DX戦略は、現代のビジネスにおいて欠かせないものとなっています。
デジタル技術を活用してビジネスを変革することで、業務効率化や生産性向上、新しいビジネスモデルの開拓、顧客満足度の向上など、様々なメリットがあります。
しかしながら、DX戦略を導入するには、ビジョンの共有やリソースの理解、企業文化の創出など、多くの要素が必要です。
また、初期費用や人材不足、レガシーシステムからの移行の難しさなど、デメリットも存在します。
この記事では、DX戦略の導入に必要な知識やメリット・デメリットを解説し、導入事例も紹介します。また、経済産業省によるDXフレームワークやDX認定制度についても紹介し、DX戦略を導入する際の指標として活用していただけます。
DX戦略に取り組もうとしているビジネスパーソンやビジネススクールの学生はもちろん、一般の方々にも役立つ情報がたくさん詰まった記事ですので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
|DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
現代社会において、DXはますます重要になっています。
このセクションでは、DXとは何かということを解説し、DXという言葉が使われるようになってから現在に至るまでの歴史についても解説していきます。
DXがいかにしてビジネスや社会を変革しているのか、ぜひご覧ください。
そもそもDXとは?
単にデジタルツールを導入することではなく、データとデジタル技術を利用して、ビジネスモデルを変革することをDXといいます。
一方、デジタル化は業務効率化を目的としており、アナログだったツールをデジタルへ移行することを指します。
例えば、電話やFAX、手紙は、電子メールやチャットアプリ、ビデオ会議システムに移行されてきました。
つまり、アナログのビジネスツールをデジタルツールへ移行させることがデジタル化です。
DXとデジタル化は、目的や手段が異なります。
DXは、データとデジタル技術を手段として用い、ビジネスモデルの変革を目指すことで、企業競争力のアップや生産性の向上を図ります。
デジタル化は、業務効率化を目的としたアナログからデジタルへのツールの置き換えを指します。
したがって、DXの導入は、単なるデジタルツールの導入ではなく、企業のビジネスモデルを変革することを意味しています。
DXの歴史
続いて、DXの歴史についてお伝えします。
2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマンが、「情報技術の浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」がDXだと発表しました。
しかし、2010年以降、ガートナー社やスイスのIMDビジネススクールのマイケル・ウェイド教授は、より経営や事業に踏み込んでDXを解釈するようになりました。
彼らは、「今後、デジタル・テクノロジーの進展により産業構造や競争原理が変化する。
変化に対応できない企業は、事業の継続や企業の存続が難しくなる」という内容を主張しています。
このような背景から、ガートナー社はストルターマンらの定義と分けて考えるために、「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」という言葉を生み出しました。
私たちが普段ビジネスの現場で使っている「DX」という用語は、「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」の意図で使われている場合が多く、そのことを前提に、DXを解釈する必要があります。
|DX戦略とは?
「DX戦略」とは、デジタル技術を利用して独自の競争力を得るための計画とアプローチを指します。経済産業省によれば、DX戦略は、企業がマーケットにおける競争力を維持したり強化したりするために、デジタル技術によるプロダクトやサービスを生み出すためのものです。
この戦略の目的は、ユーザーに新たな価値を提供し、収益を獲得するための仕組みを構築することにあります。
DX戦略を実行するには、従来のビジネスモデルを考え直し、企業全体としての変革が必要です。
そのためには、中長期的なロードマップを策定することが求められます。DX戦略を成功させるためには、目標達成を実現するためのビジョンが求められます。
DX戦略を成功させるためには多くのリソースと時間が必要となりますが、その結果として、企業はより競争力のあるビジネスモデルを構築し、マーケットでの地位を確保することができるのです。
|DX戦略が必要な理由とは?
どうして企業にはDX戦略が求められているのでしょうか?
DXには全社的な取り組みが必要であり、DX戦略という目標がなければ、全ての社員の意識をまとめることが難しくなってしまうからです。
DXは企業の命運を左右する重要な要素であると言っても過言ではありません。
だからこそ、DXに取り組む上での戦略を考え、全ての社員が一体となって進める必要があるのです。
一部の社員だけでDXを進めると、DXの推進スピードが遅くなったり、DXの達成に失敗したりします。
また、DX戦略がない場合、何のために業務をIT化しているのかがわからなくなり、IT化そのものが目的となってしまうかもしれません。
手段が目的化してIT化の施策を手当たり次第に行った結果、失敗する可能性が高くなります。
ITはあくまでも自社の目的を達成するための手段に過ぎません、目標となるに値するDX戦略を立て、その目標に向かって実践することが重要なのです。
|DX戦略を成功に導くための要素
DX戦略を成功させるためには、どのような要素が必要なのでしょうか?
このセクションでは、ビジョンの共有、自社のリソースを理解すること、そして変革を実践するために必要な企業文化を創出することの3つに焦点を当てて解説していきます。
ビジョンの共有
これは、DX戦略に限られたことではありませんが、企業が掲げるビジョンを全社員で共有することが非常に重要です。DX導入には様々な困難があるため、全社員の忍耐やエネルギーが成功に欠かせないからです。そのため、DX戦略のビジョン共有は社員全員で行うことが不可欠です。
DXは、企業変革そのものであり、これまでの社内システムや既存業務のIT化に留まりません。
DXを推し進めるためには、適切なリーダーのもと、全社員が同じ方向に向かって協力する必要があります。
そのためには、目指すべきゴールとその達成方法を明らかにすることが必要です。
それこそがDXのビジョンと言えます。
企業のビジョンは、経営者が中心となって策定する必要があります。
外部の専門家に任せることはできますが、それでは自社の企業変革を自分たちのミッションとして能動的に考えることができず、推進力に欠けてしまいます。
DXを成功に導くには、必要なリソースを確保するだけでなく、人事制度の変革や既存事業の縮小など、痛みを伴う判断が必要になることもあります。
そのため、経営者のコミットメントが不可欠です。
そして、そのビジョンを一部の社員に限定するのではなく、社員全員で共有することが最も大切なことなのです。
自社のリソースの理解
DX戦略を成功させるためには、自社が保有するリソースを理解することが重要です。
リソースが散らばっていると、DXに必要な情報を集めることが難しく、社内での変革を推進することができません。
したがって、自社が保有するリソースを理解し、必要なものと不必要なものを区別することが求められます。
多くの企業は、多数のIT資産を保有しています。
しかし、すべてを管理し続けることは、DXに必要なリソースを確保することを妨げることになります。
DX戦略を推進する上で不要なシステムは、積極的にメンテナンスや更新を行わず、人員やコストをDXに注力する方向に振り向けることが必要です。
そうすることで、企業の予算やリソースをDX戦略に注力することが可能となり、DX戦略の実施に向けた効果的な取り組みができるようになります。
変革を実践するための企業文化の創出
DX戦略を進めるには、変革を促進する企業文化の確立が不可欠です。
「企業文化は戦略に勝る」という言葉があるように、企業文化は組織を動かす重要な要素だと言えます。
戦略に勝るほどの企業文化を醸成するためには、経営者が一方的に指示するだけではなく、経営者と全社員がコミュニケーションをとることが重要です。
経営者は自律的な社員の議論を促し、業務変革に取り組むような文化を根付かせることが必要なのです。
業務プロセスの変革は、コンピュータ技術をツールとして利用することができますが、価値を生み出し、新しいサービスを提供するのは「人」です。
組織内の個々の社員が、新しいツールやプロセスを使って何を生み出すかを考え、意欲的に取り組むことが重要です。
そのような個人と共に、企業文化全体を変革することが、DXを成功に導く原動力となります。
|DX戦略の導入メリット
DX戦略を導入することには、業務効率および生産性の向上や、社内データの活用による意思決定の迅速化、市場変化に対応する柔軟性の獲得など、多数の利点があります。
以下のセクションでは、これらのメリットについて詳しく説明します。
業務効率および生産性の向上
DXでは、デジタル技術を積極的に活用することで、従来の手作業による業務効率を向上させることができます。
たとえば、クラウドシステムを用いたデータの一元管理や、ソフトウェアロボットによる業務の自動化などが挙げられます。
また、DXにおいては、従来の業務プロセスを単にデジタルで置き換えるだけでなく、プロセスの見直しも可能です。
企業にとって不要なことを発見して取り除くことで、より合理的な業務内容に改善することが可能です。
このような取り組みで、DXは全社を通して効率を上げ、生産性を向上させることが期待されています。
社内データの有効活用
多くの企業が、過去に収集したデータを有効活用できていないまま保有しています。
例えば、顧客リストやWebサイトのアクセス解析結果といった一部のデータは、特定の部署で使用されている場合もありますが、多くの場合においてデータは部署ごとに分散管理されているため、データの共有性が低い傾向にあります。
これによって、企業にとって重要な情報が存在しているにもかかわらず、十分に活用できていない状況が生じています。
しかし、DXによって、これらのデータを一元管理するシステムを構築することで、データの共有性が高まり、ビジネスにおいて有効な情報を得ることができるようになります。
また、AIなどの高度な分析技術を用いることで、新たな知見を得る可能性が高まるとともに、プロセスの最適化に繋がるでしょう。
マーケットの変化に対応する柔軟性の獲得
現代のマーケットは常に変化しています。
私たちのライフスタイルは急速にデジタル化しており、最新のテクノロジーを駆使した新興企業が既存市場を圧倒するケースも珍しくありません。
企業は、変化する顧客ニーズに素早く対応し、ビジネス上で柔軟性を発揮する必要があるのです。
DXによる戦略的なデジタル技術の導入により、マーケットにおける競争力を強化・維持しながら迅速に変化に対応できる柔軟性を獲得できる可能性があります。
価値あるビジネスモデルの構築
DX戦略に取り組むことで、企業は価値あるビジネスモデルを構築する可能性があります。
ITの活用は、企業の製品やサービスの質を変えることができます。
IT技術を導入することで生まれたアイデアを取り入れることで、顧客満足度の向上につながることがあります。
また、顧客データなどをもとにサービスの改善を重ねていくことで、よりフレンドリーなサービスを提供することができるでしょう。
また、これまでにないアイデアをデジタル技術の力で実現することで、顧客に喜んでもらえる新しい付加価値を創出することができる可能性も秘めています。
企業は、DXを取り入れ、ビジネスモデルの革新やサービスの向上を実現し、市場競争力を強化することができるでしょう。
働き方改革の実現
DXは、近年特に注目されている働き方改革の実現にも貢献できます。
例えば「無駄を省いてプロセスを合理化する」という取り組みは、長時間労働の削減につながります。また、社内コミュニケーションのためのデジタルツールや管理システムの導入、テレワークが可能な環境整備などを進めることで、より柔軟な働き方を実現することができます。
このような取り組みにより、従業員のモチベーション向上や離職率の低下が期待できます。
また、余剰人員を新規事業やコア事業に集約させて、生産性を更に向上させることも可能です。
BCP拡充による事業停止リスクの回避
DXは、BCP(事業継続計画)を拡充することにも役立ちます。
これにより、災害時やパンデミックなどの非常事態において、重要な業務の停止という大きなリスクを回避することができます。
特に、テレワークに対応したIT環境を整備することは、重要な施策の一つです。
また、クラウドやIoTなどの技術を活用して、遠隔地からでも様々な業務を遂行できる環境を整えることも可能です。
更に、AIチャットを導入してユーザーサポートの窓口を自動化することで、重要な業務がストップするのを回避することができます。
レガシーシステムからの脱却
DXは、レガシーシステムからの脱却も実現できます。
多くの日本企業が、システムの維持管理のためにIT予算の約80%ものコストを費やしているという経済産業省の報告があります。
DXにより、デジタル活用の基盤となるシステムを再構築し、従来のシステムから脱却を図ることができるのです。
既にDX推進に取り組む企業の多くは、最新システムを導入してIT予算に占める運用コストを大幅に削減することができたと報告しています。
このことから、システム刷新は、先々を考えた時に維持管理コストの削減につながる取り組みであることが示されています。
|DX戦略の導入デメリット
DX戦略の導入には、いくつかのデメリットが存在します。
例えば、初期費用が必要であることや、デジタル技術を活用できる人材が不足していること、そしてレガシーシステムからの移行が容易ではないことが挙げられます。
以下、これらのトピックについて詳しく説明します。
DXを導入するために初期費用が必要
DX推進には、初期費用やランニングコストが必要です。
また、新たにシステムを構築したり、既存システムを再構築したりする際には、エンジニアの人件費がかかります。
ただし、DX推進は長期的に見てコスト削減につながる場合があります。
導入費用とコスト削減の可能性を比較し、自社に最適な形を検討する必要があります。
DXを導入することで業務改善や新しい価値を生み出すといったメリットがありますが、導入コストがかかることを十分に認識した上で、予算設計を行うことが重要です。
デジタル技術を活用できる人材不足
DX推進をするうえで、そもそもデジタル技術を理解し、活用できる人材の不足は大きな課題となっています。
DXを進めるためには、リーダーとしてDXについて理解したうえで、それを社内で推進できる人材が必要です。
また、DXにおけるシステム構築のために、最新のデジタル技術に関する知識やスキルを持ったエンジニアが必要不可欠です。
しかし、現状の日本ではIT人材不足が深刻な問題となっており、企業が自社で人材を確保することは容易ではありません。
労働力人口の減少が進む中、IT人材の需要に対して供給が追いついていない状況です。
そのため、企業は自社でIT人材を育成する取り組みや、外部のリソースを活用することで人材不足に対処しなければなりません。
ただし、一時的に外部ベンダーの力を借りることができたとしても、長期的な視点で人材不足に対処する必要があることは言うまでもありません。
このような状況下で、企業がDX推進に必要な人材を確保することは容易ではなく、大きな課題となっています。
レガシーシステムからの移行は容易ではない
レガシーシステムからの移行は、DXを推進するにあたり大きな課題となることがあります。
社内システムを刷新する必要性を認識していても、実行に移すことは容易ではありません。
特に、ブラックボックス化したレガシーシステムでは、データのフォーマットの統一や正確性の確認など多くの手順を経て移行を進めなくてはなりません。
このため、膨大な時間と労力が必要になるだけでなく、専門性の高いIT人材がいないと対応できない場合もあるのです。
また、現在進行中の業務内で使用しているシステムももちろんありますので、改修には大きなリスクが伴います。
入れ替えの際には、業務を一時中断しなければならない可能性もあります。
また、社員が慣れ親しんだやり方を変更するということに抵抗感を感じることもあるでしょう。
しかしながら、企業がDXを推進していくには、レガシーシステムがDX推進の進展を妨げるような状況から抜け出す必要があります。
場合によっては、現在使用しているシステムの利用を一部停止・破棄することもあるかもしれません。
長期的な視野で取り組む必要がある
企業がDXに着手する際に理解しておかなければならないのは、その取り組みには長期的な視野が必要であるということです。
DXで成果を出すまでには、時間とコストがかかるため、短期的な取り組みではなく、経営者と社員が共通のビジョンを持って継続的に取り組むことが重要です。
DXの推進には、即効性があるというわけではありません。効果が出るには、平均3〜5年かかるとされています。
そのため、予算や人員を長期的に確保することが必要であり、途中で挫折する企業も少なくありません。
DXは企業戦略において必要不可欠な要素となっていますが、確実に成功する方法は存在しません。
そのため、常に自社の状況や予算、本質的な目標に合ったDX戦略を掲げて、試行錯誤しながら推進していくことが重要です。
|経済産業省によって提唱されたDXフレームワークとは?
DXにフレームワークがあることをご存じですか?
このセクションでは、経済産業省が2020年12月に公表したDXフレームワークについて解説します。
このフレームワークは、企業がDXに取り組むための具体的な指針をそれぞれの企業の進捗に合わせて設計できるようにするためのものです。
DX成功パターンの策定
経済産業省が公表した「DXレポート2」によると、経営者は、経営とITが表裏一体のものであるという認識を持つべきであり、DXを成功させるためには2つの異なる視点が必要であることが示唆されています。
1つは、デジタルを使いこなすことで上位の目標を達成するための視点であり、もう1つは、デジタルだからこそ価値を生み出せる新たなビジネスモデルを創ることです。
経済産業省は、DXに着手する上で「何から始めたらよいのかわからない」という意見があることも指摘しています。
経済産業省は、「DX成功パターン」を公表することで、企業が実際にDXに着手する場合のヒントを提案しており、企業は、自社に最適な成功パターンを選択することで、より具体的なアクションに移行することができるとしています。
DXに向けた戦略の立案・展開
DX戦略の立案と展開に必要な「組織戦略」、「事業戦略」、「推進戦略」は以下のような内容です。
- 「組織戦略」では、企業全体の方針を決めるために、経営者、IT部門、業務部門が協力し、共通認識を持つことが成功の鍵となります。
- 「事業戦略」では、新規事業創出と既存事業の業績向上と技術負債軽減を同時に進め、余剰資金を新規事業に注ぎ込むことが重要です。また、社内で投資バランスを決めることも必要です。
- 「推進戦略」では、アジャイル的なDX推進を行い、段階的に全社的な取り組みに広げることが成功の鍵となります。重点部門を見極め、小規模な始め方から進めることで、スピード感を持ってDXを実行することが大切です。
それぞれの戦略ごとの成功パターンを知っておくことが重要です。
DXの構造
DXの構造について説明します。
DXは「デジタイゼーション(Digitization)」「デジタライゼーション(Digitalization)」「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の3つの段階に分けられます。
それぞれの段階は以下のように定義されます。
- デジタイゼーション:アナログや物理データをデジタル化すること
- デジタライゼーション:個別の業務や製造プロセスをデジタル化すること
- デジタルトランスフォーメーション:組織横断的に業務や製造プロセスをデジタル化し、ビジネスモデルや事業を変革することで、顧客価値を創出することを目的とする
これらの定義を参考にすることで、自社の取り組み状況を把握し、どの段階にあるかを判断することができます。
注意すべき点は、DXを実施する際に必ずしもデジタイゼーションから順に進める必要がないことです。
DXフレームワーク
DXフレームワークについて説明します。
DXの取り組みは、ビジネスモデルのデジタル化、製品/サービスのデジタル化、業務のデジタル化、プラットフォームのデジタル化の4つに分類されます。これに、先に説明したデジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションの3段階の指標を組み合わせて、DXフレームワークが作られています。
DXフレームワークを活用することで、DX取り組み領域についての現在地がデジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーション3段階のどこに位置しているのかを確認することが可能です。
DXを推進するために必要な体制整備には、ジョブ型人事制度、CIO/CDXOの強化、内製化、リカレント教育、リモートワーク環境整備が挙げられています。
|経済産業省によるDX認定制度
このセクションでは、政府が企業をDX推進の準備が整っていることを認定する「DX認定制度」について解説します。
経済産業省が設けたこの制度について、認定基準や認定を受けることのメリットについて詳しく説明します。
DX認定の基準
この制度は、デジタル技術を用いて社会の変化に対応するためのデジタルガバナンス・コードに則って、DX推進のための準備が整っていると認められた企業を国が認定するものです。
認定されるための条件として、企業は「DX-Ready」の基準をクリアする必要があります。
すなわち、経営者がデジタル技術を活用して自社を変革する戦略を策定し、必要な人材や組織、ITシステムの整備に向けた方策を示し、戦略の推進状況を管理する準備が整っている状態を指します。
認定基準は、経済産業省令によって定められ、それに合致するかどうかが審査の対象となります。
DX認定を受けることのメリット
税金控除などの支援を受けられることやイメージアップはもちろん、DX推進において改善が必要な点が明確になるといった複数のメリットについて、詳しく説明します。
企業イメージやブランド価値が向上する
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表している認定事業者の一覧ページにたくさんのDX認定企業が掲載されています。
このため、DXに積極的に取り組む企業として、社会的信用や企業価値、ブランドイメージの向上が期待されます。この一覧には、大きな企業から小さな企業まで、全ての社名が掲載されるので、まだ知名度のない中小企業は、大企業と共に自社の存在をアピールすることができます。
また、DX認定を受けている証明となるロゴマークを自社のWebサイトやパンフレット、名刺などに表示することが可能です。
税金の控除など支援が得られる
経済的な支援があることは企業にとって忘れられないポイントです。
DX認定に合格すると、DX投資促進税制によって税額を控除されます。
この制度は、DXに積極的に取り組む企業に対して、税務上の優遇措置を提供し、デジタル関連投資に対して5%または3%の税額控除、あるいは30%の特別償却が認められるものです。
制度を適用するためにはいくつかの条件がありますが、DX認定を受けることは重要な条件の1つです。
融資などの支援が得られる
経済的な支援が得られるのもDX認定のメリットの1つです。
中小企業がDX認定を受けることによって、日本政策金融公庫によって低金利の融資を受けることが可能です。また、中小企業信用保険法の特例が用意されており、民間の金融機関から融資を受ける際に信用保証協会による信用保証が受けられ、追加保証や保証枠の拡大も可能になります。これにより、中小企業がDX投資に必要な資金をより手軽に調達できるようになるでしょう。
DX銘柄の応募資格を得ることができる
DX認定制度に取り組むことで、上場企業や上場を目指す企業にとって重要な要素となる「DX銘柄」の応募資格を得ることができます。
DX認定を受けた企業の中からいくつかの企業は、これから期待される会社をDX-Emerging、すでに成果を上げている会社をDX-Excellentとカテゴリー分けされます。
DX-ExcellentやDX-Emergingに該当することによってDX銘柄に選ばれる可能性が出てきます。東京証券取引所に上場していることと、目立ったDX推進を行っていることが応募要件です。
2022年には33社がDX銘柄に選定されました。DX銘柄に選ばれることで、優れたビジネスモデルを社内外にアピールすることが可能です。
DX推進における改善すべき点が明確になる
DX認定を受ける際は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に申し込みます。申し込むための書類には、これからDXを行うための、具体的な方針についての設問が記載されています。
DX推進には計画性が重要であり、DX認定制度の設問に回答することで、自社の状況に適したDX推進が可能になります。申請書の回答には自社状況の認識が必要であり、自社が抱える課題が明確になるでしょう。
また、申請時に必要となるチェックシートには、自社がデジタル技術をどのように活用しているかについての設問があり、回答することで、自社のDX推進における課題が整理されるのです。
|DX戦略の導入事例
このセクションでは、実際にDX戦略を導入した事例を紹介します。
静岡県、クララ保育園と加古川市、株式会社クボタについて紹介しますが、どの取り組みも魅力的なものです。
静岡県
静岡県では、富士山の登山にDXを導入しています。
世界の観光産業では復活の兆しを見せる中、日本の代表的観光スポットである富士山では、2021年に登山道の利用が再開された際、登山者の体調チェックに顔認証を用いた実証実験が行われました。
現在、観光を楽しむ人が増えつつありますが、衛生や個人情報管理に対する利用者の要望が高まり、これまでとは異なる体験を求められる状況です。
そこで、IT技術を活用して観光の新しい課題を解決し、ビジネスチャンスを広げることが求められています。
NECは、コロナ禍での登山者の安心・安全を確保するため、体調確認を徹底することを目的に、顔認証技術を用いた実証実験を富士山で実施しました。
従来はスタッフが紙に登山者の体調を記入してリストバンドを渡す方法をとっていましたが、登山客の増加により体調チェック待ちの行列が発生することがあったため、2022年の富士登山シーズンで、よりスムーズな体調チェック実施を目指して顔認証技術を導入することを決定しました。
実験の結果、それまで60秒から3分程度かかっていた体調チェック時間を10秒程度まで短縮することができ、マスク着用時でも高精度での認証が可能であることが分かりました。
クララ保育園と加古川市
クララ保育園と兵庫県加古川市は、人材不足が深刻化する保育士をターゲットとした働き方改革にDXを導入しています。
滋賀県のクララ保育園では、まず業務分掌を実施。「保育士のみ可能な業務」かどうかで判断し、保育士たちが実施すべき業務に取り組むための環境づくり施策を講じました。
また、NECが開発した「感情分析ソリューション」により、保育士の状況把握、サポートに努めています。
兵庫県加古川市でも、「子育て世代に選ばれるまち」を目指すべく同様のDX導入実験を行っています。子どもたち・保育士双方にとって居心地のよい環境整備のために日々取り組んでいます。
株式会社クボタ
クボタは、マイクロソフトとの戦略的提携により、DXを積極的に推進しています。
食料・水・環境に関する課題は、世界人口の増加や地球温暖化の進行により、ますます複雑化し、解決するためにはDXが不可欠です。
クボタは、高いセキュリティレベルを誇るクラウドサービス「Microsoft Azure」に全面的に移行することで、AIなどの先進技術を活用し、グローバルなデータ活用を実現します。
データの集約によって、従業員は個々のデータ入力から解放され、業務プロセスがスリム化され、新しいソリューションの開発に取り組む時間が生まれます。
マイクロソフトは、さまざまな業界の企業と協力してAIを活用しており、クボタは食料・水・環境分野での課題解決に対する専門的な知識を持っています。
両社の強みを結集することによる、大きなシナジー効果が期待されています。
|まとめ
この記事ではDX(デジタルトランスフォーメーション)について、その概念や歴史、成功するための要素を解説し、DX戦略の導入に必要な知識やメリット・デメリットについて詳しく説明してきました。
DX戦略の導入は、業務効率化や生産性向上、価値あるビジネスモデルの構築などの多くのメリットをもたらしますが、初期費用やデジタル技術を活用できる人材不足などのデメリットもあります。
また、経済産業省によるDXフレームワークやDX認定制度についても解説してきました。
DX戦略の導入には、ビジョンの共有やリソースの理解、企業文化の創出などが必要です。
これらをふまえてDX戦略を導入することで、デジタル時代に必要な能力を獲得し、今後のビジネス展開において競争優位性を獲得することができるのです。
最後までご覧いただきありがとうございました。