ネットやSNSが普及する事で自分で欲しいモノを検索し、メーカーのHPや実際に使っている人のレビューなど「購入前の情報」を参考にすることで、消費者は買い物で失敗するリスクをできるだけ減らし購入まで至るようになりました。
今回ご紹介するAR技術は、「購入前の情報」に効果的にアプローチできる手段です。
消費者の安心につながり、購入の一押しになるポイントにもなりますので
ARと小売りがどのような場面で相性が良いかなど、活用事例も交えて紹介いたします。
目次
|ARとは
ARとは、Augmented Reality(アグメンティッド・リアリティ)の略です。
一般的には「拡張現実」と呼ばれています。
この技術は目の前に実際に見えている風景や物に対して、ARグラスやスマートフォン、タブレットなどデバイスを通してバーチャルな視覚情報を投影できます。
例えばテーブルをデバイスでスキャンしてそこに置いてみたい花瓶を投影したり、実際に着てみたい服をデバイスを通して見た時に素材や色のバリエーションなど表示し、視覚情報に対して補助する内容を加えて現実の世界をより分かりやすくする技術です。
また、ARを使えば目の前で確認できないものをまるで存在しているかのように体験することができるので、ECサイトには欠かせない技術になってくるでしょう。
|小売業界でのARの活用メリット
小売業界にAR技術を導入するメリットは以下の3点です。
- 特別な体験を提供できる
- 商品解説ができる
- 情報が拡散されやすい
ネットで簡単に情報にアクセスできるからこそ、その質を上げることが重要です。
ARは質を上げる効果的な手段として注目されています。
特別な体験を提供できる
販売にARを組み合わせると購入検討者の「買う理由」を探す心理に効果的にアプローチできます。
例えば、ネットショッピングであれば実際に欲しい商品を自分の使いたい場所に投影することで、使用感などイメージしやすくなりますし、一方で実店舗の場合には欲しい商品の在庫が無い、バリエーションが見れない時などARデバイスを通してあたかも目の前にあるような感覚で商品を試すこともできるでしょう。
このように、購入時に消費者が不安に思うことや知りたいこと、試したい事がARの拡張機能によってクリアにされて「しっかり選んでいる」という感情が強くなり満足度が高くなります。
このようなカスタマーエクスペリエンスを実現できるため「特別な体験」という付加価値をプラスできるのがARの特徴です。
商品解説ができる
ARデバイスを通して商品情報やマニュアルが実物と一緒に確認できる事で、自分の知りたい情報だけが効率よく集められます。
例えば実店舗の接客で店員から説明を受けることで情報を得ることができますが、お互いの認識差や店員の状況によっては上手く伝わらない事もあるでしょう。
一方でARは一定の品質でシームレスに商品の補足情報を付加できるのが特徴です。
また、消費者心理として「買う手間をかけない」買い物の利便性を重視する傾向があります。
これは物流やECサイト、AIの発展により、自分好みのものがすぐに見つかり明日には届く、買い物自体も効率化された時代には非常に重要なポイントです。
ARの補助解説で買い物が楽になることで、消費者の利便性向上にも役立つツールと言えます。
情報が拡散されやすい
ARは商品のプロモーションとしても使えるので消費者を巻き込むマーケティングも可能です。
例えば、指定の商品を読み込むと写真映えするエフェクトが発動され、シチュエーションや使用感など共有したくなるような仕組みで訴求すれば、SNSなどのユーザー数が多いプラットフォームで紹介され、さらに拡散されて多くの人にリーチできる可能性もあります。
また、実際にARを利用したユーザーのデータ蓄積も重要です。
消費行動のデータ化が可能になり、同じ商品でもユーザーの特性に合わせて訴求方法を変えたり、行動パターンが似てれば違う商品でも横展開させ効率的なプロモーションもできるでしょう。
そして、利用した顧客にはリターゲティング広告を利用して、バックエンド商品の訴求も可能になります。
|小売業界でのARの活用シーン
小売業界でのAR活用シーンとして、親和性の高い事例を3つ紹介します。
- オンラインショッピング
- 商品開発
- スマート試着室
商品開発から、マーチャンダイジング、買い物の仕方まで多方面にわたりAR技術の活用が可能です。
オンラインショッピング
ECサイトにARを組み込むことで、商品を3Dモデルで本格的に視覚化して商品画像をタップすれば必要な情報が引き出せるようになっていたり、360度どの角度からも商品画像が確認できたりと、消費者にとって必要な情報を提供できる環境を整えているサイトは多いです。
オンラインの最大の弱点は、商品にリアルを感じられない事です。
例えば、鞄や家具など入る容量や置くスペースが重要なモノだと「入らなかったらどうしよう」という不安が購入の妨げになります。
そこで具体的に可視化された3D画像を現実世界に投影し、マニュアルや口コミなど商品解説を補助するテキストデータも投影すればイメージもわきやすく、消費者の不安を払拭する手段の一つになります。
設計・商品開発
ARは現実にデジタルを溶け込ませる事が得意な技術です。
そのため、商品開発において物理的な空間で仮想の製品の設計をして、視覚的に360度、色々な角度から検証できます。
それにより試作品を作らず具体的なフィードバックを受けることも可能です。
物質的なコスト削減や、多方面化からの声を短時間で集約することができ、商品開発のスピードも上がることも期待できます。
また、商品開発はモノを作るだけではありません。
消費者の行動をトラッキングしたデータを併用して、現場のディスプレイにARで行動を投影させて、どのような位置でどの商品が売れるかなど購入に至るまでの導線設計にも応用が期待でき、商品開発・設計から販売まで全面的に確認できるのが特徴です。
スマート試着室
複数の洋服を試着する場合、着替える手間だったり女性であればメイクが試着服につかないようにしたりと大変な場面が多々あります。
また、照明や家具などのインテリアの場合、自分の部屋にイメージとおりに収まるかなど、サイズ感や雰囲気が使用場面と同じ環境で分かると購入までのハードルが下がることは間違いありません。
ARを活用した場合、例えば洋服の試着だと自身を映したデバイスに服が投影されるので、着替える手間が省けます。
それだけではなく、時計やピアスなどアクセサリーも加えることができるので、利便性の高いトータルコーディネートができます。
現実の使用場面をARを通して、服やインテリアを実際に試着、使用しているかのように体験できるのもARの特徴です。
|小売業界でのARの活用事例
それでは実際にARを現場で活用している企業の紹介と活用事例の解説を致します。
日本にも馴染みのある企業から、美容、飲食、雑貨など小売り業界で幅広く活用されていますので、AR導入のヒントになれば幸いです。
IKEA
日本でも馴染みのあるスウェーデン発祥のインテリア量販店のIKEAです。
2017年よりARを用いたシミュレーションアプリ「IKEA Place」を公開しており、ARを使い自分の部屋をスキャンしてIKEAの家具を原寸大で現実空間に表示できます。
ただ家具を投影するだけでは無く、スキャンした部屋の大きさに合わせてインテリアがリサイズされるので精度の高い配置シミュレーションが可能です。
これにより、メジャーで部屋を採寸する手間が省けるだけではなく、ちゃんと買った家具がドアを通るかなど購入時の失敗を避ける事ができます。
また3D画像を配置したときには立体的な陰影がしっかりつくようになるので、実際の色味や質感に近いビジュアルで確認することも可能です。
YouCam
YouCamはAIとARを合わせて活用し、ヘアスタイルやスキンケア、メイクを仮想的に体験できるアプリを提供しています。
全世界で300以上のブランドパートナー関係を結んでおり、数百種類に及ぶ商品を60ヵ国以上に向けて展開している注目の企業です。
ユーザーはスマートフォンやタブレットで自身を写し、そこに試してみたいヘアスタイルやヘアカラー、メイクなどを投影することができます。
このように実際に美容院にいったり、直接メイクしたりしなくても、スキンケアの様子やメイクアップをエフェクト加工によって体験できるので、美容に対してさまざまな可能性を気軽に試すことができるだけでなく、実物を使わないのでコストも抑えられるのも特徴です。
Lowe’s
Lowe’sはアメリカの大型ホームセンターです。
この企業が作った家具配置アプリは、IKEAのARとは少し違い、自由にARの家具を配置でき、様々な角度から設置したインテリアを見れるサービスです。
例えば、3DデータのソファをARの画面上で置きたいところに設置をして、それを中心にスマートフォンやタブレットを手に持ったまま自分が動けば、あたかも目の前にソファがあるように、正面だけではなく、側面、背面など回り込んだ角度から見えるので、現実世界の部屋の雰囲気に溶け込んだ漢字で充分に伝わります。
こうすることで、イメージと違った、サイズが合わなかったなど、ミスマッチを事前に防げて消費者の購買意欲を高めることが可能です。
Shopify
Shopifyは世界最大のECサイト制作プラットフォームです。
今までのネットショップの機能にプラスしてARを利用することも可能になり、ユーザーの購買意欲を刺激するだけではなく、利便性も高まるためShopify自体を利用する新規ユーザー、リピーターを獲得して収益の獲得と安定が望めます。
消費者がiPhoneでARコードを読み込めば、3DのAR画像が表示される仕組みです。
表示された画像は、使用してみたい部屋や場所に投影したり、実際に持っている商品と3D画像を並べて比較したりして商品のイメージやサイズ感を確認することができます。
ARにより各ユーザーが自由に自分の空間で見て体感できることで購買につなげる、カスタマーエクスペリエンスを高める施策です。
Vivino
Vivinoはワインを専門に扱うサイトです。
ワインは産地や品種、ワイナリーなどさまざまなカテゴライズができるため、その種類は数千にも及ぶ膨大な知識やデータが必要です。
そのなかからユーザーが自分にピッタリのワインを選ぶことは、愛好家でも手間のかかる作業でした。
その問題を解決したのが同社の提供するARワインアプリです。
データベースにはワインラベルの画像が数百万保存されており、ユーザーがワインボトルのラベルや、店頭のワインリストをVivinoのアプリで読み込むと、
そのワインの評価やレビュー・平均価格やブドウの品種などの情報が表示されます。
この便利さによりワイン初心者から愛好家まで様々な知識レベルのユーザーが登録し、
約2000万人の世界最大級のワインコミュニティにもなっています。
|まとめ
今回は小売業におけるAR技術導入のメリットと活用事例をご紹介しました。
小売業にAR技術を活用すれば、商品を疑似体験でき購入後の不安要素を払拭できるため、現物が見れないECサイトや実店舗販売でも、購入の後押しが望めます。
また、AR技術により自分の使いたいシチュエーションや自分好みのモノを拡張現実の世界で体感できる事で、購入前の満足度や期待度が高まり、今までにないカスタマーエクスペリエンスを実現できるため買い物自体のスタイルも変化して行くでしょう。
また、ARにより「見て選ぶ」ことの手間が減ることで買い物の利便性が上がり、利用するユーザーが増えることも望めます。
ARでの商品紹介は、ユーザー獲得の一つの手段として注目しておくと良いかもしれません。