メタバースの世界市場は、2021年に4兆2,640億円だったものが2030年には78兆8,705億円まで拡大すると予測されています。

そのため、「流行りのメタバースビジネスで一儲けしよう!」と考える方が後を絶ちません。

将来性の高い領域に積極的に参入することは何も悪いことではありませんが、「法律」に関する事前知識が無いのであれば非常に危険かもしれません。

この記事では、メタバースに関連する様々な法律、具体的な法的トラブルの事例、そしてこれらの法律がビジネスに与える影響をわかりやすく解説しています。

メタバースの法的側面を理解することで、より安全かつ効果的なビジネス展開が可能になるので、ぜひ最後までお読みください。

<この記事を読むとわかること>

  • メタバースとは何か、その基本的な概念
  • メタバースに関連する主要な法律一覧
  • メタバースにおける法的トラブルの実際の事例
  • メタバースを取り巻く法律の課題

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|メタバースとは?

メタバースとは、インターネット上の3次元仮想空間であり、現実世界を超える体験やコミュニケーションを通じて経済活動が生み出される場所です。

ユーザーは自分の分身であるアバターを介してこの空間内を自由に動き回り、他者と交流したり、商品やサービスの売買など様々な活動を体験できます。

メタバースの概念は1992年に発表されたニール・スティーヴンスンのサイバーパンク小説『スノウ・クラッシュ』に起源を持ち、元々は架空の仮想空間サービスの名称でした。

その後、技術の進化により様々な仮想空間サービスが登場し、総称や仮想空間自体の名称として使われるようになっています。

最近のメタバースの注目度は特に高く、新型コロナウイルスの影響でオフラインイベントが減少し、オンライン上での活動が普及したことが一因です。

また、ビジネス面では、新しい顧客層の獲得、働き方改革の促進、コスト削減などのメリットがあります。

昨今では多くの企業がメタバースビジネスに参入しており、2024年以降も引き続き成長が期待できる技術です。

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Facebook社のCEOであるマーク・ザッカーバーグ氏が、メタバースを主要ビジネスに据えることを発表し、社名をMeta(メタ)社に変更したのは2021年です。

それ以降、急速に流行し始めているメタバースですが、何も知らずにメタバースビジネスに挑戦すると思わぬ法律の落とし穴に落ちることも珍しくありません。

そのため、メタバースをビジネスに活用しようと考えているならば、関連する法律の知識を持っておいた方が賢明です。

ここでは、メタバースに関連する法律を一挙ご紹介します。

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知的財産権

まず第一に挙げられるのは「知的財産権」です。

知的財産権とは、創作活動から生まれる様々な財産(作品や発明、シンボルなど)を法的に保護する権利です。

この権利により、創作者や発明者は自分の作品や発明をコントロールし、その利益を得ることができます。知的財産権は主に以下の三つに分類されます。

  • 著作権:文学、音楽、アート作品などの創造的な表現を保護
  • 商標権:ブランド名やロゴなど、商品やサービスを特定するためのシンボルを保護
  • 特許権:新しい発明や技術的な解決方法を保護

メタバース内では、これらの知的財産権が重要な役割を果たします。

例えば、仮想空間内でオリジナルのアート作品を展示する場合、その作品は著作権によって保護されます。

また、メタバース内でブランドを宣伝する場合、そのブランド名やロゴは商標権によって保護されているのが一般的です。

さらに、メタバース内で使用される独自の技術やシステムは、特許権によって保護されなければなりません。

著作権

著作権とは、創造的な作品(文学、音楽、芸術作品など)に対する法的な保護のことです。

この権利により、作品の作者は自分の作品を保護し、その使用方法や配布を決定することができます。

著作権は作品が創造された瞬間に自動的に発生し、特別な登録は必要ありません。また、作品がオリジナルであれば、国際的にも認められています。

メタバース内では、様々な著作権が発生します。

例えば、ユーザーが作成するアバターや仮想空間内の建築物、アート作品、デジタルグラフィック、音楽などが代表例といえるでしょう。

また、メタバース内でのイベントやパフォーマンスも著作権で保護される場合があります。

著作権はかなり注意しないと気付かず侵害してしまう恐れがあるため、特に注意が必要です。

商標権

商標権は、ある企業や個人が商品やサービスを識別するために使用する名称、ロゴ、シンボルなどを保護する法的権利です。

この権利により、商標の所有者は他者が同一または類似のマークを使用することを制限でき、ブランドの独自性と評判を守ることができます。

メタバースのコンテキストでは、商標権は特に重要です。

仮想空間内で企業や個人が提供する商品やサービスにブランド名やロゴを使用する際、これらは現実世界での商標と同様に保護されます。

例えば、メタバース内での店舗や広告で使用される商標、仮想商品やサービスに関連するブランド名などがこれにあたります。

メタバース内で他者の商標を無断で使用することは、現実世界での商標侵害と同様に違法行為になり得ます。

したがって、メタバース内でブランドを展開する際には、適切な商標登録や使用許可が必要となる場合がある点は注意しておきましょう。

特許権

特許権は、新しい発明や技術的なアイデアを保護する法的権利です。

この権利により、発明者は他者が自分の発明を無断で製造、使用、販売、輸出することを制限できます。

特許は、特定の国または地域でのみ有効であり、通常、特許出願後一定期間(多くの国で最大20年)の独占的な権利を発明者に与えます。

メタバースにおいて、特許権は特に重要です。

なぜなら、このメタバース空間は技術革新が急速に進む領域であり、新しいソフトウェア、インターフェース技術、仮想現実体験など、多くの特許対象となる発明が生まれているからです。

例えば、メタバース内でのユーザーインタラクションを可能にする独自のハードウェアやソフトウェア、仮想現実のナビゲーションシステム、AI駆動の仮想環境生成技術などが特許の対象になり得ます。

しかしながら、特許取得のプロセスは複雑であり、審査基準や法的要件を満たす必要があります。

したがって、メタバースに関連する新しい技術やアイデアを特許出願する際には、専門的な知識が必要です。

個人情報保護法

個人情報保護法は、個人のプライバシーを保護し、個人情報の適切な取り扱いを確保するための法律です。

この法律は、個人を識別できる情報(名前、住所、電話番号など)の取り扱いに関する規則を定めています。

個人情報の収集、利用、保存、第三者への提供に際して、事業者は明確な目的を設定し、適切な管理と保護を行わねばなりません。

メタバースの環境では、ユーザーの個人情報が多方面で利用される可能性があります。

例えば、アバターのカスタマイズ、仮想空間内でのコミュニケーション、オンライン取引、イベント参加など、様々な活動が個人情報に該当します。

他にも、ユーザー名、連絡先情報、仮想購入履歴、ロケーションデータ、さらにはユーザーの行動パターンや好みなども含まれる場合があります。

メタバース内での個人情報の取り扱いには、特に注意が必要です。

事業者は、ユーザーの同意を得て、明確に定義された目的のためにのみ個人情報を使用する必要があります。

また、個人情報の安全な保存と、不正アクセスや漏洩からの保護も必要です。

ただし、個人情報保護法が適用されるかどうかは非常に曖昧になっている点も多く、今後の法整備によっては事情が変わってくる場合もあることには注意しましょう。

契約法

契約法は、契約の成立、効力、履行、および違反時の救済に関する法的な規則を含む、民法の一部です。

この法律は、二人以上の当事者間で合意された約束がどのように法的に扱われるべきかを定めています。

契約法の基本原則には、意思表示の自由、契約の拘束力、契約違反時の救済などが含まれます。

メタバースの環境では、様々なタイプの契約を考慮せねばなりません。

例えば、ユーザー間の仮想物品の売買、サービスの提供契約、仮想空間内でのイベントや活動への参加契約などが考えうる項目です。

また、メタバース内でのコンテンツ作成や仮想不動産の取引に関わる契約も考慮する必要性も出てくるでしょう。

メタバースにおける契約には、ユーザーのプライバシー保護、デジタルコンテンツの著作権、および仮想通貨や資産の管理など、追加の法的考慮事項が含まれることがあります。

したがって、メタバース内での契約を行う際には、これらの特殊な側面を考慮した対策が必要です。

税法

税法は、国や地域の政府が課すさまざまな税に関する法律の体系です。

これには、所得税、法人税、消費税、資産税などが含まれ、個人や企業の収入、購入、所有物に適用されます。

メタバース内の税法は、このデジタル空間での経済活動にも適用される可能性があります。主な関連点は以下の通りです。

  • 所得税:メタバース内で発生する個人の収入(例えば、仮想商品の販売やサービス提供から得た収益)は、所得税の対象となる可能性がある。
  • 法人税:企業がメタバース内で行う商業活動から得た利益には、法人税が課される可能性がある。
  • 消費税:メタバース内での商品やサービスの売買には消費税が適用されることがある。
  • その他の税金:メタバース内での特定の取引や資産(例えば、仮想不動産やNFT)に関連して、他の種類の税金が適用される場合がある。

メタバースは新しい分野であり、現在の税法がどのように適用されるかは国や地域によって異なります。

また、メタバースの経済活動が成長するにつれて、新たな税法の枠組みや規制が導入される可能性も考えられます。

税金は企業のアセットマネジメントには必ず関わってくるので、常に最新の情報を取得するように心がけましょう。

労働基準法

労働基準法は、従業員の労働条件や安全を保護するための法律です。

この法律は、労働時間、休日、賃金、退職、労働安全、女性や未成年者の労働など、労働に関わるさまざまな側面を規制しています。

目的は、従業員の権利を保護し、公正かつ安全な労働環境を確保することです。

最近では、Meta社の「MetaLife(メタライフ)」をはじめとするバーチャルオフィスプラットフォームも目立ってきました。

そのため、メタバース内にも労働基準法が適用される可能性があります。

メタバース内での仕事は、従来のオフィス環境と異なる場合が多く、労働時間の管理や仮想空間での労働条件が重要な問題となります。

例えば、メタバース内で従業員が遠隔で働く場合、労働時間の監視や休憩時間の管理、仮想環境における労働安全の確保が課題など、例を挙げるとキリがありません。

労働基準法においても、今後新たな枠組みが設定される可能性が非常に高いので、特にマネジメント職に従事している方は注視しておきましょう。

国際法

国際法は、国家間の関係や国際社会における行動規範を定める法律の体系です。

これには、国際条約や慣習法、国際機関による規則などが含まれます。

メタバースは、その国境を超える性質から、国際法の適用可能性が高い領域です。

例えば、データの保護、知的財産権、商標権、個人の権利と自由、さらには国際的な商取引や紛争解決など、幅広い問題が含まれる可能性があります。

そのため、メタバースに関連する活動は、国際法の枠組みの中で適切に管理される必要があります。

このように、メタバースは国際法の新たな適用領域となり得るのです。

|メタバースに関係する法的トラブルの事例

ここまで、メタバースビジネスに取り組む際に知っておくべき法律について触れてきました。

しかし、具体的な事例を確認しなければ、なかなかイメージが湧かない方も多いかと思います。

そこでここでは、メタバースに関係する法的トラブルの事例について、具体的にご紹介します。

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Robloxの事例

オンラインゲームプラットフォームである『Roblox』では、開発者カンファレンスの参加者約4,000人の個人情報が漏洩した事例があります。

漏洩は2022年12月に発生し、2017年から2022年にかけてのカンファレンス参加者の名前、メールアドレス、電話番号、住所、生年月日、さらにはTシャツのサイズに至るまでの情報が含まれていました。

この漏洩は、セキュリティ専門家Troy Hunt氏のSNSでの呼びかけにより初めて明らかになりました。

個人情報は特定の不正コミュニティで公開されていましたが、Roblox Corporationは当初、この問題について公表せず、影響を受けたユーザーに警告も行っていませんでした。

問題が公になった後、Roblox Corporationは影響を受けたユーザーに謝罪し、一部には個人情報の盗難保護ツールの1年間無料サブスクリプションを提供しています。

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Second Life(Linden Labs)の事例

メタバースの先駆けとしても有名な「Second Life(セカンドライフ)」では、2007年9月6日に大規模なデータベース侵害が発生し、利用者の個人情報が流出した可能性があることが明らかになりました。

この事態は、運営会社である米Linden Labによって報告され、利用者に対して影響を受けた可能性のある個人情報について通知が行われました。

流出した可能性がある情報には、氏名、住所、暗号化されたパスワード、暗号化されたクレジットカード情報などが含まれていたとのことです。

Linden Labはこの問題に対応し、全てのパスワードを使用不可とし、新しいパスワードを発行。メールでの対応に加えて、米国、イギリス、オーストラリアに無料電話ヘルプラインを設置し、ユーザーのサポートを行いました。

「Second Life」は2003年に開設された3D仮想シミュレーション世界で、この事件当時、約29万人の「住民」ものユーザーが利用していた初期のメタバースです。

この事例は、メタバースプラットフォームにおけるセキュリティの脆弱性と、個人情報の保護に関する重要性を示しています。

また、プラットフォーム運営者が迅速かつ適切に対応することの重要性も浮き彫りにしました。

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フォートナイト(Fortnite)の事例

人気ビデオゲーム「フォートナイト」を開発したエピック・ゲームズが、アメリカ連邦取引委員会(FTC)との和解で過去最高額の5億2000万ドル(約713億円)の罰金を科された事例があります。

FTCによると、エピックは児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)に違反しており、2億7500万ドルの罰金が科されました。

さらに、フォートナイトのユーザーを騙して不要な買い物をさせたことで2億4500万ドルの罰金が後に追加されています。

FTCの訴状によると、エピックは13歳未満のフォートナイト・ユーザーからのデータを両親の同意なしに収集し、COPPAに違反したとされます。

また、テキストや音声通信がデフォルトでオンになっており、未成年ユーザーが見知らぬ人とマッチングされることで、いじめや嫌がらせなどの危険にさらされていたとFTCは指摘しました。

FTCはまた、エピックが「ダークパターン」を使用してユーザーを騙し、不必要な課金をさせていたと主張しています。

これには、紛らわしいボタンのレイアウトや、保護者の同意なしに課金を許可するなどの行為を指摘しています。

最終的に、エピック・ゲームズは和解を受け入れ、消費者保護の最前線に立ち、プレイヤーに最高の体験を提供するとの声明を発表しました。

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|メタバースを取り巻く法律の課題とは?

メタバースビジネスは、その革新性によって多くの法的課題を引き起こしています。

現状、メタバース内での取引は主に無形のアイテムやサービスに焦点を当てていますが、これにはアバターを通じた音声取引など、対面取引に似た形態も含まれています。

また、メタバース内でのアイテムやアバターを巡る知的財産権の問題も重要です。

現実世界の物体と異なり、仮想空間上でのアイテムは独自の特性を持ち、これが従来の意匠法や著作権法の枠組みに適合するかどうかは判断が難しい状況です。

加えて、メタバースは個人情報やプライバシーの保護に関しても新たな課題を提示しています。

例えば、アバターの外観や行動、VRゴーグルを通じて収集される視線情報など、大量の個人データが関与しており、これらの情報の取り扱いに関しては、より慎重なアプローチが求められます。

さらに、メタバースは国境を越えて使用されるため、国際法や複数の国の法令が絡み合うことで、どの法域が適用されるかは専門家を以てしても判断が難しいのです。

これらの法的課題は、メタバースが新しい技術であるために生じるもので、既存の法体系との間の調整が求められています。

したがって、これらの問題は今後の法整備や解釈の進展によって、新たな方向性を見いだす必要があるといえるでしょう。

|まとめ:メタバースビジネスを成功させるには法律を知っておく必要がある

この記事では、メタバースという新しいデジタルフロンティアにおける法律の役割と重要性を解説しました。

メタバースは、ビジネスやコミュニケーションの未来形として急速に成長していますが、その進展は多くの法的課題を引き起こしています。

法律がどのように適用されるか、そしてどのように進化するかは、メタバースが健全かつ持続可能な方法で発展するために不可欠です。

今後、メタバースは更に複雑な形態をとり、法的枠組みもそれに合わせて進化する必要があります。

読者の皆さんには、この記事をメタバースビジネスを始める際の法的側面の理解の手助けとして活用していただければ幸いです。

メタバースの世界はまだ始まったばかりであり、法律の適用と理解が成功の鍵となるでしょう。

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