医療現場におけるテクノロジーの進化は、患者の診断から治療、フォローアップに至るまで、革新的なソリューションを提供する可能性を秘めています。

その中でも、拡張現実(XR)技術は、医療分野において革命をもたらす可能性を持っています。

本記事では、「XR」の導入が医療の課題を解決し、医療従事者や患者にどのような利益をもたらすかについて探求していきますので、是非最後までご覧ください。

|XRとは

「XR」は、「拡張現実」や「複合現実」などの先端技術を包括した、新たな体験を生み出す技術の総称です。

これは、現実の物理空間と仮想空間を融合させることで、私たちが知覚できないような新しい世界を創造するものです。

具体的には、「VR(仮想現実)」や「AR(拡張現実)」、「MR(複合現実)」などがその一部として挙げられます。

詳しくはこちらの記事でも紹介をしておりますのでご参照ください。

「XR(Cross Reality)」って一体何?根底を支える4つの技術を踏まえて解説
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|医療現場でのXR活用事例

XRを活用し医療訓練、手術支援、リハビリテーション、精神的な健康支援など、さまざまな側面で活用されています。

こちらでは実際の活用例を紹介していきます。

手術支援と訓練

XR技術は、外科手術の訓練や手術中の支援として活用されています。

医師は仮想的な手術環境で訓練を行い、リアルタイムの情報を専用のヘッドセットに表示することで、手術の精度向上に役立てています。

リハビリテーション

XR技術は、物理療法や認知療法の一環として効果的に活用されています。

特に、認知症の予防やリハビリテーションなどの治療やケアにおいて、仮想空間上での体験が有効です。

患者は仮想現実の環境でリハビリを行い、そこでの体験を通じて運動能力や認知能力を向上させることができます。このようなアプローチは、介護現場などで大きな成果を上げています。

痛みの管理

XR技術は、患者の痛みを軽減するためにも活用されています。

仮想現実のリラックスした環境や刺激を提供することで、患者の痛みや不快感を和らげることができます。

また、痛みの感じ方や局所的な状態を追跡するためにも、この技術が利用されています。

患者は仮想的なツールを使用して痛みの強度や部位を記録し、それを医療専門家と共有することが可能です。

医学教育

医学生や医療従事者の教育においても、XR技術は大きな役割を果たしています。

従来の二次元映像によるトレーニングや実習ではなく、XR技術を活用することで、仮想空間に臨床的なシナリオを再現し、実際の状況に近い環境で訓練が可能になります。

さらに、患者が治療に必要な検査を理解しやすくするために、事前に体験する機会を提供することもできます。

これにより、医療従事者のカンファレンス時の情報共有も効率化されます。

また、XR技術を使用することで、ベテラン医療従事者の手技や経験を疑似体験することができます。

これにより、学びの質が向上し、医学教育に革新がもたらされています。

精神的健康支援

不安障害や恐怖症の治療にも、XR技術が活用されています。

患者は安全な仮想環境で恐れや不安に直面し、徐々にそれらを克服していくことができます。

さらに、リラックスした仮想的な環境を提供することも可能です。

美しい景色や自然の中を歩くなどの体験を通じて、患者はストレスを軽減し、安心感を得ることができます。

このようなアプローチは、患者の精神的な健康を支援する上で有効な手段となっています。

遠隔診療による治療サポート

XR技術は、医師と患者が遠隔でコミュニケーションを取ることを可能にしています。

医師は患者の状態を仮想的に確認し、適切な診断やアドバイスを提供することができます。

また、遠隔診療においては、触覚などの診療サポートもXR技術を活用することで可能となります。

これにより、医療の質の向上と、患者への迅速なサービス提供が実現されます。

|医療現場とXRの相性

VRやその他のXR技術は、一般的にはゲームやアプリなどのエンターテイメント分野で使用されているイメージがあります。

しかし、実際には医療現場でも積極的に導入が進んでおり、特に医師不足やコロナ禍といった課題に対処するための有力なツールとなっています。

既に医療現場でのXR技術の導入例としては、手術前や術後の映像を立体的に投影してカンファレンスを行ったり、遠隔手術に活用したりするケースが挙げられます。

XR技術を利用することで、平面的な資料よりも手術のシミュレーションが容易になります。

また、手術現場では複数の医療従事者が連携して行動するため、より具体的なシミュレーションが可能となります。

さらに、写真や口頭だけでは伝わりにくい部分も、立体的な映像を見ながら共有することで、理解が容易になるという大きなメリットもあります。

|若い医師の育成

日本では、多くの科で医師不足が深刻な問題とされています。このため、経験の浅い若手医師が即戦力として働くケースが増えており、実際の手術現場での経験不足が懸念されています。

こうした課題に対処する手段の一つが、XR技術です。若手医師が経験を積むための手術訓練プログラムをXRで行うことはもちろんのこと、遠隔地の医師や大きな病院との連携も、XRを導入することでスムーズに実現できるようになりました。

XRを活用することで、若手医師が早く技術を身に着けられるメリットがあります。

  1. 映像の共有により、狭い手術室に多くの人が立ち入る必要がなくなる。
  2. 実際の医療ケースをリアルに体験できる。
  3. 場所や時間を問わずに研修生や医師が自分のペースで学習できる。

特に、新型コロナウイルス感染症の影響下では、訓練が十分に行えない状況でも、XRを用いることで安全かつ柔軟に訓練やカンファレンスが可能です。

|医師不足の課題解決への期待

XR技術を用いることで、これまでの医療では難しかった「治療」以外の部分の課題解決も可能になりつつあります。

手術や投薬をして終わりではなく、その後のリハビリ・入院中のケア、さらに終末医療の場で家に帰ることが難しい患者に対し、自宅を映したVRによるケアを行うこともできるでしょう。

VRを体験するために使うゴーグルが物理的な重さ・大きさがあるため、今後こうしたデバイスを軽量化したり、デバイスを使わずとも投影できるホログラムなどの技術も併せて使われていくといいます。

治療も医師の訓練も「直接」ではなく、XRを用いて今後さらに遠隔での作業が当たり前になれば、医師不足やコロナ禍の医療現場に大きな変革をもたらすでしょう。

|医療現場導入に向けての課題

これらの課題を解決するためには、技術の進歩と共に医療分野との協力が重要です。

医療従事者、技術専門家、法律家、規制当局などが連携して、XRをより安全で効果的に医療現場に統合する方法を模索しています。

1. 訓練と教育の効果的な活用

XRは医療従事者の訓練や教育に有効なツールとして利用されていますが、適切な教材やシナリオの設計、専門的なスキルの伝達方法が必要です。

また、個々の学習スタイルに合わせたカスタマイズが求められます。

2. プライバシーとセキュリティの問題

 XRは患者の医療データや個人情報を取り扱う際に、データの保護とセキュリティの確保が課題となります。

データ漏洩や不正アクセスから患者を守るための安全対策が重要です。

3. 高コスト

 XR技術の導入には高いコストがかかることがあります。

ハードウェアやソフトウェア、専門的なトレーニングなどの費用が医療機関に負担をかける可能性があります。

4. 患者への説明と理解の困難さ

 XRを用いた医療情報の説明や患者への理解を困難にする要因があります。

技術が専門的であるため、適切な方法で患者に情報を伝えるためのアプローチが求められます。

5. 規制と法的課題

医療分野は規制が厳格であり、新たな技術の導入には法的な課題がつきものです。

XRの使用が医療機関の規制遵守に合致しているかどうかが検討される必要があります。

諸外国政府は、医療領域を含めたXR技術の産業利用の促進に向け、ベースとなる法規制の整備と産業支援策の両面から様々な施策を行なっており、2030年を目途に体制整備を進めています。

一方、日本では諸外国に遅れをとっている状態ですが、デジタル空間において、模倣品の販売や譲渡を禁止する不正競争防止法など、知的財産関連の6本の改正法が2023年6月に参院本会議で可決、成立しており今後は医療領域の議論が望まれます。

|まとめ

現実世界とデジタル情報を組み合わせることで、医療従事者と患者、両者にとって新たな機会が生まれるかもしれません。

これからの医療現場にXRが欠かせない存在となる日もそう遠くないかもしれません。

今後のさらなる活躍に目が離せません。