昨今さまざまな分野で活用されているXR。

実は今、教育現場での活用が広がりを見せています。

なぜXRが教育現場で活用されているのでしょうか。

また、XRを利用することで教育を受ける側・教育を提供する側の双方にどのようなメリットが生じるのでしょうか。

最終的に、XRは教育を今後どのように変えていくのでしょうか。

具体的な活用例も含め、ご紹介いたします。

|そもそもXRとは?

メタバース相談室でも過去何度か取り上げていますが、改めてXRについて概要をご説明します。

XR(X Reality)とは、現実世界と仮想世界を融合することで、現実にはないものを知覚できるようにする仮想空間技術の総称のことです。

3DCG等を利用して作り上げた仮想空間や仮想空間に存在する人や物体を、デバイスを通じてユーザーは「現実にあるものだ」と感じることができるのです。

VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)・SR(代替現実)は全てこのXR技術に含まれます。

技術が発達する中で、上に挙げた4つの技術を単独で利用するのではなく、2つ以上を組み合わせてコンテンツが作り上げられるようになりました。

そのため「これはVRだ」などと技術の線引きをすることが困難になり、全て総称した名称としてXRという言葉が生まれたといわれています。

各技術について今回は詳しく触れませんが、過去の記事で詳しくご紹介しておりますので併せてお読みください。

XRとは?VR・AR・MR・SRとの違いや活用事例をご紹介!
XRとは?VR・AR・MR・SRとの違いや活用事例をご紹介!

|教育はXR業界においてゲームの次に高い支持を受けている

上記で説明したXR技術は、これまでゲーム分野で活用されるというイメージが根強いものでした。

しかし、今後期待できる分野として「教育分野」が挙げられています。

実際、教育分野でのAR/VR市場規模について、2016年以降は北米市場を中心として大きく広がりを見せています。

特に高等教育の分野では年間51%の成長が続くとされていたので、非常に高い関心が向けられていることがわかりますね。

では、日本はどうでしょうか。

IDC JAPANによると、2022年時点でのAR/VR分野別支出金額でトップは「消費者向け」の6,446億円。主にゲーム分野向けとなっています。

しかし、日本は世界的に見てもこういったXR技術全体の普及が遅れています。

その原因は、消費者である私たちがXR技術に対して非常に消極的であるということです。

関心自体は寄せられているものの、デバイスが高価なためそもそも家庭で触れる機会自体が少なく、体験してみたいと思っても気軽にできないという点も考えられるでしょう。

そんな私たち消費者のボトルネックを壊すべく期待されているのが「教育分野」なのです。

2018年に開発者会議のXRDCが発表したレポートでも、今後注力すべきコンテンツとして教育分野はゲーム分野に次ぐ支持を受けています。

これまでゲーム分野で活用されてきたXR技術が教育にどう取り入れられているのか、次項では紹介いたします。

|教育現場におけるXR活用事例とメリット

XRを教育現場で取り入れることによってどのようなメリットを享受できるのでしょうか。

実際の事例を含めてご紹介いたします。

また、過去の記事でも事例をご紹介していますので併せてご覧ください。

「XR」を教育の現場でどう活用する?子どもと相性の良いXR導入例
「XR」を教育の現場でどう活用する?子どもと相性の良いXR導入例

リモート学習への活用

2020年、コロナウイルスが世界的に大流行しました。

感染予防対策として企業ではリモートワーク導入が進み、学校や学習塾といった教育現場でもリモート授業・学習での対応を余儀なくされました。

zoom等のビデオ通話ツールを用いて授業は受けられるものの、対面形式に比べ生徒たちは受け身になる時間が増えます。

先生の話を聞いてばかりの時間が長いとどうしても集中力が続かなかったり、飽きてしまったりということもあるでしょう。

加えて自宅という慣れた環境下ということもあり、だらけてしまうという懸念もあります。

そこでXR技術の出番です。

立体映像を伴うことで、生徒の興味を引き、受動的ではなく能動的に学ぶようになります。

口頭、文章だけでどうしても伝わりにくいもの、実物を見てほしいものについて映像で見せることで理解を深めることもできます。

教育者目線からいえば、教材コストを削減できるというメリットもあります。

現在はコロナウイルスも落ち着きを見せており、ほとんどが対面授業となりました。

しかし一部の学校や学習塾ではリモート授業を継続しているので、今後もこういった活用方法で生徒たちを遠隔でも能動的に学ぶ環境を用意することが可能になります。

イメージすることが重要な授業に役立つ

授業は基本的にテキストを使い、先生の板書を見てノートを書く…という形式が基本ですよね。

つまり、生徒は全て机上で完結するということがほとんどです。

しかし、時には理解するうえで「イメージすること」が重要な単元もあります。

例えば、立体の授業を思い浮かべてみてください。

展開図を組み立ててどのような立体ができるのかを考えるとき、頭の中で組み立てる様子をイメージしなければ正解を導くことはできませんよね。

また、テキストに書いてある立体は平面上に存在しているので、「後ろから見たらどんな形なのか」「切った時の断面はどのような形なのか」など、見えない部分やできない行動に関してはイメージをして考える必要があります。

こういったイメージありきの単元で躓いてしまうということは珍しいことではなく、実際に今この記事を読んでいる方の中にも「そういえば苦手だったなあ」という方がもしかしたらいらっしゃるかもしれません。

それ以外にも、今都心部では自然が少なくなっています。

つまり、草木や花、虫や生き物、星など、自然科学分野に触れる機会が少ないのです。

ですので、田舎に行ったことがないという子供はこういった実物を目にすることは本やインターネットを通して経験をすることしかできなくなってしまいます。

そこで、XR技術が役に立ちます。

イメージすることができないものや目にすることができないもの、経験を具現化して見せることで、教育分野にとっては大きな助力となるのです。

子供は「わかる」ことが増えることで学習意欲が高まりますし、経験したものについては自信をもつことができます。

こういった点で、XR技術は大いに活用が期待できることでしょう。

実験等を行っても危険がなく失敗できる

XR技術は仮想での出来事なので、失敗も臆することなくできます。

ですので、失敗が危険に繋がることもある場でこのメリットを活用することができます。

例えば理科実験では、火や薬品など、危険なものを扱うことがありますよね。

過去にも実験中の失敗によりボヤ騒ぎや異臭騒ぎが起きた事例もあり、教育者側としても「なかなか経験させてあげられない」という葛藤があったのではないかと思います。

しかしXRを用いて仮想空間上で実験を行えば、もし失敗したとしても仮想の出来事なので問題ありません。

教育者側も安心して様々な経験を生徒に提供することができますので、より理解を深めることができますね。

また、医学部での手術トレーニングにも利用されています。

有名医療研究機関であるアメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部でも、以前に研修の実証実験が行われていました。

手術も現実では失敗したら命に関わりますので、こういったXR技術を用いて練習を行うことでより実践的なシミュレーションを行うことができます。

「失敗が許されない」「危険に繋がる」といった場での教育においても、XR技術は多大なる恩恵を与えているといえます。

企業の従業員教育にも取り入れることができる

これまで学校や学習塾など教育機関での事例やメリットを取り上げましたが、企業でも社員を「教育」する場面がありますよね。

場所は違えど同じ「教育を提供する場」として、企業でもXR技術は活用されています。

以下にいくつか例を挙げます。

ケンタッキー・フライドチキン

新人研修において、XRによる脱出ゲーム方式の研修を実施しています。

チキンの作り方を短時間でもマスターできるようなプログラムとのことです。

社員しか体験することはできませんが、実際の様子をYoutubeで見ることができます。

全日本空輸株式会社(ANA)

客室乗務員訓練においてXRが取り入れられています。

内容としては機内での緊急時対応です。

普段の研修では味わえないような緊張感を持ち、訓練ができるようになっているようです。

東日本旅客鉄道(JR東日本)

XRで労災事故を再現した安全教育を実施しています。

鉄道の三大労災のうち「触車」「墜落」において4つの事故を再現し、これまでの課題となっていた危機感の欠如を補ったとのことです。

また、機器とスマートフォンさえあればどこでも研修を受けることができるので、集合研修でなければいけないというこれまでの常識も覆したものとなりました。

これ以外にも様々な企業で社員教育にXRが利用されています。

普段なかなか体験できないシチュエーションを再現できることや、失敗しても何度も取り組むことができることがメリットとして考えられますね。

まだまだ日本企業での導入は進んでいくのではないかと考えられます。

|XR活用による懸念点

ここまで様々な活用事例と併せてXRを利用するメリットをご紹介しました。

一方でいくつか懸念すべき点もあります。

コスト

資金面での懸念は一番大きな課題ではないでしょうか。

まず、システム自体の開発費で数百万円程度のコストがかかります。

それだけでなく、必要に応じて機器の用意もしなければならないので、そこにも数万~数十万円かかってしまいます。

ITリテラシー

導入したところで、そもそも機能を使いこなせるのか、それを指導することができるのかも課題として考えられます。

指導する職員、指導を受ける生徒や職員、双方の年齢や経験によりITリテラシーも異なります。

それによって教育の質が変わってきてしまいますので、導入前に各々のITリテラシーを把握し、必要に応じて研修をしなければいけない必要があります。

|XRによって今後教育現場がどう変わるか

では、今後XRは教育現場にどのような変化をもたらしてくれるのでしょうか。

XRにより、教育現場はより「能動的」に学ぶことができる場になり、尚且つ「実践的」な経験を積むことができる場に変わっていきます。

教育を提供する側は、生徒の興味を引き、テキストや口頭では伝えられなかったことを伝える力をつけることができます。

立体映像やイメージの具現化により、見せられなかったものが見せられるようになります。

そして、危険が及んだり体験できないシチュエーションを体験させることで、経験の場を与えることが可能です。

教育を受ける側は、学ぶことを助けてくれるツールを得ることができます。

その場に行かないと見ることができないもの、その状況にならないと経験することができないことをXRによって見たり聞いたり体験したりすることが可能です。

経験が多ければ、実際に現場に出た時に糧となる自信を得ることができますね。

そのように、お互いにとって円滑な教育ができるようにXRは教育現場を変えてくれることでしょう。

その中で、導入におけるコストが抑えられ、ITリテラシーの底上げが日本全体でできるとさらによりよい形に変わっていくのではないでしょうか。

|まとめ

今回はXRが教育現場でどのように活用されているかについてご紹介しました。

まだまだ課題はありますが、XRを取り入れることで教育現場へのメリットは大きいでしょう。

ぜひ日本も諸外国に負けず、積極的に導入していってほしいですね。

今後もXRと教育との関わりや成長に期待してみてはいかがでしょうか。