拡張現実(Augmented Reality, AR)、仮想現実(Virtual Reality, VR)、混合現実(Mixed Reality, MR)、そして空間現実(Spatial Reality, SR)などの次世代テクノロジー「XR」は、私たちの日常やビジネスに革命をもたらしています。

現実世界とデジタル世界を融合させ、新たな体験や可能性を提供するものとして、昨今ますます注目を集めています。

本記事では、XRを構成するそれぞれの技術について解説し、実際の導入事例を紹介しますので、是非最後までご覧ください。

|XRとは?

XRとは、VR・AR・MR・SRなどの先端技術を包括する名称です。

Extended RealityまたはCross Realityの略称で、現実とデジタルな仮想空間が融合した、新たな体験を実現する技術のことを指します。

昨今の画像処理技術の進歩により、VRやARなど異なる技術が複合して活用されるケースが増えていることから、技術の境界が曖昧になっています。

このような複雑な状況を考慮し、新たな概念であるXRが提唱されました。

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|XRを構成する4つの技術

先述の通り、「XR」は先端技術の総称です。

ここでは、そのXRを構成する4つの技術について紹介します。

AR(拡張現実)

ARとはAugmented Realityの略で、現実世界にCG映像を重ね合わせて体験できる技術です。

現実空間を視認しながらも仮想世界を体験することができるのが特徴です。

スマートフォンなどを通じて、現実世界に仮想空間や仮想の物体などが現れたかのような体験をすることができます。

具体的な活用事例として、人気ゲーム「ポケモンGO」があります。

スマートフォンのカメラを通した現実空間の映像にポケモンの映像を重ね合わせることで、ユーザーのいる現実世界にポケモンが直接出現したかのような感覚を体験することができます。

また、ユーザーの現実世界での所在地に応じて、ゲーム内での所在地も変化するため、街歩きをしながらゲームを楽しむことができます。

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VR(仮想現実)

VRとはVirtual Realityの略で、仮想世界を現実のように体験できる技術のことを指します。

ヘッドマウントディスプレイを使用することで、360度、仮想空間になります。

現実の身体で視点を動かすのと連動して、仮想空間での視点も動くので、実際に仮想空間内部に自分が入り込んだかのような感覚を体験できます。

全方位に仮想空間が広がっているように感じられるため、非常に没入感が高いのが特徴です。

VRの特徴を活かして、音楽ライブや撮影会などを仮想空間上で開催し、VRでユーザーに体験させるというイベントも行われています。

こうしたイベントでは、現実には存在しない空間で、現実には不可能な視覚演出を楽しめるため、非日常的な体験を味わうことができます。

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MR(複合現実)

MRとはMixed Realityの略で、現実世界と仮想世界を融合させる技術です。

現実世界を視認しながら仮想世界を体験するという点ではARと類似していますが、ARが基本的に決まった角度からの映像でしか対象を見ることができないのに対し、MRでは360度全方位から対象のCGオブジェクトを見ることができます。

さらに、現実世界の物体を操作するかのように3Dオブジェクトを動かしたりすることもできます。

ARよりもさらに現実空間と仮想空間の垣根が曖昧になっています。

また、そうした現実と仮想が重ね合わされた空間を、他者と共有して同時に体験できるというのも、MRの大きな特徴です。

MRに対応したゴーグルを装着することで、複数人がそれぞれの視点から同じオブジェクトを眺め、操作しながらコミュニケーションを取れるという利点があります。

最近活用された事例として、日本メドトロニックと日立ソリューションズ、日立ソリューションズ・クリエイトが共同で開発した、手術室で看護師が器械出し方法を習得するためのトレーニングツール「HoloMe(ホロミー)」があります。

看護師が主に行う、手術室での器械出し業務は的確かつ素早い組み立てと操作が必要で、熟練者と非熟練者では大きな差が生じており、この差によって患者の術後経過にも大きな影響を与えます。

事前に十分なシミュレーションを行うことでこの差を埋めることが出来ます。

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SR(代替現実)

SRは、Substitutional Realityの略で、現在の映像に過去の情報を重ね合わせる技術です。

VR、 AR、 MRでは、ユーザーは非現実の体験をしていると自覚していますが、SRは逆に、現実と非現実の区別を付かなくするのが特徴です。

ユーザーが現実に存在している場所の過去の映像を、現在の映像と複合することで、本当に目の前で起きている出来事は何なのかが曖昧になります。

そうすることで、現実には起きていないことを、今現在実際に起きている出来事だと錯覚させることが可能になります。

この技術を活用することで、現実と非現実の境目が曖昧な、新しい映像体験を作り出すことができると期待されています。

もともとSRは、人のメタ認知について研究するための装置として考案された技術になります。

理化学研究所の研究チームが開発したSRシステムも、あくまで認知の隙をついたトリックをみせ、被験者の脳の働きなどを調べるためのものです。

SRは人の認知機能が深く関係するため、今後デジタルコンテンツとして実用化していく上でも、当面はメタ認知をはじめとした脳科学の研究に活用されるでしょう。

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|XRが注目を集める理由

近年XR技術が注目を集めている主な理由は、デバイス技術やソフトウェアの進化と言えるでしょう。

AIを例に考えてみると、AI自体は以前から存在しましたが、高速なCPUや大容量のストレージが実現されることで、大量のデータを高速に処理する能力が向上し、現在の第3次AIブームが加速しています。

XRも同様に、以前の技術では仮想映像の解像度や現実感が限定されていましたが、CPUやGPUの性能向上により、高画質の映像や人間の視覚に近いシミュレーションが可能になったことで、利用シーンが急速に拡大しており、注目を集めています。

|XRのビジネス活用事例

ここからは、実際にビジネスとしてXRがどのように活用されているのか、技術別にご紹介します。

ARの事例

AR技術を活用した事例を4つご紹介します。

スターバックス

出典:https://stories.starbucks.co.jp/ja/stories/2023/sakura_ar/

「お花見AR」では、桜のARを店舗に導入してハッシュタグと共にキャンペーンとして打ち出し、毎年話題作りに成功しています。

店内のQRコードが記載されたポップを読み取るため、店舗に足を運ぶことで桜のAR体験ができます。

専用ページ内に設置されているARカメラを立ち上げると、店内に素敵な桜が咲きます。

花びらが舞い落ちる演出もリアルな桜で、桜味のフラペチーノと一緒に撮影している人も多くいるそうです。

亀田製菓

出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000195.000004318.html

亀田製菓ではハッピーターンにまつわる楽しいARフィルターを提供しています。

「イースター」というARでは、はじめに「イースターエッグ」という卵が空間中に出現し、それをタップすることで演出が始まります。

体験の流れは、まず卵が巨大化し…卵が割れると、中からハッピーターンのキャラクター「ターン王子」が出現します。

撮影者が子供たちと画面を重ねて、ターン王子が魔法をかけるような演出をすると・・・カメラに映っている子どもたちもターン王子になっちゃうという演出です。

NIKE

出典:https://www.forbes.com/sites/andriacheng/2019/05/09/this-new-nike-fit-feature-could-be-a-game-changer/?sh=2fa821324733

NIKE FitとはNIKEの公式アプリの中にあるAR機能です。スマホのカメラを通じて足のサイズを計測し、データをアプリ内に保存。

そのデータをもとにユーザーに適した靴を選んでくれます。

プレゼント用に他人のサイズを記録しておくことも可能です。

ニトリ

出典:出典:https://apps.livingstyle.jp/roomco/launchApp.html

「RoomCo AR」でニトリの家具を試し置きしてみることができます。

家具を購入する際に、家具のサイズが部屋に合うか、部屋の色合いや雰囲気に合うかは心配です。

事前に確認することができれば購買行動につなげることができます。

スマホの画面で購入したい家具を試し置きできるので、部屋の状況に合わせながら家具の購入を検討できます。

さらに商品が気に入ったら、そのまま購入することもできます。

VRの事例

VR技術を活用した事例を4つご紹介します。

ウォルマート

アメリカの大手スーパーマーケットチェーンである「ウォルマート」は、従業員の研修にVRを導入し、米国内で雇用している100万人以上の従業員に対してVRトレーニングを行いました。

VRトレーニングを導入することで、従来の訓練にかかる時間と比較して40%削減することに成功。さらに、通常のトレーニングと比較して満足度が30%向上したとか。

他のトレーニング方法と比べても高いパフォーマンスを示した従業員が多く、VRを活用したトレーニングは効果的だったと言えるようです。

ジョンソン・エンド・ジョンソン

出典:https://jollygood.co.jp/news/814

米ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社(J&J)では、日本での心房細動の手術に関するVRトレーニングを発表しています。

このトレーニングを通じて専門医が足りていない心臓外科での医師の増加に貢献することが目的です。

このVRトレーニングは、専用のVRゴーグルを着用することにより、名医が手術しているシーンをそのすぐ隣に立って観察しているような疑似体験ができるというものです。

名医が手術中にどのような動きをしているのかを、3D空間の中でナレーションつきで学ぶことができるため、通常のトレーニングより正確に実際の手術に近い動きを学ぶことができます。

アシックス

VR動画では3種類のシューズを3Dで表現し、それぞれの機能を紹介しています。

各シューズを履くことで得られる効果や性能をVRで体験することができるので、購入するメリットをわかりやすくPRしています。

アサヒビール

出典:https://www.asahibeer.co.jp/park/vr-factorytour/

日本の大手ビールメーカーである「アサヒビール株式会社」は、アサヒスーパードライの製造工程をVRで体験できる動画を公開しました。

VR動画ではビールが出来るまでの工程を、CGと実際の工場設備を交えてビール目線で体験することができます。

品質を守るための工程が詳細に伝わるので商品に対する理解が深まります。

ビールになったような気持ちで見ることができるのでエンタメ感覚で楽しめますし、商品に対する想いも伝わってきます。

MRの事例

MR技術を活用した事例を4つご紹介します。

NTTコノキュー

出典:https://www.nttqonoq.com/realsupport/

NTTコノキューは2023年3月に「NTT XR Real Support」という遠隔作業支援ソリューションの提供を開始しました。

このソリューションでは、映像伝送や音声通話、画像共有、メッセージ送信などの機能に加えて、MR技術を活用して現地映像に指し示した位置をスマートグラス上に表示する空間ポインティング機能も備えています。

これにより、作業指示の位置を確実に伝えることができます。

さらに、対応するスマートグラスでは手順書を表示し、視界を妨げずに情報支援する3Dフローも利用できます。

6人までの複数人通話やマニュアル作成、画像による証跡保存、ゲストの招待などの機能も装備されています。

遠隔支援者はWebブラウザを使用し、現地作業者はHoloLens、iPhone、iPadなどで利用できます。

メドトロニック

出典:https://www.medtronic.com/jp-ja/about/news/pressrelease/2022-11-22.html

看護師は手術室で「器械出し」業務を行うことがありますが、手術に使用される医療機器の複雑な組み立て方法や操作、手術の手順に合わせた的確な器械出しの方法を熟知し、素早く行う必要があります。

そのため、熟練看護師の目線の動きを学習できる「HoloMe」(ホロミー)が開発されました。

「HoloMe」は、マイクロソフト社のMRデバイス「Microsoft HoloLens2」を活用して、熟練看護師の動きを現実の空間上に表示・録画することで、非熟練看護師のトレーニングツールとして活用されています。

非熟練看護師は録画データを視聴し、熟練看護師の映像を確認しながら効率よく学ぶことができるのです。

これにより、非熟練ながら確実な技術を習得し、手術室での業務をスムーズにこなすことが可能となります。

インフォマティクス

出典:https://chiyodasokki.com/wp-content/uploads/2023/02/pressrelease20230222.pdf

株式会社インフォマティクスと千代田測器株式会社は東京舗装工業株式会社の協力で、交差点改良工事において、MR技術を利用し屋外の全長220mの道路CIMモデル(道路情報モデリング)を原寸大で現地の風景に高精度に重ねて投影することに成功しました。

これまでも実際の現場に仮想のモデルや図面を投影していましたが、投影されるモデルが広範囲の場合、正しい位置に投影させることが難しく、ズレが問題になっていました。

採用したシステムは、Microsoft HoloLens 2のホログラフィックの投影位置を測量機器トータルステーションの連携による高精度表示と、位置ズレをリアルタイムに補正することで課題が解決されました。

トヨタ

トヨタ自動車では、現場の整備士が作業手順書や修理書を参照しながら自動車整備を行っていますが、資料の数が膨大で保管スペースが不足していること、平面のイラストでは車内の立体構造を理解しづらいことが課題となっていました。

この解決のため、トヨタ自動車はMR技術を活用しました。

整備士はHoloLens2を装着し、整備を行う車種の3D作業手順書や修理書を現実空間に重ねて見ることができます。

作業を行う車両の部分についての作業手順が表示され、指示が表示されることで作業効率があがります。

MR技術の活用により、整備士は作業手順書や修理書を参照する手間や時間が削減し、作業ミスの低減が期待されるほか、遠隔地と現場のコミュニケーションも円滑に行えるようになりました。

専門家が遠隔地の現場に作業指示を出すなどの連携も可能です。

SRの事例

SR技術を活用した事例をご紹介します。

理化学研究所

理化学研究所は、2012年夏にSRを活用した体験型パフォーマンスアート「MIRAGE」を発表しています。

「MIRAGE」は、パフォーマンスグループであるグラインダーマンと、音楽家・サウンドアーティストのevala、理化学研究所の研究者たちが、SR技術の新たな展開として作りあげたものです。

このSRシステムを直接体験できるのは1名で、専用のゴーグルを装着することで、視界に映るダンサー、音、光などの情報から現在と過去を行き来するような錯覚を起こし、不思議な体験をすることができます。

|まとめ

いかがでしたか?

本記事では、XRについてや、XRを構成するその他の技術について、それらの技術が実際にどのように活用されているのか事例を紹介しました。

XR(Extended Reality)技術は、VRやARなどのデジタル空間技術の進化によって成り立っており、実際の現実と仮想空間を融合させて新たな体験を可能にするものです。

今後、5Gなどの通信技術の普及により、さらにXRの発展が期待できます。

この技術の進化を注視し、その可能性を最大限に活かすことが、今後のデジタル社会の鍵となるでしょう。

今回も最後までご覧いただきありがとうございました!