サウジアラビアが国家をあげてメタバースの活用・開発に力を入れているのをご存知でしょうか?
サウジアラビアは石油依存からの脱却を目指し、新たな産業の確立を目指しています。
それにしても、なぜメタバースなのでしょうか?
具体的にどんな取り組みをしているのか、注力する理由など、いろいろ気になりますよね。
この記事ではサウジアラビアのメタバースに関する動きをまとめ、その背景について解説します。
サウジアラビアの先進的な取り組みを知ることで、あなたもメタバースを活用するヒントが得られるかもしれません。
ぜひ、最後までお付き合いください。
|そもそもメタバースとは
メタバースとは、3Dのデジタル空間上に構築された、現実世界と同じような社会やコミュニティが存在する仮想世界のことです。
ユーザーはインターネットを介してメタバースにアクセスし、自分の分身となるアバターを操作して他のユーザーとの交流やイベントなどに参加できます。
例えば、任天堂のゲーム「あつまれ どうぶつの森」は、釣りや虫取りをしたり、貯めたお金でショッピングを楽しんだり、他のプレイヤーと交流したり、ゲーム内でさまざまな活動を楽しむゲームです。
これはメタバース的な体験の一例といえるでしょう。
近年、VRやARなどの映像技術や通信技術、VRデバイスの進歩によって、より現実に近い没入感のある体験が可能になっています。
今後、メタバースは私たちの生活やビジネスに大きな影響を与えると予想され、多くの有名企業なども参入し始めています。
|サウジアラビアのメタバース関連のトピックス
サウジアラビアは、メタバースを含む先進技術に多額の投資を行い、国家レベルでメタバース活用に力を入れています。
ここでは、サウジアラビアのメタバース関連のトピックを紹介します。
サウジアラビア政府、メタバースなど先進技術に7,000億円以上を投資
サウジアラビア政府は、2022年2月にリヤド市で開催された世界最大のテクノロジーイベント「LEAP」において、メタバースを含む先端技術分野全体に約64億ドル(約7,400億円)の大規模投資を行うと発表しました。
この投資の中にはメタバース以外の分野も含まれますが、メタバース開発企業への直接投資だけでも約10億ドル(約1,150億円)が予定されています。
これは2022年度の日本のメタバース市場規模1,377億円に匹敵する額です。
サウジアラビアのGDPが日本の約6分の1であることを考えると、その本気度合いが伝わってくる数字です。
これは、同国がメタバース分野を国家戦略上の優先事項と位置づけ、重点的に注力している姿勢が見て取れます。
メガプロジェクトの開発にデジタルツインを活用
サウジアラビアは、現在建設が進められている未来都市「NEOM」プロジェクトにおいて、メタバース技術、特にデジタルツインを活用しています。
デジタルツインとは、現実世界の物理的なオブジェクト、システム、プロセスなどを、デジタル空間上に再現したものです。
これにより、現実世界の挙動をシミュレーションし、分析、予測、最適化などを行うことができます。
この取り組みにより、構造的な問題を事前に発見し、エラーやコストの削減、安全性の向上といった環境面での利点が得られています。
各産業分野でもメタバース技術を活用
サウジアラビアでは各産業界でもメタバース技術の導入が進んでいます。
世界的な石油化学企業のAramcoやSabicにおいて、デジタルツインを活用することで、炭素排出量の削減やフレアリング(余剰ガスの燃焼処分)の削減に役立てています。
医療や教育の分野でも、日本とサウジアラビアをメタバースで繋いだ遠隔歯科教育支援の実証実験が実施されています。
また、ゲーム産業にも力を入れており、政府系ファンドのPIFを通じて、国内外のゲーム関連企業に多額の投資を行っています。
世界初の国家主導メタバース「Cultural Universe」を開始
サウジアラビアは、世界初の国家主導メタバースプロジェクト「Cultural Universe」を2024年2月22日に開始しました。
Cultural Universeは、サウジアラビアの文化遺産と歴史を体験できるメタバースです。
サウジアラビア文化省と世界的なソフトウェア企業のドロップグループ、オラクルとの協力により実現しました。
Cultural Universeでは、同国の建国から現代までの歴史を学ぶ「ヒストリーウォーク」や、音楽、芸術、料理などに特化した没入体験エリア、ミニゲーム、ライブパフォーマンスなど、様々なアトラクションを構築しています。
ドロップグループのAIシステムとオラクルのブロックチェーン技術を用いることで、ユーザーの嗜好に合わせたコンテンツ提供と、安全で透明性の高いデータ管理を実現。
サウジアラビアは、世界中の多くの人に自国を知ってもらい、文化や歴史に関心を持ってもらうことを目的としています。
サウジアラビアとThe Sandboxがメタバースで提携
サウジアラビアのデジタル政府機関(DGA)は、ブロックチェーン技術を基盤としたメタバースプラットフォーム「The Sandbox」と提携を発表しました。
今回の提携により、The SandboxはDGAとともにメタバース活用に関する相互の助言・支援を行っていく予定です。
この提携の発表を受け、The Sandboxのトークンである暗号資産「SAND」の価格が前日比25%以上の急騰したことでも話題となりました。
The Sandboxは、すでにアディダスやグッチなど世界的な有名企業が参入している有望なメタバースプラットフォームです
国家レベルの参入により、The Sandboxは、今後さらに発展していくことが期待されます。
|サウジアラビアがメタバースに注力する背景
サウジアラビアがメタバースに注力するのには、ムハンマド皇太子により掲げられた「ビジョン2030」という革命的な国家戦略があるからです。
その中身や背景について詳しく見ていきましょう。
サウジビジョン2030
出典:https://www.vision2030.gov.sa/ar/
サウジビジョン2030は、サウジアラビアの経済・社会構造改革の中長期計画であり、石油依存からの脱却と経済成長を同時に実現する国家の威信をかけた壮大なプロジェクトです。
改革の主要な軸としているのは以下の3つです。
- 脱石油依存経済
- 雇用の創出
- 行政の効率化
それぞれの目標の中に、さらに詳細な数値目標が掲げられています。
以下はその一部です。
主要目標 | 具体的目標 |
①脱石油依存経済 | – 産業の多角化- 非石油輸出の割合を16%から50%に引き上げ- 非石油収入を増加(1630億SR(約4.5兆円)から1兆SR(約27兆円)へ)- 文化・エンタメの活性化 家計の文化エンタメ支出 2.9%→ 6%- 経済特区の建設(NEOM構想)- 年間観光客数1億人 |
②雇用の創出 | – 職業教育、若者・女性の就業支援- 失業率を11.6%から7%に改善- 女性の就業率を22%から30%に向上- 中小企業の育成、起業支援 GDPに占める中小企業の割合 20%→ 35% |
③行政の効率化 | – 国営企業改革 アラムコの株式(約5%)を新規株式公開- 民営化の推進(医療・教育分野等)- 規制緩和や政府支出の効率化を推進 - 民間セクターのGDPに占める割合40%→ 65% |
これらの目標を達成するために、サウジアラビア政府は非石油部門の育成、民間部門の強化、外国投資の誘致、先進技術分野への投資など、様々なプロジェクトを推進しています。
特に、メタバースやAIなどの先進テクノロジーの活用は、サウジビジョン2030の実現に不可欠な要素と位置づけられており、前セクションで述べた通り、積極的な投資姿勢をみせています。
石油依存からの脱却
サウジアラビアがビジョン2030を掲げて強力に構造改革を推し進めているのには理由があります。
それは、国家収入の8割以上を石油に依存している資源依存型経済であり、以前から将来的な資源枯渇が懸念されていました。
さらに近年では、地球温暖化に端を発した世界的な脱炭素の潮流から、エネルギー需要の変化により、石油の需要は2030年にピークアウトするとの予測があります。
サウジアラビアは絶対君主制を敷く王国であり、その体制維持のため、石油収入の多くを国民に還元する高福祉政策を取ってきました。
しかし、国家の屋台骨である石油需要の変化により、国家統治モデルの崩壊の危機に直面しています。
つまり、サウジビジョン2030で掲げる脱石油依存経済の実現は、単なる経済改革にとどまらず、国家の存続に関わる重要な課題なのです。
産業の多角化と民間セクターの育成により、持続可能な経済成長を実現することが求められています。
ムハンマド皇太子のリーダーシップ
出典:https://www.vision2030.gov.sa/ar/progress/environment-nature/
サウジビジョン2030を掲げ、強力に推進しているのは次期国王就任が確実と見られているムハンマド皇太子の存在があります。
サウジアラビアでは、現サルマン国王の時代から構造改革を目指してきましたが、保守的な国内勢力により失敗してきた過去があります。
しかし、ムハンマド皇太子は、これまで保守的だった風土を一変させ、大胆な改革を断行してきました。
その一つに女性の権利拡大があります。
女性の自動車運転の解禁、女性の就労や起業を促進するなど、女性の社会進出を後押ししてきました。
さらに、これまで閉鎖的だった外国企業や海外観光客の誘致にも前向きで、2019年に観光ビザを解禁。
そのPRのため国家主導でメタバース開発を進めるなど、潤沢なオイルマネーを先進技術にも積極的に投資しています。
このように、サウジアラビアは、「ゲームチェンジャー」と言われるムハンマド皇太子の強力なリーダーシップのもと、国家の存亡をかけた攻めの投資を続けていくとみられます。
|国家をも惹きつけるメタバースの魅力とは
メタバースは、その潜在的な経済的価値と社会的影響力から、サウジアラビア以外の世界各国からも注目を集めています。
その中でも先陣を切ったサウジアラビアですが、国家をも惹きつけるメタバースの魅力はどこにあるのでしょうか。
ここでは、メタバースの可能性について深掘ります。
世界のメタバース市場規模
2022年にマッキンゼーが発表したレポートによると、メタバースの世界の市場規模は、28兆円〜43兆円と推定されています。
さらに、2030年には全世界で約720兆円に達すると予測されています。
サウジアラビアをはじめとする各国が、メタバースへの投資を加速させているのも、この巨大な経済的ポテンシャルを認識しているためでしょう。
メタバースは、新たなデジタル経済圏の中核として、国家の経済成長と産業革新を牽引する存在になりつつあります。
地理的な制約をなくし誰でも参加できる
メタバースは、物理的な距離や国境の制約をなくし、世界中の人々が誰でも気軽に参加する機会を提供します。
サウジアラビアのメタバースプロジェクト「Cultural Universe」は、この特性を活かし、同国の歴史、文化、芸術を世界中の人に広く知ってもらうことを目的としています。
ユーザーは、時間や場所に関係なく、バーチャル空間内でサウジアラビアの文化遺産を探索し、没入型の体験を楽しめます。
この取り組みは、実際の旅行が難しい人々にも、メタバースを通じてサウジアラビアの魅力を体感する機会を提供すると同時に、リアルの観光振興にもつなげようという試みです。
テクノロジーの進化による経済性の確立
メタバースには、デジタル空間内で経済活動を行うことができるという大きな特徴があります。
つまり、現実世界と同じように、モノやサービスを売買したり、広告を配信したりすることで、収益を上げることが可能です。
これを可能にしたのが、ブロックチェーンをはじめとするWeb3関連の技術の進歩です。
ブロックチェーンを活用することで、メタバース内での資産の所有権を明確にし、改ざんや不正を防ぎ、安全な取引が可能になります。
サウジアラビアが投資しているThe Sandboxは、まさにこの技術を活用したメタバースプラットフォームです。
The Sandbox内では、土地やアイテムがNFTとして取引が可能です。
こうしたメタバース経済の仕組みは、VR/ARやAIなどの発展によって、より洗練されたものになっていくでしょう。
メタバースは、現実世界とデジタル世界をシームレスに結びつける新たな経済圏として、大きな可能性を秘めているのです。
メタバースの今後の展望
メタバースは、今後も技術の進歩と社会の変化に伴って、さらなる発展を遂げると予想されます。
5Gや6Gなどの高速通信ネットワークの普及、VRデバイスの進化、AIの活用により、メタバースは私たちの生活により身近なものになっていくでしょう。
すでに多くの有名企業が出資していますが、サウジアラビアのように国家戦略として投資する国が現れれば、そのトレンドはさらに加速します。
また、サウジアラビアは国内の人材育成にも力を入れており、メタバース関連分野の教育や研究開発を推進しています。
豊富な資金力と人材を背景に、サウジアラビアがメタバースの発展をけん引していく存在となるかもしれません。
メタバースは、技術の進歩と各国の投資によって、今後も目覚ましい発展を遂げていくと予想されます。
|まとめ
いかがでしたでしょうか?
サウジアラビアは、サウジビジョン2030の革命的な構造改革の中で、メタバースなどの先進技術に莫大な投資をしています。
本記事では、サウジアラビアの取り組み事例を紹介し、メタバースの可能性と魅力を探ってきました。
メタバースは、サウジアラビアの潤沢なオイルマネーの流入により、さらなる発展を遂げ、新たな文化と経済圏を構築する可能性を秘めています。
今からメタバースに注目し、その将来性を見据えることは、デジタル時代を生き抜くための重要な一歩となるでしょう。
本記事を通じて、メタバースの可能性に興味を持っていただけたなら幸いです。
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最後までご覧いただきありがとうございました。