2024年1月現在、「XR(クロスリアリティ)」という文字を頻繁に見聞きするようになりました。
それだけではなく「AI(Artificial Intelligence)」や「VR(Virtual Reality)」「AR(Augmented Reality)」から「MR(Mixed Reality)」「SR(Substitutional Reality)」などなど、数多くの名称がこの数年で登場しています。
「どれも似たような名称で何がなんだか分からない…」
上記のように感じていらっしゃる方は少なくないでしょう。
本記事では「XR」とは一体どういった技術なのかを中心に、その他の技術の内容についてもそれぞれ解説していきます。
一読いただければ現在の最新技術の基本的な内容が理解できるようになります。
ぜひ最後までご覧いただき、自身の知識を深めてみてください。
この記事について3分で簡単に解説した動画もありますので、是非ご覧ください。
|XRとはどんな技術を指す言葉?
そもそも「XR」とはどういった技術を指す言葉なのでしょうか。
「クロスリアリティ」や「Extended Reality」または「Cross Reality」の略称である「XR」は、以下の技術を融合させた技術の総称です。
- VR(Virtual Reality):仮想現実
- AR(Augmented Reality):拡張現実
- MR(Mixed Reality):複合現実
- SR(Substitutional Reality):代替現実
つまり、上記それぞれの技術が「XR」には含まれているということ。
各技術の内容を融合させ、応用させた技術であるといえるでしょう。
「なぜそんな難しいことになっているの?」と疑問に感じられるかもしれません。
その理由の一つとして、近年の技術進歩があげられます。
これまではVRやARといった技術は独立したものとして存在していました。
しかし、近年の急速な技術進歩によってそれぞれの境界線が曖昧になっていったのです。
そうした状況を背景に、新しい技術を呼称するために「XR」という、これまでの技術を総称するような名前が誕生したのです。
つまり、「XR」とはこれまでの「VRやAR、MRやSRといった技術の全てを集約した技術」であるとイメージしてもらえれば問題ありません。
|XRが近年発展し注目されている理由
それでは、なぜ「XR」が近年注目を集めているのでしょうか。
「XR」がVRやAR技術の進歩によって生まれた概念、言葉であることは前述した通りです。
そうした複雑な技術を背景にしていることから、今後のテクノロジーを一層発展させる技術として注目されているのです。
こちらでは「XR」が発展、注目されるようになった理由をそれぞれ解説していきます。
デバイス技術の進化
「XR」第一に、デバイス技術の進化があげられます。
ゲームグラフィックなどをイメージすれば分かりやすいように、現在の映像や音声技術は現実世界と遜色ないクオリティとなっています。
視覚情報の再現度が劇的に向上したことで、これまでは違和感のあった仮想空間もよりリアルに構築できるようになったのです。
またVRゴーグルを始めとした機器の高性能化によって、より手軽かつ質の高い体験が可能となりました。
安価なデバイスも登場したことで市場も拡大し、認知度向上に伴い技術発展も進んでいったのです。
通信技術の進化
近年の通信技術の進化も「MR」発展に大きく関わっています。
これまでは大容量のデータ通信を行う際、若干のタイムラグといったズレが生じてきました。
しかし、光回線の進歩によってWi-Fi環境の高速化が実現。
安定したリアルタイムでの通信が実現するようになったのです。
また、モバイル端末においても従来の4G通信から大容量、同時接続、低遅延が実現する5G通信が普及。
このように、いつでもどこでも快適な通信環境が整ったことが「MR」技術推進を後押ししました。
コミュニケーションの進化
2020年に世界的に流行した新型コロナウイルス感染症をきっかけに、これまでの社会構造、コミュニケーションの取り方に大きな変化が訪れました。
これまでは対面、直接でのやり取りが重視されてきた業界においても、オンラインを通じた交流が普及しつつあります。
各企業がテレワークの促進などを行ったことで、コミュニケーションの取り方にも変化が起きたのです。
こうした状況において、遠方であってもよりリアルな交流を実現するツールとして「MR」技術に注目が集まっています。
仮想空間上での会話はまるで目の前に本人がいると錯覚してしまうほどリアル。
以前よりも柔軟なコミュニケーションが実現したことも「MR」が発展する要因といえるでしょう。
その他にも多数の理由がある
「MR」発展の背景には、前述した「デバイス技術の進化」「通信技術の進化」「コミュニケーションの進化」があげられますが、他にも様々な要因が存在しています。
VRやARを総合的に実現できる「MR」は幅広い業界への活用が期待されており、それぞれの業界からの後押しも発展の理由となります。
例えば、医療分野においては手術のシミュレーションなどの用途や、遠隔での診療に「MR」が利用されています。
また、教育分野では教室や自宅にいながらでもリアルな体験が可能となる「仮想学習環境」の提供が実現しつつあります。
エンターテイメント業界においてもVRやARを活用したゲーム、映画体験の提供が普及しつつあり、より没入感の高いアトラクションを生み出しています。
このように、「MR」技術の普及は新しいビジネスチャンスとしても注目されているのです。
これまでになかったプラットフォームの創出、サービスの提供、コンテンツ制作など、今後様々なビジネスモデルの登場が期待できるでしょう。
|「XR」技術の根幹となるVR・AR・MR・SRの解説
それでは、「XR」技術の根幹となる以下の技術について解説していきます。
それぞれの技術が理解できれば、おのずと「XR」への理解も深まりますので一つずつ確認していきましょう。
VR(Virtual Reality) | 仮想現実(バーチャル・リアリティ) |
AR(Augmented Virtuality) | 拡張現実(オーグメンテッド・リアリティ) |
MR(Mixed Reality) | 複合現実(ミックスト・リアリティ) |
SR(Substitutional Reality) | 代替現実(サブスティチューショナル・リアリティ) |
以降でそれぞれの詳細を確認していきましょう。
VR(ヴァーチャルリアリティ/仮想現実)
「VR(Virtual Reality)」は日本語では「仮想現実」と呼ばれており、文字通り現実世界以外にもう一つの世界を人工的に生み出す技術を指します。
VRゴーグルといった機器を着用すれば、本当に別世界に自身が存在するかのような高い没入感が魅力の一つ。
視覚、聴覚、感覚的な情報をリアルタイムでユーザーへ提供するため、VR上での体験と現実世界との区別が難しくなるほどリアルな体験が可能です。
VR技術は2016年頃を境に登場し始め、現在はMeta社(旧:Facebook)を中心に様々な企業が技術開発を進めています。
VRは「現実世界とは異なるもう一つの世界を創造する」技術であるため、実際の世界に対して干渉することはありません。
そのためゲームや架空のコンテンツを体験するといった用途に頻繁に利用されています。
VRの活用事例
2024年1月現在、VRを活用したサービスが数多くリリースされています。
例えば世界各国を旅行した気分が味わえるVR体験は人気の高いコンテンツの一つ。
世界中のどこでも360度の視界とともに楽しめるため、本当にその場に行ったかのような錯覚を覚えます。
また、アバター姿を通じた交流なども人気です。
メタバースと呼ばれる仮想空間上において、まるで目の前に人が居るかのような臨場を持ったコミュニケーションが可能。
他にもバーチャル空間を活用したゲーム体験の提供や、フィットネスといった業界へも応用が広がっています。
現在はVRゴーグルといった周辺機器の価格も落ちつてきていますので、安価なものからでも気軽に体験できます。
VRについては以下の記事で詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。
AR(オーグメンテッドリアリティ/拡張現実)
「AR(Augmented Reality)」とは、現実世界にCG映像を重ね合わせて体験できる技術です。
現実空間を視認しながらも仮想世界を体験することができるのが特徴です。
スマートフォンなどを通じて、現実世界に仮想空間や仮想の物体などが現れたかのような体験をすることができます。
ユーザーが体験する空間はあくまで現実世界をベースにしているため、VRより身近な技術と言えます。
「XR」技術の中では最も身近なものであり、様々な業界分野への応用が広がっているのです。
ARの活用事例
AR技術を活用した最も有名、身近なものは2016年にリリースされた「ポケモンGO」ではないでしょうか。
スマホを現実世界にかざすと、まるで目の前にポケモンが存在しているかのような体験が味わえます。
「XR」の中でもARは最も身近であり、多くの人がその技術を体験しているでしょう。
現在は通販商品などのサイズ感を確かめるために、カメラを通して実際に配置した時のイメージが瞬時に確認できます。
他にも広告に記された情報を読み取れば、特定のコンテンツが現れるなど、その活用の幅は非常に広くなっています。
こちらの記事でARについて解説していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
MR(ミックスドリアリティ / 複合現実)
MRとはMixed Realityの略で、現実世界と仮想世界を融合させる技術です。
現実世界を視認しながら仮想世界を体験するという点ではARと類似していますが、ARが基本的に決まった角度からの映像でしか対象を見ることができないのに対し、MRでは360度全方位から対象のCGオブジェクトを見ることができます。
さらに、現実世界の物体を操作するかのように3Dオブジェクトを動かしたりすることもできます。
ARよりもさらに現実空間と仮想空間の垣根が曖昧になっています。
また、そうした現実と仮想が重ね合わされた空間を、他者と共有して同時に体験できるというのも、MRの大きな特徴です。
MRに対応したゴーグルを装着することで、複数人がそれぞれの視点から同じオブジェクトを眺め、操作しながらコミュニケーションを取れるという利点があります。
最近活用された事例として、日本メドトロニックと日立ソリューションズ、日立ソリューションズ・クリエイトが共同で開発した、手術室で看護師が器械出し方法を習得するためのトレーニングツール「HoloMe(ホロミー)」があります。
看護師が主に行う、手術室での器械出し業務は的確かつ素早い組み立てと操作が必要で、熟練者と非熟練者では大きな差が生じており、この差によって患者の術後経過にも大きな影響を与えます。
事前に十分なシミュレーションを行うことでこの差を埋めることが出来ます。
MRの活用事例
MRはビジネス分野での活用が進められている技術です。
例えば「工場内での製造効率化」などがあげられます。
MRは実際に干渉できる仮想オブジェクトを、現実世界に投影できます。
これまで2Dで確認、共有していた内容を3D化することで、全作業員に対して瞬時にイメージの共有が可能です。
各箇所に設置されたオブジェクトを確認すれば、それぞれの注意点や指示内容が現れます。
特に車の整備工場などで活用が進められており、今後の可能性に期待が高まっています。
その他にも、MRを通じた作業指示を行うなど、限られた人員で効率的な運用が実現する手段として活用されているのです。
それ以外でも、モックアップ制作や様々な事前のシミュレーションができるため、建築や教育、製造業での活用が始まっています。
MRについても単体で紹介していますので、こちらもご覧ください。
SR( サブスティチューショナルリアリティ / 代替現実)
「XR」技術の中で「SR(Substitutional Reality)」は最も身近に無い技術かもしれません。
日本語では「代替現実」と称されており、「現実とは異なる事象を現実であるかのように認識させる」技術を指します。
VRやARによって投影される映像に対して、ユーザーは「本物だ」と思うことは基本的にはありません。
一方、SRによって投影された映像は「現実」なのか「架空」なのか判断がつかないのです。
そうした現象を起こすためには、やはりリアルな映像と音声の技術が欠かせません。
つまり、VRやARよりも没入感が高く、よりリアルな映像体験の提供こそがSRだといえるでしょう。
SRの活用事例
SRはその高い錯覚効果から、「脳のメタ認知」研究に活用されています。
被験者がSRを体験することで脳機能や心理状態、心拍数などにどういった影響が起こるかを研究しているのです。
また、SRでは実際にはありえない体験を現実のものとして体験させることも可能。
そうした非現実な状況における人の脳の動きを確認する手段として、今後も活用が期待されています。
今後は過去と現実を重ね合わせるなど、これまでとは全く異なった表現方法などが考えられています。
SRについては以下の記事で詳しく紹介していますので、合わせてご覧ください。
|XRの活用事例
ここからは、XR技術がどのように活用されるかを解説します。
仮想空間にアクセスできるという特性上、ゲームや音楽ライブなど、エンターテインメント業界での活用も多いですが、ビジネスや教育の現場での活用事例も増えています。
不動産業界
不動産業界では、物件の体験やプロモーションにVRが活用され始めています。
2021年に東急不動産が発表したモデルルーム内見サービスは、ヘッドマウントディスプレイを用いて、CGやクロマキー技術を用いて再現された建物や部屋に、VRで入室することができます。
モデルルームを、実際に入室しているのと同じスケール感で体験できるのが特徴です。
数年前から、部屋に置いた定点カメラの角度を動かすかのように部屋中を見渡せるといった、VRでの内見サービスが登場していました。
しかし東急不動産のサービスはそうしたものからさらに発展して、実際に部屋の中を歩き回るかのように、自然な視点移動での内見が可能です。
くわえて、内装だけでなく、物件からの眺望も体験することができます。
また、物件を再現した空間の中で顧客と営業者がコミュニケーションをとることもできます。
こうしたサービスは、竣工前のマンションなどであっても、仮想空間上にCGで物件を再現することができます。
事前に購入の検討がしやすくなるため、購買意欲の向上が期待できます。
自動車業界
自動車業界においては、設計や製造段階、また、小売り段階での顧客へのプロモーションにいたるまで、あらゆるフェーズでXR技術を活用する余地があります。
第一に設計やデザインの段階においてMRを利用することができます。
従来の自動車のデザインにおいては、スクリーンに2Dでモデルを表示したり、クレイモデルを使用してのレビューが行われていました。
しかし、ヘッドマウントディスプレイを用いて、実物と同じスケールの3Dモデルを表示することで、それをあらゆる角度から確認することが可能になります。
また、遠隔地から複数のデザイナーが同時に確認することができるので、時間的な短縮にもなります。
MRの特長である現実空間と仮想物体の重ね合わせを活用すれば、既存の実物の自動車と3Dモデルを並べて見比べたり、クレイモデルに仮想のパーツを取り付けたりして確認することができます。
また、既存の自動車に、内装だけMRで重ね合わせることで、実際にその車に乗り込んだかのようにチェックすることができます。
製造する前にそうした調査を行い、問題点を修正することができれば、コストの削減につながります。
こうした特長は設計段階でも有効で、車体の各パーツの整合性を、実際に部品を組み合わせるかのような感覚で確認できるため、コストの削減に加えて安全性の確保もしやすくなります。
日産自動車株式会社では電気自動車の動力源の完成外観目視検査の学習にMRを取り入れることにより習熟期間を半分にすることが可能になっています。
また、PRにおいても、VRを用いた試乗会を開催すれば、実際の会場が必要ないため時間や場所の制約がありません。
遠隔から多くの顧客に商品を体験してもらうことが可能になります。
建設・流通業界
建設業界や流通業界など、重大なインシデントを予防する必要のある業界では、業務の訓練や作業手順のシミュレーションにXR技術が活用されています。実際の現場や実物の機材を使わず、VRで訓練を行うことで、完全に安全を確保したまま学習をさせることが可能です。
大型車両の運転や、建築における高所作業など、危険を伴う作業の初期講習に有効です。
また、建築現場で作業員がMRゴーグルを装着することで、現場を実際に視認しながらも、様々な情報を視界に表示し、操作することができます。
現場の地質データや作業手順などをスムーズに確認しながら作業が行えるので、業務の効率化が期待できます。
作業手順書や設計図などについても、CADデータを利用して3D化したものを視界に収め、それらを直感的に操作しながら作業を行うことができるので、作業手順を標準化し、作業品質を安定化させることができます。
こうしたトレーニングや現場でのマニュアルの提示は、もちろん危険を伴う業界以外でも有効です。
全国規模で店舗展開している企業などでは、すべての店舗で安定した顧客対応を行うため、研修にVRを活用している事例があります。
|まとめ
「XR」とは、以下それぞれをまとめた技術の総称です。
- VR(Virtual Reality):仮想現実
- AR(Augmented Reality):拡張現実
- MR(Mixed Reality):複合現実
- SR(Substitutional Reality):代替現実
「XR」という名前が生まれた背景には、各分野の技術躍進があげられます。
VRやARといったそれぞれ独立していた分野の境界が曖昧になり、新しく表現する言葉が必要になったのです。
その結果や「Extended Reality」「Cross Reality」などの言葉が生まれ「XR」と呼ばれるようになりました。
技術が進歩するにつれて「XR」の存在感は益々大きくなるでしょう。
新技術をいち早く取り入れ、活用するためにも日々最新情報に注目していくことをおすすめします。