近年YouTubeなどにも投稿されている「360°動画」をご存じでしょうか。
これは動画でありながら360°全体を見回すことができるもので、没入感のある映像体験を得ることができます。
しかし、360°動画と同様に没入感のある映像として「VR動画」も近年話題となっており、その違いが分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では360°動画とVR動画の違いについて解説していきます。
360°動画の活用事例や今後の課題についても触れますので、360°動画について気になる方は必見です。
目次
|360°動画とは?
360°動画とは、Googleマップのストリートビューのように360°全体を見ることができる映像のことです。
視点を自由に変更しながら、さまざまな映像を楽しむことができます。
360°動画はYouTubeなど有名な動画サイトにも多数投稿されているため、誰でも簡単に体験することが可能です。
たとえばYouTubeで「360°動画」と検索し、気になる動画を見てみましょう。
スマートフォンであれば指でなぞることで、パソコンであればマウスで映像をドラッグすることで視点を変更しながら動画を見ることができます。
これまでの正面からのみ見られる映像とは違い、視聴者が操作しながら自分の見たい部分を視聴できるという画期的な映像システムが360°動画なのです。
|360°動画の特徴
360°動画の特徴として、大きく2点が挙げられます。
1つ目は、専用のデバイスはほとんど必要としないという点です。
先述したように360°動画はYouTubeなど既存のプラットフォームで、ほとんどの機器で楽しむことができます。
そのため誰でも気軽に没入感のある映像を楽しむことが可能なのです。
しかし一方で、動画内で移動はできないという側面もあります。
撮影された動画の視点を自由に変えることはできるものの、その視点の元である撮影者を移動させることはできないため、ある程度限られたなかで広い視点での映像を楽しむことができるのが360°動画なのです。
|360°動画の種類
360°動画には、その表現方法に応じていくつかの種類が存在します。
ここでは、とくによく利用されている360°動画の表現形式を3つ見ていきましょう。
ドームマスター形式
「ドームマスター形式」は、実際に360°全ての方向を撮影した映像をそのまま1つにして視聴できるようにしたものです。
撮影者を原点として球状に映像が表示されるため魚眼レンズで撮影されたような見た目になります。
このドームマスター形式は、プラネタリウムなどによく利用されています。
星空などのとても広い視野は実際に見ても球状に近く感じるため、この形式を利用することでリアリティのある映像を再現することが可能なのです。
正距円筒図法形式
続いて紹介する「正距円筒図法形式」は、地図におけるメルカトル図法の手法に似た360°動画の表現方法です。
360°見渡すように撮影された映像をそのまま球形で表示するドームマスター形式とは異なり、映像を平面に置き換えて表示します。
正距円筒図法形式がよく利用されるのは、風景動画などです。
平面に変換されているため魚眼レンズで撮影されたような映像の歪みが少なく、どこを切り取っても1枚絵のように綺麗に表示することができます。
キューブマップ形式
「キューブマップ形式」は、原点から球形に見渡すドームマスター形式と異なり、立方体の中心から周囲を見渡すように表現される360°動画です。
サイコロを分解したように上下左右に6面で映像が構成されているため、平面画像からの組み立てがしやすくなっています。
キューブマップ形式は、3DCGのマッピングなどによく利用されている表現形式です。
|VR動画とは?
それでは一方で、VR動画とはどのようなものなのでしょうか。
そもそも「VR」とは「Virtual Reality」の略語で、仮想現実などと訳されます。
そのため文字通り、まるで現実のような没入感のある仮想空間を体験できる映像であることが最大の特徴です。
VR動画の多くは、実際に撮影された動画ではなく3DCGなど人工的に作られた仮想空間をもとに作成されます。
これは360°動画と異なるVR動画の特徴として「移動ができる」という点があるためです。
単に見渡すことができるだけの360°動画とは違い、視聴者が自ら移動したり、何らかのアクションを起こしたりできることがVR動画の大きな特徴となります。
|VR動画の特徴
VR動画の最大の特徴は、「体験を得られる」という点です。
通常の動画では視聴者が映像に関与できることはほとんどありません。
撮影者が撮影・編集したものを見るだけという非常に受動的なコンテンツです。
それが360°動画になると視点を自由に変更できるという新たな体験が加わるものの、体験と呼ぶにはあまり操作できるところは多くありません。
その一方でVR動画は、実際にどの方向を向いてもリアリティのある映像を楽しむことができ、視聴者が起こしたアクションが映像に反映されるものも存在します。
このような視聴者参加型の映像体験を可能にできるというのが、VRの最大の特徴です。
|VR動画と360°動画の違い
それでは、VR動画と360°動画には具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
ここでは「視点移動」と「デバイス」の2点に分けて解説していきます。
視点移動
VR動画と360°動画は、ともに視点を移動させることができるというのが大きな特徴です。
しかし、360°動画は固定された撮影者の位置からのみの視点ですが、VR動画では原点となる撮影者の位置をも変更できるという違いがあります。
たとえばVR動画では歩いたり、しゃがんだりといった動作ができるものも少なくありません。
風景を見渡すだけでなく、気になる箇所へ近づいてよく見てみたり、異なる場所から見える風景の違いを楽しんだりといった、より自由な体験が可能となっているのです。
デバイス
使用するデバイスが異なるというのも、VR動画と360°動画の大きな違いです。
先述したように360°動画は既存のスマートフォンやパソコンで誰でも簡単に閲覧することができますが、VR動画の閲覧にはヘッドセットやコントローラーなど専用のデバイスが必要となります。
視聴のハードルの高さは、VR動画のほうが比較的高くなってしまっているといえるでしょう。
しかしその分、よりリアリティのある映像体験を得ることが可能です。
ヘッドセットは360°視界全体を覆うように映像を見ることができ、頭を動かせば映像もそれを追うように変化していきます。
コントローラーを使うことで移動などさまざまなアクションを起こして映像を変化させることができ、本当にその映像世界に入り込んだようなVR動画ならではの体験ができるでしょう。
|360°動画の活用事例
360°動画は、YouTubeだけでなくさまざまな場面ですでに広く利用されています。
ここからは、360°動画が実際に活用されている事例を5点、順に見ていきましょう。
展示会などのイベント会場
360°動画は、実際にその場にいるような体験をシミュレーションできることを活かして、モデルルームや住宅展示会などのイベントで利用されることがあります。
通常の動画よりもさまざまな視点で商品を見ることができるため、その魅力が伝わりやすく、お客さんも楽しく閲覧することが可能です。
このような商品紹介は多くの人に気軽に見てほしいという性質上、見始めるのに少々手間がかかるVR動画よりも、スマートフォンですぐに見られる360°動画の方が向いているといえるでしょう。
工場や農場の見学
360°動画を利用すると、普段の生活ではなかなか体験できない場所に気軽に行った気持ちになれるため、工場や農場などの見学に使われることもあります。
全体を自由に見渡せるため、モデルルームの事例と同様に楽しく見学をすることができるでしょう。
また、工場・農場の見学は、単なる娯楽だけでなく企業側のPRとしても活用されています。
商品が生産される工程を誰でも簡単に視聴できれば信頼性を高めることもでき、企業側・消費者側の双方にメリットがあるといえそうです。
動植物園
コロナ禍で経営が傾いてしまった業種の一つに、動植物園が挙げられます。
そこで、外出を控えて客足が遠のいてしまった動植物園に集客する方法として360°動画による来園が考えられました。
360°動画によってさまざまな方向から動植物を見学することができれば、遠くに住む人や時間の取りづらい人、一人ではなかなか行きにくいという人にもバーチャルに来園してもらうことが可能です。
また、どうしても人が多く集まることで増えてしまいがちな、動物たちへのストレスを軽減することができる側面もあります。
体験型アトラクション
プロジェクションマッピングやプラネタリウムは、360°動画がエンターテイメントに利用されている代表的な例です。どちらも投影には専用の機材などが必要です
が、YouTubeなどで簡易的に閲覧できるプラネタリウムも出てきています。
また、遊園地のジェットコースターに乗った動画や、パラグライダーで空中遊泳をする動画など、さまざまなアクティビティで360°動画が存在します。
企業などによってしっかりと作られたものだけでなく、一般の人も自身が体験したものを360°動画にしてリアルな体験を視聴者に届けられる時代になりつつあるのです。
業務の効率化
360°動画によって業務の一部を減らして効率化できる事例も出てきています。
たとえば、賃貸物件の内見に360°動画を活用するという事例です。
物件の紹介には複数の写真などをホームページに掲載していることが多いですが、なかなか部屋全体の雰囲気が伝わらない場合も多くあります。
実際に内見するとなると不動産業者はお客さんを部屋まで連れて行くための人件費がかかり、大きな負担です。
そこで360°動画を利用することで、実際の内見に近い体験をオンライン上だけで完結できるようになります。
「少しだけ詳しく見てみたい」という要望に対応する手間を大きく削減でき、業務が効率化された例です。
|360度動画撮影におすすめのカメラ
ここからは360度動画を撮影するのにおすすめのカメラをご紹介します。
RICOH THETA SC2
「RICOH THETA SC2」は、リコー社が製造した360度カメラです。
このカメラは、一度に360度の全天球イメージを撮影することができます。
操作はシンプルで、多彩な機能を備えているため、気軽に使うことができます。
■特徴
- 約1400万画素に相当する360度の全天球静止画を撮影可能
- 4K相当、30fps(フレーム/秒)の滑らかで臨場感あふれる360度の全天球動画撮影に対応
- 人の顔を認識し美肌に見せる「顔モード」、夜間でも低ノイズで撮影可能な「夜景モード」を搭載
- 下部に状態表示OLED(有機ELディスプレイ)を搭載
■価格
36,800円(税込)
Insta360 ONE X2
「Insta360 ONE X2」は、Insta360が製造した360度カメラです。
前後にレンズを備えた360度カメラです。
最大5.7Kの超高画質撮影と強力な手ぶれ補正機能があり、スポーツやアクションシーンはもちろん、日常のVlogなどでも多様なシーンで360度動画を楽しめます。
■特徴
- 最大5.7Kの超高画質で360度の全天球動画を撮影可能
- 超高輝度タッチスクリーンにょって360度全体をプレビュー可能
- 見えない自撮り棒付きで手首を動かすだけで第三者視点の撮影が可能
- 撮影後にInsta360アプリのAI編集エフェクトを適用し、ユニークな動画を簡単作成
- SNSと連携して直接ライブ配信可能
■価格
47,300円(税込)
|360度動画の課題
さまざまなメリットのある360°動画ですが、一方で課題も存在します。
そのうちの一つが、通常の動画と使い分けが難しいという点です。
たとえば風景など広いものをリアルに見せるためには360°動画が効果的ですが、さまざまな箇所を自由に見てみたいと思えるようなコンテンツがない風景の場合、視点を動かさなければいけないことが逆に手間になる可能性もあります。
また、どの角度からも見えることで情報漏洩のリスクが高まることも考えておかなくてはならない課題です。
たとえば芝居舞台を360°動画で見られるコンテンツの場合、視点によっては裏方が見えてしまい没入感が台無しになるかもしれません。
動画の情報量が増えることで、このようなリスクにも配慮する必要があります。
|まとめ
360°動画はすでにさまざまな分野で利用されている、今注目の映像手法です。
誰でも簡単に閲覧できるだけでなく、現在は安価な機材も多く出ているため一般の人でも気軽に撮影が行えるようになってきました。
今後も撮影・視聴のためのデバイスが進化していくことでさらに360°動画が広まり、インターネット上だけで気軽にリアルな体験ができるようになっていくかもしれません。