2021年Facebook社がMetaに社名変更したことで一気に注目を集めたメタバース。
ブームに乗ってさまざまな企業が参入し、その様子が各種メディアで多く取り上げられました。
しかし、最近ではメタバース関連の話題を聞く機会が減っています。
「メタバースは終わったって本当?」
「メタバースって今どうなってるの?」
と、疑問に感じている方も多いはず。
そこでこの記事では、メタバースが失敗したと言われる理由やメタバースの実態、さらにメタバースの今後について詳しく解説していきます。
目次
|メタバースが失敗したと言われる理由
メタバースが失敗したと言われる原因には主な理由として以下の5つが挙げられます。
- 大手メタバース各社の事業縮小
- 約9割のメタバース事業が失敗
- 仮想不動産価格の下落
- 話題性の低下
- コアなファン以外には浸透していない
それぞれの理由について詳しく見ていきましょう。
大手メタバース各社の事業縮小
最近、メタバースを手がける大手企業が相次いで事業の縮小または廃止を発表しています。
以下が主な事例です。
社名 | 時期 | 事業縮小または廃止の内容 |
Meta | 2023年3月 | 従業員を全体で約1万人レイオフ、5000の職種の募集停止を発表 |
ウォルト・ディズニー・カンパニー | 2023年3月 | 約7000人をレイオフする一環としてメタバース部門の廃止が決まる |
マイクロソフト | 2023年12月 | 産業メタバース「Project AirSim」の中止を認める |
2023年3月 | ソーシャルVR「AltspaceVR」のサービス終了を発表 |
Meta社のレイオフの対象には、以前にMeta社が買収した「Ready At Dawn」や「Downpour Interactive」などのVRスタジオの人員も含まれています。
2023年は、IT大手が軒並み大幅な人員整理を行いましたが、メタバースもその影響を免れませんでした。
約9割のメタバース事業が失敗
メタバースの事業化は全体で約9割失敗しているという調査が発表されています。
株式会社クニエの「メタバース調査レポート」によると、回答者全体の91.9%が「事業化に向けた検討が停止しているもしくは中止された」と答えています。
この調査結果からも明らかなように、メタバースの事業化は簡単ではありません。
そのため、メタバースを利用したサービスが思ったよりも増えず、メタバースへの期待感や勢いが削がれた可能性があります。
話題性の低下
最先端の技術として大きな期待が寄せられたメタバースですが、その後に起こったAIブームによって話題性が低下しました。
現在、ChatGPTをはじめとする生成AIが大きく注目されています。
日々、AIを使った新たな機能やサービスが次々と生み出され、話題が尽きません。
メタバースは、このAIブームの影に隠れる形となり、以前と比較して話題に登ることが少なくなりました。
仮想不動産価格の低下
現在、メタバース内の土地の価格が最盛期と比較して大きく下落しています。
メタバースの土地はNFT化することによって売買できます。
一時期は、このメタバース内の土地が驚くような高値をつけていました。
たとえば、メタバースプラットフォーム「Decentraland」の場合、ファッション地区の土地が過去に約3億円近い値段で売却されています。
しかし、現在では土地全体の価格が大幅に下落。
土地の販売価格の中央値は、1年前から90%近くも落ち込んでいる模様です。
さらに類似のメタバースサービスである「The Sandbox」も同じような経過をたどっており、2006年ごろ話題になった「Second Life(セカンドライフ)」の二の舞だとの声もあります。
※Second Life:2003年にアメリカのリンデン・ラボ社からリリースされたメタバースの先駆け的なサービス。
コアなファン以外には浸透していない
今のところメタバースは十分に浸透したとは言いにくい状況です。
VRSNS内でメタバースを楽しんでいるユーザーは一定数いるものの、例えばスマホのように、誰もが当たり前に利用するサービスになったとはいえません。
現実を大きく変える可能性があると言われた割に、それほどのインパクトはなく、「期待していたものと違った」という感想を持つ方もいます。
|メタバースが浸透しづらいのはなぜか?
メタバースが、なかなか一般のユーザーに浸透していかないのには、いくつか考えられる理由があります。
ここからは、現在のメタバースが抱える課題について触れていきます。
ヘッドセット使用のハードルが高い
メタバースの魅力を最大限体験するにはVRヘッドセットが必要です。
VRヘッドセットを使うことで、視界いっぱいに広がる360°の映像やバーチャル世界に入り込んだかのような特別な体験が得られます。
しかし、このVRヘッドセットにはいくつか課題があります。
まず値段が高い。
本格的なVRコンテンツを楽しむためには、最低でも数万円以上するVRヘッドセットが必要です。
また、遊びたいコンテンツによっては、VRヘッドセットだけでなく、ゲーミングPCやゲーム機本体が必要になるので、10万円を超える出費が必要になることもあります。
さらに重量の問題があります。
現在のモデルは以前のものと比べ軽量化がすすんでいるものの、それでも装着時の重さは気になります。
長時間遊んでいると、首が疲れてきたり、ヘッドセットの重みで装着位置がズレたりすることも、、。
他にも、充電に時間がかかる、ヘッドセットが大きいので置き場所に困るなど、使いやすいとは言えない部分があります。
真に高い没入感は得られない
メタバースをはじめとするVRコンテンツは、VRヘッドセットを利用することで、これまでにない没入感を与えてくれます。
しかし、現実の体験と比較できるような真に高い没入感を得ることはできません。
グラフィックや音が粗雑であれば言うまでもありませんが、たとえ、美しい映像やリアルな効果音があっても、物をつかむ手触りや匂いによる情報はありません。
そのため、「これなら動画でいいや」と感じる方もいることでしょう。
VR酔い
VR酔いとは、VRコンテンツを体験している時に感じる「乗り物酔い」に似た症状のことです。
アバターで3D空間の中を動き回ったり、視点移動が激しいコンテンツを体験したりすると酔ったような状態になり、気分が悪くなることがあります。
メタバース内でこのようなVR酔いを体験してしまうと、メタバースに対する苦手意識につながることがあります。
VR酔いについての詳細は以下記事をご覧ください。
|本当に失敗なのか?メタバースの実態
これまで、メタバースが失敗したといわれる理由について触れてきました。
現在、メタバース分野は各社事業が振るわず、あまり好調とは言えない状況です。
では、メタバースは本当に終わってしまったのでしょうか?
そうとはいえません。
ここからは、メタバース業界の明るい側面について解説していきます。
たくさんの企業が注目
一時期よりはトーンダウンしましたが、メタバースは今なお企業の関心を集めています。
たとえば、メタバース内で開催される世界最大級のVRイベント「バーチャルマーケット」には、ゲーム・アパレル・通信など業種を問わず、毎年さまざまな企業が参加しています。
さらには、省庁や地方自治体、NPO団体からの参加もあり、2023年夏に開かれた「バーチャルマーケット2023 Summer:CONNECT」には70社を超える出展がありました。
また、近年は大手百貨店が次々にメタバースに参入。三越伊勢丹がメタバース空間に新宿店を再現したり、大丸松坂屋がメタバースで使用できるオリジナル3Dアバターの販売を開始したりしています。
若者をはじめとする広い客層へのアプローチや、どこにいても24時間好きな時にアクセスできるというネット空間ならではの強みが注目されています。
事業縮小が相次ぐが開発が途絶えたわけではない
2023年3月Meta社が1万人規模のレイオフを発表しました。
これにはメタバース分野の人員も含まれています。
しかし、Meta社はメタバースから撤退するわけではありません。
2023年の4月には、メタバースに今後も注力していくとはっきり発言しています。
そして2023年10月、最新のVRヘッドセットMetaQuest3が発売されました。
Meta社は今のところ一時的に事業整理を行っているものの、これからもメタバース分野の発展に貢献してくれそうです。
セカンドライフは実は失敗していない
過去多くの注目を集めたメタバースプロジェクト「Second Life(セカンドライフ)」
現在ではほとんど話題に登ることがなくなり、一般にはメタバース失敗の代名詞のような存在として語られています。
しかし、実は現在も「Second Life」のサービスは継続しています。
しかも月間のアクティブユーザー数はおよそ100万人。
これはSecond Lifeの最盛期である2007年と比較してもほぼ遜色のない数字です。
さらに直近では、スマホタブレット用アプリ『Second Life Mobile』も発表され、失敗どころか新たな展開を見せています。
セカンドライフについて、詳細は以下記事をご覧ください。
VRChatの利用者は増えている
VRChatの利用者数が近年増加しています。
VRChatは、トップクラスの知名度を誇るメタバースです。
VRChatは、月間アクティブユーザー数を公開していないので、利用者の正確な数字を知ることはできませんが、同時アクセス数の推移を見る限り右肩上がりに上昇。2023年の段階で、コロナ禍以前と比較してだいたい5倍以上になっています。
ちなみに、この同時アクセス数から予測される利用者数(月間アクティブユーザー数)は、数百万人に登ると考えられています。
VRChatについて、詳細は以下記事をご覧ください。
3Dモデルの売り上げが伸びている
3Dモデルの売り上げも増加傾向です。
創作物の総合マーケット「Booth」が発表した「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書」によると3Dモデルカテゴリの取扱高の推移は以下のようになっています。
なお、3Dモデルカテゴリには、3Dアバター・髪型・衣装・アクセサリなどが含まれます。
2018年 | 5000万円 |
2019年 | 3.1億円 |
2020年 | 7.4億円 |
2021年 | 14億円 |
2022年 | 24億円 |
ちなみに、3Dモデルカテゴリの注文件数、注文者数も取扱高と同様、右肩上がりに推移しており、メタバースで使用されるアバターの需要が大きく増加していることがわかります。
このことからも、メタバースの需要が伸びていることがうかがえます。
|メタバースの今後
メタバースの今後について、どのように予想されているか見ていきましょう。
市場規模の拡大
メタバースの市場は今後拡大していくことが見込まれています。
総務省は、
メタバースの世界市場は2021年に4兆2,640億円だったものが2030年には78兆8,705億円まで拡大すると予想されている |
としています。
この予測に従えば、メタバースの市場はたった10年で、約20倍に膨らむことになります。
この試算からも、メタバースがいかに有望視されているかがわかります。
VRデバイスのさらなる進歩
VRヘッドセットをはじめとしたVRデバイスは年々急速に進歩しています。
Meta社が開発しているMetaQuest(旧OculusQuest)を例にとって見てみましょう。
2016年 | Oculus Rift |
2018年 | Oculus Go |
2019年 | Oculus Quest |
2020年 | Meta Quest2 |
2022年 | Meta Quest Pro |
2023年 | Meta Quest3 |
このように、Meta社は毎年のように新しいVRヘッドセットを発表しています。
もちろん性能もどんどん更新。最初はPC接続なしには使えなかったものが、VRゴーグル単体でもつかえるようになり、画質も向上、本体もコンパクトになり軽量化しています。
このような動きはMeta社製品にだけに見られるわけではなく、HTCの「VIVEシリーズ」にも同じことが言えます。
また、最近ではApple社もついに待望の最新VRゴーグル「Apple Vision Pro」を発売。
このような開発の流れがいきなり途絶えるとは考えにくく、今後もさらなるVRデバイスの進化が見られると思われます。
メタバースを利用したサービスの増加
メタバースは応用範囲の広い技術です。
たとえば、今後メタバースの技術が利用されると考えられている分野は、
- ゲーム
- 医療
- 教育
- ファッション
- 小売り
- 建築
など多岐にわたります。
今は技術的に難しいサービスも、現在の技術の発展速度を考えると、数年後には実現している可能性が大いにあります。
|メタバースのハイプサイクルは幻滅期
ハイプサイクルという言葉をご存じでしょうか?
ハイプサイクルとは、Gartner 社が提唱している用語で、新たに生まれた技術やサービスが、現在、社会にどのように受け入れられているかを示したものです。
このハイプサイクルによると新しい技術やサービスは、
- 黎明期
- 「過度な期待」のピーク期
- 幻滅期
- 啓発期
- 生産性の安定期
という順番を経て成長していきます。
メタバースは、幻滅期にあると言われています。
過度に煽られた期待が過ぎ去り、「なんだ、こんなものか」と幻滅している状態です。
この幻滅期を乗り越えて、真に必要な技術やサービスを生み出せるかどうかがメタバースの今後のカギになるでしょう。
|まとめ:メタバースはこれから
この記事では主に、
- メタバースが失敗したと言われる理由
- メタバースの実態
- メタバースの今後
について解説してきました。
メタバースは、現在、一時期の過度な期待が落ち着いている状況にあります。
しかし、メタバースが失敗したと判断するのは早計です。
メタバースはまだまだこれからの技術。
近年のVRデバイスの進化や市場規模の拡大予想を見ても今後の大きな発展が期待できます。
これからメタバースがどのように成長していくのか目が離せません。