農業とデジタル技術は関連があまりない分野と思われがちですが、この二つの結びつきは数十年も前からお互いに共存し農業の効率化を実現させています。

アメリカでは大規模農場に衛星からのデータやドローンを活用し、害虫駆除や土壌の管理を行っている企業も存在します。

その中で、現代の日本では農業の抱える課題は非常に深刻です。

今後テクノロジーの力を借りて課題を解決することがより求められていくでしょう。

本記事では、農業に最近注目を集めているAR技術を導入するメリットと、活用事例をご紹介いたします。

農業の効率化や今後の農業の可能性を考えている方は是非最後までご覧ください。

|ARとは

Augmented Reality(アグメンティッド・リアリティ)の略です。

一般的には「拡張現実」と呼ばれています。

この技術は目の前に実際に見えている風景や物に対して、

ARグラスやスマートフォン、タブレットなどデバイスを通してバーチャルな視覚情報、例えば作業手順や食物の情報、品種別に分かりやすくするためにマーキングしたりなど、視覚情報に対して補助する内容を加えて現場をより分かりやすくする技術です。

また、ARを使えば目の前で確認できないものをまるで存在しているかのように体験することができます。

ARは情報の補助だけではなく現実世界のイメージを拡張させて、現場のシミュレーションや実物の発育状況など表示できるのも特徴です。

私たちの身近でもAR技術は活用されており、その中には世間でも人気を博した「ポケモンGO」があります。

私たちが住んでいる場所にリアルなポケモンが出現するということで、思わずハマってしまったという方も多いのではないでしょうか。

ARについては以下の記事でも詳しくご紹介させていただいておりますので、併せてご覧ください。

AR(拡張現実)とは?活用シーンからVR、MRとの違いまでわかりやすく解説
AR(拡張現実)とは?活用シーンからVR、MRとの違いまでわかりやすく解説

|現在の日本の農業の課題

日本の農産物は世界から見れば味や安全性を含めた品質も評価が高く、需要が見込まれます。

しかし、抱えている問題は深刻で農業従事者の高齢化、人材不足に始まり、狭い日本において農地面積の狭さも影響し、結果的に食料自給率の低さにつながる悪循環が日本の課題点として挙げられます。

現代の日本は「課題先進国」として、「超高齢化社会」「人生100年時代」といわれています。その中で農業は特に高齢化が深刻で、新規就農者も減少が続いています。

そのため、少ない人数でも今まで通りの農作業が実現できるような対策を必要としています。

また、日本の農産物より安価な外国産農産物が大量に手に入る事で採算がとれず、廃業することも考えられるでしょう。

一方で、海外へ農産物を輸出する面では関税の引き下げや撤廃があり、高品質な農作物で世界にチャレンジするチャンスもあります。

そのため、日本農業の課題である人材不足、コスト削減、収穫の効率化など生産性を改善するためにAR技術が注目されているのです。

|農業分野でARを活用するメリット

ここまで、日本の農業が抱える課題について解説して参りました。

ここからは、実際に農業分野でARを活用するメリットをお伝えいたします。

農業においてAR技術を導入するメリットは、以下3点です。

  1. 作業スピードの改善
  2. 業務精度の向上・均質化
  3. リスクチェックを可視化

日本農業の課題である「生産性」の向上に対して、AR技術は効果的な施策が期待できます。

では、順にご紹介していきましょう。

作業スピードの改善

農産物の栽培において、高品質な食物を育てるためには適切な手入れが必要不可欠です。

例えば、イチゴやリンゴなど甘く品質の良いものを収穫するためには、不要な物を間引いたり、ブドウに関してはひと房あたりの実の個数が適正になるよう間引いて調整したりする作業があります。

間引く場所や数を目視で確認するのは非常に時間のかかる作業でもあり、ノウハウが身についていないと適正な栽培もできないでしょう。

そこにAR技術を導入した場合、ARグラスを通して農作物をスキャンし、間引くべき個数をAIがカウント、間引く箇所まで指示した映像を実際の作物に投影し作業が確認ができることで視覚的・直感的に情報をインプットできるため、スムーズな農作業が可能になります。

業務精度の向上・均質化

農作物の収穫時期はその年の気候により左右されたり、おいしい状態を知るためには実際に栽培に成功している熟練者のノウハウを現場で学んだりしないと再現が難しい場合がほとんどです。

そこでARグラスで実際の作物をスキャンし、畑などに設置されたセンサーの情報なども併用してその作物がどのような状態かを情報化して可視化することができます。

その情報を成功事例と照らし合わせる事で適切な対処ができるだけではなく、

実際に熟練者とARで情報を共有して作業アドバイスをもらうことも可能です。

ARを利用すれば熟練者のノウハウを学び、習得するだけではなく、感覚に依存しないデータドリブンな農業が可能になり品質の均一化も望めます。

リスクチェックを可視化

農業は予測不可能な自然環境に左右される事が多く、気候変動による食物の病気や害虫の発生、水不足、日照不足など栽培に対するリスクが多く存在します。

これらを予測し未然に防いだり、対処するためには熟練の経験があっても難しいでしょう。

そこでARグラスを通して実際の農作物をスキャンし、衛星からの気候データや農地に設置されたセンサーの情報を照らし合わせて、気候変動に対する必要な対処を表示してくれたり、ARグラスに搭載されたカメラで撮影した農作物の色などで健康状態を把握出来たりするため、病気や害虫の兆候を簡単に検知し、給水タイミングや成長状況を視覚的な情報として得ることができるため、農業の生産性向上が期待できます。

|農業分野でのARの活用事例

ここまで、農業分野でARを活用するメリットについて解説いたしました。

ここからは、実際にAR技術を農業分野で導入している企業の活用事例を紹介致します。

農地の管理や農産物の栽培だけではなく、農業用機器メーカーの活用事例もあり農業のAR技術導入は幅広く行われておりますので、是非ご覧ください。

株式会社IHIアグリテック

株式会社IHIアグリテックは産業用エンジンや農業用機械などを開発する企業です。

そんなIHIアグリテック社は、農業用機械などを開発する大型機械の展示にARを活用しています。

大型機器の場合、会場の都合上プロモーションや機能紹介は限られましたがARを導入することでどの製品でも効率よく紹介することが可能になりました。

ジャイロテッダーと呼ばれる転草作業機や、堆肥散布機のハイドロプッシュマニアスプレッダなどの大型製品をAR展示し、ARグラス内ではそれぞれの機器が持つ性能をシミュレーション出来たり、ARグラス内でアニメーションを実機に投影してイメージしたりできます。

また、製品の3Dデータは実際のメンテナンスにも使え、IoTで計測したデータも併せて効率的なアフターサービスも実現させています。

NTT東日本

NTT東日本と東京都農林水産振興財団が連携し、スマートグラスとAR技術を組み合わせた遠隔農作業支援があります。

実用化に至っては通信網やコストなど課題はありますが、未経験者がこの作業支援で実際にトマトを育てることに成功しているのです。

現場の農業未経験者と農業の研究員をARグラスでつなぎ、グラスを通して送られてくる映像と畑に設置されたカメラやセンサーの情報を元に、研究員が状況判断し作業員と会話しながら作業ができます。

また。蓄積されたデータは簡単にアクセスする事も可能ですし、AIを駆使すればより高度な処理が短時間で行われ遠隔指導の精度も挙げることもできます。

遠隔指導は人手不足の解消だけでなく作業効率も改善できるため、注目されているプロジェクトの一つです。

株式会社Root

株式会社RootはARだけでなく、農園を楽しむアプリやデータシミュレーターなど「スマート体験農園システム」を軸に農業のDX化をサポートする会社です。

埼玉県深谷市では、スマートグラス用農作業補助アプリケーション開発プロジェクト「Agri-AR」の実証実験が進行中です。

このプロジェクトはAR を活用し、実際の畑の風景に情報を付加して農作業を補助する事で、農作業の現場にある単純作業を効率化させ「安価」で「誰でも使える」アプリの実現化を目指しています。

実現すれば一人の作業でも広大な面積の畑を正確に耕したり、農作物の寸法などをスキャンして適切なタイミングで収穫したりなど、安定した農作業が可能になるでしょう。

また、2022年4月、Agri-ARが農林水産省の令和 3 年度補正予算「戦略的スマート農業技術等の開発・改良」プロジェクト(実施主体:生物系特定産業技術研究支援センター)に、同社の「スマートグラス用 AR 農作業補助アプリケーション実用化のための研究開発」が採択課題として決定されたそうです。

今後ますますの発展が期待されそうですね。

|まとめ

今回は農業におけるAR技術のメリットと導入例をご紹介致しました。

自然を相手にする農業において、限られた人数で品質を均一化し生産性を挙げることは非常に困難です。

そこで目に見えない情報を可視化できるAR技術を使えば、気候変動や害虫などのリスクを最小限に抑える事が出来たり、初めて栽培する農作物も感覚に頼らずデータと熟練者のアドバイスに基づいた作業で失敗の少ない生産が可能です。

また、農業にAR技術が浸透してくれば人手不足もカバーでき、現在使用されていない農地も再生できれば農地面積の狭さによる生産量の改善もできるでしょう。

同時に無駄のない農作業により、作業の効率化もすすめれば日本が抱える農業の問題解決の糸口が見えて来るかもしれません。

今回も最後までお読みいただきましてありがとうございました。

ARと他分野の活用事例等もご紹介しておりますので、ぜひ他の記事も併せてご覧ください。