演劇は、舞台上の俳優の演技や演出、美術や音楽など、さまざまな要素が組み合わさって、観客に臨場感や没入感を与える芸術です。

近年の技術革新により、演劇をVRで観賞できるようになりました。

このような演劇は、従来のものとは異なるメリットや可能性を秘めています。

今回の記事では、その魅力に迫りながら、VR演劇がもたらす革新と、実際に展開されている公演事例に焦点を当ててご紹介します。

演劇に興味のある方は、ぜひご一読くださいね。

|VR演劇とは

近年、観客が主人公の視点で物語を体験するVR(仮想現実)演劇が注目を集めています。

この新たな舞台芸術形態は、視聴者に没入感と臨場感を提供し、コロナ禍で生まれた新たな表現手法として広く受け入れられています。

例えば、東京芸術劇場シアターイーストでの「ダークマスターVR」は、観客が専用ゴーグルをかけ、物語に参加する独自の演出が特徴です。

舞台演劇とVRが融合したこの作品は、観客が青年の視点から物語に参加し、料理の製作や店の繁盛を体験します。

また、「僕はまだ死んでない」という作品では、脳卒中で動けない主人公の視点から、周囲の人間関係を観客が観察します。

これらの作品は、VR技術を駆使し、視聴者が物語の一部として参加する体験を提供しています。

|VR演劇のメリット

仮想現実の中で展開される演劇には、どのようなメリットがあるのでしょうか?

以下で、利点となる2つの特徴について説明しています。

観客参加型

VR演劇の最大のメリットの一つは、観客の積極的な参加が可能な「観客参加型体験」です。

これまでの演劇とは異なり、最新テクノロジーを駆使することによって、観客が物語の一部として参加できるため、新たな視点から作品を体験できます。

例えば、「Typeman」では観客が360度の仮想空間で物語を進め、タイプマンとコミュニケーションをとりながら新しい思い出を共有します。

専用ゴーグルを装着した観客は、俳優とのリアルタイムのやり取りや、タッチを含む触覚の表現も体験でき、他の観客との交流も楽しめます。

このように視聴者が物語に積極的に関わることで、演劇に一層の没入感と臨場感を生み出し、その作品の魅力をより深く味わうことができるのです。

観客が好きな視点で観劇できる

もう一つの魅力として挙げられるのは、「観客が自由な視点で作品を楽しむことができる」という点です。

従来の演劇とは異なり、VR技術を駆使した作品は、360度自由に視界を動かせるため、観客は自らの興味や好みに応じて物語を楽しむことができます。

この自由な視点からの観劇体験は、観客自らの興味を追求し、舞台上のどの場面にも自由に視線を向けることができます。

それによって物語の様々な側面や細部をじっくりと味わうことができるのです。

また、専用のHMDやスマートフォンなど、様々なデバイスで視聴できる点も特筆すべきです。

視聴する環境やスタイルは観客それぞれ異なりますが、その柔軟性を活かし、ユーザーが選んだ方法で作品を楽しむことができます。

|VR演劇の公演事例

こちらでは、実際に公開されたVR演劇の事例をご紹介します。

演劇ファンの方、最新のエンターテイメントに興味のある方は、ぜひ一度体験してみてください。

メタシアター演劇祭

出典:https://sites.google.com/view/metatheatervr/top

2023年11月23日から26日にかけて開催された「メタシアター演劇祭」は、ソーシャルVRプラットフォーム「VRChat」上での舞台演劇を特集した大規模なイベントです。

この祭典では、3つの劇場で日本語圏のカンパニーやパフォーマーによる様々な演目が披露されました。

落語や漫才、演劇や音楽ライブなど多様なパフォーマンスを展開。

そして、大劇場では360度視点の舞台を用いて、ダンスやライブなどのスペクタクルな演目が披露されました。

特筆すべきは、シェイクスピア作品「真夏の夜の夢」のVR演劇で、日本シェイクスピア協会の後援も受けています。

この演劇祭は、VR演劇の可能性を広げ、多様な観客層を魅了する熱気あるイベントとなりました。

Typeman

出典:https://corporate.wowow.co.jp/news/products/4773.html

「Typeman」はVR演劇の進化を象徴する作品です。

観客は360度の仮想空間でタイプライターと向き合い、物語に参加する没入型の演劇鑑賞が可能です。

俳優と観客がアバターとして出会い、国籍や性別などの壁を越えて物語を共有することで、リアルな演技を通じて、観客の動きや反応に柔軟に対応してくれます。

さらに、東京とベネチア間での物理的なハイタッチの感覚を再現する触覚も表現されています。

本作品はVRChat内のプレイヤーコミュニティの協力で開発され、ブロードウェーの役者らがVRを使った演技に取り組む姿勢も注目されています。

WOWOWが率いる新しい映像体験の研究で、感動と技術の融合を通じて、未来のエンターテインメントを模索しています。

VR演劇『僕はまだ死んでない』

VR演劇「僕はまだ死んでない」は、脳卒中で動けなくなった直人の視点から描く感動的な物語です。

視聴者は直人の目だけを動かし、家族や医師らのやりとりを垣間見ます。

この環境下での視聴を想定し、スマートフォンやパソコンでの視聴も可能ですが、演出家のウォーリー木下は特にVRゴーグルを推奨しています。

VRゴーグルを使用することによって、視聴者を直人の世界に没入させ、物語をより身近に感じることができるからです。

本作品では、終末医療や家族の決断をテーマに、観客に「最期」に向き合う考えを促し、演劇の真髄である観客の選択に焦点を当てています。

視聴者は自らの感情と思索を通じて、物語の背後に潜む深いテーマに触れることでしょう。

劇団「IMGN」

出典:https://natalie.mu/stage/news/528283

2023年6月、VTuberの九条林檎によってプロデュースされた劇団「IMGN」は、VRChat上で初めての舞台作品「HarmonicA」を披露しました。

この劇団は、「VEE」というVTuberの育成・マネジメントプロジェクトの後援を受けており、VTuberやクリエイターが集うクリエイター集団です。

「HarmonicA」はVRChat上で開催される音楽劇で、物語は「世界を救う旋律を奏でる旅」というテーマで展開されます。

舞台作品全体が音楽と物語を調和させ、魔物との戦いに挑む青年とその仲間たちの物語が描かれます。

この舞台作品は、ファンタジー要素と音楽を融合し、観客を引き込む独特な体験を提供します。

VR能 攻殻機動隊

「VR能 攻殻機動隊」は、士郎正宗のSF漫画『攻殻機動隊』を、日本の伝統芸能である「能」を通じて再構築した革新的な演劇です。

この公演は、VR技術と空中結像技術(AIRR)を組み合わせ、仮想現実空間を能の舞台として再現し、VRゴーグルなしでの視聴が可能です。

作品には、奥秀太郎監督や脚本の藤咲淳一、VR技術やAIRR技術の第一線のクリエイターが参加。

さらに、能楽師のオールスターキャストが出演し、特別ナビゲーターは声優の津田健次郎、下野紘らが務めます。

「未来の演劇」を体感できるこの公演は、能と最新技術の融合がもたらす新たな視覚体験として注目を集めました。

伝統芸能の現代版として、見逃せない作品です。

|まとめ

VR演劇は、従来の演劇にはないさまざまなメリットを備えた、新たなエンターテインメントです。

場所や時間の制約を受けずに演劇を楽しむことができ、観客は舞台上の俳優や舞台装置を360度自由に視点を変えて鑑賞することができます。

また、映像技術や空間表現の進化により、アーティストと観客が一体となって、まるで劇場にいるかのような臨場感を味わえます。

今後、さまざまな可能性を秘めた劇場文化として、ますます注目を集めていくと考えられます。

ぜひ、この新たなエンターテイメントの世界を体験してみてください!