メタバースに対するイメージとしては、「最新の技術」や「若者が楽しむゲーム」などを思い浮かべるのではないでしょうか。

確かに、メタバースは最新技術です。

仮想空間上で自由に動き回ることで、現実世界と遜色ない体験をユーザーに与えます。

しかし、体験価値は現実世界において肉体負荷をほとんど問いません。

簡単な機器操作さえ覚えれば、身体能力の異なる子どもから老人まで、同じレベルで仮想空間上において交流が行えるのです。

本記事では、そんなメタバースと高齢者が相性抜群である理由についてと活用のメリット、さらには実際の事例についてを紹介します。

一読いただければ、これまで思いもしなかった活用方法が見いだせるかもしれません。

ぜひ最後までご覧ください。

|メタバースは高齢者にこそ必要な技術

2021年、厚生労働省が出した発表によると男性の平均寿命は81歳、女性は88歳となっています。

つまり、一般的に仕事を定年退職する60代前半から20年程度、老後の余暇を過ごすということです。

その期間、どのように心と体の健康を保ち、人生を豊かに生きていくのかは人それぞれ。

公益財団法人日本生産性本部が2022年に調査した、「80代の余暇活動」については主に以下の内容があげられれいます。

  • ウォーキング
  • 園芸
  • ドライブ
  • 日曜大工
  • 写真制作
  • 体操
  • 外食

一方で、やりたいけれど出来ていない行動として「国内外への旅行」が上位にあがります。

普段の生活圏内では味わえない「非日常」を、メタバースであれば容易に実現できます。

身体的にも負担をかけることなくその場を訪れたかのような没入感を得ることは、高齢者の心身にポジティブな影響を与えると考えられるのです。

デジタルシニアが増加している

「高齢者はメタバースの機器を取り扱うのは難しいのでは?」

上記のような疑問をお持ちになった方もいらっしゃるかもしれませんが、その考えは誤りだといえます。

2023年現在の60代は現役時代からコンピューターの進化を経験しています。

現在も、携帯電話やスマホを難なく使いこなす人たちは珍しくありません。

デジタルシニアと呼ばれる高齢者が今後増加していくため、メタバースを始めとした最新技術への参入障壁は低くなっているのです。

この傾向は今後より顕著になっていきます。

現在の若年層が高齢者となる時代には、当然のようにメタバース、もしくはまだ現れていない最新機器を活用した生活を送っている可能性は高いといえるのです。

|メタバースを高齢者が利用するメリット

メタバースを高齢者が利用するメリットは、主に以下の内容があげられます。

それぞれ詳しく解説していきます。

  • 身体能力の差が出ない
  • コミュニケーションの円滑化
  • イベントへの参加
  • 気軽な旅行や観光が実現
  • バーチャルエクササイズ

身体能力の差が出ない

現実世界において、高齢者と若年層の身体能力に差があることは当然です。

そのため、一緒にスポーツを楽しむ場合や、イベントへの参加は高齢者の体力に合わせた段取りを組む必要があります。

しかしメタバース空間においては、現実世界の体力を問わずに全年代が同様の条件で動き回れるのです。

メタバース空間で開催される各種イベントに一緒に参加し、孫世代と同じ目線で楽しむことは現実世界では到底不可能な体験です。

また現実世界とは異なり、実際に体力的な限界が来た場合、即座に自分がリラックスできる空間へ移動できます。

メタバース空間においては身体能力の差を問わず、全年代が同様に楽しめることは大きなメリットです。

コミュニケーションの円滑化

肉体は年齢を重ねると共に、これまでできていた日常的な作業が困難になります。

身体能力もその1つですが、精神的な側面においても類似した事柄が発生します。

精神疾患を持つ高齢者、またハンディキャップを持つ方とのコミュニケーションが、メタバース空間を通じて円滑に行えることが期待されているのです。

言葉が浮かんでいるけれど声に出せない方や、自分から意思を伝えるのが難しいと感じる方でも、メタバース空間において直感的にコミュニケーションが行えるかもしれません。

また、介護職員や親族と交流を深めることで、現実世界においての関係性も向上することが期待されるのです。

イベントへの参加

前述した通り、メタバース空間での移動や行動は現実世界の肉体に影響を及ぼしません。

そのため、音楽イベントや美術館、展覧会といった各種イベントへの参加も容易になるのです。

また、遠く離れた友人たちともメタバース空間を通じて、実際に隣で会話しているかのような感覚で話せます。

このような交流イベントはすでに実施されており、多くの高齢者がその効果を実感しています。

コロナ禍によって移動が制限される中、自身が興味のあるイベントへ気軽に参加できることは心身の健康という面でも大きな効果を発揮するはずです。

メタバース空間においては今後、高齢者向けイベントが増えることも考えられます。

新しい体験を得ることは、高齢者にとって大きなメリットとなるはずです。

気軽な旅行や観光が実現

イベントへの参加といった非日常を味わうだけではなく、遠方へと足を伸ばす旅行や観光についても、メタバース空間では容易に実現します。

前述した通り、80代の高齢者がやりたいけどできないと答える一番の行動に、「国内外への旅行」があげられます。

メタバースを活用すれば実際にハワイで撮影した映像を元に、砂浜を歩き回る感覚なども味わえます。

また、メタバースであれば地球上だけではなく、宇宙空間での浮遊や月の散策といった現実的には不可能な体験も提供できます。

メタバース特有の没入感を元に体験する旅行は、本当にその場を訪れたかのような錯覚に陥るでしょう。

自由に遠出ができない高齢者にとって、メタバースを利用した旅行は人生を豊かにするはずです。

バーチャルエクササイズ

現実世界において、肉体的に衰えることは日常生活を困難なものにします。

また、肉体機能を取り戻すためのリハビリなども、非常に重要な日課となるはずです。

そのため日頃からの運動が重要になるのですが、無味乾燥した空間で歩くことや、筋トレを継続させることを難しいと考える人は少なくありません。

しかし、メタバース空間上で実施するバーチャルエクササイズならどうでしょうか。

単調な作業の繰り返しであっても、ゲーム感覚で行うことでモチベーション維持にも繋がります。

すでにリハビリ目的や、脳機能の改善に繋がるもの、足腰の健康維持に役立つコンテンツが制作されています。

自分のペースで無理なく楽しく継続できることは、現実世界の生活を豊かにすることにも繋がるはずです。

|メタバースを高齢者が利用している事例

メタバースを高齢者が利用している事例として、以下の内容があげられます。

  • バーチャル旅行
  • オンラインイベントの開催
  • リハビリへの活用

それぞれの事例を確認していきましょう。

バーチャル旅行

介護施設に勤務している登嶋健太さんは、クラウドファンディングによって集めた資金を元手に、世界各国の映像を撮影してきました。

旅行映像を元に作り上げた仮想空間をヘッドセットを通じて体験してもらい、実際に現地に足を運んだかのような体験を提供しています。

バーチャル旅行によって訪れた体験を元に、「現地に行きたい」という気持ちからリハビリに専念してもらうことも目的にされています。

また、高齢者はVR酔いを起こしやすいという問題もありましたが、使用する機器を変更することで大幅に減少したそうです。

別の老人ホームにおいても、メタバースを活用した旅行体験が提供されています。

施設の周りや近所の映像からスタートさせ、徐々に日本国内や海外へと映像を広げてきました。

この取り組みは口コミを呼び、「バーチャル旅行を体験したい」という目的でリハビリに参加される方もいらっしゃるようです。

過去にいった旅先をもう一度バーチャルで体験し、リハビリによってもう一度現実で再訪するという、好循環が生まれている事例だといえるでしょう。

オンラインイベントの開催

メタバース空間において、「終活」に関するイベント[5] が開催された事例があります。

「オトナフェスタ〜明るく楽しく終活しちゃお!」と名付けられたイベントでは、オンライン機器を自由に利用できるデジタルシニアを多数動員しています。

寒暖差が激しい季節など、外出するのが億劫になるタイミングでも、オンライン上で気軽に相談できるというスタイルは、高齢者にこそ向いていると多くの方が実感しています。

本イベントでは、約20社から相続や金融、健康といった専門家が参加し、各ブース上で無料相談を受け付けました。

従来はzoomによるオンライン開催がメインでしたが、2021年以降メタバースでの同時開催が実現しています。

イベントへの参加はゴーグルを利用した没入感を優先する必要はありません。

あくまで相談などのコミュニケーションがメインとなりますので、メタバースを扱ったことがないという高齢者でも比較的簡単に参加できるはずです。

自宅にいながらも気軽に行えるオンライン需要は、今後も増加していくことが考えられます。

リハビリへの活用

mediVRカグラと呼ばれる製品は、仮想空間上の狙った場所に手を伸ばす動作を繰り返し、姿勢バランスや認知機能処理を鍛えるリハビリを実現しています。

高齢者の体力に合わせて、直立ではなく座った状態でリハビリが可能であり、転倒リスクも軽減されています。

仮想空間上に表示される物体の位置や速度を認識し、それらに触れる動作を繰り返して訓練を行います。

このように、認知機能と運動機能を同時に処理することは、日常生活を送る上で欠かせない能力です。

現実世界では、トレーナーの指示や評価が曖昧で伝わりにくいという課題がありましたが、mediVRカグラであれば手を伸ばす位置や距離を明確に指示できます。

さらに、データによる達成率から、参加者に応じた負荷レベルの調整も可能です。

また、mediVRカグラのような専門機器ではなく、メタバース空間への参加だけでも十分なリハビリ効果があると考えられています。

普段できない体験、話さない相手との会話は心身を若々しく保つきっかけになると期待されているのです。

|まとめ

最新技術であるメタバースを高齢者が活用することについて、本記事を読む前は疑問を持たれていた方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、ここまでお読みいただいて分かる通り、メタバースは高齢者こそ活用すべき技術です。

現実世界の体力差を問わず、あらゆる年代が同じイベントを楽しみ、スポーツに興じる。

そして世代を超えた自由な交流が行えることは、メタバース空間でしか実現できないといえるでしょう。

さらに、メタバースを通じて知った旅先を現実世界で訪れたい気持ちが生まれるなど、日々の生活面でも目標ができるはずです。

いつまで経っても心身の健康を維持するためにも、高齢者がメタバースを活用する価値は大いにあるといえます。

デジタルシニアの増加とともに、ますます広がることが想定される高齢者によるメタバースの活用は、これから注目すべき内容といえるでしょう。