「ゲームエンジン」として広く知られるUnityが、デジタルツインの構築で注目されています。
しかし、ゲーム開発と産業DXがどう結びつくのか、なぜUnityが選ばれるのか、直感的に分かりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
デジタルツインについて知る上で「従来の3D CADソフトではダメなのか?」「Unityならではのメリットは?」といった疑問を抱く方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は、Unityがゲーム開発で培ってきた「リアルタイム3D描画力」や「高度なシミュレーション能力」こそが、現代のデジタルツインが求める要件と強く合致しています。
この記事では、Unityがデジタルツイン構築のプラットフォームとして選ばれる明確な3つの理由と、その真価を発揮するXR(VR/AR)技術による活用法まで、初心者にも分かりやすく解説します。
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目次
Unityがデジタルツイン構築で活用される3つの理由
Unityが産業分野、特にデジタルツインの構築プラットフォームとして選ばれるのには、理由があります。
それは、Unityがゲーム開発エンジンとしての3つの強みが、デジタルツインを実現・活用する上で非常に強力な特徴となるためです。
理由1:圧倒的なリアルタイム3D描画力
一つ目の理由は、Unityの持つリアルタイム3D描画能力です。
デジタルツインは、IoTセンサーなどから送られてくる膨大かつリアルタイムなデータを「可視化」することが基本となります。
Unityは、複雑な3Dモデルや大量のデータを、ゲームのように滑らかかつフォトリアルに描画することに長けています。
従来の産業用ソフトウェアでは難しかった、光の反射や影、質感までを忠実に再現したビジュアルで、工場の稼働状況や設備のデータを直感的に把握できるようになります。
その為、この描画能力が状況認識のスピードを向上させます。
理由2:ゲームエンジンならではの高度なシミュレーション
二つ目の理由は、ゲームエンジン特有の高度なシミュレーション能力(物理演算能力)です。
ゲームの世界では、キャラクターがジャンプしたり、物がぶつかって壊れたりといった現実の物理法則を再現する必要があります。
この技術が、デジタルツインにおける「もし〜したら」という未来予測にそのまま応用できます。
例えば、仮想工場内で「ロボットアームの動作速度を上げた場合に、他の設備と干渉しないか」「新しい生産ラインのレイアウトで、作業員や搬送車の流れ(人流・物流)はスムーズか」といったシミュレーションを、非常に高い精度で実行できます。
現実世界では試せないことを仮想空間で安全に試行できるのは、Unityの大きな強みです。
理由3:マルチプラットフォームへの対応力
三つ目の理由は、多様なデバイスに対応できる「マルチプラットフォームへの対応力」です。
Unityで開発されたコンテンツは、WindowsやMacといったPCだけでなく、iOSやAndroidのスマートフォン、タブレット、さらにはVR(仮想現実)ゴーグルやAR(拡張現実)グラスといったXRデバイスなど、非常に多くのプラットフォーム(OS・デバイス)向けに出力できます。
これにより、例えば「管理者はオフィスのPCで全体の稼働状況を監視し、現場作業員はタブレットやARグラスで目の前の機械の情報を確認する」といった、役割や場所に応じた最適な形でのデジタルツイン活用が、一つの開発ソースから実現可能になります。
Unityと従来の3D CAD/BIMソフトとの根本的な違い
Unityがデジタルツインに選ばれる理由を理解する上で、従来の3D CADやBIMソフトとの「目的」の根本的な違いを知ることが重要です。
「すでにCADデータがあるから十分では?」という疑問を持つ方もいますが、両者はデジタルツインにおいて異なる役割を担います。
「静的な設計図」が得意なCAD/BIM
まず、3D CADやBIMソフトの主な目的は、建築物や工業製品の正確な「設計図」や「形状データ(静的モデル)」を作成し、記録することにあります。
これらのソフトウェアは、寸法、材質、構造、コストといった情報を正確に保持することに特化しています。
あくまで「設計」や「図面の作成・管理」を行うためのツールであり、リアルタイムのIoTデータと連携させて「動かす」ことや、物理シミュレーションを行うことは本来の目的ではありません。
したがって、CAD/BIMはデジタルツインの「基礎データ(形)」を作成するための、非常に重要な上流工程のツールと言えます。
「動的な体験・シミュレーション」が得意なUnity
一方、Unityの目的は、CAD/BIMなどで作成された「静的な設計図(データ)」を取り込み、それを「動的な体験・シミュレーション」に変えることです。
Unityは、CAD/BIMデータ(形)に、IoTセンサーから送られてくるリアルタイムデータを組み合わせ、物理演算エンジンによって「動かす」ことに特化しています。
これにより、ゲームのようなインタラクティブ(双方向)な操作、高グラフィックスでのリアルタイム可視化、そして精度の高いシミュレーションを実現します。
つまり、CAD/BIMが「静的な設計図」を作るツールであるのに対し、Unityはデジタルツインを「動的なモデル」に変え、それを「体験」するためのプラットフォームである、という明確な違いがあります。
Unityで実現するデジタルツインの活用例
Unityの「リアルタイム3D描画力」と「シミュレーション能力」を活かすことで、デジタルツインは従来のデータ監視とは一線を画す、具体的な活用が可能になります。
特に製造業や建設業において、その価値は大きく発揮されます。
製造ラインのリアルタイム監視とシミュレーション
製造業では、Unityを用いて工場全体のデジタルツインを構築できます。
これにより、オフィスのPCからでも、仮想工場内の生産ラインがリアルタイムでどのように動いているかを、3Dグラフィックスで直感的に監視することが可能です。
各設備の稼働状況、センサーの数値、ロボットアームの動きなどが、現実と同期して視覚化されます。
さらに強力なのがシミュレーション機能です。
「もし、このラインの搬送速度を15%上げたら、ボトルネックはどこに発生するか?」「新しいロボットを導入した場合、既存の設備と干渉せずに稼働できるか?」といった”What-if”(もし〜したら)の検証を、現実のラインを止めることなく仮想空間で安全に、かつ正確に行うことができます。
建設・都市開発におけるBIM/CIMデータの可視化と合意形成
建設業や都市開発の分野では、BIMやCIMと呼ばれる非常に複雑で大規模な3D設計データが使われます。
Unityはこれらのデータを取り込み、ゲームのように自由に歩き回れるインタラクティブな3D空間として再現することが得意です。
これにより、専門家でなければ理解が難しかった設計図面を、発注者や地域住民、作業員など、あらゆる関係者が「体験」できるレベルで可視化できます。
例えば、ビル建設後の景観シミュレーション、時間帯ごとの日照シミュレーション、あるいは避難経路の妥当性などを、全員が同じ完成イメージを共有しながら議論(合意形成)するために活用されています。
XR(VR/AR)技術との圧倒的な親和性
Unityがデジタルツイン構築で選ばれる最大の理由の一つであり、その真価が発揮されるのが、XR技術との圧倒的な親和性です。
UnityはもともとVR(仮想現実)やAR(拡張現実)コンテンツ開発の標準的なプラットフォームであり、この強みがデジタルツインの活用方法を「見る」ものから「体験する」ものへと変えます。
VR活用:仮想工場(デジタルツイン)に入り込む
UnityのVR技術を活用することで、ユーザーはVRゴーグルを装着し、構築したデジタルツインの仮想工場や建設現場へ入り込むことができます。
これは、PCのモニター上で3Dモデルを眺めるのとは異なり、実物大のスケール感で空間を認識できるため、直感的な理解をサポートします。
例えば、まだ建設されていない工場の新ライン設計において、VR空間内で実際に歩き回り、「作業員の動線は確保されているか」「工具や部品の配置は最適か」といった点を、実寸大でレビューすることが可能です。
また、現実では危険を伴うような設備の操作訓練や、緊急時の避難シミュレーションなども、VR空間のデジタルツインを使えば安全かつリアルに実施できます。
AR活用:現実の機械に”デジタル情報”を重ねる
AR技術の活用は、デジタルツインを現実世界と融合させます。
Unityで構築したデジタルツインのデータを、スマートグラスのカメラを通して、現実世界の光景に「重ねて(拡張して)」表示させることが可能です。
これにより、現場の作業員が目の前の現物の機械にARデバイスをかざすだけで、その機械に紐づくデジタルツインの情報(現在の稼働状況、センサーの温度、過去のメンテナンス履歴、次の点検手順書など)を、現実の映像の上に直接表示できます。
例えば、複雑な修理作業において、ARが「次に締めるべきボルト」を視覚的に指示したり、ベテラン技術者が遠隔地からARを通して「ここを確認しろ」と指示を送ったりすることができます。
このように、UnityはデジタルツインをXR技術とシームレスに連携させ、データの価値を現場で直感的に活用できるレベルへと引き上げる力を持っています。
Unityでデジタルツインを構築する際の注意点
Unityはデジタルツイン構築に非常に強力なプラットフォームですが、その導入を成功させるためには注意すべき点も存在します。
特に、Unityの出自である「ゲーム開発」と、デジタルツインが対象とする「産業用データ」とでは、求められる技術やノウハウが異なる点を認識しておく必要があります。
産業用データの取り扱いや最適化のノウハウが必要
第一の注意点は、産業用データの取り扱いに関する専門的なノウハウが必要となることです。
デジタルツインでは、製造業や建設業で使われる3D CADやBIMといった、非常に大規模で複雑な設計データを扱います。
これらのデータをそのままUnityに取り込むと、データ容量が膨大すぎて動作が極端に遅くなったり、描画が破綻したりするケースが少なくありません。
そのため、データの構造を理解した上で、品質を保ちつつ軽量化・最適化する専門技術が不可欠です。
また、IoTセンサーから送られてくる多様な規格のリアルタイムデータを、安定してUnityに連携させるためのシステム構築ノウハウも求められます。
開発パートナー選びの重要性
上記の理由から、デジタルツイン構築の「開発パートナー選び」が非常に重要になります。
デジタルツインプロジェクトを成功させるには、Unityによる3D開発能力(ゲーム開発の知見)だけでは不十分です。
それと同時に、製造業や建設業といった「産業ドメインの業務理解」や「IoT・CADデータ連携の技術知見」の両方を併せ持つパートナーを見極める必要があります。
これらの知見が不足していると、見た目は立派でも、実際の業務課題の解決には役立たないデジタルツインになってしまうリスクがあるため注意が必要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、Unityがデジタルツインで活用される理由を解説しました。
Unityは、デジタルツインを「監視・分析」するツールから、関係者全員が「体験」できるプラットフォームへと進化させる強力なツールとなります。
その理由は、本記事で解説した通り、ゲームエンジンとして培われた「リアルタイム3D描画力」「高度なシミュレーション能力」、そして「XR(VR/AR)との圧倒的な親和性」にあります。
従来の3D CADソフトが静的な「設計図」に留まるのに対し、UnityはIoTデータと連携した”生きている”仮想空間を構築します。
これにより、VR空間で未来の工場を実寸大で歩き回って設計レビューを行ったり、ARで現実の機械にデジタル情報を重ねて現場作業を支援したりするなど、データを「体験」として直感的に活用する道が開かれます。
弊社では、メタバースやXR技術を活用したデジタルツインの開発も行っております。
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