メタバースは、バーチャルリアリティや拡張現実などの技術を活用した仮想世界で、社会的相互作用、エンターテイメント、ビジネス活動がリアルタイムで展開されます。

しかし、そのサービス拡大と共にユーザー間のハラスメント問題が浮上しています。

本記事では、バーチャル美少女ねむさんとLiudmila Bredikhinaさんの調査結果をもとに、メタバース内で発生する言語的、物理的、そして環境的ハラスメントに焦点を当て、それぞれの対策とユーザーの安全を守るための取り組みについて解説します。

|メタバースとは

メタバースは、現実世界をデジタル上で拡張・融合したバーチャル空間で、ユーザーがアバターを介して交流や活動を行えるプラットフォームです。

この空間では、社会的相互作用、エンターテイメント、ビジネス活動がリアルタイムで展開されます。

より詳細な情報を知りたい方は下記の記事をご覧になってください。

今更聞けないメタバースとは?注目される理由と可能性、代表するサービスを一挙紹介
今更聞けないメタバースとは?注目される理由と可能性、代表するサービスを一挙紹介

|メタバースハラスメントとは

メタバースは、バーチャル空間での新たな交流を提供しますが、同時にハラスメントの新たな場も生み出しています。この問題は、性的嫌がらせ、人種差別など、多岐にわたります。

メタバース内でのハラスメントは、その没入感の高さから、被害者にとってより深刻な精神的影響をもたらすことがあります。

アバターを介したやり取りであっても、受ける傷はリアルなものと変わりません。

メタバースハラスメントに対する理解を深め、互いに尊重する文化を築くことが、健全なメタバース社会への第一歩です。

|メタハラの実態調査

バーチャル美少女ねむ(Nem)さんとLiudmila Bredikhina(Mila)さんはメタバースハラスメントに関する調査についてバーチャル学会2022にて発表しています。

本記事ではその調査を参考にメタハラの実態についてまとめました。

調査概要

バーチャル美少女ねむ(Nem)さんとLiudmila Bredikhina(Mila)さんはメタバースハラスメントに関する調査についてバーチャル学会2022にて発表しました。

この研究では、一部メディアで取り上げられているメタバースハラスメントについて、実際にメタバースの世界で生きている住民を対象にして定量的な調査を行い、ハラスメントの種類や影響について明らかにすることを目的としています。

対象:VR HMDを使用し、過去1年以内に5回以上ソーシャルVRを利用した英語・日本語話者

調査方法:Googleフォームを使用し、2022/9/5〜9/24の期間で実施。

また、J-STAGEには今回の発表内容以外にもNemさんとMilaさんの論文が掲載されています。

無料で閲覧できますので興味のある方は読んでみてください。

ハラスメントの種類

ハラスメントにはいくつか種類があり、言葉によるものや物理的なもの、環境に対するものがあります。

ここでは、それらの内容や影響について説明します。

言葉のハラスメント

「言葉のハラスメント」には、侮辱、脅迫、性的な発言などが含まれます。アバター間のコミュニケーションが主であるメタバース空間において特に一般的です。

被害者は、これらの言葉から精神的な苦痛を受け、場合によってはメタバース利用自体を避けるようになることもあります。

その攻撃性により、被害者のメンタルヘルスに深刻な影響を及ぼすことがあります。

物理的なハラスメント

「物理的なハラスメント」は、アバターを通じた不適切な接触や、攻撃的なジェスチャーを指します。

たとえバーチャル空間内の出来事であっても、ユーザーはこれを実際に体験しているように感じることがあり、不快感や心理的なトラウマを引き起こすことがあります。

特に個人の空間を侵害する形で発生し、メタバース内での安全な空間とは何か、という疑問を生じさせてしまいます。

環境ハラスメント

「環境ハラスメント」とは、メタバースの環境や設定を悪用して、特定の個人やグループを不快にさせる行為を指します。

例えば、攻撃的なメッセージを含んだ看板を表示する、あるいは特定の個人が不快に感じるような環境を意図的に作り出すことなどが含まれます。

この種のハラスメントは、メタバースのオープンで自由な環境を悪用することにより、被害者に精神的苦痛を与え、被害者がメタバース内で安心して活動することが保証されなくなります。

調査結果

レポートでは、876人の回答を地域別(日本、北アメリカ、ヨーロッパ)、物理性別(現実空間ユーザーの物理的な身体における性別)、ソーシャルVR(VR Chat、NEOS VR、Cluster、Virtual Cast)ごとにカテゴリを分けて比較しています。

結果として、ハラスメントを経験したことがあるユーザーは約半数に上ることがわかりました。

その中でも特に北アメリカや女性が経験率が高く、内容としては性的ハラスメントが最も報告されています。

3種類のハラスメントごとに見てみるとそれぞれ特徴があります。

言葉のハラスメントは地域やサービスに関わらず性的な言葉が高い比率を占めています。

一方、北アメリカで見ると経験したことがないと答えた人が0%となり、けなし言葉やヘイトスピーチが8割近くと他に比べて2倍近くあるといった特徴的な結果となりました。

物理ハラスメントでは、不必要な接触やパーソナルスペースへの立ち入りが多く、言葉のハラスメントと同様に、特に女性と北アメリカで値が高くなっています。

環境ハラスメントは少し特徴が変わり、地域や性別よりもソーシャルVRの違いがより影響を及ぼしています。

VR Chatが一番多く、ユーザー数が一番多くコンテンツが多いことが原因の一つだと考えられます。

ハラスメント被害者への影響

ハラスメントを受けたことで現実世界にどのような影響があったのかもレポートにまとめてあります。

その結果、ハラスメントを受けたユーザーの約半数近くになにかしらの影響はあったという回答が得られました。ハラスメントを受けることが多いからか、こちらも北アメリカと女性で顕著に現れる結果となっていました。

影響の内容としては、プレイの時間や頻度が下がったり、プライベートワールドで過ごすことが増えたりと、VRから離れたり、他人との接触を減らしたりようにするようになっていました。

興味深いのが、女性型/カワイイ系アバターを避けるようになったと回答した人が10%未満でした。

調査の中にはハラスメントの原因として考えられるものを聞いており、女性用アバターを演じていることが挙げられていました。

自分の使いたいアバターでハラスメントを受けるくらいなら、プレイしない選択肢を取る方が圧倒的に多いということがわかります。

それほど最近のソーシャルVRの没入感が高いことが伺えます。

|各ハラスメントへの対策

言語のハラスメントに対しては、ミュート機能やBAN対応を設けることでユーザーが自衛できるようにし、深刻さによっては法的措置として刑事告訴や賠償請求もできるような整備が行われています。

物理ハラスメントも同様にアプリ内でワープ機能やセーフティゾーンを設けるなどして対策しています。こちらも法的措置の適用が認められています。

環境ハラスメントへの対策としては、メタバースの利用規約による禁止や違反者への制裁が基本となります。具体的には、不快な環境を作り出す行為を利用規約で明確に禁止し、違反が確認された場合にはアカウントの停止などの制裁を科します。

よりよいメタバースを提供するためには、ユーザーがお互いにマナーや思いやりをもつことがとても大切になってきます。

|まとめ

メタバースは、その没入感の高さからハラスメントの問題も引き起こしています。

言語、物理的、環境ハラスメントといったハラスメントがあり、調査によってユーザーの半数近くが実際に経験したことがあるということが明らかになりました。

よりよいメタバースを提供するためにはその対策が重要となっています。

これには利用規約の明確化、ミュートやBANなどの違反者への制裁が含まれますが、根本的な解決をするためにはユーザー自身の意識改革が特に重要となってくるでしょう。

皆さまもぜひメタバースでのハラスメントについて、本記事をきっかけに考えてみてはいかがでしょうか。