今回はメタバースの歴史について解説します。

メタバースというと多くの人はここ数年のコロナ禍によって、リアルでは交流の代わりのオンラインの交流の場として利用されているので初めて知ったのではないのかなと思います。

実は、メタバースはそれよりもずっと前から発展していき、利用されてきました。

今のメタバースになるまでどのようなサービスが生まれ、また工夫されてきたのかといった歴史を一緒に見ていきましょう。

|メタバースの定義

ここでもう一度「メタバース」について、知っている方も多いかと思いますが確認しましょう。

メタバース(Metaverse)とは、アメリカのSF作家ニール・スティーヴンスン(Neal Stephenson)による1992年の小説「スノウ・クラッシュ(Snow Crash)」で登場する、インターネット上の仮想空間の事です。

そこからインターネット上につくられた仮想空間のことを指すようになりました。メタバースは「meta(超えた)」と「universe(宇宙)」を組み合わせた造語です。

現在、メタバースははっきりと定義されたものはありませんが、大規模なメタバースを運営する海外の企業の代表の定義を紹介します。

Makers Fund(ゲーム系VC)でパートナーを務めるMatthew Ball氏の定義

  1. 終わらない、永遠に持続する。リセットやポーズ、エンドは存在しない
  2. 同時性及びライブ性を持つ。事前にスケジュールされたイベント等はあるものの、メタバースの世界では、リアルな世界と同様に誰でもリアルタイムにその世界で起こることをライブ体験できる
  3. 同時接続ユーザー数に制限がない。誰もがメタバースの一部となり、特定のイベントや場所、活動に一緒に、同時に参加することができる。
  4. 経済性を持つ。個人や企業が他者に認められる「価値」を生み出し、「仕事」に対して報酬を得ることができる。
  5. デジタルと物理的な世界、もしくはプライベートとパブリック、オープンとクローズのプラットフォーム両方にまたがる体験であること
  6. データやデジタルアイテム、アセット、コンテンツに相互運用性があること(特定のゲーム内で購入したスキンを他のゲームでも活用できる…といったこと)
  7. 個人、グループ、企業などによって提供された「コンテンツ」や「体験」によって構成される。

米Roblox社CEOのDavid Baszucki氏の定義

  1. Identity(アイデンティティ)
  2. Friends(友達)
  3. Immersive(没入感)
  4. Low Friction(軋轢が少ない)
  5. Variety(多様性)
  6. Anywhere(地理的な制限なし)
  7. Economy(経済システム)
  8. Civility(社会的規範)

米Beamable社のCEOであるJon Radoff氏の定義

  1. 体験:ゲーム、ソーシャル、eスポーツ、シアター、買い物 ゲーム、社会的体験、ライブ音楽など
  2. 発見:アドネットワーク、ソーシャルキュレーション等を通じて人々がその体験を発見すること
  3. クリエイターエコノミー:デザインツール・デジタル資産マーケットプレイス等、クリエイターがメタバースのためにモノを作り、マネタイズするためのあらゆるもの
  4. 空間コンピューティング:3Dエンジン・VR・AR・XR・地理空間マップなど、私たちが物体と対話できるようにするソフトウェア。3Dエンジン、ジェスチャー認識、空間マッピング、そしてそれをサポートするAI等
  5. 非中央集権化:エッジコンピューティング・AI・マイクロサービス・ブロックチェーンなど、エコシステムの多くを、許可のない、分散された、より民主的な構造に移行させるもの
  6. ヒューマンインターフェイス:メタバースへのアクセスを助けるハードウェアのことで、VRヘッドセットから、高度なスマートグラスなどの未来技術等
  7. インフラ:5G・6G・半導体・クラウドコンピューティング・通信ネットワーク等

|メタバースの歴史

ここからは、いよいよメタバースの歴史について解説します。

メタバースの歴史は意外にも古く、メタバースの構想の誕生は1980年代から1990年代になります。

初期の段階では、どのような考えだったのかをこれから紹介していきます。

80・90年代:メタバースの啓蒙期

80・90年代のメタバースというものは、実際のメタバースの空間が存在するのではなく、映画や小説といった空想上の作品の中に登場する設定となっていました。

1981年にアメリカの数学者、計算機科学者、SF作家であるVernor Vinge氏が著した「マイクロチップの魔術師(True Names)」はメタバースの雛形となる仮想空間(Cyber-space)のコンセプトを初めて打ち出しました。

作中では、人々が脳と直接接続されたコンピュータによって接続する仮想空間(Other Plane)では、リアル世界と同じような五感が実現されただけでなく、各人が自由な外見を装うことができます。

また、高度に発達したこの仮想空間は現実世界の隅々までとリンクしており、データをコントロールすることで現実世界にも影響することができます。

パーソナルコンピューターとインターネットですらまだ普及していなかった80年代では、「マイクロチップの魔術師」が描画した仮想空間は時代を大きく先行していました。

1982年に公開された映画「トロン」も、メタバースを映像化したものだと言えそうです。

人間と変わらない知性をもつプログラムや自身をデータに変換して仮想空間内を動き回ることができるなどが可能な世界観となっていました。

最初に紹介したメタバースの言葉の起源である1992年の小説「スノウ・クラッシュ(Snow Crash)」もメタバース啓蒙期の作品にあたります。

2000年代半ば:第一回メタバースの波

今のメタバースの形である3Dの空間を自由に動き回る形は、この時代から始まりました。

この時代は、まだインターネットやPCが必需品ではなく、興味の持った人が入ってくるような楽しみ方がされていました。

「スノウ・クラッシュ」にインスパイアされて、2003年にアメリカのLinden Lab社による「セカンドライフ(second Life)」が誕生しました。

セカンドライフでは、ユーザーは自分でカスタマイズしたアバターを操作して、セカンドライフの広大な3Dの世界を歩き回ったり、他のアバター(ユーザー)とコミュニケーションできます。

また、セカンドライフ内に流通していて、リアルマネーに換金することも可能である「リンデンドル」という仮想通貨を利用して、他のユーザーとの取引も可能です。

最終的にセカンドライフの経済活動を通して100万ドル以上の財産を築き上げたユーザーも現れました。

これらの出来事はビジネスウィーク誌等のメディアに続々取り上げられたことで、2006年半ばにセカンドライフは米国で注目を集めだし、数ヶ月で数十万だったユーザー数が500万人まで登り、さらに2007年に日本版も公開され、日本においても大きなブームを引き起こし、その後すぐに1,000万人ものユーザー数を達成しました。

しかし、2007年に爆発的な人気を実現したセカンドライフは、1年で激しいユーザー離れを経験しましたが、大きく分けて2つの理由が挙げられます。

1. 技術インフラの未成熟によるユーザー体験低下

3Dグラフィックで描かれている世界はもとよりパソコンのスペック要求が高い上、ネットワークの制限により当時のセカンドライフは一つの区画において同時接続できる上限は数十人まででした。

セカンドライフは広大な空間を誇りますが、結局のところユーザーを分散させなければならずに、それぞれの空間は閑散してゴーストタウンとなり、ユーザー体験に著しく影響しました。 

2. インフレによる経済エコシステムの崩壊

大量のユーザー流入により、セカンドライフで発行されるリンデンドルの量が急激に増加してしまい、インフレが続いてしまいました。

やがてバブルが崩壊し、メディアの記事を見て金稼ぎを狙ってセカンドライフにやってきたユーザーは一気に離脱しました。

こうして2009年頃には、ブームは沈静化し、現在に至ります。

日本発祥のメタバースとして「アメーバピグ」がありました。「アメーバピグ」はサイバーエージェント社が2009年より運営しているサービスです。

アバター「ピグ」を使い、渋谷や浅草など実在の街をもした広場でチャットなどを楽しめました。

自分の「ピグ」を使える関連サービスも多く、サービス開始1ヶ月で登録数が10万人を超えるなど大変な人気を集めましたが、2019年にAdobe Flashの廃止に併せてPC版・モバイル版のサービスを終了しました。

2010半ば〜2020年代:第二回メタバースの波

 2010年代以降、家庭用PCやゲーム機のスペックが向上したことにより、再度メタバースの波が到来しています。

フォートナイト

EpicGames社より2017年から配信されているシューティングゲーム、フォートナイトは、理想的なメタバースに最も近いと言われています。

フォートナイトはアメリカンコミックのようなポップなビジュアルと、対応プラットフォームの多さで、2020年5月にはユーザー数が3億5千万人突破するなどバトルロワイヤルゲームとして世界的に人気を集めています。FPSのバトルロワイアルゲームとしてだけでなく、国内外の有名アーティストのライブをフォートナイト上で開催するなど、メタバースとしての大型プラットフォームの意味合いも持ち合わせています。

あつまれどうぶつの森

あつまれ どうぶつの森は任天堂から2020年にNintendo Swithで発売された、のんびりとした世界観でスローライフが楽しめるゲームで、新型コロナウィルスの影響もあり、単一のプラットフォームでの販売にも関わらず、2021年2月には全世界での販売本数が3100万本を超えています。

フォートナイトやVRChatほどの自由度はありませんが、プレイヤーの暮らす島をプレイヤー自身で地形からデザインすることが出来ます。

ゲーム内のフレンドではなくとも「夢番地」と呼ばれる機能を使えば他のプレイヤーが作った島を訪れることができるため企業や自治体の利用も増えています。

2020年の米大統領選ではジョー・バイデン候補(当時)が選挙活動用に『あつ森』上で島を公開したことで話題となりました。

また「マイデザイン」という機能を使って、プレイヤー自身で洋服や看板などデザインを作ることができ、Marc JacobsやValentinoなどの有名アパレルブランドが「マイデザイン」で自社ブランドの商品を模したデザインを公開。ゲーム内での経済活動自体はありませんが、各企業などからの注目が高いといえるでしょう。

VRChat

 VRChatはVRChat Inc. が2013年より運営している、VRに対応している仮想空間プラットフォームで、集まるための部屋(=ワールド)をユーザー自身で作れる(3Dモデリングの技術が必要ですが)自由度の高さで人気を集めています。

「VRChat」内でのイベントも多く、株式会社HIKKY主催の「ヴァーチャルマーケット」は、1100超の個人、70社超の法人が出展するなど注目を集めており、世界一ブース出展がされているバーチャルイベントなっています。

Cluster

 2017年よりクラスター株式会社によって運営されている、VR対応の国産仮想空間プラットフォームで、元々はバーチャルライブや、仮想空間内での企業カンファレンスなどの開催がメインでした。

2020年のアップデートにより、ワールド機能やフレンド機能が追加されたことで、交流プラットフォームとしても利用されはじめています。

初期はアバターは同一のものしか使用できませんでしたが、3Dモデリングを利用して自分で作成したアバターを使用できるほか、バーチャル配信アプリの「REALITY」で作成したアバターを使用できるようになったため、手軽にユーザーの個性を表現できます。

|メタバースを後押しする技術・時代背景

これまでのメタバースの波と現在来ている波の違う点は、デバイスの進化がメタバースの構想に追いついてきたため、理想の世界を楽しむ環境が整備されつつあります。

また、コロナ禍という外的要因も大きいです。

新型コロナウイルス感染症によるパンデミック

世界各地はロックダウンが実施され、人と直接会わずにコミュニケーションする重要が高まりました。ビジネスでもテレワークを導入する企業が一気に拡大し、デジタルの世界で密にコミュニケーションをとれるツールとしてメタバースが注目されました。

テクノロジーの成熟化

10年前と比べて、通信技術やパーソナルコンピューターが数世代の進化も遂げ、SNSの普及・浸透によりインターネット空間がよりリッチになり、UGC(User Generated Contents、ユーザーによって創作・提供されるコンテンツ)の文化も定着しました。

さらに近年、AR、VRといったイマーシブテクノロジーもますます成熟化しており、メタバースにより近いデジタル世界を構築するほどのインフラが整いつつあります。

中でも、専用のゴーグルを通じて仮想空間の中にいるような体験を実現するVR技術の活用は、メタバースの実現には不可欠だと言われています。

今後のVR技術の発展により、現状の視覚体験や身振り手振りにとどまらない、より自由度が高く充実した仮想空間内での体験が提供されることが期待されます。

近年の発展により、「拡張現実(AR)」「仮想現実(VR)」「複合現実(MR)」といった「イマーシブ・テクノロジー(没入型技術)」の市場規模は、2020年には63億ドルに達したと言われています。

|メタバース上での経済活動の実現

前述したメタバースの定義の中にも登場した「経済性」。

個人や企業がメタバースの中で自由な経済活動を行うために、活用が期待されているのがNFTとブロックチェーンです。

NFTとは「非代替性トークン(non-fungible token)」の略で、ブロックチェーン上に構築されるデジタルデータの一種です。

アートや音楽、コレクターズアイテムといったデジタル資産は、これまでもインターネット上に数多く存在していました。

しかしそれらは簡単にコピー、改ざんすることができたため、資産価値はほとんど生まれていませんでした。

それがNFTの登場により、ブロックチェーン上でデジタル資産の所有証明を発行し、その所有者歴に関する情報をすべて記録・確認することができるようになったため、デジタル資産にも価値が生まれるようになったのです。

実際にNFTの登場によって、従来は取引されることがなかったようなデジタル資産の高額取引が相次いでおり、2021年3月11日、Beeple(マイク・ヴィンケルマン)による「Everydays – The First 5000 Days 」がオンラインオークションで約6,935万ドルで落札され、NFT作品として史上最高額での落札となりました。

また2021年3月22日には、Twitterの創業者であるジャック・ドーシーが、自身初めてのTwitterでの投稿をNFT化し販売し、オークションサイトにて291万5835ドルで落札されました。

経済要素をメタバースに取り込むことによって多様で大規模な経済活動が実現できます。

|まとめ

今回はメタバースの歴史について解説しました。

最先端の技術で構成されているメタバースにも多くの歴史が詰まっていることをお分かりいただけたでしょうか。

まさに、現在進行形で紡がれているメタバースの変化を実際に利用することで体験してみるのはいかがでしょうか。

実際に体験することで、見聞きするだけでは分からない魅力を体感することができると思います。

それでは、次回の記事でお会いしましょう!