本記事では、メタバースでの商取引を考えている方、NFTなどのアイテム作成をしたいと考えている方に向けて、メタバースにおいて知的財産権がどのように適用されるかといったことを解説します。

本記事を読めば、都市を再現したタイプのメタバースにおける知的財産権が現状どのように取り扱われているのかについて理解できますので、ぜひ最後までお読みください。

|メタバースとは

メタバース(metaverse)とは「超越(meta)」と「宇宙(universe)」を合わせた造語です。基本的にはインターネット上の仮想空間のことを指しますが、仮想空間を利用したサービスを意味する場合もあります。

この仮想空間では、ユーザーがパソコンやスマートフォン、VRゴーグルなどのデバイスを通じて、自分の体の代わりにアバターを操作することで様々な活動をします。

具体的にどのような活動ができるかは、それぞれのサービスによって異なりますが、多くの場合、ユーザー同士の遠隔でのコミュニケーション、ゲームやイベントなどが行われます。また、近年ではNFTアイテムの売買が行われるサービスも増えています。

もっと詳しく知りたいという方は「話題のメタバースに注目!! 技術詳細、注目の背景、仕組み等ビジネスで活用される理由を解説!」の記事をご覧ください。

|都市再現型メタバースにおける知的財産権

ここからは、メタバースにおいてどのようなケースが知的財産権の侵害にあたるのかということについて、現実の都市を再現した仮想空間を例にとってご説明します。

コンテンツの知的財産の侵害があった場合に関係する法律は、主に著作権法、意匠法、商標法、不正競争防止法です。

それぞれ、保護する対象や、権利侵害とされるケースが異なります。

 著作権法意匠法商標法不正競争防止表
 著作権意匠権商標権商品表示
保護対象小説や絵画などの芸術作品家具や建築などのデザイン商品などのロゴロゴなど、有名な商品表示
登録不要必要必要不要

これらの法律について、メタバース上ではどのような点が争点になっているのかといったことを解説していきます。

|著作権

まず初めに、著作権がメタバース上でどのように扱われるのかをご説明します。

著作権とは

著作権とは、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属する著作物をその著作者が独占的に支配して利益を受ける権利を指します。

著作物の複製・上演・演奏・放送・口述・上映・翻訳などの権利を含みます。

著作物として認められるには、以下の要件を満たす必要があります。

1.人の思想又は感情が表現

2.創作性

3.文芸・学術・美術・音楽の範囲

メタバースにおける著作権

都市再現型メタバースにおいては、現実の街に存在する建築物や芸術作品を模倣したオブジェクトを配置することがありますので、そのオブジェクトが著作権の侵害に当たらないかが問題になります。

そもそも一般的な建築物のデザインは、居住や人の往来などの機能を満たすことを第一に採用され、上記の著作物としての要件を満たさないと考えられます。

ですので、メタバース上で建築物を再現しても基本的には著作権の侵害には該当しません。

また、街中に銅像などの美術作品が置かれていることがあります。

こうした作品は著作物ではありますが、以下の場合を除いて自由に利用出来ると定められています。

・ 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合

・建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合

・前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合

・専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し又はその複製物を販売する場合

ですので、ただメタバース上で再現するだけでは著作権の侵害には当たりません。

では、メタバース上に著作物を再現して配置するだけではなく、一般利用者がそうした著作物を利用する場合はどのようになるでしょうか。

現実世界では、著作権はさらに細かく分類されています。

音楽作品は演奏権、舞台作品は上演権、映像作品は上映権、美写真は展示権といった形で、作品の性質に応じた権利が設けられています。

それぞれについて、無断で利用しても著作権侵害にならない場合などの例外規定が設けられています。

しかし、メタバースにおける著作物の利用は、作品の種類に関係なく、公衆送信権という同じ権利が設定されています。

そして、この公衆送信権は、細かい例外規定が設けられていません。ですので、現実世界では許可を得ずに行えるような著作物の利用でも、同じことをメタバースで行うと公衆送信権侵害になる場合があります。

|意匠権

ここでは、意匠権がメタバース上でどのように扱われているかということをご説明します。

意匠権とは

意匠権とは、工業上利用することができる新規のデザインを独占的・排他的に使用できる権利です。

意匠権で保護できるのは、物等の全体のデザインの他、部分的に特徴のあるデザイン等です。

2020年4月から、家具などだけではなく、建築物や内装、画像も意匠登録の対象に加えられています。

メタバースにおける意匠権

意匠権は、同一又は類似する意匠にしか効力が及ばないと定められているため、メタバース上で特定の物品を再現したとしても、現実の物品と同一は類似する意匠であるとは言えず、現在のところ、意匠権の侵害には当たらないと考えられます。

また、画像も意匠登録の対象ではありますが、機器操作のために表示するアイコンのような画像や、機器がその機能を発揮した結果として表示される表示画像に限定されています。

そのため、メタバースで使用されるアバターやアイテムなどのデジタルアセットについて意匠権を登録することはできないことが多いと考えられます。

現状のままでは、意匠権によって現実の商品などのデザインをメタバース上で保護することが不可能になってしまうため、意匠権による保護対象の拡大を含む法改正による手当ての可能性について提言されています。

|商標権

次に、意匠権の内容と、メタバース上で商標権の侵害が起こりうるのかを解説します。

また、実際にメタバース上の商品が商標権の侵害として訴えられた事例もご紹介します。

商標権とは

商標権とは、商品やサービスについた目印である商標を保護することを目的とする権利です。

特許庁に出願、登録することで、商標権の保護対象として認められるようになります。

立体的な形状の商品や営業を提供する建物などの立体商標についても登録が認められていますので、そうした建築物をメタバース上で再現する場合には、商標権を侵害しないよう配慮が必要になると考えられます。

メタバースにおける商標権

商標登録された現実の建築物を再現したものを、メタバース空間にただ配置するだけでは、商標権の侵害には該当しないと考えられます。

商標権の侵害とみなされるのは、実際にほかの商品などと区別するための商標的使用を行った場合です。

メタバース上で言えば、商標登録された店舗を再現した場所を店舗として、バーチャル商品を販売するなどの場合には、商標的使用とみなされる可能性があります。

しかしそもそも、意匠権と同様、現実世界の商品に関する商標権は、メタバース上の物品に及ばない可能性があります。

現状では、他者のメタバース上での無断利用を止めることができないかもしれません。

メタバース上でのデザインの無断利用に対して、商標権の侵害が問題になった事例として、「MetaBirkin」があります。

これは、エルメスのハンドバッグである「バーキン」を、デジタルアーティストが、NFT化して発行・販売したものです。

これに対しエルメスは、アーティストに対して商標権侵害であるとして訴訟しました。

|商品表示(不正競争防止法)

最後に、メタバース上で不正競争防止法への抵触が起こりうるのかを解説します。

商品表示(不正競争防止法)とは

商品表示(不正競争防止法)とは、事業者間における正当な営業活動を守るため、適正な競争の実施を確保することを目的とした法律です。

商標権や意匠権の申請をしていないものであっても、こうした表示として保護の対象になる場合があります。

この法律では、他者の商品表示を利用して不当に利益を得ることを規制するため、以下の行為を不正競争行為として禁止しています。

・混同惹起:広く知られた他人の商品等表示を無断で使用し、需要者に出所を混同させるおそれを生じさせること。

・著名表示冒用:著名な商品表示を無断で使用すること。

・形態模倣:模倣した商品の上と、貸し渡し、展示、輸出入。ここでの模倣とは、他者の商品と実質的に同一の形態の商品を作り出すことを指す。

メタバースにおける商品表示(不正競争防止法)

メタバース上で、他社の有名な商品表示を自分のものとして使用した場合は、混同惹起に該当し、不正競争行為とみなされる可能性があります。

しかし一方で、意匠権や商標権の場合と同様、メタバース上で単にロゴや特徴的な商品を再現するだけでは、商品表示の「使用」に該当するとみなされないと考えられます。

|まとめ

ここまでご覧いただきありがとうございました。

メタバースに関しては未だ法律が追い付いていない部分もあり、一見して知的財産権の侵害に思われるケースでも、侵害にあたらない場合があります。

しかし、法改正が重ねられるうちに、今回紹介した4つの法律が保護する範囲が広がり、メタバース上の物品であっても、知的財産権の侵害と扱われるようになるかもしれません。