皆さんはインターネット上でショッピングをしたことはありますか?
特にコロナウイルスが流行して以来、ネットショッピングの需要が増加しています。
そんなライフスタイルの変化も相まって、物流業界におけるDX推進の必要性が高まっています。
今回はこの物流業界におけるDX、「物流DX」についての記事となります。
業界全体が抱える深刻な課題を導入背景としてご紹介し、DX推進によりどんなことが可能になるのか、事例もご紹介しながら解説していきます。
目次
|DXとは
DXとは、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略です。
日本語で直訳すると「デジタルによる変化」となりますので、「デジタル技術によって人々の暮らしをよりよいものに変化させていく」ことを指します。
日本のDX推進の始まりは、2018年12月です。
諸外国に比べ、当時日本はDX推進について大きな後れを取っていました。
理由として、日本はビジネスにおいて伝統的な製造業など「モノづくり」を中心に発展して来た国だということが挙げられるでしょう。
デジタル技術にはほぼ頼らず、現場にいる人の手で行うことが当たり前といった文化が根付いていました。
しかし、少子高齢化による働き手不足や時代の変化に伴う新しいビジネスモデルの登場により、「このままでは世界で日本だけDXの波に乗れず取り残される」という懸念が出てきました。
この警鐘を鳴らしたのが経済産業省です。
2018年12月にDX推進を目的とした「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を提示しています。
これにより、日本でもDXが推進されるようになり、様々な業界でDX化が推進されています。
DXについては以下の記事も参考にしてください。
|物流DXとは
では、その中でも本記事のテーマである「物流DX」とは何でしょうか。
物流DXとは、その名の通り「物流業界でのDX推進」を指します。
具体的な言葉で置き換えるのであれば、「物流業界で発生するあらゆる業務において、デジタル技術を用いて変革していく」という意味です。
AIやロボット、XR技術など、最新テクノロジーを用いて物流業界の課題解決をしていく動きのことも指しています。
実はこの物流DXは、今最も必要とされています。なぜ必要とされているのかについて、日本が抱える物流業界の課題から見えてきますので次項で解説していきます。
|物流業界における課題
さて、ここまで「DXと物流DXとは何か」 について触れてきました。
先ほども述べた通り、物流DXの推進は急務とされています。その理由として、物流業界が抱える課題が多岐にわたることが挙げられます。
いったいどのような課題があるのでしょうか。以下で解説していきます。
過酷な労働環境による人手不足
物流業界の労働環境は非常に過酷です。
特に労働時間に関しては、他業種と比較しても平均の2割以上の長さといわれています。
にも関わらず、賃金は他業種の平均よりも1〜2割ほど低いとのことです。
こういった背景もあり、物流業界では人手不足が懸念されています。
こちらも他業種と比べて年々求人数が増えているようです。
また、物流業界内での少子高齢化も他業種と比べ進行しています。
このままいけば、10年後にはさらに高齢化が進み、物流業界全体がひっ迫していくでしょう。
EC利用拡大による小口配送の増加
人手不足である一方、ECサイトで買い物をするという人は増えています。
特に2020年はコロナ渦において外出が制限されたという背景もあり、通販・EC市場規模は13兆7243億円。前年と比較してなんと約17%も増加しているとのことです。
また、2021年は10%増の15兆円超と予測されています。
自宅にいても気軽に買い物ができるということで、今後も需要が増えていくでしょう。
これに伴い、小口配送が軒並み増加しているのです。
小口配送が増加すると、トラック積載量が減少して業務効率も悪化します。
その分燃料費のコストもかかってしまいますので、環境への負担も考えられるでしょう。
また、小口の荷物が倉庫に多く運び込まれることにより、荷物管理が複雑になります。
どこにどの荷物があるのかをすべて把握するのは困難を極めているようです。
拍車をかける「2024年問題」
2024年4月より働き方改革関連法が施行され、自動車運転業務の年間時間外労働時間は年960時間が上限となります。
長時間労働が当たり前のようになっていたドライバーの待遇は改善されるため、何が問題になるのか疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、その長時間労働で賄われてきた配送口数の大幅な減少は避けられません。
配送口数の減少により、送料も値上げせざるを得ない状況になると考えられます。
さらに、ドライバーは走行距離に応じた手当が支給されています。
この手当についても労働時間が減少すれば比例して減少してしまうので、さらなる労働環境の悪化が考えられるでしょう。
|物流DXによってできること
ここまで物流業界が抱える課題について解説しました。
こういった課題を物流DX推進により改善することが可能となります。
では、具体的に物流DXによってどのようなことができるのでしょうか。
人手不足の解消
自動運転システム搭載の車両の導入、AIドローンの活用といった人間以外の力を借りることで運ぶ荷物の量を増やすことができます。
また、効率的な配送を行うためにも配送状況の可視化が必要です。
それには「動態管理システム」の導入が役立つでしょう。
このシステムでは、ドライバーの現在地や状況を把握することができます。
より速く、より効率的に配送できるような指示を出し、ドライバーをサポートすると同時に顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
シームレスな倉庫管理
倉庫内の荷物や在庫の管理も、物流DXの推進によって変化させることができます。
「どこになにがあるのか」はバーコードやICタグによる一括管理できます。
これにより、ピッキング作業や在庫管理をスムーズに行うことが可能です。
また、ここにもAIロボットやドローンを導入することで、人手不足やヒューマンエラーも同時に解消できますよ。
これで小口配送が増えても対応できそうですね。
コストの削減
他業種にも共通していますが、物流DXでもコストを削減することができます。
ペーパーレス化による紙代や切手代、事務員配置などのコストを大幅にカットすることができるでしょう。
物流業界においては、納品書や請求書、伝票などがペーパーレス化できる対象になります。
実際こちらは物流業界においても、既に取り入れている企業も多いのではないでしょうか。
|物流DXの企業導入事例
さて、ここまで物流DXにできることをご紹介しました。
ここからは実際に企業で物流DXを導入した事例をご紹介していきます。
どのような課題を解決しているのかにもご注目いただきながらお読みください。
ヤマトホールディングス株式会社
ヤマト運輸でお馴染みのヤマトホールディングスでは、いち早くDX推進に取り組んでいます。その中で、2020年1月に「YAMATO NEXT 100」という経営改革プランを発表しました。
主な取り組みは以下の通りです。
- AIオペレーターによる電話対応:集荷対応のお問い合わせについて自動対応。LINE AiCallの技術を活用している。
- デジタル教育:社内でYDA(ヤマトデジタルアカデミー)を開催し、社員全員がデジタル技術に対応できるような教育プログラムを展開。
- 独自のデジタルプラットフォーム構築:YDP(ヤマトデジタルプラットフォーム)を構築し、荷物の現在地を顧客に知らせたり、リアルタイムで状況を把握することで最適な配送方法を解析したりという取り組みが実現。
- ドライバーサポート:AIとデータ分析により、どれだけの荷物量を運ぶことができるかなどを把握。ドライバーがお客様との接点に時間を充てられるように、というねらいがある。
SGホールディングス株式会社
佐川急便でお馴染みのSGホールディングス株式会社もDX推進に力を入れています。
過去には、経済産業省と東京証券取引所が発表する「DX注目企業2020」にも、SGホールディングスは物流業界で唯一選出されています。
既にコロナ渦の前から取組みをスタートさせており、「ロボティクス」と「AI」を活用して以下のような取組みを進めているようです。
- ロボティクス分野:倉庫内におけるピッキング作業、トラックへの荷物搬入など。
- AI分野:「どの家から配達するか」について、IOT技術が電力使用状況を分析してAIに連携し、ドライバーをサポート。電力使用状況から在宅有無が分かるので業務効率化に寄与。また、手書き伝票のデジタル化にも成功している。
ロジスティード株式会社
ロジスティード株式会社では、社内外どちらに対してもDX推進を行っています。
また、DXソリューションを独自開発しています。
中でもSSCV(Smart&Safety Connected Vehicle)というプラットフォームにおいては、業務効率化と併せて「安全」への配慮をしています。
過去の事故から「ドライバーの心身状況」が「安全運転」との関連を見抜き、ドライバーの状況をリアルタイムで可視化し把握できるようなシステム「SSCV-Safety」を開発しました。
現在は2300台の車両に導入されており、導入後の漫然運転による事故は0件だそうです。
日本郵船株式会社
日本郵船は、経済産業省と東京証券取引所が発表する「DX注目企業2022」に選出されました。
海運業を展開している同社でのDX事例は以下が挙げられます。
- MarCoPay:乗組員専用の金融プラットフォーム。航海中の給与支給や海外送金、キャッシュレス決済が可能なため、どの国にいてもATMで現金を引き出し可能。
- SIMS(Ship Information Management System):船舶の運航状況をリアルタイムに管理・把握ができるシステム。
- NiBiKi:乗組員の日次報告や申請フローを電子化したプラットフォーム。
沖電気工業株式会社
沖電気工業は、様々な業界に対するDXサービスを展開しています。
中でも物流DXに対しては、AIを用いて荷物の配送計画を自動で作成するシステムを提供しています。
配送計画はどうしても、現場職員の経験に依存して決定していることが多いです。そのため、業務が属人化してしまうことやリアルタイムの変化についていけないことが課題となっていました。
AIを活用することで、コストをもっとも抑えられる効率的なルートをAIが提案してくれます。これにより、配送効率もこれまで以上に改善していくでしょう。
このサービスについては既に実証実験も行われ、走行距離がおよそ300km削減でき、大きなコストダウンになったとのことです。
CBcloud株式会社
CBcloudは、フリーランスでドライバーとして働きたい人と依頼したい人・企業とをつなぐ「PickGo」というマッチングアプリを運営しています。
ドライバーとしては、直接依頼元から仕事をもらえるため、もらえる報酬が増えるというメリットがあります。業界No.1のサービスということもあり、多くの仕事を受けられる可能性があることも大きいでしょう。
また依頼元としては、15,000人以上のドライバーが登録しているため「すぐに使いたい!」という時にも気軽に利用ができるというメリットがあります。軽いものを運べる車両から大型のトラックまで、ニーズに合わせて様々な運送方法が用意されているのも大きなメリットです。
ドライバーがこういったフリーランスで柔軟に働くことができるのは、これまでにはない大きなDX改革と言えます。
|まとめ
物流業界における課題、DX推進におけるメリットや事例についてご紹介しました。
他業界でもDX推進は進められていますが、物流業界においては最優先で取り組まなければならない理由がわかっていただけたかと思います。
時代の変化とともに、普段から私たちも物流業界には非常にお世話になっていて、いまやなくてはならない存在になっています。
企業によっても様々な課題を抱えていますが、「時代に合った方法を柔軟に取り入れていくこと」が必要なのではないかと感じます。
2024年が近づき、さらに関心が高まる物流DXに皆さんも注目してみてはいかがでしょうか。