国内外のさまざまな企業によるメタバース事業への本格参入や新たなサービス提供が活発化しています。
アバターを使った交流や、没入感あふれるゲームやライブ、バーチャル都市でのショッピング、ブロックチェーンを活用した不動産やNFTへの投資などその内容は実にバラエティーに富んでいます。
そこで今回は、メタバース事業に参入している国内外の企業をご紹介しましょう。その背景にある国内の動向についても詳しく解説します。
|日本企業がメタバース関連事業へ参入する背景
日本企業によるメタバース関連事業への参入が大変活発化しています。
そこには、感染症の蔓延、政府の方針、Web3.0の到来といったことなどが深く関係しています。
まず、その具体的背景について解説しましょう。
オンライン交流の需要が高まっている
新型コロナウイルスの世界的流行によって、テレワークや社会的距離の確保が急速に推進されました。
これによりビジネス、プライベートに関係なく仮想空間を使った交流やサービスへの需要が一気に拡大します。
時を同じくしてFacebookがメタに社名を変更。
オンライン交流をより楽しく実用的にする機運が高まると、メタバース事業の将来性に目をつけた国内IT企業を筆頭にさまざまな業界の大手企業も積極参入し始めたのです。
内閣府が提唱するムーンショット計画
内閣府は2050年までに遠隔操作するアバターとロボットを組み合わせ、大規模で複雑なタスクを実行する技術の開発とその運用等に必要な基盤構築を目指すムーンショット計画を提唱しています。
これにより人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会実現を企図しています。
サイバー空間で身体的能力、認知能力、知覚能力を強化し、ビジネスや生活の質を高めようとする同計画の主役となるのが、メタバース関連事業なのです。
ブロックチェーンの発展
近年、Web3.0の主役となるブロックチェーン技術が急速に発展し、各業界に普及し始めています。
このブロックチェーンと非常に親和性が深いのがメタバースです。
デジタルコンテンツに唯一無二の所有権を付与するNFT(非代替性トークン)の仕組みにより、ゲームキャラクターやアイテム、バーチャル空間内の不動産がブロックチェーン上で仮想通貨を使い自由に取引できます。
この動きがメタバース需要を底上げしているのです。
|メタバース関連事業へ参入している日本企業
それではここからメタバース関連事業へ参入している日本企業をご紹介しましょう。
だれもがご存知の日本を代表する老舗企業からITスタートアップ、アパレルや航空会社にいたるまで、その顔ぶれは多岐にわたります。
monoAI technology
現実世界と仮想世界を融合して新たな価値を創造するXR事業を専門に手がけるスタートアップです。
『XR CLOUD』というリアルとバーチャルが融合するビジネス活用型バーチャル空間構築プラットフォームが、大変な話題を呼んでいます。
一度に数万人規模が同時接続可能で、新ビジネスの創出を後押し。
同ツールを活用して25店舗が集まる「そらのうえショッピングモール」というメタバースショッピングモールを展開しています。
NTTドコモ
子会社である「NTTコノキュー」がメタバースに特化した事業を展開しています。
仮想空間内での体験型イベントやショップ経営、AIトークルームなど多岐にわたるサービスを行なっています。
中でも主力となるサービスの一つが、『XR World』です。
スマホやパソコンから無料で利用できるバーチャル空間内で、ユーザー同士がコミュニケーションをしながら、音楽やダンス、アニメといったコンテンツを楽しむことができます。
cluster
国内最大級のメタバースプラットフォームを提供しており、ユーザーは、自分独自の世界をプラットフォーム上に構築することができます。
ユーザーが作った40,000を超えるワールドの中から、好きなものに数万人が同時接続して楽しむことも可能です。
バーチャルのカフェや観光、都市探索、アスレチック、謎解きゲームや対戦ゲーム、さらにお祭りなどリアルイベントやバーチャル世界のイベントも、毎日のように開催されています。
GREE
メタバース事業に特化した子会社「REALITY」がスマートフォン向けメタバース「REALITY」をサービス提供しています。
ユーザーは自身のアバターを自由にデザインの上、顔出しなしのライブ配信やゲーム、バーチャルワールドでのコミュニケーションなどを楽しむことができます。
大手企業と組んでビッグイベントを開催したり、法人向けにメタバース上での広告事業やプラットフォーム構築サービスを行なったりしています。
サイバーエージェント
子会社である「株式会社CyberMetaverse Productions」が、オリジナルメタバース空間での企業の販促活動を支援しています。
店員アバターによる接客、企業の社員による遠隔接客、AI接客など、様々な販促機能があります。
また、NFTを利用したデジタルコンテンツのリリースやオリジナル暗号資産の発行サービスも提供しており、他のメタバースサービスとは一線を画した事業展開が注目されています。
KDDI
clusterを使って渋谷区公認の「バーチャル渋谷」をオープンさせたことで話題を呼びました。
ハロウィーンでさまざまなキャラクターとコラボしたり、アーティストのライブなど渋谷の世界観をアピールした多彩なイベントを開催したりしています。
友人との交流が楽しめるαU metaverse、実店舗と連動してショッピングができるαU place、デジタルアートが買えるαU marketなどを同時展開しています。
HIKKY
ギネス記録に認定された世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」を繰り返し開催。
クリエイターが出店しているブースで3Dデータ商品を買い求めたり、企業ブースにて食品、ファッション、デバイスといったリアル商品を購入したりといったことが可能です。
他にも、企業向けの「Vket Cloud」というメタバース空間構築エンジンを提供したり、世界100都市をメタバース化するプロジェクトを行なったりしています。
パナソニック
子会社の「株式会社Shiftall」が、メタバースで活用できる製品を積極的に開発しています。
メタバース用モーショントラッキングデバイス「HaritoraX」、LUMIXバーチャルデータ販売、VRヘッドセット「MeganeX(メガーヌエックス)」やウェアラブル冷温デバイス「Pebble Feel(ぺブルフィール)」、メタバース対応音漏れ防止機能付きマイク「mutalk (ミュートーク)」等です。
キヤノン
メタバースデバイスの「AMLOS」やVRプラットフォームソフトウェア「Kokomo」を開発しています。前者は1つの画面で複数の映像情報が切り出せます。
オンライン会議で、話者の全景と表情のアップ、拡大した資料、といったように複数分割が可能となります。
後者は専用のVRヘッドセットやスマホを使い、仮想的な対面ができるようになります。
キヤノンならではの高技術でユーザーは本当に話している錯覚が体験できます。
リコー
新規事業として『リコーバーチャルワークプレイス』を提供しています。
ユーザーが希望する任意の空間をVR上に構築し、メンバーはVRヘッドセットを利用してその空間に集まることができます。
普段使っている3次元データを仮想空間に作り上げ、全員がそれを見ながら話し合うことが可能です。
建築やものづくりなどリモートでは共有しにくかったアイテムやシチュエーションが、現場にいる感覚で確認できる画期的なサービスです。
BEAMS
HIKKYが開催する「バーチャルマーケット」に過去5回出展しているのが、BEAMSです。
リアル店舗をバーチャル上に再現し、実際に販売しているアイテムを3D化してアバターに着せたり、公募で選ばれたバーチャルモデルに新作を着せて披露したり、ミュージシャンを招待してメタバース上でバーチャルライブを開催したりといったさまざまなイベントを催してきました。
アバターが着用しているアイテムの一部は購入もできます。
ANA
新会社「ANA NEO」を設立し、インターネット上のバーチャル空間でさまざまなアトラクションが体験できるメタバースプラットフォーム『ANA GranWhale』を開発しています。
世界中の都市や絶景スポットを旅することができる「Skyパーク」とバーチャルショッピングが楽しめる「Skyモール」、未来の街をイメージした「Skyビレッジ」から成ります。
2023年6月にアジア地域から先行ローンチされました。
三越伊勢丹
スマートフォン向け仮想空間プラットフォーム『REV WORLDS』を展開しています。
伊勢丹新宿店をバーチャル化し、本物そっくりのデパ地下やファッションブランド店、ギフトショップなどが出店しており、そこで売られている商品はそのままオンラインで購入することができます。
アバターとなって買い物や店内探索が楽しめますが、顔、服装、ヘアスタイルにいたるまで、自分で好きなようにコーディネートすることが可能です。
大和ハウス
業界初となる『メタバース住宅展示場』をサービス提供しています。
スマホやタブレット、パソコンを使って利用でき、見学者と営業担当者はアバターになって展示場内を内覧して、質問をしたり、説明をしたりすることが可能です。
床や壁紙、天井の素材・カラーやインテリアなどを自由に切り替えることもできます。
現実の展示場では不可能ですが、これによって見学者が実際の様子をよりイメージしやすくなったところが大きな利点です。
エイベックス
エイベックスは、アーティストとファンがバーチャル空間で交流できる『エイベックスランド』のオープンを予定しています。
ブロックチェーンゲームプラットフォームの「The Sandbox」内でのリリースが計画されており、バーチャルライブやファンミーティング、NFTアイテムの販売などが行われるようです。
NFTは人気によって価格が上下し、いつでも売ったり買ったりできるので、投資対象としても期待できるでしょう。
|メタバース関連事業へ参入している海外企業
続いて海外企業のメタバース関連事業への参入例を紹介しましょう。
時代を先取りして社名を「メタ」に変更した元Facebookを筆頭に、アメリカの企業が多くを占めますが、中国や韓国などアジア勢も積極的です。
Meta
メタバース企業の筆頭として世界中から注目を浴びています。メインサービスは『Horizon workrooms』で、メタバースデバイス「Meta Quest(VR)」を使って参加したり、2D画面からも参加できたりする没入型仮想オフィスです。
アイデアをスケッチしたり付箋が貼れたりするホワイトボード、目的に合わせて変化できるフレキシブルなルームが大きな特徴です。
無料で一度に50名まで参加することができます。
Microsoft
メタバースデバイス「HoloLens」や、オフィスやチーム内でチャットやグループ会議などが可能な「Teams」をメタバースに拡張した「Mesh for Microsoft Teams」を開発し、メタバース分野では、メタ(元Facebook)とも連携しています。
メタのヘッドセット「Meta Quest」デバイスに導入すると同時に、「Microsoft365」もMeta Questに対応させています。
Tencent
オンラインゲームで世界的に人気のTencentは、メタバースでもゲーム事業を展開し始めています。
また、メッセージアプリ「Wechat」やSNSの「Qzone」をメタバースへと発展させる動きもあります。
FacebookやTwitterが使えない中国において、世界にサービスを拡大する足がかりとする考えとみられます。
日本企業のメタバース事業への参入も本格的に支援しており、さらなる市場拡大を狙っています。
Animoca Brands
Web3.0の世界的リーディングカンパニーであるAnimoca Brandsは、メタバースやWeb3.0企業450社以上に投資をしながら急成長を遂げています。
代表的なサービスがブロックチェーンゲームの「The Sandbox」で、ユーザーはメタバース空間で土地を購入したりビルを建てたりしてイベントの開催や不動産の売買が可能です。
すでに世界中の大企業が、同ゲーム内で新たなビジネス展開を行っています。
Decentraland Foundation
『Decentraland』というメタバースプロジェクトを運営している非営利団体です。
メタバース上の土地であるLANDを購入して、その上に独自コンテンツを作り、NFTとして売買することも可能です。
非営利のため、利益は求めず、ユーザー主導で独自のコンテンツが拡充できるDAO(分散型自律組織)による運営が行われているところに最大の特徴があります。
ブロックチェーンとメタバースを融合した典型例といえます。
『ZEPETO』というメタバース空間を運営しています。
スマホで利用でき、ユーザーは自分の顔にそっくりのアバターを簡単に作成することが可能です。
アバターの着せ替えを楽しんだり、他のユーザーたちとコミュニケーションができたりします。
GUCCIをはじめとする世界の有名企業とタイアップし、実際にブランドが販売しているアイテムをバーチャル化して販売。
累積売上数は1億5,000万個を上回るほどの人気ぶりです。
NIKE
NFTベンチャーとして世界的に有名な「RTFKT」を買収してメタバース事業に本格参入しました。Web3.0プラットフォーム『.Swoosh』では、バーチャル商品を展示したり販売したり、NFT化して売買したりすることも可能です。
またバーチャル製品の共同制作サービスも予定されています。
バーチャルシューズを買うことでリアルな靴の予約ができるなど、現実世界とのインタラクティブなサービスにも注力しています。
|まとめ
国内外の多くの企業がメタバース関連事業に続々と参入しています。
とくに日本企業がメタバースを重視しているのは、
- オンライン交流の需要が高まっている
- 内閣府が提唱するムーンショット計画
- ブロックチェーンの発展
といった理由によります。
メタバースというとゲームやエンタメのイメージが強いかもしれませんが、リアル店舗との融合や、よりリアルに近いバーチャル会議システムの提供、さまざまなアイテムを変化させて現実的なイメージが強化できる展示場など、従来では考えられなかった新たなビジネスモデルが数多く誕生しています。
個人で利用するのはもちろん、ビジネス参入や投資対象として検討するのも、今が絶好のチャンスかもしれません。