今回はARの教育現場での活用方法についてご紹介していきます。

最近は簡単にスマートフォンをかざすことによってAR体験ができるサービスが増えています。

皆さんの目に多く触れるのはゲームやエンターテインメントなどに活用されているサービスかと思いますが、教育の観点からのAR活用が注目されています。

どのように活用されているのかイメージが付きにくい方も多いのではないでしょうか?

それでは早速見ていきましょう。

|そもそもAR技術とは?

ARとは、「アグメンティッド・リアリティ(Augmented Reality)」の略称で、日本語では、「拡張現実」と直訳されます。

スマートフォンやタブレット、カメラに映し出される映像を通じて、現実世界にデジタルコンテンツを投影する視覚技術です。

現実世界にバーチャルな視覚情報を加えて現実環境を拡張します。

AR技術を活用することで、現実世界にないものをまるで存在しているかのように体験することができます。

ARを使ったサービスは、主にエンターテイメントの分野で多く取り入れられており、近年ではスマホゲームの「ポケモンGO」が大きな話題となりました。

現実世界でスマホをかざすと、あたかもそこにポケモンが存在しているかのように、CGのポケモンがデバイス上に表示されます。

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|ARが教育現場で注目される理由

ARやVRが教育分野で期待される理由として、拡張現実や仮想現実によって「体験」や「経験」ができることが挙げられます。

テキストや動画、音声などの教材だけでは体験しにくいことをARで表現することで指導や講習の幅が広がることは間違いありません。

単に聞くだけでイメージするよりも、実際に見て体験した方が学習の質が高いことは火を見るよりも明らかです。

また、ARは再現できないような状況でさえも体験することが可能となります。

座額だけでは言葉や文章でしか説明できなかった部分でさえも体験できるので、今までの教育とは違ったレベルでの学習効果が得られるという期待が大きくなるのも当然と言えます。

|AR技術を教育に取り入れるメリット

ここからはAR技術を教育に取り入れることでどのようなメリットがあるのかについて紹介していきます。

好奇心を刺激して学びをより楽しくさせられる

真っ先に考えられるのが、ARを活用した刺激的な教材の利用によって、子どもたちの好奇心を刺激し、より積極的に勉強に取り組むようになることです。

単に文章を読解や表面的な理解だけに留まらず、様々なコンテンツを目の前に表示できるARを活用することによって、子どもたちが物事の関連性に気づき、「生徒の学び」と「理解」がさらに深まる、と四国大学児童学科の奥村秀樹教授は考えています。

「現実の映像に仮想的な画像や映像,文字情報を付加することでしか表せない教育的な提示内容をできるだけ多く見つける必要がある」とも奥村教授は述べています。

「一方的に教師から与えられる知識」と「自らが学び気づいて獲得した知識」、どちらが深く身に付くかは一目瞭然です。

子供たちの気づきのサポートをしてあげられる点でAR学習はメリットとなります。

学習の理解度が高められる

先でも述べましたが、ARでの学習は理解度を高める効果があります。

実際に自分の目で見たというリアルな体験に基づく学習により、知識吸収が促されます。

そのため、ARは教育現場において活用できる先端技術として、文部科学省の方策にも盛り込まれています。

学習にARを利用した実験は海外でも広く行われていて、学校の授業にARを用いたクラスを調査した結果では、82.7%の生徒がARを教材として用いた授業の内容により強い関心を示し、81%の生徒が授業の理解度が深まった、と報告されています。

学習する時間や場所の制限がなくなる

学習分野にARを用いることのメリットは、子どもたちの理解の促進だけではありません。

様々なアプリを活用することによって学習時間や場所の制約がなくなり、従来不可能だった学習方法も可能となります。

遠隔地のクラスを同時に受け持つ授業、逆に授業の様子を記録して別の時間や場所で授業を受ける「タイムシフト授業」なども可能になります。

通常の対面教育と通信教育のメリットを活かしつつ、さらに遠隔地の子どもたちが最先端の授業を同じように受けることができるようになります。

没入型のVRデバイスとは異なり、ARデバイスは視界を遮ることなく、装着したままノートを取ることもできるため、生徒たちも違和感なく授業をすすめることができる点もメリットのひとつです。

企業の社員研修や教育にも役立つ

技術系の専門職に従事する社会人もARの恩恵を受けることが出来ます。

社員に専門知識や技術を教える際はマニュアルや映像が活用されますが、いずれもリアリティに欠けることが多く、必ずしも高い効果を発揮するとはいえません。

社員研修にARを取り入れ作業現場を仮想化することで、実際に作業を行うイメージが湧きやすく、速やかな技術習得に役立ちます。

ラーニングコストを削減することにより、浮いたコストを別の現場に再配分することができるため、社員はもちろん、企業側にもメリットがあるのです。

|ARを実際に取り入れている教育現場の事例

ARを教育現場で活用することのメリットについて話してきましたが、ここからは実際にARがどのように活用されているかご紹介していきます。

三重県桑名市で実施されたARの理科授業

出典:https://avrjapan.com/news-creatoravr1/

まずは三重県の小学校で活用された事例です。

2019年10月9日、AVR Japan株式会社は三重県桑名市教育委員会と共同で、ARを活用した理科授業を実施しました。

桑名市立益世小学校で行われた授業では、教育アプリケーション「Creator AVR」が使われました。

授業は、本アプリケーションをインストールしたタブレットでバッタや蝶など昆虫の3Dモデルを表示し、身体の仕組みと生態を学ぶという内容です。

教科書や図鑑など平面に描かれた図だけではわかりにくい細かな身体の仕組みも、ARを活用することで視覚的に把握できるようになります。

ARが活用されているベーシックジーニアス英和辞典第2版

出典:https://amzn.asia/d/adGm0JO

2つ目は、辞典で活用された事例です。

株式会社大修館書店が出版する「ベーシックジーニアス英和辞典 第2版」には、AR技術が活用されています。

ARアプリケーション「RICOH CP Clicker」をインストールしたスマートフォンで巻頭カラーページ「ピクチャー・ディクショナリー」を撮影すると、単語や会話の音声を再生できます。

従来のCDが付属した辞書とは異なり、スマートフォンがあれば速やかに音声を再生できるのがメリットです。

読者は手軽に音声を再生でき、製作者はCDを作る手間やコストを省けるため、今後ARアプリケーションを音声再生手段とする教材は増えていくことが予想されます。

電子辞書やWeb検索の台頭により、いわゆる「紙辞書」の使用機会が減少していましたが、AR技術を取り入れることにより、再び紙辞書の使用機会が増えていくと予想されます。

ビジュアル資料を掲載したグラフィックサイエンス

出典:https://www.coco-ar.jp/media/cases/meijitosho

3つ目はARの特徴を生かした理科資料の事例です。

明治図書出版株式会社は、ビジュアル資料を掲載した「グラフィックサイエンス 最新理科資料集」を販売しています。

ARアプリケーション「COCOAR2」をインストールしたスマートフォンをAR対応資料にかざすと、デジタルコンテンツを楽しめます。

竜巻が発生する様子を部屋の中で確認したり、人体の臓器モデルを近くにいる人に重ねたりすることで、視覚から理科への理解を深めることが可能です。

生徒の理解を促進するとともに教師の解説もサポートするため、授業への活用が期待されます。

幼児教育

出典:http://www.res.kutc.kansai-u.ac.jp/~yone/research/pdf_graduate_thesis/201403g_MAEKAWA_Sana.pdf

4つ目は幼児教育にARが活用されている事例です。

関西大学学術リポジトリに掲載されている論文「ストーリー性を付加したARキャラクタインタラクションのよる表音文字学習システム」では、幼児が表音文字を理解しやすくするための助けとしてのARの活用が唱えられています。

表音文字とは「う」、「さ」、「ぎ」のようなひらがな一音にあたり、表音文字を組み合わせることで「うさぎ」と意味を持った単語になります。

この組み合わせ学習にARを利用します。

ひらがなを正しい順番に並べるとARでうさぎが表示されるというような流れです。

逆に、先にうさぎのキャラクターを表示させ、平仮名を正しく並べられる作業も行えます。

ただ単に平仮名のカードを並べる言語教育と、ARを用いた単語習得のレッスンを比較したところ、 明らかにARを用いたほうが理解が早くなることが実験によって明らかになっています。

Wonderscope

Googleだけではなく、Apple製デバイス向けのAR教育アプリもあります。

それが「Wonderscope」です。

室内が絵本の物語の世界になるという夢のようなアプリです。

「Wonderscope」では、現実の空間が絵本の世界の延長線上になります。絵本の登場キャラクターたちがテーブルやベッドの上に現れ、物語を展開していきます。

単純に本を読むのではなく、キャラクターと会話をしながらストーリーが展開されていきます。

絵本に書かれているセリフを話すと、ARで教示されたキャラクターが返答してくれます。

より子供たちは絵本の世界に没入でき、より感受性が豊かな子供たちにあふれる世の中となるでしょう。

Merge Cube

出典:https://mergeedu.com/cube?cr=5418

7つ目に紹介するのは教育用玩具にARが導入されている事例です。

スマホ用のVRゴーグルなどを製造しているMerge VR社が手掛ける教育用AR玩具「Merge Cube」です。

まるで「天空の城ラピュタ」の飛行石を思わせるような、不思議な模様の入った立方体が、AR表示させることによって様々に変化していきます。

万華鏡やロケットなどに変化したり、惑星の自転・公転を表示したり、人間の頭蓋骨を見たりなどと、娯楽から教育まで幅広く使用できます。

現在はアメリカのウォルマートのみで販売されています。

Lifeliqe HoloLens

出典:https://www.microsoft.com/ja-jp/p/lifeliqe-hololens/9n471tldg054?activetab=pivot:overviewtab

マイクロソフト社が開発したHoloLensに対応した教育アプリも存在します。

「Lifeliqe HoloLens」は科学、技術、工学、数学の分野を教える「STEM教育」に特化しており、現実空間に投影された様々な3Dモデルを通して学ぶことができます。

空中に投影されたモデルをタップすると詳細が表示されたり、投影されたモデルが生物なら骨格や臓器の様子が映し出されたりします。

アメリカ統一の学力基準・Commo Coreに準拠しているため、全米の教育レベルの水準に合わせた学習プランを提供できます。

Lifeliqe HoloLensを使った3D教材で学んだ子どもの86%が、テストの成績が向上したという研究結果も報告されています。

日本の学習要領に沿ったコンテンツも実装されれば、より自発的に学習に取り組む子供も増えてくるのではないでしょうか。

東京メトロ社員研修用アプリケーション

出典:https://www.tokyometro.jp/news/images_h/metroNews20170703_68.pdf

続いては東京の重要なインフラ網である東京メトロで活用されているARについて紹介します。

東京地下鉄株式会社は2017年5月、ARを活用したアプリケーションを社員研修に導入しました。

社員研修用の総合研修訓練センター内にある模擬トンネルや模擬橋梁・高架橋でアプリケーションを起動すると、仮想的な損傷が表示されます。

これにより、実際に損傷がある現場まで足を運ばなくても、土木建造物の維持管理教育が可能になりました。

ARによる模擬体験研修ができるようになると、社員の理解がより深まります。

NEC 遠隔業務支援システム

出典:https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sl/remote/index.html

NECでもARが活用された支援システムが導入されています。

NECソリューションイノベータ株式会社は、AR技術を活用した「NEC 遠隔業務支援システム」を提供しています。

このシステムは未熟練労働者と遠隔地の支援者が映像と音声を共有することで、離れていても適切に技術支援を行えるというものです。

支援者が現場に行かなくても指示できるため、熟練の技術者が不足している企業でも無理のない社員教育が可能になります。

|ARを教育現場に導入する上での課題

ARを教育現場に導入するメリットを紹介してきましたが、ここからは課題点についてお話していきます。

導入の金銭的コストが高い

ARの導入コストとしては物理的なデバイスやシステムを導入するための金銭的なコスト、ARによるコンテンツを作成するための学習コスト、同時に維持運用するための人的コストが挙げられます。

例えば小中学校や高校、大学などの教育現場に物理的なデバイスの投入となれば莫大な金額が必要となります。

さらに教育課程すべてのコンテンツを作成するのですから、かなりコストがかかることは想像に難くないと思います。

もちろん、運用段階に入り長期的に活用されればコスト的な問題は解消されるでしょうが、最初の段階に必要なコストを受け入れられるかどうかは難しい課題と言えます。

運用において安全性を追求する必要がある

ARはまだまだ成長や普及しつつある段階であり、安全性に関する総合的なデータの収集も完全ではありません。

ゴーグル装着による画面酔いや気分が優れなくなる、没入による精神面の影響など、人間にダメージを与える可能性が示唆されています。

その他にも人によって受けるダメージにどんなものがあるのか、まだ周知されていないような危険性がないかどうかの検証についても不透明であることは否めません。

現実世界への影響が懸念される

ARやVRでは拡張現実や仮想現実で「体験」できますが、あくまでも擬似的な体験でしかありません。

限りなく現実に近づけたとしてもちょっとした誤差や認識違いによって「実際に作業」した時に影響が出る可能性があるということです。

もちろん、簡単な作業手順や行動など業務の大まかな部分であり、誰でも間違えないようなものであれば心配ありません。

しかし、建築機械の操作や運転などで誤って覚えていた場合、事故やアクシデントによる被害が拡大することも考えられるでしょう。

ARでの学習へ絶対の信頼を置いてしまうと取り返しのつかない事態を招いてしまいます。

まだAR自体の普及率が低く受け入れてもらいづらい

教育や研修分野以外での普及状況として、ゲームやスマートフォンへの応用が目立ちます。

しかし、その他の分野や一般的な企業での導入はまだ十分ではありません。

特にARやVRは使い方によっては人間を必要とせず、バーチャルなアバターやAIで仕事そのものを再現できるようになる可能性も高く、「人間に取って代わる技術である」という考え方を持つこともあります。

実際には人間の立場に害を及ぼす技術ではなく、人間を助ける技術であることの理解が進み、AR技術に関する知識やメリットが広く周知されないと、さらなる技術革新は見込めないでしょう。

どこまでARに切り替えるかの判断が難しい

社員教育や研修など一定の効果があるものまでARに切り替えるべきかという点も課題の一つと言えます。

一般的な教育の場であれば既に教職員や先生が少ない状態なのに、ARといった新しい技術を取り入れ、やり方を変えるのは現実的ではない環境が存在することも考えられます。

テクノロジーを活用すれば人間が楽になったり、安全になったりするとしても、現実との兼ね合いや認知や理解度によって実質的に導入となるか、それとも現状維持となるのかは企業や組織に依る所です。

|教育現場におけるARのまとめ

ここまでARの教育現場での活用についてご紹介してきました。

実際に導入されている事例を見ると、我々が学生時代にこのような学習環境があればと思った方も多いのではないでしょうか。

ARのほかにVR、MRなどの最新技術はどうしても導入の壁は出てくるものではあります。

AIやIoTも当初は受け入れられるのに時間を要しました。

教育に関しては、今後の日本を背負う人材を育む場でもあるので、少しでも子供、若者が深く知識を得られる技術に対しては積極的に受け入れられるべきものの一つではないかなと思います。