「なぜ中小企業のDXは進まないのか?」
「DXを進めないといけないのはわかってるけど、やり方がわからない」
現代の競争環境において、DXは中小企業にとって避けて通れない重要なテーマです。
この記事では、中小企業がDXを成功させる方法と課題を、活用事例(ユースケース)や補助金制度を交えて徹底解説します。
記事を読めば、具体的なアクションを踏まえたDX戦略を立てることができ、成功に向けた一歩を踏み出すヒントを見つけられるはずです。
ぜひ、この記事を読んで、中小企業のDXを成功させ、競争力を向上させるための知識を蓄えてください。
|DXとは?

DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、企業が最新のIT技術やソリューションを活用し、自社の商品やサービス、業務フローをデジタル化することで、ビジネスモデルの転換を図る活動です。
日本語では「デジタルへの変換」や「デジタル化」と訳されることがあります。
昨今、なぜDX推進が求められているのかというと、経済産業省が警告した「2025年の崖」やビジネス環境・市場の変化に対応するため、既存業務のデジタル化やITツール導入対応、そして2027年のSAPサポート終了に備えるためです。
DXは単にサービスや業務をデジタル化するだけでなく、ビジネスモデルの変革や新たな価値創出を目指す活動であり、日本企業にとって重要な取り組みとなっています。

|中小企業がDXを進める上での課題
現在の日本の最大の課題の一つとして、DX化が上手く進んでないことが挙げられます。
2021年9月に、日本のデジタル競争力世界ランキングが27位という結果に対応して、「デジタル庁」が設立されたのは有名な話です。
世界でのデジタル競争力を向上させるには、大手企業だけではなく、中小企業がDXに積極的に取り組まなければなりません。
しかし、依然として中小企業のDXは世界と比較すると「周回遅れ」と揶揄される程です。
ここでは、日本のDXを進めるうえでの大きな課題について代表的なものを解説します。
- IT人材不足
- ツールや技術の選定
- 経営者の意識
- DX補助金を活用できていない
IT人材不足
中小企業におけるDX推進の大きな課題の一つが、IT人材の不足です。
2023年度の中小企業白書によると、従業員過不足DIが全業種で前年度よりも低水準となっており、特にITスキルを持つ人材が不足していることが問題として指摘されています。
これは、中小企業においてIT人材育成への投資が十分に行われていないことや、競争力のある大企業に人材が流れてしまうことが原因でしょう。
この問題に対処するためには、中小企業は現在の従業員のスキル向上に力を入れることが重要です。研修や教育プログラムを通じてITスキルを向上させ、社内での人材育成を行うべきです。
また、採用時にはITスキルを持つ人材を優先的に採用し、外部の専門家やコンサルタントと協力することで、IT人材不足の解消に繋げる努力をしていく必要があります。
ツールや技術の選定
中小企業のDX化の需要の増大に伴って、適切なツールや技術の選定が重要な課題となっています。
ツールや技術の選定ができない理由は、次の4つが主な原因として考えられます。
- システム導入後のフォローアップが不十分であり、定着までのプロセスが十分に機能していないこと。
- IT化の目的や課題が明確でなく、適切なツールの選定が困難であること。
- 部分的なIT化が進んでいるが、全体の最適化ができていないため、業務効率化が十分に実現できないこと。
- 既存業務の効率化にとどまり、デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革(DX)への取り組みが不十分であること。
これらの課題に対処するためには、まず自社のビジネスニーズや目標を明確にし、それに応じたツールや技術を選定することが求められます。
また、導入後も継続的な監視や改善が必要であり、全体の最適化を目指すべきです。
最終的には、デジタル技術を活用してビジネスモデルを変革することが、中小企業の成長につながるでしょう。
経営者の意識
DXを成功させるためには、経営者の意識が非常に重要です。
現在では、経営者がデジタル技術を前提とした経営ビジョンや事業戦略を持ち、企業文化を変革し迅速に対応できる状態にすることが求められます。
しかし、過去の成功体験に囚われた経営者は、事業部門ごとに分け隔ててしまいがちであり、本質的なDXを進めることが難しい状況が続いています。
このような経営者の意識の差が、日本のDX推進が遅れている一因であることは間違いないでしょう。
DX化には、人材の流動化が極めて重要だとされており、外部や異分野からの意見を取り入れ、融合させることが経営変革に必要です。
経営者自身がDXの本質を理解し、適切な方向へ進むことが、中小企業のDX推進において不可欠な要素となります。
DX補助金を活用できていない
中小企業がDX化を進める上で、補助金の活用が重要な役割を果たしています。
しかし、多くの中小企業は、利用できる補助金が存在することを知らず、資金調達の機会を逃してしまっています。
政府が企業のDX化を推進する補助金は以下の5つです。
- ものづくり補助金
- IT導入補助金
- 事業再構築補助金
- 小規模事業者持続化補助金(一般型)
- キャリアアップ助成金
これらの助成金を活用すれば、資金に関する問題はある程度解決することが可能です。
それにもかかわらず、資金の問題でDX化に着手していない中小企業は非常に多いのが現状です。
|中小企業のDXの必要性
なぜ、中小企業のDX化が急務とされているのでしょうか。
先述したように、国際的競争力を向上させるのも目的のひとつではありますが、それ以外にも大きなメリットがいくつもあります。
ここでは、中小企業のDXの必要性について詳しく解説します。
- 競争力向上
- 業務効率化
- 新たなビジネスチャンスの創出
- 顧客満足度の向上
競争力向上
中小企業がDXを推進することで、競争力を向上させることができます。
実際に、デジタル技術を活用している企業は、製造業では5.7%、非製造業では4.2%の売上高の向上が確認されており、競争力向上のためにDXが必要不可欠であることを示しています。
このような結果になっている理由として、デジタル技術の活用が業務の効率化や新しいサービス・商品の開発を促進していることが考えられます。
デジタル技術を取り入れることで、従来の方法では見つけることが難しかった市場のニーズや新たなビジネスチャンスを発掘することができます。
競争力を向上させるためには、中小企業は自社の業務プロセスや商品・サービスを見直し、デジタル技術が適用できる部分を見つけ出すことが重要です。
また、デジタル技術の最新トレンドをキャッチアップし、他社に差をつけることができるように、継続的に技術の導入を検討することが求められます。
業務効率化
中小企業がDXを進めることで、業務効率が大幅に向上します。
例えば、愛知県碧南市に本社を構え、自動車部品の製造を行っている旭鉄工株式会社は、製造現場の「見える化」を行い、生産能力を約43%向上させ、年間3億円にも上る労務費の削減に成功しています。
これは、デジタル技術によって手作業や煩雑な業務が自動化され、従業員がより付加価値の高い仕事に時間を割くことができるようになったのが大きな要因でしょう。
また、情報共有やコミュニケーションがスムーズになることで、業務の進捗管理が容易になり、全体の効率が向上するという側面もあります。
業務効率化を実現するためには、まず企業は自社の業務プロセスを洗い出し、どの部分にデジタル技術を活用することが最も効果的かを検討することが重要です。
新たなビジネスチャンスの創出
DXを進めることで、中小企業は新たなビジネスチャンスを創出することができます。
実際に、デジタル技術を活用して新しいサービスや商品を展開した企業は、売上や利益の増加に成功しているケースが数多く報告されています。
これは、DX化に伴って従来では困難だった市場のニーズに対応できるようになるためです。また、データ分析やAI技術の活用により、顧客のニーズをより正確に把握し、ターゲットに合った商品やサービスを開発することが可能になることも一因として考えられます。
新たなビジネスチャンスを創出するためには、企業はまず自社の強みや市場状況を把握し、どのようなデジタル技術を活用すれば競争力を高めることができるかを検討することが重要です。
その上で、適切な技術やパートナー企業を選定し、新たな取り組みに積極的にチャレンジする姿勢が重要になってくるでしょう。
顧客満足度の向上
DXを活用することにより、中小企業は顧客満足度を向上させることができます。
例えば、SNSやAIチャットボットを活用すれば、顧客の問い合わせに迅速かつ適切に対応することが可能になります。
また、データ分析ツールを用いて顧客の購買履歴や行動パターンを分析し、パーソナライズされたサービスを提供することもできます。
顧客満足度を向上させるためには、企業は顧客のニーズを理解し、それに応じたデジタル技術の選択と活用が求められます。
ただし、デジタル技術を導入する際には、顧客のプライバシーやセキュリティにも十分に配慮する必要があることには注意しましょう。
|中小企業のDX成功事例
中小企業でDXを成功させるには、企業の成功事例を参考にすることも大事です。ここでは、DXの成功事例を3つ、ジャンル毎に分けて紹介します。
- 事例1: IoT技術の導入による生産性向上
- 事例2: 顧客対応のデジタル化
- 事例3: データ分析によるマーケティング戦略立案
事例1: IoT技術の導入による生産性向上
株式会社木幡計器製作所は、圧力計などの計測・制御機器を製造する老舗メーカーですが、近年は受注が下降傾向にあり、他社との差別化が求められていました。
特に、計器を現場で確認する作業員の人材不足が課題でした。
この課題に対処するため、同社はIoT技術を計測器に導入しました。
無線デバイスが搭載されたIoT対応計測器は、計測結果をクラウドサーバーに送信することができます。
これにより、作業員を現場に送らずとも遠隔から管理・操作が可能となりました。
木幡計器製作所は業務効率化を実現するだけでなく、新たな市場である医療機器事業への参入にも成功しています。
事例2: 顧客対応のデジタル化
株式会社ニューマインドは、食品の表面にフルカラー印刷できる「可食プリンタ」を開発・設計・製造・販売・保守メンテナンスするものづくり企業です。
ニューマインドの課題は、顧客の食品生産ラインで稼働する可食プリンタの使用状況を把握できず、故障発生時の原因究明や適切なサポートサービスが難しいというものでした。
これらの課題に対処するため、同社は可食プリンタにIoTセンサーを組み込み、インク残量や稼働状況、利用状況を遠隔監視できる仕組みを開発しました。
取得したデータはクラウド上に収集され、リアルタイムに確認ができるようになっています。
このデジタル化により、ニューマインドは故障原因の究明・検証が可能となり、顧客に対してきめ細やかなサポートサービスを提供することが可能になったとのこと。
最終的に、顧客満足度の向上や信頼性の強化が図られ、競争力を高めることに成功しています。
事例3: データ分析によるマーケティング戦略立案
千葉ロッテマリーンズは、プロ野球チームのマーケティング戦略を強化するため、Custella Analyticsというツールを利用して、データ分析結果を活用することにしました。
目的は、設定された3つのターゲット(ローカルマリーンズフリーク、アクティブアラサー、ファミリーwithキッズ)を深く理解し、マーケティング戦略を最適化することです。
業務改革の内容として、提携クレジットカード「マリーンズVISAカード」の利用データを用いて、コアファンとライトファンを定義しました。
また、来場圏居住者という新しいお客様像を作成し、ターゲットの比較軸として活用しています。
この取り組みにより、球団外の消費行動がより精緻に捉えられ、ペルソナ設定の正確性がより精密なものになり、千葉ロッテマリーンズはマーケティング戦略を最適化することに成功しています。
|中小企業向けのDX補助金制度
中小企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める際、政府や地方自治体が提供するさまざまな補助金を活用することができます。
これらの補助金は、企業のDX推進を支援するために用意されており、それぞれの補助金には特徴や対象となる事業が異なります。
- ものづくり補助金
- IT導入補助金
- 事業再構築補助金
- 小規模事業者持続化補助金(一般型)
- キャリアアップ助成金
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、制度変更や働き方改革、社会保険の適用拡大などに対応するための補助金です。新商品やサービスの開発、生産プロセスの改善など、設備投資を行う企業が対象となります。
支給対象となる企業は、3〜5年の事業計画を策定し、給与支給総額、事業場内最低賃金、付加価値額などの基本要件を満たす必要があります。
補助金額は、従業員数に応じて100万円〜1,000万円が支給されます。補助率は通常枠で1/2、小規模事業者やデジタル枠では2/3となります。
設備投資は、単価50万円(税抜き)以上が必要です。
ものづくり補助金を活用する際には、事業計画の策定や基本要件の遵守に注意し、さらにデジタル枠を利用する場合は、追加要件にも対応することが重要です。
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者がITツールを導入し、業務効率化を図ることを支援する制度です。業種や組織形態を問わず、広く利用可能です。
IT導入補助金を受けるためには、事業場内の最低賃金が地域別最低賃金以上であることや、gBizIDプライムの取得、IPAの「SECURITY ACTION」の宣言が必要です。
補助金額は、通常枠では30万円〜150万円未満、デジタル化基盤導入枠では5万円〜50万円、セキュリティ対策推進枠では5万円〜100万円が支給されます。
補助率は、通常枠で1/2以内、デジタル化基盤導入枠で2/3以内、セキュリティ対策推進枠で1/2以内です。
IT導入補助金を活用する際には、申請要件を満たすことが重要です。
また、適切な枠組みを選択し、導入するITツールやサービスが対象経費に含まれるか確認することも大切です。
事業再構築補助金
事業再構築補助金は、ウィズコロナやポストコロナの経済社会を見越し、中小企業が大胆な事業再構築に取り組む際の支援策です。新たな分野への展開や業態の変更、事業や業種の転換などが対象となっています。
この補助金は、コロナ禍以降売上が大幅に減少し、事業再構築(新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換・事業再編)を検討している中小企業が対象です。
補助金の金額は、従業員数や枠組みによって異なりますが、通常枠では最大8000万円までの補助が受けられます。補助率は2/3から3/4まで変動し、費用の大半が補助されるため、DXを活用した大規模な変革を目指す場合には活用がおすすめです。
小規模事業者持続化補助金(一般型)
小規模事業者持続化補助金(一般型)は、制度変更への対応を支援するための補助金で、販路開拓や商品改良・開発、業務効率化などの取り組みに対して支援が提供されます。
対象となる小規模事業者は、商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)では従業員数5人以下、宿泊業・娯楽業及び製造業その他では従業員数20人以下です。
この補助金を受けるためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 経営計画に基づく、販路開拓や業務効率化の取り組みが含まれること。
- 商工会や商工会議所の支援を受けること。
- 他の国の助成制度と重複しないことや、1年以内に売上につながる見込みがあること、公序良俗に反する取り組みでないこと。
補助金の額と補助率は、以下の通りです。
- 通常枠:補助率2/3、上限50万円
- 賃金引き上げ枠:補助率2/3(赤字事業者は3/4)、上限200万円
- 卒業枠:補助率2/3、上限200万円
- 後継者支援枠:補助率2/3、上限200万円
- 創業枠:補助率2/3、上限200万円
- インボイス枠:補助率2/3、上限100万円
この補助金を活用する際には、上記の受給条件を確認し、適切な枠組みで申請することが重要です。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するための制度で、正社員への転換や賃金の引き上げなどを行った企業に対して助成が提供されます。
DX推進や人員体制強化、賃金改定等の取り組みに活用できます。
助成金の支給対象となるには、以下の条件を満たす必要があります。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること。
- キャリアアップ管理者を置くこと。
- キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局の受給資格の認定を受けること。
- 対象労働者の労働状況・勤務状況・賃金支払い状況等を明示できる書類を提出できること。
- キャリアアップ計画期間内に取り組むこと。
事業主は、まずキャリアアップ計画を作成・提出し、次に就業規則の改正等を行い、その後、対象労働者に6ヶ月間賃金を支払い、支給申請を行う流れです。
助成金額は、各コースによって異なります。
正社員化コースでは、有期雇用から正規雇用への変更で1人あたり57万円〜72万円、無期雇用から正規雇用への変更で1人あたり28万5,000円〜36万円が支給されます。
賃金規定等改定コースでは、有期雇用労働者の基本給を2%以上増額すると、1人〜5人の場合は1人あたり32,000円〜40,000円、6人以上の場合は1人あたり28,500円〜36,000円が支給されます。
キャリアアップ助成金を受ける際には、上記の条件や申請手続きに注意して、対象労働者のキャリアアップを促進し、企業全体の生産性向上につなげましょう。
|まとめ
本記事では、中小企業がDXを成功させる方法と課題を、具体的な事例や補助金制度を交えて解説しました。
中小企業がDXを進める上での課題はIT人材不足やツールの選定、経営者の意識、補助金の活用などがありますが、これらを克服することで競争力向上や業務効率化、新たなビジネスチャンスの創出、顧客満足度の向上が期待できます。
DXは中小企業にとっても避けて通れない重要なテーマであり、今後もその重要性は増すことでしょう。今後も引き続き、中小企業が積極的にDXを取り入れ、業務プロセスのデジタル化やデータ活用を進めることが求められます。























