現実世界にデジタル情報を追加できるARは、近年の技術の発展と共にその活躍の場を広げ続けています。

それは建築業界も例外ではなく、現在はARを利用した作業効率化や安全性向上など、広い範囲において利用され始めています。

今回の記事では、建築業界においてARを導入するメリットから、実際の活用事例について紹介します。

今後の建築業界に無くてはならない技術となる可能性が高いARについて、今のうちから理解を深めておきましょう。

|ARとは

そもそも、ARとはAugmented Realityの略称であり、日本語では「拡張現実」と訳されます。

つまり、現実世界の情報に対して仮想の視覚情報を加えて、現実の環境を拡張する技術ということです。

一例をあげると、スマートフォンのカメラ経由で映している画面に対してCGを投影さえることで、画面上ではそのCGが実在しているように感じられます。

この技術があれば、購入前の家具や家電などを実際に家に配置したときの環境を、具体的にイメージできるなどのメリットがあります。

以前まではPCを中心に使われてきた技術ですが、技術向上によってスマートフォンにも搭載されるようになりました。

そして、近年ではエンターテイメントを始めとした幅広い分野において活用されているのです。

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|建設業界でARを活用するメリット

それでは、ARを建設業界で活用する場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。

こちらでは、4つの具体例からそれぞれ解説していきます。

人手不足の解消

まず、将来的に建設業界全体として深刻な人手不足の発生が予測されています。

しかし、ARを導入することにより、従来よりも少ない人員で作業を進められるかもしれません。

例えば、ARを活用して遠方の作業員やオフィス人員と現場の映像を共有することで、本来はその場にいなければ分からない環境を遠くにいても把握できます。

そのため、実際の現場にいる新人作業員であっても、熟練の経験に基づいた指示を元に作業を進められるでしょう。

結果として、人材育成のスピードも向上するため、人材不足の影響を最小限に抑えられることが考えられるのです。

また、詳細環境の共有速度が速いことから、緊急事態などの対処にも高い効果を発揮するでしょう。

急な作業変更などにも対応できますので、最少人数で作業計画をスムーズに進めるためにも役に立ちます。

状況を視覚的に確認可能

ARでは現実世界では見にくい物、見えないものを視覚化できます。

例えば、建設途中の現場の映像に、今後の作業目標や工程で映像を重ねることも可能です。

そうすることで、図面だけではイメージしにくい作業についても、施工管理者と作業員の間で具体的に共有できます。

また、今後の作業スケジュールなども段階を踏んだイメージ画像と共に確認できます。

このことで、作業意欲の向上や能動的な作業に繋がり、現場全体の効率化にも繋がることが期待できるでしょう。

作業に関わる全員が明確な目標に向かって進むことは、工期の短縮にも繋がるはずです。

結果的に、最少人数で効率よく工事を進められ、企業の経営体質の改善にもポジティブな影響を与えることも考えられます。

デジタル化による作業の効率化

従来、二次元の図面だけで共有していた情報を、ARによる映像によって立体的かつ視覚的に確認できることで、作業効率を大幅に上昇することができるでしょう。

なぜなら、図面をベースに進めている場合、作業員によって理解度が異なり、作業途中での確認に時間を取られてしまうケースがあるからです。

従来は施工管理者のみが仕様書などで確認していた情報なども、現場全員で確認しながら作業を進められるでしょう。

一度実際に三次元で目で見た情報は、図面で読む内容と比較しても圧倒的に頭に残ります。

結果的に、作業員全員が同じ目標に向かうことになりますので、効率的な作業が実現できるでしょう。

作業員同士のコミュニケーションが活発になり、現場の一体感が高まることで情報共有不足が原因の施工ミス防止にも繋がるはずです。

より多角的に設計ができる

計画段階では当然のことながら、実際の建物から具体的なイメージを湧かせることはできません。

通常、設計図などの紙面やPC上のディスプレイ、またはミニチュア模型を元に計画を進めていくことになります。

しかし、これらに加えてARを活用することで、施工現場の映像を重ねて計画を確認できます。

これまではイメージ例として画像しか用意できなかった、周辺景観と建物の関係性なども、実物に限りなく近い環境で再現できるでしょう。

さらに、建物内部からの景観も再現できますので、利用者目線を盛り込んだ設計もより手軽にできるはずです。

つまり、従来の計画では経験が必要だった部分でも、誰でも容易にイメージすることができるのです。

結果的に多角的な設計が可能となりますので、計画の幅も大幅に広がることが想定されるでしょう。

|建設業界でのARの活用事例

ここからは、実際に建設業界でARが活用されている事例について紹介します。

計画時点での外観の確認

建物の計画段階において、実際の現場と完成イメージを重ね合わせて外観を確認する作業はすでに行われています。

これまでは三次元CADやBIMが活用されていましたが、ARを活用することでより鮮明なイメージを誰にでも共有できるようになりました。

ARによる確認は、作業員だけではなくクライアントや外部関係者への確認時にも高い効果を発揮します。

なぜなら、実物に限りなく近い完成イメージをARで共有することで、完成後に「イメージと違う」といったトラブル発生を防ぐことができるからです。

また、コンペやプレゼンといった場面でも大きく活用できるため、企業の発信力向上にも繋がるはずです。

施工時点での設計図や進捗状況の確認

ARを活用することで、作業の進捗状況と設計図の内容を、実際の作業現場に重ね合わせてリアルタイムで確認できます。

大規模な工事である建設作業は、原則として設計図通りに進めることになります。

そのため、配管や電線といった細かな部分と建物の構造が干渉することが無いよう、指定された資材を指定された箇所に使うことが求められます。

この時、二次元の図面を元に確認作業を行えば、現場と図面を見比べるために多くの時間を要してしまうでしょう。

しかし、ARを活用した確認作業であれば、現場の状況を設計図の内容と簡単に照合できます。

万が一、施工不良があった場合でも早期に発見することで、最小限のミスで抑えることができるのです。

安全性の確保

建設現場は常に大量の資材が置かれていることから、細心の注意を払いながら作業を進めなければいけません。

しかし体力仕事であるため疲労面からの注意力低下、さらに夏場などでは熱がこもりやすい環境にもなりやすいですので、作業員の熱中症対策や健康管理といった、作業環境への配慮が必要となります。

このような場合でも、ARを活用することで視覚情報だけでは把握しきれない危険を事前に察知できるのです。

例えば、作業員の体温が通常より高くなっている時に警告音を発するなど、問題が起きる前に危険を排除できます。

作業を効率化しながらも、安全性を確保して工事を進められることはARならではの強みといえるでしょう。

保守点検の支援

ARは建設作業時だけに効果を発揮する訳ではありません。

建設作業終了後、建物の保守点検においても大きな役割を果たすことができます。

例えば、資材のサイズや空間サイズの情報と実際の映像を照らし合わせて、万が一問題があった場合は不整合を知らせることも可能です。

さらに、BIMを組み合わせることで、現実では確認できない壁の内部の状況も透過して確認できます。

壁を取り壊すこと無く内部を確認できますので、利便性と利益率の向上にも繋がり、収益増加にも繋がるでしょう。

また、従来よりも少ない人数で保守点検が行なえますので、人件費削減にも高い効果を発揮します。

ARでしか実現できない保守点検環境は、非常に大きな効果を発揮することになるでしょう。

現場とオフィスの連携

ARを通した視覚情報は現場のスタッフだけではなく、遠く離れた複数のオフィスなどとリアルタイムでの共有が可能です。

そのため、オフィスにいるスタッフが状況を確認していることで、現場の作業員では把握しきれない状況変化を察知できるかもしれません。

このことは緊急事態の対処に高い効果を発揮する上、突然の計画変更などの内容共有もスピーディーに行えます。

また、前述したように熟練したスタッフの指導を元に現場の作業員が動けるため、経験の浅い人員であっても戦力として活躍できるのです。

人材不足が深刻となる建設業界において、ARを活用した現場とオフィスの連携は無くてはならないものとなるかもしれません。

|まとめ

建設業界において、AR技術を活用するメリットとその事例について解説してきました。

「拡張現実」と呼ばれる技術はエンターテイメントを中心とした、娯楽の分野で使われるイメージをお持ちの方は多いかもしれません。

しかし、本記事で紹介したように、建設現場においてARを活用した技術は高い効果を発揮します。

従来の二次元図面では不可能であった、現場風景との完成イメージ共有や、保守点検の容易さなどは、まさにARならではの技術といえます。

さらに、遠方のスタッフと現場の作業員が視覚情報を共有することで、これまでとは比べ物にならない効率で作業を進行できるのです。

人材不足が深刻である建設業界において、ARは今後無くてはならない技術として活躍する可能性は高いといえるでしょう。