近年、医療現場においてDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進んでいます。
医療DXとは、医療におけるデータの収集、分析、活用を通じて医療の質や効率を向上させる取り組みのことです。
この医療DXの推進には多くのメリットがありますが、一方で課題も存在します。
本記事では、医療DXの基礎知識から具体的な取り組み事例までを紹介しますので是非最後までご覧ください。
目次
|医療DXとは?
医療DXとは、医療分野のデジタルトランスフォーメーションのことで、医療現場におけるデータの収集、分析、活用を通じて医療の質や効率を向上させる取り組みのことです。
医療現場で使用されるデータを活用し、より的確な診断・治療の提供や、医療費の削減を目指しています。
病院や薬局、訪問看護ステーションなど、医療分野におけるデジタル化が進む中で、より効率的で質の高い医療サービスを提供することが期待されています。
|DXとデジタル化の違い
医療現場においてデジタル製品の導入は、業務を自動化し効率化することを目的とする「デジタル化」と、ビジネスモデルそのものを変革して新たな価値を提供する「DX」の2つの概念があります。
DXとデジタル化は、いずれもデジタルテクノロジーを活用することで業務やビジネスの変革を目指すという点では共通していますが、その目的や範囲に違いがあります。
デジタル化は、従来のアナログな業務プロセスをデジタル化し、業務負担の軽減や作業の効率化によって生産性を向上させることが主な目的です。
例えば、電子カルテやRPA、タブレットPCなどの導入によって、紙の書類を電子化し、手作業で行っていた作業を自動化することで、医療機関の業務効率を高めることができます。
一方、DXは、従来のビジネスモデルそのものを変革し、新たな価値を提供することを目指すものです。
組織変革や業務プロセスの改革だけでなく、新しい技術やビジネスモデルの採用、新たな市場の開拓など、より大規模かつ根本的な変革を目指します。
例えば、テレヘルスやAI診断などの革新的な医療サービスの提供や、医療費の削減、医療の品質向上など、医療分野においてもDXは注目されています。
つまり、デジタル化は業務の効率化を主な目的としており、DXはビジネスモデルの変革と新たな価値の提供を目的としています。
|医療DXにおける現状と課題
医療DXに取り組む前に、現状とその課題について把握しておきましょう。
人材の不足
経済産業省が公表した調査によると、医療業界は建設業や小売業と同じように、求人意欲が高まっている「人手不足業種」に分類されています。
これは、高齢化による医療需要の増加や、医療技術の進歩によって医療が複雑化しているため、人材の需要が増えていることが原因とされています。
さらに、医療DXの進展に伴い、デジタル技術を扱える医療人材の需要が増えています。
具体的には、データ分析や人工知能を活用した診断・治療の専門家が求められるようになっています。
しかし、このような人材はまだまだ少なく、育成が追いついていない状況です。
データの標準化
医療DXの推進には、医療データの標準化が不可欠であると言われています。
しかし、現在のところ、医療分野におけるデータ標準化には課題があり、特に薬剤や臨床検査などの標準コード整備には遅れがあります。
一方、2022年12月現在では、行政、研究機関、IT企業が協力して、医療データ交換の標準規格であるFHIRの整備に向けた準備を進めています。
2025年問題
「2025年問題」とは、団塊の世代が75歳に達し、超高齢化社会が到来することで、医療や介護に関わる費用が増加し、人材不足も懸念される状況のことです。
この状況は医療業界にとって大きな転換点となり、対応策が急がれるとされています。
地域による医療格差
人口の多い地域では医療機関が充実しており、一方で過疎化が進む地域では医療機関が不足している傾向があります。
高齢化が進む過疎地域では、重症化しやすい病気にかかるリスクが高い高齢者が、適切な医療を受けるために必要な距離に医療機関が存在しない場合が多いため、医療格差が生じています。
これらの医療格差は、住む地域によって受けられる医療サービスに差が出ることを意味しており、不平等な医療を生む要因となっています。
|医療DX令和ビジョン2030とは?
「医療DX令和ビジョン2030」とは、医療DX推進に向けた政府の取り組みです。
自民党政務調査会が2022年5月にまとめた提言であり、医療分野におけるDX化を推進し、医療サービスの効率化・質の向上を目指しています。
「医療DX令和ビジョン2030」では、以下の3つの取り組みが提言されています
- 「全国医療情報プラットフォーム」の創設
- 電子カルテ情報の標準化(全医療機関への普及)
- 「診療報酬改定DX」の取組
これらの施策を同時並行で進めることにより、より効果的かつ効率的で質の高い医療の提供や全国医療情報プラットフォームなどが実現されることが期待されています。
厚生労働省は、「医療DX令和ビジョン2030」を推進するために、医療DX推進本部を設置し、施策の進捗状況等を共有・検証しています。
医療DX推進本部は、2023年6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」を決定しました。
この工程表では、より具体的な施策や目標が盛り込まれており、2023年度から2025年度までの期間において、全国医療情報プラットフォームや電子カルテ情報の標準化などが進められる予定です。
|医療DXを推進するメリット
ここからは、医療DXを推進するメリットを紹介します。
オンライン診療の実用化
医療現場において、ICT(情報通信技術)の活用によって、遠隔診療(オンライン診療)が可能となります。遠隔診療が広がることで、患者は通院の負担を軽減し、院内感染のリスクを抑えながら医療を受けることができます。
また、地方在住者でも都市部にある医療機関の診察を受けることができるため、医療格差を縮小することが期待されています。
さらに、物理的な対応が必要な患者の数が減ることで、医療スタッフの負担が軽減されることも期待されています。
書類の電子化による業務効率化
医療現場での電子カルテやレセプトなどのペーパーレス化によって、情報の検索性が向上し、ヒューマンエラーによるミスを低減することができます。
これにより、医療事務作業の効率化が図られ、データの紛失や破損のリスクも軽減されます。
さらに、検査データを電子化することで、レントゲン写真や心電図などを簡単に管理することができます。
これにより、患者の診断や治療に必要な情報を正確かつ迅速に取得することができます。
患者さんの待ち時間を削減
予約システムの採用により、患者の待ち時間を大幅に短縮することができます。
それにより、病院内での感染リスクを減らし、患者のストレスを軽減することができます。
さらに、台湾のように医療機関同士が情報を共有することで、同じ病気で複数の医療機関を受診する必要がある場合でも、検査の重複を減らし、患者の受診時間を大幅に削減することができます。
医療情報のネットワーク化
病院、薬局、介護施設などが相互に医療情報を共有・閲覧できるネットワークを構築することで、医療従事者は患者の過去の治療履歴を確認することができます。
これにより、患者が別の医療機関を受診する場合でも、過去の治療経過や検査結果を共有することで医療の質を高めることができます。
また、診療所の医師が大きな病院に患者を紹介しても、引き続き患者の経過を確認することができます。
医療情報の共有は、より質の高い医療を実現するために必要な取り組みです。
予防医療を実現
医療DXの進展により、膨大な医療データが蓄積・分析され、同じ症状を持つ患者のデータを比較することで、疾患の発症を予測し、早期発見や早期治療が可能となっています。
また、新薬の開発にもビッグデータ解析が役立っています。
創薬には多額の費用がかかる上、開発過程で失敗することが多いため、そのコスト削減が求められています。
ビッグデータの解析によって、化合物の探索をシミュレーションで行うことで、効果的かつ迅速な新薬の開発が可能となっています。
AI技術の進歩が、これらのビッグデータの解析に貢献しています。
|医療DXの進め方
医療業界のDX推進には、段階があります。以下の通りそれぞれ紹介します。
- 解決すべき問題を明確化
- 必要な人材の確保と適切なツールの選択
- データ収集
- 業務プロセスの変更
解決すべき問題を明確化
医療業界においてDXを推進する際には、まず最初に「解決すべき課題を明確にする」というステップが必要です。
自分たちの病院やクリニックで抱える課題を特定し、優先順位をつけて取り組んでいくことが重要です。
一度に全ての課題を解決することは困難であるため、着実に解決していくことが求められます。
必要な人材の確保と適切なツールの選択
医療業界がDXを進める2つ目のステップは、DXに必要な人材を確保し、適切なITツールを選定することです。
DXには高度なスキルを持つ人材が必要であり、自社での採用や雇用だけでなく、DX支援サービスを活用することもできます。
DX支援サービスを利用することで、必要なときに業務を代行してもらい、コスト削減を図ることができます。
また、適切なITツールを選定することで、DX推進において重要な役割を果たすことができます。
データ収集
医療業界がDXを進める3ステップ目は、「データを収集し、現実と整合性を持たせる」ことです。
これは、これまで紙ベースで管理されていた様々な情報をデジタル化し、現実の状況と合致するかを確認することを指します。
例えば、医療物資の在庫数について、現実とデータ上での数が一致していない場合、そのまま放置すると現場で混乱が生じる可能性があります。
このような問題を事前に確認し、正確なデータを得ることが重要です。
業務プロセスの変更
医療業界がDXを進める4つ目のステップは、「DXで業務プロセスを変える」ことです。
業務プロセスを変える場合は、デジタル化、IT化、DXの流れを意識しましょう。
デジタル化とは、アナログのデータをデジタルデータに変換することです。
IT化とは、業務のプロセスをITツールに移行することです。
そして、DXとは、複数の業務や工程でデジタル化とIT化を繰り返すことで、組織全体、業界全体のDXが実現します。
|医療DXの事例
ここからは、実際の医療DXの事例をご紹介します。
【遠隔治療ロボット】大成建設
大成建設は国立国際医療研究センターとの共同プロジェクトにおいて、ICU向け遠隔操作ロボットを開発しました。
このロボットは、新型コロナウイルス感染症の重症患者が入院するICUに導入することで、感染リスクを低減するだけでなく、医療スタッフの装着負担や防護服のコスト削減にもつながります。
同社はこのロボットの開発を契機に、医療分野における活用の可能性を探り始めています。
多岐にわたるニーズに応えることができれば、医療従事者の業務支援に役立てられると期待されています。
【健康習慣管理アプリ】Coloplas
デンマークに本拠を置く医療用装具メーカー、コロプラスト社は、ストーマ用装具の専門知識を持つことで知られています。
同社は、ストーマ袋やカテーテルを装着しながらの生活がより快適になるよう支援するアプリ「Coloplast」を開発しました。
このアプリでは、「通知」「正しい行動」「データ追跡」を管理することで、ユーザーに健康的な習慣を定着させることを目的としています。
その結果、通院の必要性を下げることなど、生活の質の向上を目指しています。
【オンライン医療相談】HELPO
「HELPO」というヘルスケアアプリは、医師や看護師、薬剤師から24時間365日の相談が可能で、多岐にわたる身体の悩みをサポートすることができます。
このアプリは、病院検索やオンライン診療などのヘルスケアサービスを提供するだけでなく、従業員の身体状況をチャットでヒアリングし、企業と従業員の課題を解決するサービスです。
そして、2020年12月からはPCR検査も実施されており、アプリ上で相談や質問、PCR検査の予約・検査結果の確認が可能になっています。
DXを活用することで、検査オペレーションが自動化・効率化され、PCR検査による職員の負担軽減にも成功しています。
【オンライン問診サービス】AI問診ユビー
「AI問診ユビー」は、患者がタブレットを使って入力した情報をAIが解析し、自動的に病名まで算出してくれるWEB問診システムです。
病院のホームページと連携することで、来院前に問診表に回答できるため、検査や診療のスムーズな実施が可能となります。
問診から診察までの時間も短縮され、院内感染リスクを減らすことができます。
紙の問診表に記載された内容をデータ入力する手間が省けるため、医療スタッフの業務効率化や負担軽減にもつながります。
AI技術の活用により、より効率的かつ迅速な医療サービスの提供が可能になるでしょう。
【電子カルテ】CLIPLA
「CLIPLA」とは、クラウド型の電子カルテサービスであり、専用端末を必要とせず、低コストで導入が可能です。
全国どこにいても患者の情報を閲覧、編集、共有することができ、医療情報のネットワーク構築にも寄与することができます。
特に、リモートワークの普及により、利用者が増加しています。
|まとめ
いかがでしたか?
本記事では、医療DXの基礎知識から具体的な取り組み事例までを紹介しました。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、一般企業においてはビジネスをデジタル技術で変革させ、市場競争力を高めるものですが、医療DXは現在の医療業界を変革し、公平かつ効率的・効果的な医療提供を目指しています。
コロナ禍によって浮き彫りとなった医療業界の課題により、多くの医療機関がデジタル化に向けた取り組みを始めています。
今後、医療DXは急速に広がると予想されています。
ただし、個人データを共有することによる情報漏洩リスクなどの懸念から、否定的な意見もあります。
今後は、医療DXに必要な技術導入だけでなく、セキュリティ対策にも注力する必要があるでしょう。
では、今回も最後までお読みいただきありがとうございました!