歴史上の貴重な品々を展示する博物館は世界各地に存在しています。
憧れの博物館や何度も足を運びたいと思うお気に入りの場所まで、数多くの施設が存在していますが、現実問題としてその全てを訪れることは非常に困難でしょう。
しかし現在ではメタバース上に存在する博物館も増加しています。
実際の展示をそのまま投影しているだけではなく、メタバースだからこそ実現できる展示が行われているなど、これまでとは異なった体験価値を来場者に提供しているのです。
本記事ではそんなメタバース美術館について、その基本的な知識からメリット、さらには実際の事例についてそれぞれ解説していきます。
もし、「そもそもメタバースについてよく知らない…」という方は、以下の記事で詳しく解説していますので合わせてご確認ください。
目次
|メタバース博物館とは一体何?
メタバースとは「仮想空間」であり、現実世界と見間違う程の没入感が魅力の技術です。
このメタバース技術を利用して、仮想空間上に展示品を再現したものこそが、メタバース博物館なのです。
「博物館の醍醐味は現実世界で体験することにあるのでは?」
上記のように感じられる方も少なくないかもしれません。
しかし、長引くコロナ禍によって来場者数が減少する博物館業界において、メタバース博物館は注目を集めています。
実際に数多くの事例が存在しており、博物館の新しい楽しみ方として今後も広がり続けることが考えられているのです。
展示品についても現実世界では出来ない方法で楽しんだり、NFTと呼ばれる唯一無二のデジタルデータを展示するなど、様々な手法が試行錯誤されています。
また、メタバース上に博物館を展開することには数多くのメリットも存在しているのです。
|メタバース博物館のメリット
メタバース博物館は様々なメリットを持っています。
こちらでは、その中から特にお伝えしたい以下の内容を解説します。
- 物理的な距離と時間を問わない
- 通常展示では行えない体験を提供できる
- メンテナンス費用などのコスト削減
物理的な距離と時間を問わない
現実世界の博物館は世界各地に点在しており、目的の展示品を全て鑑賞したいと考えた場合何年もかけて世界中を回らなければいけません。
実際にそのようなことを行える方は一握りであり、多くの人にとって各地の博物館めぐりは夢のようなお話となってしまうでしょう。
しかし、メタバース博物館であればそのような物理的な距離を問いません。
スマホでインターネット検索を行う感覚で、世界中のどこにいても目的の博物館の鑑賞が実現するのです。
そして、メタバース博物館は現実世界のように営業時間の縛りを必要としません。
そのため利用者は24時間365日いつでも都合に合わせて鑑賞を楽しめます。
このように、物理的な距離と時間の概念を超越したメタバース博物館は利用者だけではなく運営者にとっても大きなメリットを与えるのです。
通常展示では行えない体験を提供できる
博物館では展示物を魅力的に見せるため、様々な工夫を用いながら展示されることになります。
しかし、展示品を損傷する可能性からケース越しの展示になってしまうことは仕方ないことでしょう。
重力の問題からも、底面の鑑賞などはガラスを通して確認してもらうなど、色々な制限を元に展示されることになります。
メタバース博物館はこれらの問題を全く関係無いものにします。
現実では不可能な空中に浮いているような展示方法はもちろん、展示物が鑑賞者に話しかけてくる演出など、想像しうるあらゆる体験を提供できるのです。
VRゴーグルを利用することで鑑賞者は360度見渡す限り展示品に囲まれ、より没入感の高い体験ができるでしょう。
このような体験価値の提供はメタバース博物館ならではといえます。
メンテナンス費用などのコスト削減
博物館は展示品を維持する観点から、気温や湿度の調整といった光熱費が年間を通して発生します。
また常設展示だけでは安定した来場者を確保できない問題から、特別展の企画や準備といった対応に追われます。
さらに受付窓口や警備といった人件費も発生し、そのランニングコストは膨大なものとなります。
しかし、メタバース博物館であれば展示品をメンテナンスする必要がありません。
さらに過去に行った展示品やイベントの再現も容易なため、長期間に渡って来場者を満足させられるはずです。
メタバース博物館を通じて訪れた来場者が、現実世界の博物館に興味をもって訪れるといったPRとしての活用も可能でしょう。
|メタバース博物館の事例7選
実際にメタバースを利用した博物館は数多くの事例が存在しています。
こちらでは以下の博物館の内容をそれぞれ紹介します。
- 国立科学博物館
- 北海道博物館
- 埼玉県立自然の博物館
- スミソニアン博物館
- 大英博物館
- バーチャル日本博
- にしてつバース
国立科学博物館
日本で最も歴史のある博物館と知られる国立科学博物館は、「おうちで体験!かはくVR」というメタバース博物館を無料公開しています。
来場者が体験できる展示は日本の歴史を探求した「日本館」と、地球の謎を解明する「地球館」の2つです。
どちらも実際の展示として存在するブースですので、現実世界のPR活動としても大きな役割を担うことが考えられます。
単なる展示ではなく、実施した展示のデジタルアーカイブとしての役割を持っており、保存や記録といった観点からも理にかなっているといえるでしょう。
「たんけんひろばコンパスVR」というプロジェクトも進められており、デジタル化した標本や資料もメタバース空間において公開されています。
今後も取り組みは拡充していく予定であり、収蔵が困難な標本や資料の公開が期待されているのです。
北海道博物館
北海道博物館はコロナ禍によって来場が難しくなったことを背景に、誰でも気軽に展示品を楽しんでもらうことを目的として「バーチャル北海道博物館」を公開しました。
北海道の自然や文化、歴史を以下5つのテーマに分けて展示しています。
- 北海道120万年物語
- アイヌ文化の世界
- 北海道らしさの秘密
- わたしたちの時代へ
- 生き物たちの北海道
Googleストリートビューを利用したVR空間であり、自分ひとりの世界に浸れる環境で展示を独り占めできることが特徴です。
各テーマに応じたVR空間や解説動画が用意されており、自宅にいながらも北海道の歴史を深く学ぶことが可能となっています。
埼玉県立自然の博物館
「埼玉県立自然の博物館」が位置する埼玉県長瀞町(ながとろまち)は「日本地質学発祥の地」と呼ばれています。
本館では来場者が自宅にいながら気軽に展示を楽しんでもらうことを目的に、「バーチャル展示室」を公開しています。
360度カメラで撮影された実際の展示を楽しめますので、現実世界の展示室を訪れたような満足感を得られるかもしれません。
バーチャル上のチェックポイントを参考に見学することで、気が付きにくい展示物のこだわりやイチオシポイントが分かりやすくなっています。
またVRならではの視点から展示品を楽しめるため、太古の巨大ザメに食べられる疑似体験なども可能です。
単なる展示だけではなく、博物館クイズも用意されておりひと味違った楽しみ方ができるでしょう。
スミソニアン博物館
アメリカのスミソニアン博物館は年間3,000万人を超える来場者を誇る、世界最大の博物館です。
有名映画にも登場しており、来場したことがなくても一度は目にしたことがあるかもしれません。
本館は特に作品のバーチャル体験への取り組みが進んでおり、恐竜の剥製や王族や貴族の縫製などを多数鑑賞できます。
また、過去に展示していた作品もVR鑑賞可能であり、現実世界以上の体験を味わえるでしょう。
展示品の見学だけではなく390万点を超える2D、3Dのデジタルデータが無料でダウンロードできる上に、著作権を確認すれば商用利用可能となっています。
通常展示では気が付かない細かい部分までゆっくりと鑑賞できる点は、スミソニアン博物館最大のメリットとなっています。
大英博物館
イギリスが誇る世界で最も有名な博物館、「大英博物館」は誰もが一度は訪れたい施設のはず。
古代エジプトの収蔵品は世界一であり、考古学的にも貴重な美術品や展示品が数多く収蔵されています。
一日では回りきれないといわれるほど膨大な館内ですが、VRでの作品鑑賞が無料で提供されています。
膨大な展示品を、Googleストリートビューの技術を利用したVR空間で鑑賞できます。
構内図を表示すればフロアごとの展示エリアを選択でき、実際に現地を訪れているかのような感覚で館内を自由に歩き回ることが可能です。
実際の大英博物館では来場者の多さからゆっくりと鑑賞できなかった作品でも、時間を気にせず楽しめることから世界中のファンに利用されています。
バーチャル日本博
2020年の東京オリンピックをきっかけに、縄文時代から現代まで続く「日本の美」を国内外へ発信し、次世代に伝えることを目的として「日本博」がスタートしました。
2025年の大阪・関西万博に向けて現在も、文化庁や日本芸術文化振興会など様々な団体、企業が協力して進めるプロジェクトですが、メタバースを利用した取り組みも積極的に進められています。
実際の会場とデジタル上での体験を融合し、世界中の顧客が気軽にアクセスすることを目的にしています。
縄文時代の文化財から仏像、浮世絵、きもの、現代アート、アニメやマンガといった多種多様なコンテンツが日本語と英語で掲載されており、誰でも気軽にバーチャルツアーが体験できます。
にしてつバース
「にしてつバース」は日本初となる鉄道とバス専門の博物館です。
福岡市の西日本鉄道などが開発を進め、現在は無料で会場へアクセス可能となっています。
専用サイト、アプリからのアクセスが可能であり、会場には西鉄の電車やバスがリアルに再現されています。
各車両の運転席や座席周りも忠実に再現されており、各ボタンやスイッチは実際に触れて押すことも可能です。
電車とバスはそれぞれ1種類ずつ、体験乗車もメタバース上でできます。
最大128人の同時接続が可能ですが、各アバター同士でのやりとりはできない設計になっています。
そのため人の目を気にすることなくゆっくり各展示物を鑑賞できるでしょう。
|メタバース博物館での注意点
メタバース博物館に限りませんが、VRゴーグルを利用したメタバース空間へのアクセスは利用者に「VR酔い」を引き起こす可能性があります。
主な症状はメタバース空間での動きと視界の変化が、現実世界の身体と異なることから発生する吐き気や頭痛です。
初めてメタバースを利用するユーザーに多く見られる症状ですので、利用の前には注意喚起を促すなどの必要があるでしょう。
また、長時間メタバース空間を利用することによる視力への影響も指摘されています。
現実の博物館を訪れているかのような錯覚に陥るメタバース博物館ですが、時間を忘れて没頭するあまり、アクセスが長時間のアクセスになってしまう可能性があります。
適度な休憩を取ることや、眼球の緊張をほぐすマッサージをうながすなど、来場者の健康に対する配慮が必要となってくるでしょう。
|まとめ
メタバース博物館に関する基本的な内容からメリット、そして実際の事例について解説しました。
現実の博物館とは異なり、場所や時間に縛られることなく展示品を心ゆくまで堪能できることは鑑賞者にとって多大なメリットを与えるはずです。
運営側としても博物館の魅力を再発信し、新たな体験価値を提示することは大きなPR活動に繋がるでしょう。
博物館は作品の鑑賞だけではなく、保存や修復といった後世へ歴史を伝えていくという役割も担っています。
現実世界では物理的な問題からどうしても作品の劣化が進んでしまいます。
しかし、メタバース空間に展示を移すことで、半永久的に作品の価値を残せるはずです。
まだ取り組みが始まったばかりのメタバース博物館ですが、今後その役割と影響力は大きくなっていくでしょう。