企業のTVCMや説明会などでも良く耳にする「DX」。

その言葉の意味について何となく理解していても、それが企業活動や私たちの暮らしにどう関わっているのかを詳しく説明できる人はそれほど多くありません。

ましてや、DXとメタバースの関係については考えたこともなかった、というのがほとんどでしょう。

そこで今回は、企業が推進するDXとメタバースの関係についてじっくり解説します。

DXとはそもそも何なのか、メタバースとDXの違いは?DXの活用事例や今後の展望など、DXとメタバースにまつわる気になるポイントを深掘りして、じっくり説明していきます。

ぜひ、最後までご覧ください。

|企業が進めるDX(デジタルトランスフォーメーション)とは?

ではまず始めに、企業が推し進めているDXの本来の意味について考えてみましょう。

「DX(Digital Transformation)」を直訳すると、「デジタル変革」となります。

その意味合いとしては、デジタル技術によって既存の考え方やシステムを根底から覆すようなイノベーションを起こし、私たちの生活をより良いものへと変革することを意味します。

もっと簡単に言うと、「デジタル技術によって私たちの生活をより豊かにしていく」。これが、DXなのです。

ですから、DXは企業活動に限ったものではありません。

もちろんAIやIoT、ビッグデータなどのデジタル技術によって業務フローを改善したり、新たなビジネスモデルを構築することなどによって生産性を上げたり、従業員のためにより良い労働環境を整えることなどはDXの重要なテーマです。

しかしDXはそうした企業活動にとどまらず、デジタル技術によって私たちの社会全体をより良くしていこうという取り組み全体を表す言葉なのです。

そのため企業にとってはDXによって自社の企業価値を高めるだけではなく、消費者のより豊かな生活を目指すことが求められているのです。

|DX(デジタルトランスフォーメーション)とメタバースの違いは?

世界中で注目を集めているメタバース。

メタバースは「メタ(超越した)」と「ユニバース(宇宙)」を組み合わせた造語で、 インターネット上の3D仮想空間を意味します。

メタバースという仮想空間にはアバターを使ってアクセスし、そこで世界中の人との交流を楽しんだり、様々なイベントにも参加することができます。

またメタバースはビジネス分野での活用も進んでいます。

多くの大企業がメタバースに進出し、バーチャルショップをオープン。またNFTアイテムの売買も盛んに行われています。

メタバースは3Dの仮想空間という「もう一つの世界」によって、私たちの暮らしや生活をアップデートさせようとしているのです。

「デジタル技術によって私たちの生活をより豊かにしていく」ことがDXであるならば、メタバースはDXが目指す世界そのもの。

しかしもちろん「DX=メタバース」というわけではありません。

<DXとメタバースの違い>

  • DX:デジタル技術によって豊かな生活を目指すという「目的」
  • メタバース:DXが目指す世界を実現するための「手段」

このように言えるかもしれません。

メタバースは今まさに目まぐるしく進化し、世界中の企業が導入を進めている革新的なデジタル技術です。

既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションによって、人々の生活を豊かにしていくのがDXなら、それこそメタバースはそのDXの中心となりうるテクノロジーなのです。

|メタバースの仮想世界でできること

ではより具体的に、メタバースによって私たちの生活はどのように変化し、より豊かになっていく(DX)のでしょうか?

ここでは、メタバースの仮想世界でできる代表的な4つの事柄について取り上げます。

  1. 世界中の人々とコミュニケーションを取れる           
  2. 現実世界にはない空間を自由に構築できる 
  3. 商品を販売できる
  4. まざまなイベントが体験できる

では、一つずつ順番に見ていきましょう。

世界中の人々とコミュニケーションを取れる

メタバースでは同一の仮想空間内に不特定多数の人が参加し、自由に交流を楽しむことができます。

それならSNSで十分じゃないか、と思われるかもしれません。

しかしSNSは文字や音声のみ、Zoomは画面越しに話すことはできても参加者は特定の人に限られています。

その点メタバースは不特定多数の人とリアルタイムで、そして3Dの仮想空間でまるで実際に対面しているかのようにコミュニケーションが取れるため、その臨場感は段違い。

そのため、メタバースは「次世代SNS」と言われることもあるほどです。

3Dの仮想空間で他ユーザーとコミュニケーションが取れるといえば、オンラインゲームもそうかもしれません。それでメタバースは、SNSとオンラインゲームをかけ合わせたものとも考えることができます。

さらに今後の技術の発展によって、メタバース内で話していることが瞬時に翻訳されて、仮想空間内では言葉の壁も取り払われる可能性が高い。

そうするとまさに国籍や人種、年齢、性別も全く関係ない、自由で開かれた空間で、私たちは自由にコミュニケーションが取れるようになるのです。

現実世界にはない空間を自由に構築できる

インターネット上の仮想空間であるメタバースでは現実世界と全く同じ世界を再現したり、逆に未来世界やファンタジーの世界など、独自の世界を作り上げることができます。

仮想空間内での大規模オンラインRPGを描いた「ソード・アート・オンライン」や、映画「レディ・プレイヤー1」、「龍とそばかすの姫」などの世界観はまさにメタバースそのもの。

メタバースでは現実世界にはない空間を自由に構築でき、そこで現実世界では不可能な体験を味わえるのです。

また現実世界とは異なる空間を構築できるということは、現実世界でのハンデキャップを仮想空間内では克服できるということも意味します。

メタバースと現実世界が当たり前のように併存する時代が到来すると、仮想空間内でこそ本当の「自分らしさ」を発揮できると考える人も増えてくるでしょう。

それもまた一つのDXのカタチ、と言えるのではないでしょうか。

商品を販売できる

メタバースでは仮想通貨などを介して、現実世界と同じような経済活動も営まれています。

例えばスポーツメーカーのNIKEやファッションブランドのGucciなど、名だたる多くの企業がメタバース内にバーチャルショップンをオープン。

メタバース内で自分の分身となるアバターが身にまとうファッションアイテムの販売などを行っています。

ほかにもNFTの技術を利用した、NFTアートやアイテムなどの売買も盛んに行われています。

<NFTとは?>

ブロックチェーンを応用したデジタル技術。複製が容易なデジタルデータにオリジナル性を持たせ、唯一無二のデジタル資産を生み出すことができる。

企業がDXを推進する理由の一つは、革新的なデジタル技術によって新たなビジネスモデルを見出すこと。

メタバースの市場規模は、2030年までには200兆円を超えるとも予測されています。

メタバースという革新的なデジタル技術によって、今まさに新たな市場が誕生しているのです。

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まざまなイベントが体験できる

メタバースでは同一の仮想空間内に世界中から多数のユーザーがリアルタイムで集まり、交流することが可能。

ということはつまり、メタバースでは展示会やフェス、ライブなど、様々なイベントが開催可能ということであり、実際に大小様々なイベントが毎日のように実施されています。

コロナ禍によってオンライン配信やオンラインイベントも当たり前になりましたが、3Dの仮想空間で参加できるメタバースのイベントは臨場感や迫力という点で比較になりません。

さらに参加者もアバターとなって参加できるため、より強い一体感を味わえるのです。

今後はライブやフェス、展示会、スポーツなどの多くのイベントにメタバースから参加できるようになるでしょう。

世界中どこからでも参加できるメタバースのイベントは、私たちの生活をより便利で豊かなものにするに違いありません。

|DX推奨企業が取り組むメタバースの活用事例

メタバースで出来ることを踏まえた上で、ではDX推進企業はメタバースをどのように活用すべきでしょうか?

ここではDX推進企業のメタバースの活用方法として、以下の5つの事例を考えます。

  1. 会議・商談          
  2. オンラインオフィス         
  3. Eコマースやサービスの提供           
  4. イベント・ライブ
  5. 広告       

メタバースを取り入れることによって、企業のDXはどのようにアップグレードされるのか?

ぜひ注目なさってください。

会議・商談

コロナ禍で多くの企業がリモートワークやオンライン会議を取り入れています。

しかしDX推進企業がメタバースを導入することによって、さらなる生産性向上が見込めます。

例えば、Meta(旧Facebook)が提供してる「Horizon Workrooms」では、メタバース内にデスクやキーボードを持ち込んだり、ホワイトボードに自由に書き込むことができるなど、メタバースでの会議や商談が行いやすい環境を提供しています。

Zoom会議ではどうしても相手との距離やズレを感じてしまいますが、メタバースでは同じ空間内で話し合えるため、より濃密なディスカッションや商談を行うことができます。

物理的な距離に関係なく、まさにその場にいる感覚で会議や商談が行えるメタバースは、企業のDXをさらに加速させてくれるでしょう。

オンラインオフィス

会議や商談だけではなく、オフィスそのものをメタバース内に設置する流れも加速しています。

オフィスをメタバースに設置するメリットは、リアルタイムで誰もがそこにアクセスし、時間と空間を共有することができるということ。

Zoomでは皆で一斉にルームに入る必要がありますが、メタバースのオンラインオフィスでは常時そこに誰かがいて、自由に出入りしながら話し合ったり、一緒に業務を行うことができるわけです。

社員同士の雑談から新しいアイディアが生まれることもしばしばですから、オンラインオフィスをメタバースに設置することは企業にとってもメリットが大きい。

もちろん、オフィスの賃貸料や光熱費、社員の交通費などの物理的なコストも大幅に削減することが可能です。

会社に出社せず、自宅からオンラインオフィスに入って業務が行えるメタバースは、まさしくデジタル技術によって既存の考え方やシステムを根底から覆すイノベーションと言えるでしょう。

Eコマースやサービスの提供

メタバースの仮想空間には自社のショップや大型施設を設置し、様々なEコマースやサービスを提供することが可能です。

例えば、三越伊勢丹が提供するスマートフォン向けアプリ「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」では、スマホで手軽にメタバースにアクセスしてショッピングを楽しむことができます。

伊勢丹新宿店とその周辺の新宿の街並みがメタバースで再現されており、ユーザーは現実の街と同じようにウィンドウショッピングを楽しんだり、気に入ったアイテムがあればそのままオンラインストアで実際の商品を購入できるようになっています。

また渋谷区公認のメタバース「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」には、東急やパルコ、ベイクルーズら32社が参画。メタバースという新たな市場に打って出るには、スピード感がますます大事になってくるでしょう。

イベント・ライブ

上でも述べましたが、メタバースでは大規模なイベントやライブも開催可能。有名アーティストのライブや、大型イベントに多くのユーザーが参加しています。

世界最大のVRイベントであるバーチャルマーケットが今年も開催されました。

「バーチャルマーケット2022 Summer」と銘打たれた同イベントでは、大阪とニューヨークの街並みを再現。多くの企業がブースを開設しました。

さらに会場内で3Dアイテムやリアル商品を売り買いするだけではなく、様々なアーティストが行うライブやイベントにも参加することができました。

またジャスティン・ビーバーや星野源など、国内外の多くのビッグアーティストもメタバース内でライブを実施しています。

世界中どこからでも参加できるメタバースのイベント・ライブは参加するユーザーだけではなく、アフターコロナを見据えた新たなイベントを企画する企業にとっても光明となるに違いありません。

広告

メタバースに多くの人が集まれば、そこに広告を打ちたいと考えるのは企業として当然のことでしょう。

世界中で人気のゲーミングプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」を提供する米Roblox社は、メタバース内で表示するイマーシブ(没入型)広告事業への参入を表明しました。

デモ画面ではユーザーの分身となるアバターがシューズの広告を見た後、そのまま広告の中に入り、シューズを試し履きする様子が映し出されていました。

また着実にメタバース化を進めているバトルロイヤル・オンラインゲーム「フォートナイト」でも、ゲーム内ですでに広告を表示させています。

数億人のユーザーを抱えるフォートナイトでの広告の有効性は言うまでもありません。

3Dの仮想空間で表示させる広告は、現実世界のものよりもさらにエモーショナルで、ユーザーの興味を引く「体験」を提供することができるようになります。

メタバースの広告には大きな可能性が眠っているのです。

|DXの次にくるVX(バーチャルトランスフォーメーション)とは?

DXを推進している企業は、すでのその「次」を見据えています。

それが、「VX(バーチャルトランスフォーメーション)」。

VXは「Virtual(仮想)」と「X-formation(変質・変革)」を組み合わせた言葉で、現実社会と仮想空間を融合させた世界を目指すという概念です。

デジタル技術によってより良い社会を作り上げるのがDXですが、VXはさらにそれを推し進め、仮想区間と現実世界を融合させることによって様々な問題を解決しようとするのです。

VXの一つの例となるのが、内閣府が掲げる「ムーンショット計画」。

ムーンショット計画では2050年までに人間が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現するとしています。

高齢化社会や持続可能性などの現実世界のやっかいな問題を、仮想空間というもう一つの世界を使って解決する。それがVXなのです。

|VXを推進する3つの技術

私たちの社会を改善どころか、文字通り一変させうる可能性を秘めたVX。

そのVXの実現には、多くの先端テクノロジーが必要となるのは言うまでもありません。

まだ構想段階にあるテクノロジーも多いのですが、中にはすでに実現しているものもあります。

例えば…

  1. XR関連技術
  2. AI
  3. 5Gネットワーク

など。

これらはDX、そしてメタバースにも必要な技術ですので、それぞれ詳しく見ていきましょう。

XR関連技術

「XR」は、「VR(仮想現実)」、「AR(拡張現実)」、そして「MR(複合現実)」という先端技術の総称です。

2022年現在、XR関連技術は大きな進化を遂げており、企業活動だけではなく一般の人々の生活にも身近なものになってきました。

VR(仮想現実)

XR関連技術のうち、多くの人にとって最も耳馴染みがあるのが、「VR(Virtual Reality)」かもしれません。

仮想現実を意味するVR。ユーザーは専用のヘッドセットを装着して、3DCGで構築された仮想世界に入り込むことができます。

Metaが販売する「Meta Quest 2」や、発売間近の「PS VR2」がそれで、ユーザーは仮想空間に入り込み、そこであたかも現実世界であるかのような体験を楽しめます。

VRとメタバースの違いは、多人数で同時接続できるかどうか。

VRは基本的に一人だけで楽しむもの。しかしVRヘッドセットを装着してメタバースにアクセスすれば、それがメタバースとなります。                                                                                                                                        

AR(拡張現実)

「AR(Augmented Reality)」は日本語で「拡張現実」と訳されます。

VRとARはよく似たものと混同されがちですが、全く異なるものです。

  • VR:ユーザーが3Dの仮想空間に入り込む技術
  • AR:3DCGを現実世界に拡張表示させる技術

現実の風景にバーチャルの視覚情報を表示し、現実世界を「拡張」させるのがAR。

スマホを現実の風景をかざすと、そこにいないはずのキャラクターやCG情報が表示される。大ヒットしたスマホゲームの「ポケモンGO」や「ドラクエウォーク」が、まさにARを活用したサービスとなります。

ARはエンタメ関連だけではなく、DXやVXにも欠かせない技術。

例えば専用のARグラスを装着して工場の機械を覗くと、操作手順や修理箇所がCGで一目瞭然に表示させることができる。これからますます活用が進んでいく技術の一つなのです。

MR(複合現実)

「複合現実」と訳される「MR(Mixed Reality)」はその名の通り、VRとARを組み合わせた技術となります。

VRを活用すると、ただ単に3DCGを現実世界に拡張表示させるだけではなく、表示させた情報を現実世界で操る事ができるようになります。

例えば、ビルの建設予定地に3DCGで完成したビルを原寸大で表示させる。それだけではなく、そのビルの中に『入り込んだり』、設備が動作する様子を確認できたりする。

このように、現実世界と仮想空間を融合させるのがMR。そのため、メタバースやVXには絶対に欠かせない技術となります。

MRを利用するには、専用のMRゴーグルが必要となります。Microsoftが開発・販売する「Microsoft HoloLens」が代表的なMRゴーグルで、世界中の企業で活用が進んでいます。

AI

「AI」は一般的に「人工知能」と捉えられています。それ自体は間違いではありませんが、もっと正確に言うと「人間が実現する様々な知覚や知性を人工的に再現するもの」、もしくは「コンピューターによる知的な情報処理システムの設計」となります。

AIがVXに欠かせないのは、扱う情報量が膨大だから。

VXではまず仮想空間を作り上げ、それを現実世界とリアルタイムでリンクさせていきます。そのためには現実世界と仮想空間とで膨大なデータのやり取りが必要となり、そこにAIが一役買うのです。

単に情報を扱うだけなら高性能のコンピューターがあれば良いのですが、AIを活用することによってデータを『知的に』扱うことができるのです。

米国郵政公社では全国195カ所のメール処理センターにAIを導入。これまで数日かかっていた紛失荷物の追跡が、2時間未満に短縮したと報告されています。

現実世界と仮想空間の融合には、AIの進化と活用が不可欠なのです。

5Gネットワーク

日本でもすでにサービスの提供が始まっている、「5Gネットワーク」。

高速大容量、高信頼・低遅延通信、多数同時接続を可能とする新たな通信システムの5Gネットワークは、大量のデータを扱うメタバース、そしてVXにも絶対に必要な技術です。

AIがなければ膨大なデータを処理するのは難しいですが、そもそもの話としてそのデータをやり取りするには、高速大容量のネットワークがなければ成り立たないのです。

5Gネットワークをこれまでの「4G LTE」と比較すると、その性能差は明らか。

  • 通信速度:20倍
  • 同時接続台数:10倍
  • 遅延:10分の1

5Gネットワークはデジタル技術によって新たな社会を作り上げていくための、根幹となるテクノロジーなのです。

|まとめ

企業がDXを推進することによってさらなる生産性向上、新たな市場の創造、より良い職場環境の構築などを実現させることができます。

しかしDXはそれだけにとどまらず、私たちの社会全体をより良くしていくためのものだ、ということをこの記事でご理解いただけたと思います。

そしてこれからそのDXの中心となっていくのが、メタバース。

なぜならメタバースがもたらすのは、革新的なデジタル技術によって既存の価値観や枠組みを覆し、私たちの生活をより豊かにしていくというDXそのものだからです。

企業としてDXを推進してくためにも、ぜひメタバースについての理解を深め、メタバースを今すぐに活用なさってください!