膨大な書籍を管理しながら、利用者に貸出する図書館は多くの人の知的好奇心を満たし続けています。

そんな図書館が仮想空間である「メタバース」で再現されつつあることをご存知でしょうか。

膨大な書籍をどのようにメタバースで再現し、利用者にそのサービスを提供するのか。

本記事ではメタバース図書館に関する概要からメリット、そして実際の事例をそれぞれ解説します。

ぜひ最後までご覧ください。

|図書館におけるメタバース活用

2023年現在、メタバースという概念は世の中に浸透しており、すでに若年層に限った技術ではなくなっています。

その活用はゲームといった娯楽にとどまらず、教育現場から老人ホームなど幅広い分野で利用されています。

現実世界のあらゆる場所を再現するだけではなく、メタバース空間において全く新しい世界を構築することも可能。

そして現在、メタバース技術を図書館へ活用することも検討されているのです。

実際、すでに国立公文書館が「公文書館におけるメタバース活用の可能性についての私見」という文章を公表しています。

国立公文書館は歴史資料として重要な位置づけをされる公文書などの保存、利用を行う施設であり、図書館と類似した機能を有しています。

公表されている文章では、紙媒体といった物理的な書物はメタバースに馴染まないが、電子文書などについてはメタバース上での再現が可能であると述べられています。

また、日常的に行っているメールや電話でのやりとりを、アバターを通じたコミュニケーションに代替する有用性も検討に値するとされているのです。

図書館が所蔵する資料についても、電子文書であれば提供方法に大きな差は生まれないことから、レファレンスサービスもメタバース上で再現可能。

すでに博物館や美術館といった施設がメタバース上で展示会を行っている事例からも、図書館における展示物の再現は十分に可能と判断されているのです。

図書館維持のためのメリットが多い

メタバース上に図書館を再現することは、全国に数多く存在する図書館を維持するためにもメリットが多いといわれています。

まず、図書館に勤務する方たちに対して多様な働き方を提案できる点があげられます。

基本的に図書館職員はテレワークなどの働き方に対応することが難しいため、職場に合わせた居住地選択、また通勤時間の確保が求められます。

しかし、図書館内における限られた業務を除く作業をメタバース上で行うことで、様々な働き方のスタイルに対応できるのです。

様々な場所を活動拠点としながらも図書館業務に携われることは、これまで再現不可能なものでした。

インターネットさえ接続できれば働ける環境が実現することで、ワークライフバランスの改善に貢献することが期待されています。

第二に、図書館業務の継続性を向上させるという点があげられます。

図書館は本という物理的な情報を管理、保存する機関です。

そのため、万が一特定の図書館が位置する地域が災害に見舞われた場合、その図書館の業務は完全に滞ってしまいます。

しかし、インターネット上に図書館を再現することで、現実世界の図書館に被害が起きた場合でも、メタバースを通じて業務を進めることが可能となるのです。

このように、メタバースでの図書館は「従業員の働き方改善」と「図書館業務の継続性向上」という2点から、大きな役割を担うと期待されています。

|メタバース図書館の事例

2023年12月現在、すでに様々なメタバース図書館の事例が存在しています。

こちらではその中から、以下の事例をそれぞれ紹介します。

  • NAGOYAメタバース図書館
  • 【バーチャル東大】図書館エリア
  • NDC Library
  • 韓国・全州大
  • バーチャル図書館

NAGOYAメタバース図書館

出典:https://www.library.city.nagoya.jp/img/oshirase/2023/system_202311_2_1.pdf

「NAGOYAメタバース図書館」は、現実世界の名古屋市図書館の開館100周年を記念して構築されました。

現代の図書館をイメージした館内がメタバース空間に再現されており、内部は1階〜3階に分かれています。

来館者はアバター姿を通じて、館内を自由に散策できます。

図書館ですので当然、メタバースを通じた読書体験が可能。

中高生に人気の高い小説家である太宰治の作品や、『星の王子様』といった幅広い小説を楽しめます。

また、名古屋市図書館の司書が本の物語を音読で伝える「ストーリーテリングのへや」もあり、耳からも本の世界を気軽に楽しめます。

館内には司書アバターも巡回しており、出会った際には挨拶することが可能です。

2024年1月末には「過去の図書館」と「未来の図書館」がオープン予定。

メタバース図書館を先行する事例として注目を集めています。

【バーチャル東大】図書館エリア

出典:https://cluster.mu/w/d8d02d03-d70d-48c6-9145-6cad7ff51727

「バーチャル東大」は東京大学のVRサークル「UT-virtual」が制作した、現実世界の東大本郷キャンパスを再現したメタバース空間です。

本プロジェクトは2020年に開催されたイベント会場として構築され始め、徐々に以下のように様々な施設が再現されていきました。

  • 赤門
  • 正門
  • 図書館
  • 安田講堂
  • 安田講堂内部
  • 工学部前広場

それぞれのメタバースはバーチャルSNSである「cluster」とブラウザの2パターンにて公開されています。

メタバース上の図書館は周辺エリアも同時に再現されています。

広場の中心には、関東大震災以降に作られた歴史ある噴水があり、現実世界において東大生が集まる憩いの場として幅広く利用されています。

図書館周辺には法学部、文学部の建物があり、メタバースを通じて実際の東大本郷キャンパスの雰囲気を味わえます。

図書館施設自体が再現されているわけではありませんが、東大の雰囲気をメタバース上で体験できるサービスは貴重。

2023年現在も新たな施設構築を進めており、今後もさらなる可能性が期待されるメタバース空間です。

NDC Library

出典:https://metacul-frontier.com/?p=4143

「NDC Library」は2023年2月に公開されたメタバース空間です。

メタバースプラットフォームである「VRChat」上に構築されており、誰でも無料で利用できます。

白や灰色を基調にしたシックな空間には様々な本棚が並んでおり、さながら現実世界の図書館と見間違える雰囲気を味わえるはず。

各本棚には「2 歴史」や「31 政治」といったような分類が分けられており、五十音順に整理された著書名から元に本を検索できます。

本の背表紙には実際の図書館同様、「913 あ」といった分類記号や著者名の頭文字が振られたラベルが記載されています。

アバター姿の利用者は読みたい書籍を選び、本棚から実際に取り出すことが可能。

VRコントローラーを通じて本の中身をパラパラと開くことができるのです。

館内には本の検索機能も再現されており、「作品名」もしくは「著者名」から指定する本を探せます。

ヒットしたタイトルや著者情報を元に、読みたい本を選択すれば検索機の上に指定の本が瞬時に現れるのです。

「NDC Library」は「どの本棚にどういった本があるのか見ながら、目的の本を手に取る体験」を再現したいと考え構築されています。

そのため、あくまで図書館のような体験ができるメタバースであり、図書館本来の機能を有しているわけではありません。

しかし、現実での図書館体験を限りなくリアルに再現した「NDC Library」は素晴らしく、今後のメタバース図書館の可能性を広げる存在として注目されています。

韓国・全州大

出典:https://koreawave.jp/%E3%80%8C%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B9%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E3%81%A7%E6%9C%AC%E3%82%92%E5%80%9F%E3%82%8A%E3%81%A6%E3%81%BF%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%8B%E3%80%8D%E5%85%A8/

韓国の私立大学である全州(チョンジュ)大学は、2022年3月にメタバースプラットフォーム「ZEPETTO」を利用してメタバース図書館をオープンしました。

新型コロナウイルスの流行によって現実世界の図書館に足を運べなくなった学生のために、図書館内部を事前に体験してもらうことを目的にしています。

オープンイベントではメタバース空間上での記念撮影や、本棚の中に隠された請求記号を探し、本の貸し借りをするといったイベントを実施。

中でもメタバース空間上にて本の好みが近い友人たちと本を読んだ後、読書クイズを解くといったイベントは学生に大きな反響を得ました。

コロナ禍によって現実世界での交流が制限されていた状況において、メタバースを通じた友人作りができる環境は貴重な存在となります。

利用者からは「図書館に訪問しなくても、図書館について説明を聞けて良かった」という意見も目立ちます。

こういった事例は入学者を対象とした事前説明会などに応用できるため、今後も類似した事例が広がる可能性は高いといえるでしょう。

バーチャル図書館

出典:https://www.dnp.co.jp/news/detail/10158777_1587.html

大日本印刷と図書館流通センターが共同で開発した「バーチャル図書館」では、メタバース上の図書館にて書籍や新しい情報との出会いが体験できます。

2020年11月にデモンストレーションが公開された「バーチャル図書館」は、コロナ禍による自宅での図書館利用に対する需要に応えるために提供されました。

メタバース上に構築された図書館は外出が難しい状況の方であっても気軽に利用できる上、読み上げ機能によって視覚に障害を持つ方でも本を楽しめます。

館内には各地で所蔵されている郷土資料や文化財を展示しているエリアや、職員が選定した書籍が紹介されるエリアなど様々な展示が存在しています。

日本国内の図書館をオンライン視察することも可能であり、外部サイトにおいて各図書館の詳細映像も確認できます。

大日本印刷は「XRコミュニケーション事業」を推進しており、今後もバーチャル図書館を始めとした新しい取り組みを進めていくことが考えられるでしょう。

|まとめ

メタバース上に再現された図書館について、その概要からメリット、そして実際の事例をそれぞれ紹介しました。

自宅にいながら読書が楽しめるメタバース図書館には大きな可能性が広がっています。

まだまだ発展途上ではありますが、今後の図書館を大きく一変させるかもしれません。

これからの動向に期待しましょう。