これまでメタバース相談室では、メタバースに進出する様々な企業や自治体のご紹介、および今後の可能性について解説してきました。

現実で提供されているサービスが続々とメタバース空間に登場する中、驚きのサービスが登場しました。それが今回紹介するメタバース霊園です。

今回はこのネット霊園について、特徴や仕組み、登場した背景を解説していきます。

|メタバース霊園とは?

メタバース霊園とは、その名の通りメタバースに霊園を作り、お墓参りや法事を行うサービスのことです。

現在では、テクニカルブレイン株式会社が開発したネット霊園「風の霊」がこれに当たります。

2021年にサービスを開始しましたが、運営における人員とノウハウ不足により、2022年にサービスを停止して譲渡先を募集。

その後、主に冠婚葬祭サービスを展開するアルファクラブ武蔵野株式会社が譲渡先となり、現在まで運営を担っています。

|メタバース霊園が話題となった背景

メタバース霊園が話題となった背景として、現代の日本における課題と深く関係しています。

どのような課題がメタバース霊園の話題性に繋がっているのでしょうか。

無縁仏の増加

一つ目の理由として、無縁仏が増加していることが挙げられます。

無縁仏とは、本来亡くなった後に行う葬儀や供養をしてくれる人がいない故人やお墓のことを指します。

無縁仏が増加しているそもそもの原因の一つとして挙げられるのは、少子高齢化の進行です。

厚生労働省の発表では、現在およそ3割弱である65歳以上の人口は、2070年には4割ほどまで増加するとされています。

また、出生率も減少していることから、今後もより少子高齢化は進行していくものと考えられます。

少子高齢化が進むことで、お墓を世話して先祖を供養する後継者がいなくなります。

さらには結婚をしない・子供を持たない選択をする男女が増加していることで、今後ますます孤独死を迎える人も増えていくと考えられています。

こうした事情から、今は亡くなった後の自分の遺骨やお墓についてきちんと考えるターニングポイントとなっているのではないでしょうか。

そういった中で、メタバース霊園という新しい考え方は注目を集めているといえるでしょう。

お墓参りや葬儀の参列が困難な人の増加

先ほど挙げた高齢化により、身体的負担によりお墓参りや葬儀への参列ができない、なかなか足を運ぶことができない高齢者も一定数存在しています。

また、高齢者だけではなく若者も距離的な問題により困難な人が増えています。

近年ではコロナ渦により、重症化リスクの高い高齢者はもちろんのこと、若者でさえも外出をすることさえ制限されてしまいました。

そういった身体的負担や距離的概念を気にせず、お墓参りや葬儀の参列、法事への参加などを行うことができるメタバース霊園は話題を集めていると考えられます。

お墓離れや墓じまいをする人の増加

これまでご紹介してきた背景から、そもそもお墓を持たない選択をする「お墓離れ」や、既存のお墓を撤去する「墓じまい(改葬)」をする人が増えています。

お墓を購入するだけではなく、維持をしていくのにも費用がかさみます。

また、先ほど挙げたように距離的な問題でなかなかお墓に行くことができなかったり、後継者がいなかったりといった問題もあります。

こうしたことから、近年では「お墓を建てない」形の供養方法が出てきました。

以下でいくつかご紹介しますが、この1つとしてメタバース霊園を考えている人が増えていることも話題にあがっている理由としては十分に考えられるでしょう。

散骨

火葬後、粉骨した遺灰を海や山に撒く方法。

樹木葬

お墓の代わりに木を植えて、根元の土に埋葬する方法。

手元供養

遺骨を埋葬せず、自宅に置いておく方法。

ゼロ葬

火葬した遺骨を持ち帰らない葬儀方法。可能かどうかは自治体による。

合祀墓(ごうしぼ)

複数人の遺骨を1つの墓に埋葬すること。合同墓、共同墓などとも呼ばれる。

|メタバース霊園の特徴

さて、ここまでメタバース霊園の概要や背景をご紹介してきました。

ここからは実際にメタバース霊園である「風の霊」は何ができるのかについて解説していきます。

3つの霊園から好きな場所を選べる

「風の霊」では、3つの霊園ワールドが用意されています。その中から好きな霊園を選び、個人を埋葬することが可能です。それぞれでワールドの雰囲気、およびイベントを開催する霊廟が異なります。

月のごとく、落ち着いた空間となっています。地面は砂となっていて、黄色がシンボルカラーのようです。霊廟は星や月のモチーフが飾られていて、とてもお洒落な造りとなっていますよ。

火星

火星ということで、マグマが流れる火山がシンボルマークとなっています。岩石や山々に囲まれた空間ですが、生命力を感じることができるでしょう。霊廟は赤い壁が特徴的で、壮大な造りとなっています。

地球

日本の風土をイメージしたような空間です。草木が生い茂り、霊廟も日本の寺院のような古風な造りとなっています。桜も咲いているので、日本人にとっては一番馴染みのある空間ではないでしょうか。

イベントの開催ができる

「風の霊」では、大きく分けて2つのイベントを開催することができます。

遺影埋葬

遺骨をメタバース上に埋葬することは勿論できません。その代わりに、霊廟に遺影を安置して供養するような流れとなります。この儀式は「遺影埋葬」と呼ばれます。

誕生会

いわゆる「法事」を開催することが可能です。故人への献花や参列者同士での会話をして、故人を定期的に偲ぶことが可能です。

自由にお墓参りができる

現実同様、いつでもお墓参りに訪れることができます。こちらは特に申込みは必要なく、また献花もできるということから、メタバースの強みがもっとも発揮されるポイントなのではないでしょうか。

|メタバース霊園の仕組み

ここまでメタバース霊園「風の霊」の特徴についてご紹介しました。

斬新なアイデアではありますが、現在および今後の課題を解決することができる画期的なサービスであることは確かでしょう。

では、実際にどのような仕組みで運営されているのかについて解説していきます。

入会するには

※現在は募集停止となっていますので、参考としてお読みください。

入会手順は非常にシンプルです。

ホームページから手続きを実施した後、入会費や管理費の支払いが完了すれば完了となります。

また、入会1か月後以降に遺影埋葬イベントを実施することができるようです。

初期費用は、入会費11,000円+年会費6,600円+遺影預かり費33,000円/人となります。

入会のタイミングは逝去後だけでなく、生前も可能です。

ですので、自分の死後の供養方法について決めておきたいという方も入会ができます。

入会時の注意点

あくまでも埋葬するのは「遺影」になるため、遺骨については各々での管理となります。

ですので、葬儀社などによる火葬後、先ほど挙げたような供養方法で供養をきちんと行うようにしましょう。

墓じまいをして入会したい場合

風の霊では「墓じまいコース」が用意されていますので、墓じまいをしたい場合も入会が可能です。

その場合は「遺影埋葬」のイベントは実施されず、遺影を預けるのみとなります。

ただ、お墓参りや誕生会イベントの開催は可能です。

また、遺骨については手元供養または散骨で供養していただく形となりますので、通常コースと一部異なる点があることを把握したうえで検討するようにしましょう。

|まとめ

今回はメタバース霊園について「風の霊」を例に挙げ解説しました。

近年における課題を解決できる画期的なアイデアとして注目を集めており、現実同様にお墓参りや法事も実施でき、維持費もリーズナブルということで今後需要が増加する可能性は十分に考えられます。

現在は「運用面の見直し」ということで新規入会募集は停止されていますので、もしかしたら「風の霊」のようなメタバース霊園サービスが新たに出てくるかもしれませんね。

一方で、そもそも現代の高齢者がメタバースを使いこなせるのか、デバイス等はどうするのかなどの課題も挙げられますので、そういった面への対策も避けては通れないでしょう。

いずれにしろ注目を集めていることは確かですので、新しいメタバースの活用方法として皆さんもぜひ今後の動向に注目してみてはいかがでしょうか。