テクノロジーの最新トレンドのひとつが「メタバース(Metaverse)」です。
コロナ禍での外出自粛によって注目に拍車がかかり、ゲーム、教育、仕事、社会的なインタラクションなど、様々な分野における活動が仮想の空間内で行われるようになりました。
最近では、メタバースを用いて行政に取り組もうとする自治体も増えてきています。
そこで本記事では、長野県のメタバースを活用した事例を取り上げていきます。
目次
|メタバースとは
メタバースは、「高次の」や「超越した」という意味の「メタ(meta)」と「宇宙」を表す「ユニバース(universe)」から造り出された言葉です。
仮想と現実が交錯する多元的なデジタル空間の表現をコンセプトとしており、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)技術を通じて、現実の広さや距離など物理的な制約のない世界へとアクセスすることができます。
また、デジタル空間では物理的制限に加えて時間的制限もなく、多様なコンテンツの体験が24時間いつでも可能となるため、新たなビジネスチャンスも数々と生まれました。
メタバースで提供されるのは、バーチャル展示会や講演会、即売会などで、距離を理由にイベントに参加できない人がメイン対象とされるケースが多いです。
メタバースの基本的な知識については以下記事で詳しく取り上げているので、こちらもご一読いただくとより理解が深まるかと思います。
|長野県でのメタバース活用事例
最近では地方創生を目的に、自治体がメタバースを取り入れるケースが増えています。
「最新の技術を取り入れている」ということが関心を持ってもらうきっかけとなるのです。
長野県でも、いくつかの自治体でメタバースが活用されているので、紹介していきます。
安曇野市|安曇野観光メタバース
安曇野市は、観光分野で初となる「安曇野観光メタバース」を2月29日にオープンしました。
このメタバース空間では、観光スポットが再現されていたり、360度パノラマ写真で体験できたりと、安曇野市を満喫することができます。
空間制作にはPC・スマホ・VRゴーグルといったマルチデバイス対応のプラットフォーム「DOOR」を採用しており、アプリのインストールなしに、ブラウザからアクセスすることができます。
空間には4つのルームと、ハブとなるロビーが1つの、計5つのエリアが存在します。
各エリアの詳細についてはこのあとで紹介します。
背景
安曇野観光メタバースには、デジタル空間における観光プロモーション等を通じて、若者を中心に観光客や通勤・通学の人口(交流人口)を拡大しようという目的があります。
また、安曇野市が注目を集めることで市の観光産業が盛り上がり、そこから観光産業以外にも影響していくといった二次的・三次的な経済効果(経済波及効果)を生み出すことも狙いとしています。
そこで、安曇野市の魅力あふれる観光名所や名物を再現し、誰でも手軽にアクセスできるメタバースという形で発信することとなりました。
特長
5つのエリアで構成されている安曇野メタバースですが、まずロビーはイベントスペースも兼ねており、メインスクリーンやステージを活かして様々なイベントが実施されています。
残りの4エリアは企画展示ルーム・観光ルート検討ルーム・絵本のようなルーム・大自然ルームとなっています。
企画展示ルームはギャラリーのような扱いで、安曇野インスタグラムフォトコンテスト2023入賞作品が展示されています。
観光ルート検討ルームには安曇野の有名な観光スポットを示した地図が置かれており、位置を確認しながら旅行のプランニングを行うことができます。
絵本のようなルームや大自然ルームは、若者視点で社会課題の解決に取り組むキャンパスラボのメンバーが、実際に安曇野を訪れた上で提案するおすすめの観光プランを閲覧することができます。
阿智村|メタバース商店街
長野県南部にある阿智村では、昔ながらの商店街を再現した「阿智村メタバース商店街」を2023年10月にオープンしました。
プラットフォームにはアメリカ企業が運営する「Spatial(スペーシャル)」を使用しており、VRゴーグルがなくともPCやスマホで体験可能です。
ただし、ブラウザでアクセスできるのはPCのみで、スマホの場合はアプリのインストールが必須なのでご注意ください。
阿智村メタバース商店街には、石材店や飲食店、旅館などがあり、昭和30年代のにぎわっていた商店街の様子が再現されています。
背景
この空間は美肌の湯と称される昼神温泉の出湯50周年を記念して、阿智村商工会によって企画されました。
商工会というのは地域の商工業者が会員になって事業やまちづくりのために活動を行う総合経済団体で、阿智村商工会では地域創生に向けて数々の事業が行われています。
開発は、IT導入やメタバースを通じた地方経済の循環向上を図る合同会社未来創生塾によって行われました。
阿智村メタバース商店街には商工会会員である14社が参加しており、その分野は飲食業やサービス業、製造業、小売業など様々です。
話題作りはもちろん、企業のビジネスチャンスの拡大や交流人口の増加にも期待されています。
特長
メタバースプラットフォームSpatialはリアリティのある空間やアバターが特徴的で、より現実味のある空間を表現することが可能となっています。
行政によるメタバース活用では、現実世界の正確な再現が良しとされることが多いですが、阿智村メタバース商店街では当時の雰囲気といった、形ないものの再現に重きが置かれているのが特徴的です。
現在はまだ仮オープン中で、来場登録を行うことで先行体験(無料)が可能となっています。
店頭に法被姿の店員が立っていたり、犬が寝そべっていたり、昭和レトロで情緒あふれる商店街の様子を堪能できます。
これから定期的にイベントも開催予定とのことなので、気になった方はぜひ一度阿智村メタバース商店街を訪れてみてはいかがでしょうか。
長野市|SaSaLAND(ササランド)
SaSaLANDは長野市の教育委員会による、不登校の小中学生のための教育支援センターです。
2024年4月のオープンに合わせて、メタバースにも再現されることとなりました。
空間に採用されたのは教育版のMinecraftで、子どもをターゲットとする取り組みらしさを感じます。
ノートパソコンやタブレットから参加し、建築や遊び、教育といった活動を行うことを想定しています。
背景
長野市では7か所に教育支援センターを設置し、不登校児童の社会的自立を目指す活動を行ってきました。
しかし、施設収容数などが原因で新たな児童の受け入れが難しくなってきたため、8つ目となるSaSaLANDの開設が決定されました。
メタバースも同時にオープンされることとなったのは、対面での交流や外出を苦手とする子どももターゲットとするためです。
メタバースSaSaLANDの空間制作には、信州大学教育学部の准教授と学生が携わっています。
特長
メタバースSaSaLANDの特徴は、何といってもゲームであるMinecraftを採用していることでしょう。
ゲームを用いることで子どもたちが興味を示し、気軽に参加できることを狙いとしています。
また、教育版のMinecraftでは通常のものと違って、プログラミングや情報教育といった学習が行いやすくなっています。
さらに、ユーザーの居場所の把握や集合といった機能があり、先生側が管理をしやすい仕様となっています。
伊那市|PRや移住相談、婚活にメタバースを活用
伊那市では、移住の促進や観光の発展、教育課題の解決へのメタバース活用が検討されています。
2022年から「伊那MRスクエア」というサービスを提供している伊那市ですが、現在はそこからさらに、アバター操作を可能としたメタバース空間の構築に挑戦しています。
背景
伊那市はアバターと呼ばれる自分の分身を操作してどこにいても人と交流できるメカニズムを利用して、地域の課題解決に至ることを狙いとしています。
伊那市はかねてよりICT(情報通信技術)の活用に力を入れており、最新技術を取り入れた地域創生を図っています。
メタバース空間というのは現実では繋がり得ない人同士が繋がることも可能とするため、新たな交流の拡大を目的に数々の施策に取り組んでいます。
施策
伊那市が行ったメタバース施策の1つに婚活があります。
参加したのは男女合わせておよそ20名で、お互いの顔を見ることなく交流できるスタイルが会話のハードルを下げ、気負わず話せるため好評だったとのことです。
また、PRへの利用も考えており、市を流れる三峰川をバックとしたメタバース空間の制作も行っています。
さらに、移住の相談窓口の選択肢にメタバースを追加することも決定しています。
|まとめ
今回は長野県のメタバース活用事例について紹介していきましたが、いかがだったでしょうか。
本記事がメタバースの活用や体験のきっかけになればいいのですが、実際に試すとなるとちょっとハードルが高いように感じてしまいますよね。
特に、メタバースプラットフォームには色んな種類があり、難しそうに感じられた方もいるかもしれません。
しかし、アプリのインストールなくブラウザ上で体験できるものも多いので、気になったものがあればぜひ一度触ってみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。