用されている事例をご紹介してきました。

ここからは、そもそもなぜこのハプティクス技術が近年になって大きく注目されるようになったのかについてご紹介していきたいと思います。

VR/ARの進化

近年、VR/AR技術を活用した、臨場感のある映像表現を用いた家庭用ゲームが登場してきています。

ゲームやeスポーツ分野の市場調査会社の「Newzoo」によると、ゲーム業界の世界市場規模は、2020年時点で既に1593億米ドルであり、2023年には2000億米ドルに達すると予想されています。

このように今後も大きな発展が期待できるゲーム業界において、よりハイクオリティなリアリティ表現やゲーム関連技術のイノベーションによるユーザー体験の向上が求められています。

そこで、このハプティクス技術が注目されています。ハプティクス技術は、ゲーム・コントローラの振動などによってプレイヤーの触覚を刺激し、モノが動いている様子などを肌で体感できるようにすることが可能です。

これをゲーム・コンテンツの表現として活用することで、ゲームへのプレイヤーの没入感を高めたり、ゲーム中のキャラクターの行動に対するモノの反応を指先で感じながら物語を進める方向のストーリーテリングが可能になります。

5G

ハプティクスには通信技術が大きく関係しています。

通信に遅延があると、機械的な刺激を皮膚感覚にフィードバックする、また逆に皮膚化感覚から機械に触覚を送ることが技術的に困難になり、例えば、手で触ったものや持ったものの物質や感触が変化し、強く握りすぎて物質を潰してしまうことがありえてしまいます。

5Gは4Gに比べると、通信速度が約20倍、遅延速度が約10分の1に向上しているため、ハプティクス技術の通信面での課題が解決され、ハプティクス技術の実用化が一気に進むとされています。

|コロナ禍における役割

世界的な新型コロナの蔓延は様々な分野に影響を及ぼしています。

その中でも、技術に関する影響の1つに、タッチパネルなどに触れて操作をすることに対する意識の変化があります。それは、不特定多数の人が触るようなデバイスを仲介することが、感染が拡大する要因の1つとされるようになったからです。

今までは使いやすいと思われていたタッチインターフェースが、このコロナ禍の事態により、あまり使用したくないインターフェースと感じられるようになっているようです。

この状況に対応した様々な技術は、実はかなり前から研究されていましたが、スマートフォンの普及により、タッチインターフェースという強力な手法に対する優位性を示すことはできませんでした。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大の収束が見通せない現在、今後も新型コロナウイルスのような感染症が接触によって拡大する可能性があることが理解されつつあり、接触を伴わない、ハプティクス技術を利用した非接触型のインターフェースへの注目が集まってきています。

例えば、空中結像ディスプレイと超音波を使い空中にあるボタンを操作した際に、そこに何かがあるようなフィードバックを与えるものや、レーザーを使い空気をプラズマ化することで、本当に触れる物体を作り出す技術も研究されています。

労働力の不足

少子高齢化が進む日本では労働人口の減少という課題があります。

そこで、近年では人工知能やロボットに労働させるということに注目が集まっています。

しかし、現在のロボット技術では「何かを優しく掴む」ということが難しく、できる作業の幅が狭まっているという問題があります。

この問題の解決策としてハプティクス技術が注目されています。ハプティクスの精度向上により遠隔での繊細なロボット操縦が可能になり、細かな作業が必要とされる介護や医療現場での活躍が期待できます。

|ハプティクスの活用事例

ここまでハプティクス技術の用途やハプティクス技術が注目されている理由についてご紹介してきましたが、ここからは現在注目されているハプティクス技術がどのように製品に活用できるかご紹介していきたいと思います。

iPhone

前述した通り、ハプティクス技術は我々にとって、とても身近なスマートフォンであるiPhoneに活用されています。

スマートフォンの分野では、Appleが2015年に発売した「iPhone6s/6cPlus」にハプティクス技術である「3D Touch」が採用されています。

この「3D Touch」は、ディスプレイ上にグラフィックスでアイコンを表現し、押した時にあたかも物理的にボタンを押しているかのように感じることができるユーザーインタフェース(UI)です。

このように、iPhoneの「3D Touch」のようなタッチパネルとハプティクス技術を組み合わせたUIは、これまでのUIにはない操作性を生み出すことができます。

Nintendo Switch

続いて、ゲーム機の分野では、任天堂が2017年に発売した大ヒットゲーム機である「Nintendo Switch」のコントローラーに、「HD振動」と呼ばれるハプティクス技術が活用されています。

この「HD振動」は、コントローラー自体は単純に振動するだけですが、ものすごく速く、精度の高い振動のために、振動を受け取った脳が過去の経験から実際と異なる別の事象や反応と錯覚してしまうというものです。

この「HD振動」では、押される・引っ張られる、硬さ・柔らかさ・反発感、ザラザラ・コツコツしているなどの感触や、グラスの中に氷を入れたときの感触まで表現できる画期的なものとなっています。

MX4D

また、米国MediaMation社が開発し、ソニービジネスソリューションが展開する、体験型シアター「MX4D」にもハプティクス技術が活用されています。

この「MX4D」は、映画のシーンに合わせて、客席のシートが動いたり、風や香り、振動などで視聴者の五感を刺激してくれる視聴サービスです。

映画シーンに合わせて表現される振動や衝撃を再現するためにハプティクス技術が活用されています。最近になると、単純に客席のシートを振動させるのではなく、観客の身体に専用の「ハプティクスベスト」を装着し、映画のシーンや演出に合わせて強弱をつけながら振動や衝撃を与えることで、「モノに触れている感覚」をリアルに再現しています。

その効果は、振動パターンや衝撃の強さによって組み合わせは無限大となっており、動物が迫って来る臨場感、手に汗握るアクション感、敵を吹っ飛ばす爽快感などが映画館で映画を鑑賞しながら味わえるようになっています。

|ハプティクスが実現する未来

ここまで、ハプティクス技術の用途や活用例、最近注目されている理由についてご紹介してきました。ここからは、このハプティクス技術が将来どのように発達していくのか、ハプティクス技術によってどのような未来が実現するのかについてご紹介していきたいと思います。

医療

ハプティクス技術の応用は、ゲームやVRだけに留まらず、触力覚情報をデジタル化することで、これまでにない機能を持つ電子機器やロボットなどが将来生まれる可能性があります。

その一つが医療用のロボットです。ハプティクス技術が将来どのように医療用ロボットに活用されるのかご紹介いたします。

例えば、人がロボットアームを操作してモノを掴んで運ぶ場面を想定します。

ここにハプティクス技術を応用すれば、ロボットが触れたモノの感触を操縦者が感じて手加減しながら柔らかいモノや複雑な形のモノを器用に扱うことができる可能性があります。

さらに、操作する人の動きを減衰させ、ロボットアームが触れた感触や手応えを増幅させて人の感覚に伝えることで、患部の状況を手探りで感じながら緻密な手術を行う手術ロボットが出来上がるのです。

このように、ロボットでより柔軟で精密な操作が可能となれば、手術ロボットの導入によって遠隔での手術が可能となり、さらには患者の動作情報をおくるロボットで、遠隔でのリハビリが可能になるような未来が実現する可能性があるのです。

エンターテインメント

ハプティクス技術は今流行しているメタバースへの活用も期待されています。実際に、Meta(旧Facebook)のReality Labsチームは、メタバースの仮想空間上の物質に触った感触をもたらす触覚グローブである開発を発表し、その試作品の映像も公開しています。

今回発表された「Haptic Glove(触覚グローブ)」には、リアルな触覚を感知するために、多数のセンサーと電気信号によって動く「アクチュエーター」が搭載されていおり、VR/AR空間にある物体のテクスチャ、振動、圧力の感覚をアクチュエーターに送信し、アクチュエーターからグローブ装着者の手に信号が伝わることで、バーチャル空間の触覚がリアルに感じられるようになります。

この触覚グローブの開発に成功すれば、オンラインで遠く離れた相手とも互いに触れ合う感覚や握手の感覚を共有できたり、バーチャルの物体のテクスチャを感じたり、仮想空間のキーボード操作でも物理キーボードのような感触を感じられるようになります。

公開されたデモ映像では、ジェンガのような繊細なバランス感覚と力加減を必要として遊ぶゲームのデモの様子が紹介されています。

モビリティ

現在の多くのクルマは、ペダルの踏み込みをセンサーで検知し、その出力信号によってモーターでパッドを動かす仕組みになっており、ブレーキをかけるためのペダルと実際にタイヤの動きを制動するパッドは、機械的につながっていません。

よって、現在のクルマは、操作自体はとても簡単に行えるようになっていますが、ドライバーと操作対象を分離してしまうため、操作感が得にくくなるという欠点があります。

そのため、クルマの状況や操作感覚、路面情報を感じる機械的な反力を感じることができず、例えば、ブレーキをどのくらい踏み込んだのか感触がつかめない、悪路を走ってもガタツキがハンドルから伝わらず気づかない、といった状況が生まています。

これは、ドライバーから、感覚による危機管理能力を奪っているとも言える状況なのです。こうした操作感の欠落を補うために、ハプティクス技術が将来的に活躍すると言われています。

ハプティクス技術によって状況に応じた反力を人工的に作り出し、ドライバーに伝えることで、例えば、角度センサーでハンドルの回転角度を読み込み、その角度に応じて、ハンドルを戻そうとする力を加えたり、さらに、タイヤ、ブレーキなどにもセンサーを取り付けておくことで、アンチ・ロック・ブレーキ(ABS)を動作させた時などに、悪路を走る擬似的な感触を表現できるようにもなります。

このようにハプティクス技術は運転支援技術としての活用も期待されています。

|まとめ

本記事では、五感に関するテクノロジーであるハプティクス技術に関心のある方、新規事業のヒントを得たい役職者の方に向けて、ハプティクス技術の用途や活用例、ハプティクス技術が近年注目されている理由、さらにハプティクス技術が実現する未来などについてご紹介させて頂きました。

ハプティクス技術について簡単にまとめると、ハプティクス技術とは、ユーザーに力や振動、動きなどを与えることで「実際にモノに触れているような感触」をフィードバックする技術のことで、現在でもiPhoneのタッチパネルなどに活用されており、将来的には医療用ロボットやVR分野など様々な分野での活用が期待されている技術です。

このように将来確実に私たちの生活に欠かせない技術になるであろうハプティクス技術について、本記事を読んで少しでも興味関心を持っていただけますと幸いです!