介護現場において、VR技術の活用が注目され始めています。
VR介護は、被介護者の方々が日常生活や社会参加をより充実させることができる一方、介護者側にとっても効率的かつ安全な業務をこなすことができるため、ストレスや負荷の軽減に繋がる一手として期待されつつあります。
本記事では、VR介護のメリットや事例を紹介し、介護現場に革命をもたらす可能性について探っていきます。
|VRとは
VR(Virtual Reality)とは、日本語で「仮想現実」と訳されます。
コンピューター上で作られた仮想空間に身を置き、まるで現実の世界にいるかのような臨場感を体験する技術です。
ユーザーはVRデバイスを使用し、ヘッドマウントディスプレイやコントローラーなどの機器を使用して疑似体験できます。
音声や振動などの多彩な刺激を組み合わせることで、身体的・感覚的な体験をリアルに再現することができるため、ゲームやエンターテインメント分野のほか、教育、医療、建設などの分野で活用されています。
VR技術は、現実世界での経験を超えた仮想体験をすることで、新たな学びや気づきを得られる面でも期待されています。
|VRを介護現場に採用するメリット
VRと介護の現場は、一見関連がないように見られがちです。
しかし、VRの特徴を理解し、うまく活用することで、介護者側にとっても被介護者側にとってもいくつかのメリットが得られるのです。
こちらで詳しく説明していきます。
介護者側
介護者側におけるメリットは以下の3通りが挙げられます。
- 時間場所を選ばず研修ができる
- 実際に起こりうる危険をシミュレーションできる
- 被介護者への理解を深められる
それぞれについて解説していきましょう。
時間場所を選ばず研修ができる
従来の介護研修では、研修会場に集まる必要があり、トレーナーや参加者のスケジュールに合わせて時間を調整する必要がありました。
介護現場の深刻な人手不足から、十分な時間を研修に当てられないケースもしばしば見受けられます。
しかし、VRを使用すれば、いつでもどこでも様々なケースやシミュレーションの研修が受けられるようになります。
実際の介護現場に近い状況を想定した研修を行うことができることで、より実践的な知識や技能を習得することが可能になります。
また、研修のスケジュールが合わなくても、後から研修の映像を見返すことができるため、いつでも研修内容をチェックできる柔軟性が得られる点もメリットに挙げられます。
実際に起こりうる危険をシミュレーションできる
介護現場では、被介護者の身体状況に合わせて様々なケアが必要となりますが、その際には危険がつきものです。
具体的には、転倒や誤嚥、感染症、急病などが挙げられます。
従来の研修では、これらの危険を実際に再現することは困難でしたが、VR介護を導入することで、リアルな仮想空間で実践的なトレーニングが可能になります。
例えば、被介護者が転倒した場合の対応、誤嚥した時の応急処置などは、口頭での説明はなかなかイメージしづらいものです。
VR研修では仮想空間で参加者が自ら行動することができるため、よりリアルな体験をすることが可能となります。
これによって、実際の介護現場での危険を回避するための正しい知識や技能を習得することができるのです。
被介護者への理解を深められる
介護現場では、被介護者とのコミュニケーションが非常に重要です。
しかし、被介護者に身体的・精神的な障害による構音障害があったり、認知力の低下がある場合は、コミュニケーションが困難となり、理解を深められない場合があります。
そこでVR介護を導入して被介護者の身体的特徴や生活環境を疑似体験することで、彼らが抱える問題や直面する問題を理解し、共感することができます。
これはケアスタッフだけに限られたことではなく、被介護者に関わる家族や周囲の人々にも適用することで、サポート体制を整える良いきっかけになることも考えられます。
また介護施設を建設する際にも、被介護者の目線で配置等を検討できるため、良い環境づくりにも役立てることができます。
被介護者側
被介護者側におけるメリットは以下の2通りが考えられます。
- 継続的にリハビリに取り組める
- 外出が難しい被介護者に疑似体験させられる
それぞれについて解説していきましょう。
継続的にリハビリに取り組める
リハビリは、健康な状態を保つために必要不可欠な継続的な取り組みであり、介護現場でも重要な役割を担っています。
リハビリを途中で中断してしまうと、その効果が持続できない可能性があります。
また、一人ひとりに合ったプログラムを組むことが理想的ですが、人手不足や時間の制約などから、十分なリハビリを提供することが難しい場合があります。
そのような場合はVRを活用することで、被介護者が快適な環境で、自分のペースでリハビリを継続的に行うことができます。
また、介護者が被介護者の状態を常にモニターすることで、適切な支援を提供することができます。
よって継続的なリハビリの提供が可能になり、介護現場の負担軽減にもつながるというメリットにもなります。
外出が難しい被介護者に疑似体験させられる
被介護者の多くは、心身のさまざまな理由により外出が困難な場合があります。
しかし、健康やリフレッシュのためにも外出することは大切なことであり、その機会を失うことはストレスや孤独感の原因となりかねません。
こうした問題に対してVRを活用することで、被介護者に外出する体験を疑似的に提供することができます。
たとえば、VRヘッドセットを装着して、馴染みの場所や普段行くことが困難な海外旅行へ出かけることができます。
また、施設に入所していて、在宅復帰が困難な被介護者に対しては、自分の家にいるかのような体験を提供できるなど、その用途は多岐に渡ります。
こうした疑似体験は、豊かな経験を与えるだけではなく、介護者と被介護者のコミュニケーションの促進にもつながります。
|VR×介護の活用シーン
VRを活用した介護現場のシーンを具体的に説明していきましょう。
- VR介護研修
- VRリハビリ
- VR旅行
- 介護福祉士体験コンテンツ
VR介護研修
VR介護研修は、介護現場で働くスタッフの研修において、広く活用されるようになってきています。
従来の研修では、人手不足で研修に行けない、座学が主体で実践的な学習が出来ていないなどという課題がありました。
しかしVR介護研修では、時間や場所の制約なく研修が受けられます。
また、実際の現場をVRでリアルに体験できたり、介護される側の疑似体験も行えることから、より実践的なスキルを身につけることができます。
VRリハビリ
例えば、脳梗塞等の後遺症が残存した患者に対して、仮想空間上で日常生活のシミュレーションを行うことで、実際の生活に近い状況でのリハビリが可能になります。
また、VRを用いることで、被介護者の症状に合ったリハビリメニューをカスタマイズすることができます。
VRリハビリには、自宅でも気軽に取り組めるような、ゲーム要素を取り入れたVRリハビリもあります。
被介護者が楽しく取り組むことで、より継続的にリハビリに取り組むことができるでしょう。
VR旅行
主に身体的な制限がある被介護者にとって、外出や旅行が難しい状況でも、VRなら仮想空間上でどこへでも旅行に行くことが可能です。
VRヘッドセットを使うことで、自宅や施設の中にいながら、様々な観光地を訪れることができます。
例えば、海外旅行で世界遺産を巡ったり、ビーチリゾートで海を眺めるなど、リアルに行くことが難しい場所でも、VRを利用することで疑似体験することができます。
VR旅行により新しい体験や刺激を提供し、生活の質を向上させることが期待されています。
介護福祉士体験コンテンツ
介護福祉士体験コンテンツは、VRを活用して介護現場での体験を再現する研修プログラムです。
介護福祉士が実際に行っている介護方法や介護技術、被介護者とのコミュニケーションを体験することで、介護の現場について深く理解してもらうことが可能です。
具体的な身体介護や認知症の対応、車いす移乗やトイレ介助などや、介護現場での倫理的な問題についても、仮想空間でシミュレーションすることができます。
|VR×介護サービスの事例
ここまで、VR介護による効果について理解を深めてきました。
それでは、実際に行われているVRを活用した介護サービスの具体的な事例をご紹介します。
VRを介護の現場で活用したい、と検討している方は、ぜひ参考になさってください。
リハまる
株式会社テクリコによって提供されている「リハまる」は、VRやMR(複合現実:現実世界にデジタル映像が存在するかのように投影する技術)を用いた3Dリハビリソフトウェア・システムです。
理学療法、作業療法、ミラー療法が受けられ、それぞれ運動リハビリや脳トレ、片麻痺患者が左右対称に同じ動きをできるように練習するトレーニングなどが可能です。
HMDを使用して、仮想空間上で迷路を楽しめるコンテンツや、舞う紙吹雪をコップですくうなど、身体を動かせるコンテンツがあります。
広いスペースがなくても、遠隔地にある自宅や施設の限られた場所で気軽に行えることも特徴的です。
価格は公開されていませんが、管理用デバイスと被介護者用のHMDの用意が必要です。
MindMotion
スイスに本社を置くMindMaze社が開発したリハビリテーション療養システムです。
脳卒中などで運動機能が低下した被介護者のために、神経リハビリテーションを提供しています。
VRゴーグルを装着するタイプとは違い、光学式マーカーレス技術による全身モーションキャプチャで取り込み、仮想空間で身体の動きを映し出せるようになっています。
遠隔でセラピストがモニタリングし、リアルタイムでフィードバックが受けられます。
具体的には、被介護者の正面のモニターにリハビリテーションプログラムと連動したゲームが表示され、その指示にあわせて被介護者がマーカーを装着した上肢を動かしてリハビリを行っていきます。
Floreo
米Floreo社が開発した「Floreo」は、自閉症スペクトラム、ADHD、不安神経症などの神経多様性を持つ子どもたちに、遊び、学び、成長する機会を提供するVRベースの教育プラットフォームです。
VRゴーグルを装着して、ゲーム感覚で人とのかかわり方、日常生活で直面する様々な課題に直面する疑似体験を提供し、生活上のルールを学ぶことができます。
特筆すべきはそのコンテンツの豊富さです。
交通や学校でのルール、レストランでの会話など、具体的な場面を想定したレッスンを繰り返し受けることができます。
さらに、新しいスキルを習得するのを支援するだけでなく、彼らが感じる不安やストレスなどの感情にも対処しており、子どもたちがより良い生活を送ることを支援しています。
認知症VR
千葉県の「株式会社シルバーウッド」が提供する「認知症VR」は、レビー小体型認知症の幻視や、認知症の中核症状を一人称視点で体験できるサービスです。
「認知症VR」は、認知症の症状を体験することで、認知症に対する理解を深め、介護現場のスタッフのトレーニングに活用されるVRコンテンツです。
認知症になると自己表現が不十分になり、徘徊や帰宅願望、介護抵抗、暴力・暴言、妄想などの様々な症状が出現します。
これを「認知症だから」と一掃せず、被介護者を取り巻く周囲の理解やコミュニケーションが大きく影響していることを、一人称視点で体験して理解につなげることを目的としたプログラムです。
体験した症状に応じて、適切なアプローチやコミュニケーション方法を学ぶことができます。
mediVRカグラ
株式会社mediVR(大阪府)によって提供されている自力運動訓練装置で、“自分らしい暮らしを取り戻したい”と願う方に向けたVRリハビリテーション医療機器です。
具体的には、歩行に必要な運動機能と姿勢バランス、認知機能を総合的に評価するための測定機能付の装置で、 仮想現実及び三次元空間トラッキング技術を応用しています。
VRゴーグルを装着して仮想空間内の様々な観光地を散策することで、歩行訓練や腕の基本動作、反射動作を繰り返し行う訓練に使用されます。
背景がシンプルで認知負荷が低い「水平ゲーム」「落下ゲーム」、ゲーム注意障害を惹起するよう認知負荷性を高めた「水戸黄門ゲーム」「野菜ゲーム」「果物ゲーム」などがあり、楽しみながらリハビリを行うことができます。
emou
株式会社ジョリーグッド(東京)が提供するソーシャルスキルトレーニング用のコンテンツです。
emouは、発達障害者が直面する社会的・感情的な問題をテーマにしたストーリー型のVR体験型発達障害支援プログラムです。
具体的には、学校生活や職場などの日常生活の中で欠かせないソーシャルスキルを、VRのリアルな仮想空間内で何度でも体験トレーニングを行うことができます。
会話や表情などをはじめ、これまでのワークシートやロールプレイでは再現が難しかった社会生活における様々な場面を、リアルな空間で体験しているかのように、何度でもトレーニングすることができます。
基礎的な学習の他、就労移行支援への活用も期待されています。
東京福祉保育専門学校
東京福祉保育専門学校は、VR技術を活用した介護現場における研修を導入しています。
同専門学校では、介護福祉士体験コンテンツやシミュレーション研修を実施し、学生たちに実践的な介護技術を身に付けさせています。
介護福祉士の仕事をリアルに体験することによって介護業界への理解度が深まり、イメージがより掴みやすくなります。
また、学生たちがVR技術を用いて、介護の現場で起こりうるさまざまなシチュエーションに対応する訓練を行うことでリスクマネジメントについての理解も深まります。
さらに、VRによる被介護者の一人称体験により、学生たちが被介護者の立場になって考えることで、より人間性豊かな介護者としての心構えを養うことが期待できます。
|まとめ
今回は、VR介護のメリットと事例についてご紹介しました。
これらの技術は、被介護者の理解を深めたり、継続的なリハビリに取り組んだり、外出が難しい方にも疑似体験を提供することができ、介護現場にとって大きな革新となる可能性があります。
今後ますます進化する介護VRを導入することで、介護現場のスタッフの技術力向上や、被介護者のQOLの向上につながることに期待していきましょう。