メタバースはデジタル上に再現した仮想空間において、大勢の人たちとアバター姿で交流することや、没入感の高いゲーム体験などが主な用途としてあげられます。

そんなメタバースですが、農業と相性が良いことをご存知でしょうか。

「仮想空間と農業って、全く別の存在なのでは?」

上記のような疑問を持たれる方も多いかもしれません。

しかし、メタバースは農業が抱える問題を解決する技術として注目されており、すでに数多くの事例が存在しているのです。

本記事ではそんなメタバースと農業を組み合わせるメリットから、活用事例について一挙に解説していきます。

一読いただければ、メタバースを活用した農業に興味が湧くはずです。

ぜひ最後までご覧ください。

|メタバースは農業が抱える問題を解決する

日本の農業は現在、以下のような課題を抱えています。

  • 高齢化による就農者の減少
  • 耕作放棄地の増加
  • TPPによる価格競争

他にも様々な課題が指摘されていますが、やはり最も大きな部分としては「高齢化」があげられるでしょう。

農業に携わる人口は年々減少し続けていることから、様々な政策を行っているにもかかわらず効果が出ていません。

農業をメインで生活する「基幹的農業従事者」の減少は進む一方で、平均年齢も年々上昇し続けているのです。

このような問題の根本的な原因は、離農農家の増加だけではなく新規就農者が増えないことが原因とされています。

結果として耕作放棄地が増加し、日本の食料自給率も減少してしまいます。

生産効率が低いことから海外品との価格競争に負け、農家の生活はより苦しくなります。

そして新規就農者が減るという、負のスパイラルが発生しているといえます。

このような状況を打破するために、農業とメタバースの組み合わせが注目されているのです。

若年層が農業に興味を持ち、実際の現場に足を運ぶきっかけになることや、作業効率の向上など様々な面でメリットがあると考えられます。

メタバースは日本の農業問題を解決するきっかけとして、現在大きな注目を浴びているのです。

|メタバースを農業に活用するメリット

メタバースを農業に活用するメリットは数多く存在しています。

その中でも、最も重要だと考えられる以下の3点についてそれぞれ解説していきます。

  • 作業効率化
  • 作業員の技術を均一化
  • 栽培リスクの軽減

作業効率化

農作物を育てるためには長い期間を必要とするうえ、小まめな手入れが必須となります。

美味しい野菜や果物を作ろうと考えるほど手入れの時間は増えるため、作業時間が長引くことは避けられません。

例えば、ぶどうやいちごなどの果物を甘く育てるためには、不要な果実を取り除き、その他の実へ栄養を集中させることが必要です。

さらに、一房ごとに販売されるぶどうなどでは、それぞれの実の個数を揃えるなど、より繊細な作業が求められます。

取り除く果実の選定は労力のかかる作業であり、熟練した技術を元に判断されます。

しかしメタバース空間においてそれらの作業を訓練したり、擬似的に体験することで実際の作業時にスムーズに進められることが考えられるのです。

また、拡張現実を組み合わせることで間引くべき個数と箇所をAIが判断し、作業員はモニターの情報に応じて動くことも実現できます。

メタバース上での訓練に加えて、現実世界でも視覚情報を元にした作業が進められることは、作業効率の改善に繋がることが期待されるのです。

作業員の技術を均一化

農作物を出荷できる状態にまで育て上げるためには、長い時間を必要とします。

さらに栽培時の天候といった環境に応じて、収穫時期が左右されることも珍しくありません。

そのため、育て上げる環境や水の量、作物の状態といった判断は熟練した生産者のノウハウを元に行わなければ失敗するケースも考えられます。

一人の作業員が熟練した技術を習得するには、物理的な時間の側面から膨大な期間を必要とします。

しかし、時期に応じた農作物の状況判断をメタバース空間で再現することは容易です。

本来であれば翌年を待たなければいけない状況をメタバース空間で繰り返すことで、作業員の技術を大きく向上、均一化させることが考えられるのです。

さらに、拡張現実を実際の現場に導入すれば、現実世界での環境を元に訓練が行えるでしょう。

熟練者の意見に加えて、AIが指示する視覚的な情報という2つの側面から作業員は技術を身に着けられるのです。

これまで農作業の多くは長年の感覚的な部分に依存するケースが多くありました。

しかし、メタバースや拡張現実を導入した作業を実現させることで感覚に依存しない、誰でも再現可能な判断基準が構築できます。

結果的に生産物の品質も均等になることが考えられ、大きなメリットを生み出すと期待されているのです。

栽培リスクの軽減

前述したように、農作業は自然と隣り合わせで行われることから常に様々なリスクを抱えています。

台風や大雨、降水量の減少や日照り、さらには害虫や病気の発生など、あらゆる側面に気を配りながら出荷できる状態にまで育て上げなければいけません。

自然環境は人知の及ばない範囲ですので、熟練した生産者でも完璧に予測し対応することは不可能といえます。

万が一、想定外の被害に遭った場合、せっかく作り上げた作物全てが商品にならないことも考えられるでしょう。

そうなった時、これまでの作業は全て水の泡になってしまいます。

このようなリスクを軽減させるためにも、メタバースは活用できるかもしれません。

メタバース上で突発的なリスクに対応できる技術を養い、少しでも現実での判断精度を高めます。

そして、拡張現実を組み合わせることで衛星から取得したデータを元に、畑の環境を分析し対応策を講じられます。

農作物の状況もリアルタイムで監視できるため、栽培リスクを最小限にしながらも最大の効果を発揮すると考えられるのです。

|メタバースと農業の活用事例

すでにメタバースと農業を組み合わせた活用事例は存在しています。

一例として、以下の事例をそれぞれ紹介していきます。

  • カンジュクファーム
  • 農情人
  • Web活用経営株式会社
  • Happy Quality
  • Farm VR
  • 株式会社IHIアグリテック
  • NTT東日本
  • 株式会社Root

カンジュクファーム

カンジュクファームは山梨県において果物の生産から販売を行っています。

「ガイアタウン」と呼ばれるメタバース内に独自に開発した空間を創り、その中で生産物の販売をスタートさせました。

利用者はアバター姿で生産者と交流を取れるだけではなく、現実世界で買い物をしている感覚で購買できるのです。

生産者と消費者の関係性をより深めるために、ボイスチャットなどを活用して果物の美味しい食べ方なども提案しています。

今後は果樹栽培や、新たに農業を始めたいと考える人達へ向けた説明会も開催する予定です。

農情人

農情人は「cluster」上において、農業スペースをオープンしました。

島田スイカ農園と共同で進められたこのプロジェクトは、以下の構想を元に進められています。

  • メタバースにおいて、農家がアバターを通じ広報活動を行う
  • メタバース上で農地情報を登録し、即座に農家のもとに移動できる

さらに、「スイカNFT」を限定で発行し、保有者には現実でスイカが届くという取り組みも行っています。

メタバースでの企画や講演、NFTによる収益化など、今後も精力的な取り組みが期待されています。

Web活用経営株式会社

Web活用経営株式会社は「田植え」に着目し、メタバース上で「META田植え」なる取り組みを行いました。

新潟県の農家と共に行われたこの「META田植え」とは、メタバース上に再現された田んぼに3Dモデルで作られた苗を植えて、育てるという取り組みです。

この取り組みは23名の参加者によって、約半月という期間を要して実施されました。

現実世界さながらの期間と労力を使って行われた体験は、農業未経験者であってもその苦労を肌で感じられたでしょう。

体験終了時には記念写真とNFT、また実際の新潟県産コシヒカリが贈られました。

農業に触れるきっかけとして、非常に有意義なプロジェクトだったといえるはずです。

Happy Quality

Happy Qualityは農業支援や青果卸売業を行っている企業です。

農業分野における画像の解析について研究を行っている株式会社フィトメトリクスと共同で、メタバースにおいて農作物の栽培環境を実現するという革新的なプラットフォームを開発しました。

農業用デジタルツインサービスと呼ばれる環境ですが、モニタリングから分析、シミュレーションやフィードバックといった様々な作業がメタバース上で実現できます。

本機能を活用することで、物理的に離れている地域からでも現実と遜色ない環境の元、農作物の状況を確認できます。

また、栽培リスクを軽減させるために必要なデータを生成するなど、高いレベルでのサポートが実現しているのです。

Farm VR

「Farm VR」はオーストラリアで開発された、VRを活用した農業体験サービスです。

ユーザーはメタバース空間において、農業に関する生産施設を見学したり、イベントや研修に参加したりできます。

農業に関する訓練を受けることもでき、マーケティングに関する勉強会も開催されるなど、技術的な部分だけではなく経営面でのサポートもしているのです。

南オーストラリア州政府は、「Farm VR」を通して実験農場を紹介するバーチャルツアーを実施しています。

就農を考える人達がメタバースを通じて体験できることは、参入ハードルを一段と低くすることに繋がるはずです。

今後、日本でも同様のサービスが登場することが考えられるでしょう。

株式会社IHIアグリテック

農業用機械を開発する株式会社IHIアグリテックは、拡張現実を活用した大型機器の展示を行っています。

大型の機器は展示会場の規模や都合の関係上、機能全貌を完全に紹介することが難しい状況が続いていました。

しかし、拡張現実を活用することによって、あらゆる製品を効率的にPRすることが可能になったのです。

メタバース空間での展示会はまだ実施されていませんが、非常に精巧に再現された3Dデータを元に今後拡大するかもしれません。

現物を確認しにくい大型機器であっても、メタバースや拡張現実と組み合わせることで気軽に体験できることは大きな魅力といえるでしょう。

NTT東日本

東京都農林水産振興財団とNTT東日本が提携し、拡張現実を組み合わせた遠隔農作業支援を行っています。

現在通信網やコストといった課題を残していますが、すでに就農経験のない人物が本支援によってトマトを育てることに成功しています。

農業の経験者と作業員を遠隔でつなぎ、画像を通して送られる情報を元に指示を行います。

このことで作業員の知識が乏しい場合であっても、適切な判断を元に農作物の手入れが可能となるのです。

データは蓄積されることでより高度な判断を実現、さらにAIを活用した処理も進められています。

今後の人手不足解消、作業効率化の実現などが期待できることから、大きく注目されているプロジェクトの1つとなっています。

株式会社Root

株式会社Rootはメタバースや拡張現実に加えて、アプリを通じた「スマート体験農園システム」を構築し、農業のDX化を押し進めています。

埼玉県深谷市では、拡張現実を用いた農作業補助プロジェクト「Agri-AR」の実証事件も進められています。

農作業の補助をリアルタイムで行うことで、誰でも安定した作業が実現できるのです。

令和3年度には農林水産省の補正予算に、本プロジェクトの研究開発が採択課題として決定された経緯もあります。

メタバースと拡張現実、それぞれを組み合わせることで今後の農業現場の可能性を大きく広げることが期待されそうです。

|まとめ

メタバースを活用した農業について解説してきました。

デジタル上の仮想空間であるメタバースと、現実世界の大地を利用した農業は一見すると正反対のものにみえます。

しかし、それぞれに通じる部分は間違いなく存在しており、両社の良さを組み合わせることで大きなイノベーションが発生することが期待されています。

物理的な期間を要する作業をメタバース上で再現することで、高いレベルの作業員を生み出すことや、拡張現実を組み合わせることで適切な現場判断が実現するでしょう。

また、若者に対して「農業の楽しさ」を周知していくことで、新規就農者の増加なども期待されます。

日本の農業を持続させていくためにも、メタバースの活用は必須といえるかもしれません。

現在すでに活用されている、もしくは試用段階のプロジェクトは数多く存在しています。

数年後、農業を取り巻く環境は現在と大きく異なっているかもしれません。

農業が最新技術のメタバースによって救われる未来が実現することが期待されます。